【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■69.月も鉄も己が身だけでは輝けぬ。

 NE6ゲートから湧き出した突撃級による長駆高速攻撃が、最先頭から崩壊していく。

 

 後退する戦術機たちと入れ違うように前線に再び姿を現した火力の塊が、203mm大口径連隊支援砲を連射する。

 

 と、同時に突撃級が絶命し、あるいは擱座する。

 

 鋼鉄と火力の塊――否。

 

 彼らが組んだ横隊は、鋼鉄と火力の城壁であった。

 

 いまや突撃級でさえ壁に投げつけられる卵に等しい。

 

 ぶつかっては砕け、ぶつかっては砕ける。

 

 堅牢なはずの外殻が粉砕され、その中に詰まった生体組織が散乱する。

 

 第二次増援の突撃級たちは、さぞまごついたことだろう。

 

 戦場を彷徨う小型種たち。

 

 F-14Nが作り出した要塞級の死骸。

 

 少年の叫びに呼応した絶大なる砲兵火力。

 

 あらゆるものが、彼らの突撃を妨害した。

 

 そして彼らの前に立ち塞がるのは、鋼鉄と火力と意志の横隊(ライン)

 

 勘違いするな。

 

 お前たちはただ堅かっただけ。

 

 お前たちはただ速かっただけ。

 

 故にいま突撃級はこの横隊(ライン)を抜くことはできない。

 

 

 

 その突撃級を本隊に見立てた際、別動隊となる旅団規模の要撃級、戦車級は、人類軍の右翼に殺到した。

 

 対するは、濃密な36mm機関砲弾の弾幕。

 

 甲22号目標が放った生体砲弾ともいうべき要撃級たちを、KF-16ファイティングファルコンと82式瑞鶴が放った砲弾が粉砕していく。

 

 青白い表皮が破け、血飛沫が舞う惨たらしい殺戮の廃墟。

 

 それを一顧だにせず、押し寄せる異形の波。

 

 正対した戦隼と瑞鶴は、一歩も退かぬ――それどころか一歩、二歩と前進する。

 

 最先頭に立っているのは、青、赤、黄の戦術機。

 

 そして黄の瑞鶴に、1機の白い瑞鶴が寄り添うように並んだ。

 

 かつて500km離れていた両者の距離はいま、限りなく零となる。

 

 その黄と白の戦術機を、廃墟の上から狙う光線級がいる。

 彼の瞳は、彼らを完全に捉えていた。光る照射膜。発射される予備照射。

 

 ……その1秒後、発光していた照射膜は音速の弾芯によって四散している。

 

 36mm支援突撃砲による狙撃。

 

 膝射姿勢の白い瑞鶴は、続いて2体目、3体目と光線級を射殺していく。

 

 その純白の瑞鶴の傍に立つのは、藤黄(とうおう)の瑞鶴。

 

 120mmキャニスター弾を発射し、鋼鉄の雨を戦車級の群れに浴びせて叩き潰していた。

 

 斯衛は戦場で勇気とともに最前線に立たねばならぬ。

 

 ならばここにいない理由はない。

 

 

 

 廃ビルと死骸の合間を翔け抜けて突撃を仕掛けたのは、人類軍の中でも最軽量・超小型戦術機のJAS-39CBの群れである。

 

 小柄な有翼獅子たちは転がる黄緑(おうりょく)の死骸と、渋滞にはまった突撃級の合間をすり抜けていく。

 

 目指すは重光線級、光線級。

 

 閃く予備照射を、小型、高速、新鋭の第3世代戦術機は躱す。

 

 迫る生死分けるボーダーラインをいまアララトグリペンは越える。越えてゆく。

 

 第3世代戦術機は、どこまでも生身の人間に近い反応速度を有する。

 

 生身の延長線にある両腕のブレードを振るいながら彼らは異形の最中で躍り、巨大な眼球に肉薄した。

 

 原始的な暴力が、精緻な射撃を超えていく。

 

 

 

 鶴見川周辺における光線級の相互援護、長距離攻撃網はいま事実上機能していない。

 第一次増援の生き残りである要撃級が這い回り、要塞級が蠢くこの一帯。

 加えて行き場を失った突撃級が緩旋回を繰り返している。

 この状況で味方撃ちを避けるなど不可能。加えて廃墟と横たわる要塞級の死骸は、彼らの眼から高速の機影を隠している。

 

 故に国連のカラーリングを纏った不知火は、容易く南北から前衛・中衛集団を挟撃できた。

 

 ふたりの男によってなし崩し的に参戦した一隊。

 

 そして“鉄の女”と渾名されている割に思い切りの良すぎる中隊長に率いられた一隊。

 

 アララトグリペンに釣られる形で緩旋回を繰り返し、無防備な側面と背面を晒す突撃級を殺し回り、要撃級を蹂躙する。

 

 彼らが纏う地球の青は血に染まらない。

 

 返り血を浴びる前に、次の仇敵へ翔けているからだ。

 

 

 

 BETAに混乱という概念はない。

 

 しかしながら傍目からみれば、彼らは当惑し、浮足立っているようにみえた。

 

 彼らからすれば次々と“高価値目標”が接近しては遠ざかり、別方向からまた新たな“高価値目標”が接近してくるような状況。

 

 そうやってまごついている間に、彼らはMiG-29SEKの肉弾じみた斬りこみによって撃ち砕かれ、あるいは斬り刻まれていく。

 

 躊躇いはない。

 

 ソ連、韓国、日本。

 本機の経歴を“数奇な運命”と嗤う者は、もうここにはいない。

 

 モーターブレードが唸り、戦車級がまた裁断される。

 

 動揺すれば死が待っているこの戦場で、多くの人々がかかわってきた凶刃の塊を、彼らはいま信じていた。

 

 

 

 その巨躯故に視野が広い重光線級は、月の浮かぶ夜空を仰いでいた。

 

 降り注ぐAL弾が闇に溶け、大気中に消滅していく。

 

 そうして充満した重金属の戦塵の中を、無数の誘導弾が翔ける。

 

 砲兵の榴弾砲が戦場の女神であるならば、さしずめ戦術機の誘導弾は機械仕掛けの神。

 

 鈍色の不知火の群れが放った92式多目的自律誘導弾は、次々と立ち上がる光芒を掻い潜り、重光線級の群れに殺到――少なくない数の弾頭が炸裂し、薄桃色の怪物を薙ぎ倒してみせた。

 

 ミサイルコンテナを投棄しながら乗用車が散乱する路上に降り立った不知火たちは、白刃を抜き放ち、月光の下に吶喊に移った。

 

 その腰部には“烈士”のマーキングが施されている。

 

 黙して語らず。

 

 人は人のために成すべきことを成せ。

 

 ……確かに彼らは彩峰萩閣の精神を受け継いでいた。

 

 

 

 かつて稼働時間が極端に短かったことから欠陥機の烙印を捺された老鷲(ろうしゅう)が、鈍色の不知火に続く。

 

 いま彼らの得物は両主腕と頭上へ展開させた背部ガンマウント――併せて4門。

 

 それを操るのもまた名誉を剥奪された衛士たち。

 

 だからこそ彼らはいまこの戦場で、最善を尽くす。

 

 突撃する烈士に向かった異形たちは、大鷲の放った爪先(そうせん)によって瞬く間に粉砕されて宙を舞う。

 

 初期型といえども整備兵たちの手で丹精されたイーグルは、F-15Eにも負けず劣らず鮮やかな長距離砲撃戦を展開してみせた。

 

 

 

 異形の戦陣に抉じ開けられた穴から侵入したのは軽快なるデッドコピー。

 

 外見も中身もF-16Aに酷似した戦術機たちは、黄金のセンサーアイを閃かせながら翔ける。

 

 そこにはいま煌々たる闘志の炎と、善意と打算と陰謀という暖かな人の情が宿っている。

 

 若き衛士の呼びかけに必要とあらば以津真天(いつまでも)戦おうと呼応したデッドコピーは、そびえる要塞級を前にして両肩の連装発射機から必殺の弾頭を解き放つ。

 

 伸びる有線。

 

 噴進炎が闇を一閃、要塞級の喉元を貫いた。

 

 爆炎とともに崩れ落ちる要塞級の脇を、光ファイバーケーブルを曳きながらすり抜けた誘導弾が光線級の群れを吹き飛ばす。

 

 火焔曳く破片と、緑色の表皮と、無数の瓦礫が四散した。

 

 贋作が真作を超越する。

 そんなことがあってもいいだろう。

 

 

 

 主脚で瓦礫を一歩、また一歩と踏みしめて最後の中世騎士が往く。

 

 円筒状の頭部外装。

 

 十字型のセンサーアイ。

 

 大剣振り被った少女の中隊章。

 

 噴進弾の直射で遮蔽物ごと小型種を焼き払い、米第7艦隊が残していった置き土産――CIWS-6Aバトルメイスが唸り、瓦礫の山ごと兵士級と闘士級の群れを吹き飛ばす。

 

 人々の営み失せたこの聖地(まち)で、クルセーダーは怒りの劫火と鋼鉄の剛腕で蠢く怪物たちを薙ぎ払っていく。

 

 荒廃した聖地(まち)をいま取り戻したところで、何の意味があるのか。

 

 問われれば彼らは答えるだろう。

 

 いつか、いつの日にか、遠い明日に人々は戻ってくる。

 

 再びこの街は復興し、かつての姿を取り戻し、取り戻すだけではなくさらなる繁栄を遂げるであろう。

 

 そういう確信が、いまクルセーダーを動かしている。

 

 

 

 突撃を繰り返す(つわもの)の退路を確保するのは、華奢な戦術機であった。

 

 八代の小学生たちが考えた蜜蜂を肩に宿すシュペルエタンダール。

 

 しかしながら艦上戦術機として開発されたという来歴の彼らは、蜜蜂というよりは1万匹の蜜蜂をたった10匹で大虐殺してみせるという雀蜂であった。

 

 F-15AA同様に長距離砲撃戦を得意とする鋼鉄の雀蜂は、押し寄せる戦車級と要撃級を寄せつけない。

 

 それに並ぶのはM48主力戦車や機械化装甲歩兵たち。

 

 いま鈍色(にびいろ)のスクラムは、砲火の照り返しを受けて輝いていた。

 

 まるで、太陽の光を浴びて輝く月がごとく――。

 

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