【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■70.ミラージュ2000-5(1)

 

 

 

――“(てつ)(92)連隊、関東決戦を制す!”

 

――“帝国軍・斯衛軍・国連軍・激闘48時間!”

 

――“闇夜に光明もたらした望月、続け明星!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撃破確実個体数・軍規模約9万――。

 

 日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊が主力を担った人類軍による横浜ハイヴ漸減作戦“望月作戦”は、帝国軍参謀本部の誰もが思いもよらないほどの大戦果とともに幕を閉じた。と、ともに誰もが歓喜した。国粋主義の作戦参謀らも、である。

 甲22号目標横浜ハイヴは、未だフェイズ2。

 ならば収容されている個体数は十数万といったところであろう、というのが作戦参謀たちの分析するところであった。

 つまりいま横浜ハイヴに拠る敵戦力は、半減している。

 まさに好機到来。

 続いて本命となる横浜ハイヴ攻略作戦“明星作戦”の発動日は1999年5月16日が予定されていた。

 これならば横浜ハイヴが“()いた”ことに気づいた大陸のBETA群が、朝鮮半島から本州を渡って横浜に達する前に、勝負はつく。

 

「は?」

 

 しかしながら、そうはならなかった。

 

「どういうことですか」

 

 帝国軍参謀本部にて話を聞いた土田大輔中佐はまず呆けた。

 それから遅れて怒りがやってきた。

 

 明星作戦、発動延期。

 国連安全保障理事会および国連統合参謀会議の決定だという。

 外野からみれば、日本帝国は最精鋭部隊を投入し、軽微な損害と引き換えに数多くのBETAを葬り去り、もはや横浜ハイヴ攻略成功は確実という状況。で、あればそこにぜひ一枚噛みたい、可能ならば国連の名の下に利を掠めたい、と思う者が現れるのは自然なことであった。

 この局面で口を出してきたのはインド首脳陣を受け容れ、南アジア・東南アジアに勢力を伸ばす常任理事国、オーストラリア。

 彼らは望月作戦の成功をみて、自国軍関係者が立案した作戦計画を押してきたのである。

 

■ 日本帝国

■ 大東亜連合

■ 国連オルタネイティヴ第4計画派

■ 国連オルタネイティヴ第5予備計画派(米国)

■ 国連オーストラリア・インド作戦計画派

 

 オーストラリアが主張したのは、攻略軍を三隊に分けた作戦計画である。

 まず指揮系統を国連太平洋方面第11軍司令部、あるいは国連太平洋方面総軍司令部に集約し、全参加部隊を国連の下で統率するというのは、国連第4計画・第5予備計画派同様の大前提。

 ハイヴ北方の多摩川沿いに布陣した日本帝国本土防衛軍、横浜ハイヴ南方の神奈川県茅ケ崎市から逗子市一帯に強襲上陸した国連軍が、同時に陽動戦術を採り、横浜ハイヴからBETA群を引き剥がした後に、国連軍の軌道降下攻撃によって決着をつける――それが作戦の概要であった。

 そしてその軌道降下部隊に自国軍の拠出戦力を含ませることで、なんとかG元素やBETA由来技術を獲得しようというのが狙いのようだった。

 

 日本帝国は常任理事国であるが、拒否権の発動については凍結されている。

 そのため同じく常任理事国であるオーストラリアが出してきたこの作戦案を国連統合参謀会議は、大真面目に吟味しなければならない。

 これがさしたることのない一国家による提案であれば、国連統合参謀会議も一蹴しただろう。

 が、現実には相手は常任理事国である以上に、国連太平洋方面第12軍(東南アジア防衛担当)へ1個戦術機甲師団と複数の水上艦艇、大量の軍需物資を拠出している大国であった。

 

 

 

 翌日、土田大輔中佐は首相官邸の前に立っていた。

 

「92連隊はやり遂げたじゃないか――!」

 

 警備員に取り押さえられながら、彼は叫ぶ。

 

「横浜にBETAはもういないじゃないか! 帝国の主力は無傷のままそこにいるじゃないか!」

 

 土田大輔中佐は前述のとおり、部下や部隊を死地に追いやることに躊躇はみせない。

 幹部が部下を危険な任務に送り出すことは軍事組織の常、そして幹部はそれに責任を負わねばならぬ。

 だからこそ死地で奮戦した者が挙げた戦果が、無為に終わることだけは許せない。

 このままでは第92戦術機甲連隊や、褒められたことではないにしても自発的に作戦に参加した諸隊の努力は、まったくもって無駄になってしまう。

 

「勇気はある! 剣もある!」

 

 国連ごときの横槍で、彼らが作り出した戦機をここで逃してなるものか。

 

「勝機もある! あと何が必要だというんだっ――!?」

 

 

 

 答えは無言のままに返ってきた。

 

 日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊については、速やかに六郷土手要塞から八代基地へ帰還することが決定。帝国軍参謀本部は、時間のかかる機体の輸送準備作業を待たず、まず92連隊の衛士だけを九州へ帰してしまった。日本帝国斯衛軍大宰府警備隊に対しても同様の処置がとられている。

 

 日本帝国本土防衛軍第1戦術機甲連隊もまた作戦参加機はもちろんのこと、複数の中隊から数機ずつが抽出されて即座に分解整備に出されていた。

 

 日本帝国斯衛軍多摩戦闘団は解体され、一部の衛士は本部勤務、あるいは関東の外へ異動となった。

 

 国連軍第1戦術戦闘攻撃部隊も同様に何名かの衛士が横浜周辺での任務から外されている。

 

 まるで彼らが再び起つことのないように、そんな処置である。

 

 

 

――帝国軍・斯衛軍の一部に、武装蜂起の疑いあり。早急に対応されたし。

 

 

 

 首相官邸からの圧力に、やむなく国防省が屈した形であった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「F-16C?」

 

 勝機が蜃気楼のごとく消え失せた6月初頭――4機の戦術歩行戦闘機が八代基地に搬入されてきた。

 

 外観はF-16Cと変わらない。

 が、実際にはF-16Cから大型化されている。もしも隣にF-16Aと同様の機体構造を有するFC-1閃電が並び立っていれば、明らかに一回り以上大柄であることがわかっただろう。

 まず第92戦術機甲連隊関係者の目を惹いたのは、帝国軍の鈍色(にびいろ)でも、国連軍のホライゾンブルー、ターコイズブルーでもない機体色であった。

 

 目の前で起立姿勢を取った戦術機は、現状未だ“試製”扱い。

 だからこそ、独特なカラーリングを彼らは施されていた。

 海の色(アクアマリン)と、空の色(セルリアンブルー)から成る洋上迷彩。

 その中で向日葵色のセンサーカバーが、存在感を放っている。

 

――試製戦術歩行火力支援戦闘機・XF-2。

 

 外装はF-16C、内部構造は不知火。

 鉄屑の名には相応しくない最新鋭機の1個小隊が、いま目の前に立っている。

 1、2年前までF-4や殲撃八型を担当していた古参の整備兵たちは感慨無量、といった面持ちで立ち尽くしていた。

 XF-2が配備されるのは、第92戦術機甲連隊第21中隊“フルストップ・バトラーズ”。

 

 第31中隊と同様、第21中隊は第3世代戦術機に慣熟した衛士を揃えることになっていたため、中隊長も新たに着任した者が就くことになった。

 

「くだらない代物ですね」

 

 駿河野場(するがのば)語名(かたりな)大尉は、海の青と空の青を纏った戦術機を前にしてそう唾棄した。

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