【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■本話登場人物紹介

【青山敬行(あおやま・たかゆき)】

中尉。第92戦術機甲連隊第31中隊前衛B小隊の小隊長。コールサインはサイウン5。
実戦経験のあるサイウン6・日隈三央少尉とともに新人の多い第31中隊を引っ張る中堅衛士。彼の一言は、新人衛士たちを奮起させた(61話)。



◇◆◇





■79.F/A-14N(4)

 

 1999年10月、対馬島奪還作戦“川獺作戦”は発動した。

 

 この作戦はハイヴの存在する佐渡島を除いた国土奪還の総仕上げともいうべき作戦であり、帝国政府首脳部および日本帝国国防省、帝国軍参謀本部の威信を賭けた代物となっている。

 故に、帝国軍参謀本部は出し惜しみをしなかった。紀伊型戦艦こそ明星作戦成功後に整備入りしているが、改大和型戦艦と大和型戦艦、その他大小の水上艦、無人機部隊、回転翼機部隊の投入を決めている。

 

 払暁――。

 

 火蓋を切ったのは、日本帝国西部方面隊第5地対地ロケット連隊と新設された日本帝国東部方面隊第6地対地ロケット連隊の88式地対地誘導弾システム、壱岐島の島影に隠れた金剛型ミサイル駆逐艦の艦対地ミサイルであった。

 白煙を噴きながら空中へ飛び出した白い弾体は、シースキミングモードに移行し、光線級の視線を躱しながら一気に対馬島南部の下島側に襲いかかった。

 

 上島、下島の一帯にて、青白い光が閃く。

 途端に爆散する弾頭。

 空中で四散する破片と、惰性で進む炎の塊が次々と生じる。

 その合間を縫って過半数の誘導弾は下島南部、500m級の高地が連なる一帯の直上で炸裂――無数の木々とその場に居合わせたBETAを薙ぎ倒した。

 さらに壱岐島内に展開したMLRSが長射程型のロケット弾を惜しげもなく使い、厳原港に隣接する鶴翼山、宝満山、向山、ダシ山をはじめ、下島一帯の山々を蹂躙していく。

 

 これらの砲撃は、AL弾ではなく通常弾頭で行われている。

 

 この段階の砲撃の狙いは、ふたつ。

 

 ひとつは光線級・重光線級の本照射を誘発させることで、その所在を暴露させるためだ。

 発生するレーザークラウドと伸びる光芒を、対馬海峡に潜む究極のステルス兵器――春潮型潜水艦は潜望鏡と付随するセンサー類を使ってそれを捕捉していく。

 故に砲弾の到達率が低下することを承知の上で、観測の邪魔になるかもしれない重金属雲を発生させはしない。

 もうひとつは下島の高地を事前に叩いておき、対馬海峡に進出する水上艦艇が、偶然高地に居合わせた光線級から照射を浴びることがないようにするためであった。

 

 それから鋼鉄の巨躯が、戦場に姿を現す。

 位置情報を曝け出した光線級目掛けてAL弾頭の艦対地ミサイルが突入する最中、改大和型戦艦『加賀』と大和型戦艦『信濃』は威風堂々、対馬海峡にまで進出した。

 対馬島に指向されるのは、15門の46センチ砲。

 

 轟然、海上に衝撃波が奔る。

 次の瞬間、対馬島の一角が抉りとられた。

 加えて無数の副砲が対馬島南部を滅茶苦茶に乱打――光線級による反撃を万に一つも許さないまま、46センチ砲で吹けば飛ぶような無人島や、光線級の群れが存在する平野部を叩き潰していく。

 水平線上に身を曝け出した水上艦艇と、光線級・重光線級が撃ち合えば、命中精度、投影面積の差で前者が撃ち負ける、というのは常識だ。

 しかしながらこの2隻の超ド級戦艦は、壱岐島・九州島からの火力投射もあって、ろくな反撃も受けずに暴れ回った。

 

 そして最後に改大和型戦艦『加賀』が、航空甲板となっている艦体後部から次々と無人機を発艦させていく。

 彼らに与えられた任務は、生残する光線級、重光線級の照射を誘発させることで、その位置を暴露させる――あるいは周辺空域が安全だと保証すること、であった。

 

 ……。

 

(俺たちの出番、ある?)

 

 朝日の下、艦上機用エレベーターで輸送艦の甲板上に引き出されたF/A-14N――雨田優太少尉はそう思った。

 大和型戦艦、改大和型戦艦に金剛型ミサイル駆逐艦が近海に遊弋し、壱岐や九州からは熾烈な長距離砲撃が続いている。

 対馬島内のBETA個体数は旅団規模約5000と目されている。光線級・重光線級の個体数は100に満たないはずであり、その程度の防空網ならば粉砕し、なおかつ多くのBETAを殺戮するだけの砲火力がいまここにあった。

 

 実際、帝国軍参謀本部および西部方面司令部の事前の想定では、光線級や大抵の大型種は強大な火力投射で殲滅されるだろうとされており、第92戦術機甲連隊はBETAの約45%を占める戦車級を主として相手取るということになっていた。

 そのため、艦上に並んだF/A-14Nは両肩部に地対地ミサイルではなく、36連装127mmロケットランチャー2基を装備している。

 

「こちらHQ。園田だ。旧厳原港周辺空域に達した無人機は滞空したまま未だ健在。これにより同港周辺の光線級の排除は確実となった。よって計画どおり、第12・22・31中隊は洋上突撃を実施――旧厳原港・旧対馬市役所を攻撃する」

 

 作戦司令部が設置されているミサイル巡洋艦『愛宕』に乗艦している園田勢治少佐は、安心しきっていた。

 渡洋攻撃を実施する戦術機にとって、光線級は大敵といっていい。

 しかしながらレーザークラウドが消え失せたままほとんど発生していない現状と、事実上の航空戦艦である『加賀』の放った無人機が照射を受けていない以上、長距離火力投射によって下島から上島に至る東海岸からBETAは完全に駆逐されたと判断できた。

 

「こちらイツマデ1。計画どおり、前衛B小隊から発艦」

「こちらサイウン1。イツマデと同様に前衛B小隊から発艦せよ」

 

 園田勢治少佐の命令の下、輸送艦上にて待機していた第92戦術機甲連隊の衛士たちが、自機のスロットルを開く。

 空中に躍り出る鋼鉄の(つわもの)たち。

 急激に加速する世界の中で鉄馬の御者たちはNOE飛行に移りつつ、編隊を整えていた。FC-1から成る第12中隊、JAS-39CBの第31中隊が先鋒、それに続く形で第22中隊のF/A-14Nが往く。

 そのまま一路、旧厳原港へ。

 

(まるで山目掛けて突っこんでいくみたいだぜ)

 

 サイウン8・実方成也少尉は海面上に浮かぶ標高558mの有明山を睨みながら、そう思った。

 

 次の瞬間、異変は生じた。

 

「なに――?」

 

 最先頭を翔ける第31中隊B小隊長の青山敬行中尉は、聞き慣れた警告音を耳にする。

 網膜上にポップする黄と赤の色彩――“予備照射警報”の文字。

 その数秒後、膨大な熱量が、対馬海峡洋上に生じた。

 

「くそったれ!」

 

 最先頭を往くJAS-39CBは光の奔流に呑みこまれ、爆発炎上しながら海面に叩きつけられる。

 その隣のJAS-39CBもまた炎を曳いたまま、大出力のレーザーが生み出した衝撃波によってバランスを崩して失速――波間に消えた。

 

「HQ、サイウン1だ! サイウン5、6がやられた!」

「おい、イツマデB小隊(ブラボー)は!?」

「マーカーが全部消えた!?」

「イツマデ5ッ! 鈴木少尉、応答してください!」

 

 たったの数秒。

 それで第92戦術機甲連隊の第12・第31中隊は6機を失った。

 服部忠史大尉は瞳の端に映る中隊内ステータスを見やり、苦い表情をした。

 鈴木久実少尉が率いる前衛B小隊は、全滅している。

 

「どっから撃たれたッ!?」

「旧志賀ノ鼻大橋の下!」

「こいつら、砲撃をやり過ごしやがった!」

 

 第31中隊前衛B小隊の生き残り、サイウン7・矢矧豪少尉とサイウン8・実方成也少尉は速度を緩めることなく、前方目掛けて突撃砲を連射した。狙いはデタラメで数十発の機関砲弾が高架の側面に突き刺さったが、同時に2体の光線級を吹き飛ばす。

 

「よくも鈴木先輩を――!」

 

 イツマデ4・牟田美紀少尉が吼えながら、半壊したペンションから瞳を覗かせている光線級を120mm弾で吹き飛ばす。

 彼女もまたスロットルを絞っていない。120mm弾の直撃を受けてペンションとともに粉々となった光線級の死骸を飛び越した牟田美紀少尉機は、雑木林に着地し、襲いかかってくる戦車級の奔流を突撃砲の連射で破砕した。

 その最中、彼女の耳朶を警告音が打つ。

 

 かくして対馬島における戦況は、急転した。

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