【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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次回更新は2月24日(金)を予定しております。



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■ 本話登場人物紹介

【石川聡(いしかわ・さとし)】
 大佐。日本帝国本土防衛軍西部方面司令部・情報参謀。
 直情型であり、なおかつ直感的に物事を分析する。が、概ねその直感は正しい(51話)。

【鈴木久実(すずき・くみ)】
 少尉。第92戦術機甲連隊第12中隊所属。コールサインはイツマデ9(28話)→イツマデ5で前衛小隊長を務める。同中隊の少尉の中では先任。
 鬼として知られていた前衛小隊長の中野将利中尉に背中を任されるなど、衛士としての技量は優れている。趣味はトランプや花札で平然とイカサマをする(45話)。

【荒芝双葉(あらしば・ふたば)】
 少尉。第92戦術機甲連隊第22中隊所属。コールサインはシスター3。
 第32中隊の保科・若狭少尉とは着隊同期。明朗快活な性格をしているが、第22中隊の光州作戦参加が決まった際には動揺した。小型種の掃討に必要とはいえ、人々の営みがあったはずの市街地を吹き飛ばすことに抵抗を覚えていた。





■72.ミラージュ2000-5(3)

 

「ええ。11月には落ち着いているだろうから、その頃には――」

 

 日本帝国本土防衛軍健軍基地・西部方面司令部。

 黒電話で通話する西部方面司令官の話を横で聞きながら、情報参謀の石川聡大佐は半ばゲン担ぎだな、と思った。

 通話相手は斯衛軍の関係者。

 秋に日本帝国本土防衛軍第92戦術機甲連隊との模擬戦を行うには、明星作戦成功による本州打通と情勢安定が大前提である。

 ゲン担ぎが半分、必勝の信念が半分か。

 明星作戦には日本帝国本土防衛軍西部方面隊は参戦しない。

 その代わりに不測の事態に備えることになっていた。

 

 不測の事態、というのは、まず明星作戦攻略作戦の発動とともに起こり得る、半島・大陸からの大規模渡洋侵攻だ。実際、1978年の“パレオロゴス作戦”の前後ではBETAは複数回に亘る攻勢に打って出ており、明星作戦でも同様の事態が起こる可能性が十分にあった。

 続いて明星作戦成功後の残存個体の動向である。

 未だに人類は万単位のBETAを収容したハイヴの攻略に成功したことがなく、反応炉を破壊した後に残存個体がどのような行動に出るかは未知数だった。直近のハイヴに撤退するのか、それともその場に留まって戦闘を継続するのか――。

 

 大規模渡洋を試みる敵増援を阻止するにしても、撤退するBETA群を攻撃するにしても、西日本・東日本にひしめくBETAを撃破して東西打通を目指すにしても、九州地方に拠る西部方面隊は極めて重要な役割を果たすことになる。

 故に日本帝国本土防衛軍西部方面隊は、旧新下関駅周辺・旧安岡駅間にまで前線を押し上げ、下関市内に拠点を築き始めていた。

 

「カタリナ大尉、さっさとコイツ撃っちまいましょうや。肩が凝って仕方ないですぜ」

「ライター4。支援要請を大人しく待ちましょう」

「ライター1、こちらライター4。了ー解!」

 

 ライター4――XF-2を駆る丹羽歩武中尉は、余裕を演じるべくおどけてみせたが、網膜に投影された戦況図を意識して落ち着かない様子だった。

 無理はない。

 火力支援戦術機開発における要求仕様は、92式多目的自律誘導弾ランチャーを4基装備可能であること。

 そしてXF-2は実際に肩部装甲を支える副腕の強度強化等により、92式多目的自律誘導弾ランチャー4基の装備を可能とし、また現実に駿河野場(するがのば)語名(かたりな)大尉機や丹羽歩武中尉機はいま、4基のミサイルランチャーを肩部に備えていた。

 

 ただし丹羽歩武中尉からすればデタラメであった。

 ランチャー2基は撃震や不知火同様、左右両肩部上方に装備される。

 もう2基は誘導弾とセットとなるフェーズドアレイレーダーが装着されるはずの肩部側端に装備されていた。ではフェーズドアレイレーダーがどこにいくのかといえば、肩部装甲前面に装着されている。

 半ば強引なランチャー4基装備。

 これが何をもたらすかといえば壊滅的な機体バランスと機動性の悪化、加えて友軍誤爆の可能性である。

 大重量のミサイルランチャーを4基装備した状態では真っ直ぐ飛ぶのがせいぜいで、照射を躱すような回避機動はとりようがない。

 また肩部側端に芸術的バランスで取りつけられた2基のランチャーから発射される誘導弾は、垂直方向に飛び出すのではない。まず水平方向に発射され、その後大きく孤を描きながら目標に向かうのである。つまり隣に味方機がいる状態では、フレンドリーファイアをもたらす危険性が高いといえた。

 もしも次の瞬間、光線級や突撃級が現れれば間違いなく戦死する。

 それがわかっているからこそ、丹羽歩武中尉は早く誘導弾を撃ちきり、ランチャーを投棄したかった。

 

(あれが新型か――!)

 

 一方で地を駆ける機械化装甲歩兵たちは、その姿に感心していた。

 巨大なミサイルランチャーとともに不動の姿勢を取る青い戦術機は、彼らからすれば目に見えない神仏よりもまさしく信仰の対象となりうる。

 

「こちらライター1。旧山陽新幹線高架下に闘士級21。座標は送った。続いて旧新下関団地1号棟の1階に兵士級10体以上――」

 

 さらに青い戦術機は強力な対小型種索敵能力を有しているらしく、敵の現在地を逐一更新していく。

 

「何が鉄屑連隊だ」

「あれがありゃ市街戦もだいぶ楽になるな……」

 

 それがともすれば闘士級の奇襲を受けて苦戦強いられる機械化装甲歩兵たちの偽らざる感想であった。

 

 ……。

 他方、分解修理のために乗機を失った八代基地の衛士たちは、暇になっていた。

 勿論、課業時間中は忙しい。

 体力の錬成やJIVESを使用したシミュレーター訓練、あるいは事務作業や車輌整備の手伝いなど、やることはいくらでもある。

 しかしながらいったん課業時間が終わると――長時間の待機や戦闘に慣れている身からすると――えらく暇に感じられてしまうのだった。

 

「芝っちだよね? ここの8持ってるの」

 

 鈴木久実少尉は荒芝双葉少尉を睨んだ。

 

「も、もってませんって! それから、パスです!」

 

 先輩からの圧に荒芝双葉少尉は、慌てた。

 テーブルに並べられたカードは、ハートの8から先が欠落していた。

 いわゆる7並べ。民生用電子機器の製造が絞られている現代において、衛士たちが興じる健全な娯楽といえば、カードゲームやボードゲームくらいしかない。

 

「そんなこと言って鈴木少尉が持ってんじゃないんすかあ?」

 

 ラビット8・峯岸成少尉は鈴木久実少尉に対して疑わしげな声を上げた。

 勝負師の鈴木。それが第92戦術機甲連隊の衛士たちの間で彼女を呼ぶ際の通り名になるほどだった。

 現在は直属の上官となる服部忠史大尉の厳命により、彼女はポーカーといった賭けごとに直結するような遊びを禁止されており、しかもガン札(傷をつけた札)使いであるということが、着隊したばかりの駿河野場語名大尉に看破されてから、事実上の花札禁止状態にもなっていた。

 そんなわけで彼女はいま単純に勝負を愉しむため、賭けごとなしでゲームに興じている。

 

「……」

「浦江少尉、透視でもする気っすか」

「うるせえ。集中を乱すな」

 

 他の衛士の手指の動きとカードに全神経を向けているのは、ゼノサイダ11・浦江滋雄少尉だった。第11中隊で打撃支援(ラッシュガード)のポジションを任され、前線では支援突撃砲による長距離砲撃戦を得手とする彼は、その視力と集中力で勝利を収めようとしていた。

 

「浦江さん、そりゃ無理だって」

 

 鈴木久実少尉は失笑するが、浦江滋雄少尉の表情は真剣そのものである。

 

「鈴木、勝利に必要なのは能力と、その能力を100%発揮するための執念だ」

「ストイックすぎる」

 

 鈴木久実少尉のつぶやきに、荒芝双葉少尉はくすくすと笑った。

 

「見えたッ!」

「え」

 

 浦江滋雄少尉の短い叫びに、荒芝双葉少尉は驚いた。

 

「荒芝は持っていない――やはり貴様か、鈴木」

「ねえ、実際は見えてないでしょ」

「……」

 

 しょーもない心理戦が続く部屋。

 その外では、雨が降りしきっている。

 梅雨の季節――新たなる戦いは、すでに窓の向こう側にあった。

 

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