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雑誌か何かの短編だったと思いますが、敵歩兵に狙われたMiG-29が光線級の初期照射を捉えるためのセンサー類で、敵歩兵の放ったロケット弾を捕捉、一瞬で弾道を解析して被弾箇所と想定されるダメージまで計算して必要最低限の防御姿勢をとり、突撃砲で敵歩兵を吹き飛ばしていました。
というわけで戦術機も機種によっては対歩兵戦闘を想定している、ということでご了承ください(もともとMiG-29には対戦車火器から身を守るためのアクティブ防御システムがオプションとしてあるようですが)。
また「よくわからないモードがある」というのは航空自衛隊の近代化改修型F-15Jに関する噂話が元ネタです(自衛隊側は米国製レーダーの全機能を教わっておらず、故に現場で米国製レーダーの機能が“発見”されることがある)。
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■ 本話登場人物紹介
【若狭理央(わかさ・りお)】
少尉。第92戦術機甲連隊第32中隊B小隊所属。コールサインはミツバチ7。
姉御肌を演じているが実は繊細。
【田所真一(たどころ・しんいち)】
大尉。第92戦術機甲連隊第32中隊長。コールサインはミツバチ1。
後衛A小隊を直卒しており、常に冷静沈着。部下や友軍機が撃破されても動じることがない。
「ほんっと人使い荒いって――!」
第92戦術機甲連隊第32中隊の若狭理央少尉は、家主の消え失せた木造住宅を圧し潰しながら駆けてくる要撃級目掛け、突撃砲の砲口を向けた。
山口県下関市旧彦島中町に響き渡る砲声。
1200m離れた要撃級は左半身の大部分を失い、前のめりに崩れた。続く数体の要撃級もミラージュ2000-5の射撃によって体の一部を切断され、あるいは風穴を空けて地に伏していく。
望月作戦から1か月――第92戦術機甲連隊第32中隊は横浜ハイヴ攻略作戦のための漸減および陽動、増援阻止というひどく曖昧な目標をもたされて、関門海峡の対岸にまで歩を進めていた。
作戦規模、対陣する敵の規模ともに、大局には影響を及ぼさないであろうレベルである。
第32中隊は特に苦戦することもなく、ミラージュ2000-5の巨大な頭部センサーマストによる敵捜索能力と長距離砲撃能力を活かし、50体近い要撃級と多数の小型種を一方的に撃破していた。
「ミツバチ9。こちらミツバチ1。旧造船所江浦方面から戦車級200。A小隊が対処せよ」
「ミツバチ9、了解。アルファ、行くぞ」
先の望月作戦において、重光線級の本照射がもたらした衝撃波により戦死の憂き目に遭った寒川賢介中尉の後継として、前衛小隊の指揮を執ることとなった上杉優太朗中尉は、南下する戦車級を近距離砲撃戦で食い止めることを選択した。
旧彦島大橋や旧関彦橋などで本州と接続している彦島は、坂が多い。
要撃級や突撃級以上の大型種の姿が隠れることはないが、戦車級は起伏の多い旧市街地の最中に紛れてしまうため、長距離・中距離砲撃戦では片づけることが難しい――上杉優太朗中尉はそうみたのだ。
加えて台湾から半ば厄介払いのような形で送られてきたミラージュ2000-5は、長距離砲撃戦から近接戦闘まで幅広くこなせるマルチロール機である。
吹き荒れる36mm機関砲弾の逆風。
その最中をくぐり抜けてきた戦車級を、最先頭に立つ上杉優太朗中尉は慌てることなく迎え撃った。
戦車級が踏み切るのに合わせ、ミラージュ2000-5はスパイクが備えられた膝部を繰り出す。
次の瞬間、赤い骸となった戦車級は、生体組織をぶち撒けながら後方へ吹き飛ばされていった。
ミラージュ2000-5から成る第32中隊が戦線を押し上げていく中、4機の試製戦術歩行火力支援戦闘機XF-2から成る第21中隊もまた関門海峡を渡っていた。
XF-2の八代基地到着から未だ1週間しか経っていない。
しかしながら西部方面司令官の指示で、彼らは小型種掃討とはいえ“実戦”に駆り出されていた。
(上は何を焦っているのでしょうか)
途端に銀の瞳に投影されている映像が切り替わる。
試製戦術歩行火力支援戦闘機XF-2は機体構造のみならず、その機能もまた“半端”であった。
(対小型種モード……)
わずか10秒でXF-2に搭載されたセンサー類は周辺走査を完了させ、その結果を彼女の瞳に反映させていた。
連続する廃墟と、奇跡的に形を保っている木造住宅、薙ぎ倒された木々の合間に、無数の光点が生じる。
そのひとつひとつが、兵士級、あるいは闘士級だ。
XF-2は多種多様な高性能センサーを備えており、捜索モードは複数から選択が可能だ。
対大型種長距離捜索や対光線級捜索はもちろんのこと、対戦術機モードまである。
そしてこの対小型種モード――駿河野場語名大尉はそれが気に入らなかった。
外見はF-16C。
内部構造は不知火。
そしてアビオニクスはおそらくF-16Cの拡張版ともいえるF-16XLのそれ。
(“戦後”を想定している米国らしい戦術機ですね)
対小型種モードなど、笑止千万の欺瞞。
実際には市街地に立て籠もる敵歩兵を掃討するためのモードである。
その証拠に対小型種モード使用時には、網膜の端に
(帝国の戦術機に、対人戦闘能力が必要なのでしょうか)
彼女の思いは、無論“反語”である。
しかしながら廃屋や森林に潜む小型種を掃討するのには、確かにもってこいだ。
駿河野場語名大尉はその光点のひとつひとつを、射撃で潰していく。
……。
現在、日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊における戦術機稼働率は、30%未満となっていた。
これは48時間にも及んだ望月作戦によって、作戦に参加した機体のほとんどが整備工場での分解修理を要する状態に陥っていたためである。
今後の運用計画を見据えると最も頭が痛いのはMiG-29SEKであり、こちらは大東亜連合勢力圏内まで海上輸送する必要があった(東南アジアではマレーシア軍・ミャンマー軍が、南アジアではインド軍・アゼルバイジャン軍が同機を運用しており、マレーシア国内に整備工場がある)。
こうした事情と望月作戦での活躍もあり、第92戦術機甲連隊は横浜ハイヴ攻略作戦である明星作戦には参加しないことになっていた。
明星作戦については解決するどころか複雑怪奇になりつつある諸問題を棚上げし、1999年8月5日の発動が決定――それまでに日本帝国をはじめとする人類諸陣営は、指揮系統や作戦計画に関する一切合切に決着をつけなければならなくなった。
対外交渉と作戦準備に追われる関係者――。
一方で西部方面司令官は、引き続き好き勝手に暴れ回っていた。
鬼の居ぬ間に洗濯、ではないが普段なら紛糾しそうな案件を一気に実行しにかかったのである。
彼が1999年内に形にしようとしていたことは、ふたつある。
ひとつはF/A-14ボムキャットの輸入である。
F-15AAやミラージュ2000-5の戦時緊急輸入が議決された装備調達会議の前後で報道があったとおり、日本帝国へ輸出されたF-14Nの活躍をみた米国が気をよくして輸出許可を認めたのが、このF/A-14ボムキャットであった。
F/A-14はボムキャットの名のとおり、F-14の火力強化機にあたる。
肩部ユニットや背面兵装担架を換装することでAIM-54フェニックスミサイルのような対地ミサイルから対戦車ミサイル、127mmロケット、迫撃砲、36mmガトリング砲まで多彩な装備が施せることが魅力であり、またボムキャットの名前の由来でもあった。
西部方面司令官としてはF-8Eクルセーダーを装備する第22中隊にあてる腹積もりである。
もうひとつは韓国政府に相乗りする格好での、新戦術機調達であった。
韓国政府は朝鮮半島陥落以前、F-15導入計画を進行させていた。
当時の韓国陸軍の戦術機甲部隊はF-4、F-5、そしてKF-16の3機種を主力としており、韓国国防部は第2世代戦術機であるKF-16の調達に邁進していた。
しかしながらF-16系列はもともと機体規模が小さい。
そのため稼働時間や作戦行動半径が短くなりがちであり、よって同機では機体規模が大きい代わりに継戦能力の高いF-4を代替できないという問題に、韓国国防部は直面していたのである。
故に彼らが目論んだのは、F-15C――あるいは当時開発中であった米国製F-15Eの導入であった。
結局のところその後の致命的な戦況悪化によってF-15の導入はかなわなかった。
のだが、離島部に腰を落ち着けたいま韓国政府は真剣にF-4をF-15に代替することを考えはじめていた。
そこで韓国政府と多少なりとも交流のある西部方面司令官は、彼らにささやいたのである。
――米軍から退役するF-15を安く購入すればいい。その方法を私は知っている。
――あとはそれをこちらでアップデートすればいいのだ。
――モジュールは日韓で共同開発すれば安く抑えられる。
F-15は欲しいが予算が厳しい韓国政府と、BETAとの最終決戦を見据えて戦力を揃えたい西部方面司令官の利害は一致している。
さらに日本帝国国防省も94式戦術歩行戦闘機不知火の改良に頭を悩ませながら、F-15J陽炎の能力向上をどうしていくかを模索しているところであったから、この話は渡りに船であった。
責任については西部方面司令官自身がもつと明言しているので、気は楽だった。
かくして後に“殺し尽くして護る力”“BETAスレイヤー”そして“国辱”と呼ばれる漆黒の戦術機――その前身となるF-15JKの開発が始まったのである。