【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■76.F/A-14N(1)

 

 日本帝国本土防衛軍による本州および四国奪還は、呆気なく成功した。

 2発のG弾の炸裂は横浜ハイヴ地表面に展開していたBETA群を消滅させ、それだけではなくハイヴ坑内のBETAの機能停止を惹起した。同時に日本列島内のBETA群は、朝鮮半島へ撤退を開始――日本帝国本土防衛軍・国連太平洋方面第11軍・大東亜連合軍は協同してこれを追撃。

 これに日本帝国本土防衛軍西部方面隊も呼応している。

 

「これを望月のときにやれよ」

 

 下関市内に布陣した第92戦術機甲連隊第32中隊の保科龍成少尉は思わず口に出していた。ミラージュ2000-5の遥か頭上を往くのは、227mmロケット弾。同機が備えるセンサー類は、艦砲射撃とその弾着がもたらす音響と震動も捉えていた。

 中国地方を西進してきたBETA群は、下関市に隣接する長門市から潜水して朝鮮半島へ退却していく。が、彼らは陸上と海底で身体構造を転換させるための時間を要する。であるから自然と海岸線の周辺がボトルネックとなり、長距離砲撃による面制圧が有効になるというわけだ。

 今回が機種転換から初出撃となるF/A-14Nもまた127mmロケット弾を装備した上で、長門市中心市街を爆撃していた。

 一方的な殲滅戦。

 砲兵部隊の直掩として前線に立つ第32中隊であったが、彼らの出番はついぞこなかった。

 

 かくして日本帝国は滅亡の(ふち)から辛うじて一歩脱した。

 未だ国内には佐渡島ハイヴがあるものの、首都圏と陸続きの横浜ハイヴの脅威が取り除かれたのは大きい。

 日本社会は、戦勝に沸いた。

 

 が、社会全体が史上初のハイヴ攻略成功を喜ぶ中、その一方で人々の憎悪、怒りは募り、深い澱みをつくっていた。

 米軍による無通告の新型爆弾使用は一般市民の反米感情を加速させ、明星作戦に絡む一連の事情を知っている政治家や軍人たちの一部は国連と、国連と協調する帝国政府に対して憎悪に近い感情を向ける。

 

 国際政治に基づかない反政府感情もまた、市井に充満しつつあった。

 中部地方以西の奪還に成功した、といっても万単位の避難民たちは自身の街に戻って元の生活に戻れるわけではない。

 満足な量があるとはいえない配給と、神経を苛立たせる集団生活――先の見えない未来。

 その解決のしようがない不満は、無策の帝国政府、そして帝都陥落を許し、帝都防衛線放棄の際にも「五摂家は帝都とともに散る」などとくだらないパフォーマンスに終始した武家に対して向けられていく。

 

 その反政府感情をこじらせた人々が結びついていくのは、「BETAによって滅びるのは神仏の意思」と主張する恭順派や、「BETAは国連と各国政府が人類をコントロールするために生み出した架空の存在」とする陰謀論――。

 

 荒唐無稽に思えるが、募る不満以外にもこうした主張が蔓延る理由がある。

 日本帝国は情報管制によってBETAの姿やその能力を、一般市民の目に触れさせないようにしている。

 政府関係者や軍需企業勤め、徴兵に際して教育を受けた者を除けば、その醜悪な姿を知らず、その無慈悲さも知らない。

 であるから恭順派に傾倒する者は勝手にBETAを天使然とした姿の存在だと思いこんで神聖視し、陰謀論者たちはそもそもBETAなど存在しないと言ってのけるのであった。

 

 実害は、出始めている。

 政府関係者や武家に対する誹謗中傷や、物資の中抜き。

 しかし帝国においては暴力的なテロは未だ生じていない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 F-15JKの日韓共同開発のスケジュールは、遅延している。

 

 これは帝国政府でも、韓国政府でも、ましてや生き残りをかけてF-15系列の普及と改良作業に邁進しているボーニング社戦術機開発部門のせいでもなかった。

 韓国国内にて暗躍する恭順派の破壊・妨害工作が原因である。もともと韓国国内にはキリスト教徒が多いため、日本帝国よりも恭順派が伸張しやすい背景があり、F-15JKを組み立てようとしていた済州島内の工場にも運動家が浸透していたらしい。

 試作1号機、2号機はともに放火による内部構造一部焼失に遭ったため、帝国政府と韓国政府は協議の上、日本帝国九州地方にて試作3号機、4号機の組み立て作業を実施することを決めた。

 が、土壇場になって必要な部品が不足していることが判明し、やむなく東南アジアにあるボーニング社の戦術機工場から輸送することとなった。

 かくして試作機を利用した機種転換訓練に勤しむ予定であった第23中隊では、年末までF-15AAが装備・運用されることになり、氏家義教大尉以下第23中隊の衛士たちは肩透かしを食らったような形になった。

 

 他方、XF-2の実戦配備化作業および量産計画は順調に進展しており、その先駆けとして第92戦術機甲連隊第21中隊はXF-2を追加で8機を受領。

 

 今後の予定ではXF-2の“X”は外され、00式戦術歩行火力支援戦闘機・F-2Aとして部隊配備が始まることになっていた。

 

 

 

1999年9月時点:92連隊勢力

 

■ 第92戦術機甲連隊:作戦機数(93機/定数108機)

 

● 第11中隊:F-14N(12/12機)

● 第12中隊:FC-1(12/12機)

● 第13中隊:MiG-29SEK(0/12機)

 

(※第13中隊機は海外において分解整備中)

 

● 第21中隊:F-2A(12/12機)

● 第22中隊:F/A-14N(12/12機)

● 第23中隊:F-15AA(12/12機)

 

● 第31中隊:JAS-39CB(12/12機)

● 第32中隊:ミラージュ2000-5(9/12機)

● 第33中隊:A-10C屠龍(12/12機)

 

(※第32中隊機は故障機のため定数を満たしていない)

 

 

 

 1999年9月初頭、日本帝国の大部分からBETAは排除されていた。

 しかしながら未だにBETAが占領している島嶼部が“2つ”あった。

 

 ひとつは佐渡島。

 

 そしてもうひとつは対馬島である。

 

 1999年8月、明星作戦の成功に伴い、本州からの脱出に成功したBETA群のうち、そのほとんどは釜山から朝鮮半島に上陸し、鉄原ハイヴに至った。

 一方で対馬島のBETA群に朝鮮半島へ撤退する動きはなく、9月初頭の時点で3000から5000程度のBETAが対馬島を占領しているとみられている。

 帝国軍参謀本部としては、ハイヴを擁する佐渡島の攻略は現段階では不可能であるため、速やかに対馬島の奪還作戦の立案に取りかかった。

 

 BETAが対馬島に踏み止まっている理由は、わからない。

 

 しかしながら対馬島にハイヴが建造されるといった最悪の事態が起きないとは限らない。

 

 対馬島奪還作戦の主力は日本帝国本土防衛軍西部方面隊。

 

 その先鋒を担うのは第92戦術機甲連隊の第12中隊(FC-1)、第22中隊(F/A-14)、第31中隊(JAS-39CB)であった。

 

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