【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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今後の展開についてですが武御雷をあてこするつもりはありません。
年産30機についても九州地方の工業地域が生き残っているため多少は改善されています。
おそらく「日本国内の工業地域・地帯が壊滅」&「純日本製にこだわる武御雷の開発・製造の拠点は海外ではなく日本国内であった」ことが異常なまでの年産数につながっていたのだと思います。



◇◆◇




■本話登場人物紹介

【氏家義教(うじいえ・よしのり)】

 大尉。第92戦術機甲連隊第23中隊長。コールサインはプリズナー1。
 問題を抱えた第23中隊をまとめあげるためか、戦場での言葉遣いは荒い。が、部下や後輩を助けることを躊躇しない人格者。
 彼と対峙した菅井麗奈中尉は、彼の操る殲撃八型の挙動から武家の剣技を連想している(35話)。実際、彼が修める剣術は煌武院家に関係があるらしい。

【井伊万里(いい・まり)】

 中尉。第92戦術機甲連隊第32中隊所属・中衛B小隊の小隊長。コールサインはミツバチ5。
 日本帝国大陸派遣軍第4師団第4戦術機甲連隊から引き抜かれた過去をもつ。戦場では頭に血が上りやすい性格であり、前衛戦闘が得意である一方、対BETA戦で重要となる連携・指揮能力は低い。

【長野ふゆ(ながの・ふゆ)】

 少尉。第92戦術機甲連隊第13中隊・前衛B小隊所属。コールサインはパッパ7。
 寡黙だが行動がうるさいタイプ。






■77.F/A-14N(2)

 実際のところ対馬とは、単一の島から成っているわけではなく、複数の島々から成る。

 主となる対馬島も運河によって、北方の上島と南方の下島に分割されており、これを大船越橋という橋梁が繋いでいる格好だ。偵察衛星によると大船越橋は健在のようであるが、もともと片側一車線の幅しかないため、大部隊の移動には不便だ。また橋を支える構造物が上方へ張り出しているため、戦術機が主脚歩行で渡ることは不可能である。

 

 また対馬島は攻め難い。

 海岸線は砂浜海岸ではなく、そのほとんどが岩石海岸であり、LCACをはじめとする上陸用舟艇の投入には苦労するし、A-6J攻撃機もまた同様だ。地形としては山地の連続であり、平野部・市街地はほとんどなく、地上部隊の移動に適する道路もまた少ない。

 逆に多少の地形の高低や、上島と下島を分割する運河を踏破してしまえるBETA側の方が機動の制約はないため、有利だといえた。

 

 対馬島奪還作戦は艦砲射撃による重金属雲の展開と、光線級の駆逐から始まる。

 対馬島の奪還は帝国政府首脳陣も注目する国土回復作戦になるため、帝国軍参謀本部は出し惜しみをすることなく、主力戦艦、ミサイル巡洋艦を投入することを決めていた。状況によっては航空宇宙軍による軌道爆撃も考えられている。

 敵群の規模からいって、対馬島に存在する重光線級・光線級の個体数は100体未満であるため、この段階で敵防空網の大部分を破壊できよう。

 その後、第92戦術機甲連隊の3個中隊が下島南東部に洋上突撃を仕掛け、旧厳原港・旧対馬市役所・旧対馬基地周辺を制圧。続けて舟艇に分乗した対馬警備隊をはじめとする歩兵部隊などが旧厳原港から上陸し、市街戦と山岳戦で周辺を占領し、橋頭堡を確保する。

 

 この対馬島奪還作戦は西日本BETA侵攻以前に対馬島で発見された二ホンカワウソにちなみ、“川獺(カワウソ)”作戦と名づけられた。

 

 作戦発動は、10月半ばを予定している。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 川獺作戦に向けた準備が始まる中、日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊から4名の衛士が、西部方面司令部に呼び出されている。

 

「俺たちに共通点は……ないな」

 

 日本帝国本土防衛軍西部方面司令部のある健軍基地、その一角にある控室に通されるとともに、第23中隊を率いる中隊長・氏家義教大尉は口を開いた。

 

「いえ」

 

 遠慮なく黒革のソファーに身を埋めた第11中隊の中隊長・櫻麻衣大尉は、即座に否定した。

 

「あります」

「ほう」

「美男美女であることです」

 

 櫻麻衣大尉の言葉に、ふーむ、と氏家義教大尉は顎に手をやって考えこみ、その横で第13中隊前衛B小隊パッパ7・長野ふゆ少尉がうなずいている。

 

(ツッコミ不在……)

 

 井伊万里中尉は内心溜息をつきながら、手を挙げた。

 

「まり中尉、なんでしょう」

 

 櫻麻衣大尉は天井から垂れ下がっている衛士の下半身と内臓を無視しながら、井伊万里中尉に話を振る。

 

 一方の井伊万里中尉はこの場に揃った4名の共通点を口にした。

 

 それは近接戦闘に長けていること、だ。

 

「私を除いて、ですが」

 

 と強調しつつも、井伊万里中尉は説明する。

 

 長野ふゆ少尉は、固定型ブレードはともかくとして、近接戦闘長刀、近接戦闘短刀を使わせれば高い技量を有する。また生身の近接格闘にも通じているという噂があった。

 

 氏家義教大尉もまた同様だ。対BETA戦もさることながら、殲撃八型でF-14Nを下したように対人戦にも通用する剣技を修めている。

 

 そして櫻麻衣大尉は近接、射撃戦双方においてトップクラスの実力をもつ。

 

「なるほど。合点がいった」

 

 氏家義教大尉は頷いた。

 

「井伊、貴様もな。一心不乱の斬りこみは毎度見せられている」

「……」

「あとはなぜ俺たちがここに集められたか、だが」

 

 それについても井伊万里中尉は見当をつけていた。

 

「F-2Aによる異機種模擬戦闘でもやるのでしょう」

 

「成程。確かに西部方面司令官閣下は政敵が多い、模擬戦を挑んできて結果次第でF-2Aを潰そうとしている輩もいるだろう。それをこてんぱんにしてやればいいのか、それとも逆にF-2Aでライバルを潰しにかかっているのか……」

 

 氏家義教大尉の言葉に長野ふゆ少尉が反応し、その場でステップを踏みながら目に見えない敵に腰の入った一撃――どりるみるきぃぱんちを繰り出した。

 

 結論からいえば、氏家義教大尉と井伊万里中尉の推理は正しかった。

 

 

 

――00式戦術歩行火力支援戦闘機F-2Aと、00式戦術歩行戦闘機TSF-00武御雷の異機種模擬戦闘。

 

 

 

「瑞鶴の最新ブロックをやっつけられた城内省と、国粋主義の連中がリベンジをしたいらしい」

 

 西部方面司令部情報参謀の石川聡大佐の言葉に、氏家義教大尉は難しい顔をした。

 続けて櫻麻衣大尉が挙手をする。

 彼女は“タケミカヅチ”というワードに、極めて鋭敏に反応した。

 

「石川大佐。廉価かつ他部隊の支援を主目的として開発されたF-2Aと、斯衛軍の最新鋭戦術機・武御雷とでは勝負は目に見えています」

 

「それはわかっている。向こうさんもな。だからこそ自信満々に勝負をもちかけてきた」

 

「それで彼らはF-2Aの敗北を喧伝するつもりですか」

 

「そうなるだろう。だがそうならないために、第92戦術機甲連隊から腕の立つ衛士、つまり貴官らを集めたのだ」

 

 石川聡大佐が言いきると氏家義教大尉と櫻麻衣大尉は納得したような表情を浮かべたが、井伊万里中尉は腑に落ちなかった。

 タケミカヅチ、とやらはそれほどの戦術機だというのか。

 F-2Aもミサイルランチャーを投棄さえしてしまえば、94式不知火ほどではないにしても、F-16Cと同等かそれ以上の戦闘力を有している。

 第3世代戦術機のタケミカヅチに対して、勝ち目が一切ないということはないだろう。

 井伊万里中尉はそう思い、発言した。

 

「石川大佐。申し訳ありません。寡聞にして……タケミカヅチ、でしたか? その戦術機について小官は存じ上げません。それほど強力なのですか」

 

 ああ、と石川聡大佐は頷いた。

 

「武御雷は斯衛軍専用の戦術機として94式不知火をベースに開発された戦術機だ。といっても大部分は新規設計で、撃震と瑞鶴の関係をイメージしているとえらい目に遭う。現時点での性能諸元が正しければ、最高速度だけでも94式不知火を時速100kmは上回っている」

 

 退出の際にそれは回収させてもらう、と前置きした上で石川聡大佐は武御雷のデータがまとめられた小冊子を井伊万里中尉に手渡した。

 それから彼は、話を続ける。

 

「馬鹿げていることに武御雷系列は、現時点でバリエーションは4種類……色違いも含めれば6タイプが開発されている。今回は五摂家に連ならない独立系の武家や外様の武家に与えられる“白”のA型が相手だ」

 

 井伊万里中尉はA型の写真が載せられたページを開き、まじまじと見つめた。

 

「戦後に取り潰された元・武家の衛士たちが搭乗する“黒”のC型でさえ、関節強度は不知火よりも50%以上強化されており、跳躍装置の最大出力も20%は向上している。黒でさえこの高水準だというのに、さらに高機動型の白があるというのだから驚きだ」

 

「数字でみると最強に近い戦術機ですね」

 

 井伊万里中尉は素直に感嘆した。

 彼女の目を惹いたのは、機体各部に格納された“隠し刃”だ。

 さらに全身がブレードエッジと一体化した装甲で覆われている。

 この武御雷が量産され、日本帝国本土防衛軍にも配備されれば、佐渡島ハイヴや鉄原ハイヴの攻略も夢ではないだろう。

 

「しかし、だ」

 

 櫻麻衣大尉は口を挟んだ。

 

「武御雷とF-2Aは単純に比較できるものではない。武御雷がハイにあたるなら、F-2Aはロー。1機あたり64発の92式多目的自律誘導弾で面制圧を行い、高度なFCSを活かした長距離砲撃戦で敵を圧倒――火力支援が目的の戦術機だ。目指すところが違う。とはいえ、負けるのも癪だ」

 

 櫻麻衣大尉の言うとおりだ、と石川聡大佐は言葉を継いだ。

 

「負けるわけにはいかない。しかも今回は観戦にどうやら五摂家の御方がいらっしゃるらしい。噂では畏くも政威大将軍殿下がご臨席あそばされるそうだ」

 

「殿下が?」

 

 氏家義教大尉の問いに、彼は重々しく頷いた。

 

「御前試合で負ければF-2Aに対する心証は悪くもなろう。が、勝ってさえしまえば、観戦するギャラリーはそれが機体性能によるものなのか、それとも衛士の腕前によるものなのか判断がつきかねる。とにかくF-2Aがとやかく言われることはなくなるだろう。貴官らは間違いなく西部方面隊の中でも高い水準の技量を有している。なんとしても勝ってほしいのだ」

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