【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■本話登場人物紹介

【井戸向凛(いどむかい・りん)】

少尉。第92戦術機甲連隊第22中隊所属。コールサインはシスター7。
雨田優太少尉の僚機を務める。シスター7は戦死した藤井美知少尉から継いだもの。約1年前はまだ高校生だった。

【大島将司(おおしま・しょうじ)】

大尉。第92戦術機甲連隊第22中隊長。コールサインはシスター1。
光州作戦から第92戦術機甲連隊の主要な作戦に参加。大陸帰りのベテラン。バツイチで陽菜という娘がいるがしばらく会えていない。部下のことを思いやる中隊長(6話)。

【八倉世理子(やくら・よりこ)】

大尉。第92戦術機甲連隊第31中隊長。コールサインはサイウン1。
新年に着隊。上級幹部教育課程を好成績でパス、陸軍大学校への入校を勧められたがそれを蹴って前線部隊勤務を希望した衛士。





■80.F/A-14N(5)

 

「なんなのっ!」

 

 第92戦術機甲連隊第22中隊7番機を駆る井戸向凛少尉は、苛立ちとともに短い叫びを上げた。

 旧厳原港一帯はいまや、光線級の十字砲火に晒されている。人類側の索敵と砲撃を躱しやすい谷間や、旧対馬市役所周辺の廃墟、高架の下に隠れていた光線級が第92戦術機甲連隊機に突如として反応し、一斉に攻撃を開始したのである。

 それに負けじと、第22中隊“バトル・シスターズ”のF/A-14Nは、光線級目掛けて127mmロケット弾による制圧射撃を実施していた。

 予備照射に移行した光線級に数発のロケット弾が襲いかかる――となれば、光線級は即座に目標を戦術機から自身に迫る飛翔体に切り替えざるをえない。そしてそのまま、至近距離で炸裂した弾頭の破片や爆風によって、ズタズタに引き裂かれていく。

 

「旧対馬市役所駐車場――!」

 

 石垣の上から頭を出した光線級。

 それを捉えた大島将司大尉は間髪入れずにロケットランチャーをその眼球に指向していた。

 火焔を噴きながら空中に飛び出した白い弾体は、光線級が予備照射に移行するよりも早く石垣に達する。

 弾け飛ぶ石垣と、その断片によって下半身を吹き飛ばされる光線級――双眼が乗った上半身が虚空に舞い上がる。

 

「光線級はシスターに任せるほかない!」

 

 八倉世理子大尉はB小隊長・青山敬行中尉と日隈三央少尉が撃墜されたことで浮足立つ部下を叱咤し、同時にやるべきことを明確に示した。

 

「382号を南下する戦車級800をやるぞッ!」

 

 周辺の山々から駆け下りてくる、あるいは国道に沿って南下してくる戦車級ども。この行く手を遮ることで、第22中隊を戦車級から守り、光線級狩りに専念させようというのである。

 八倉世理子大尉の命令とともに戦車級の波濤目掛けて突進したのはサイウン7、サイウン8――矢矧豪少尉と実方成也少尉だった。

 両者はともに、頭に血が上っていた。

 2機のJAS-39CBは示し合わせたように突撃砲を投げ捨てる。

 

「青山さん、日隈先輩……」

 

 投棄された突撃砲が、木造の民宿を圧し潰す。

 と同時に鋼鉄の籠手が変形し、二の腕ほどの長さを誇るスーパーカーボン製の凶刃が展開した。

 そして金色のセンサーアイが、殺到する戦車級を睨んだ。

 

「てめえらクソ虫にいまさらビビるかよッ!」

 

 大口を開きながら駆け抜けてくる真紅の激流に負けじと、矢矧豪少尉は吼え返した。

 もはや彼の横顔に怯懦はない。厳しいながらも色々と営内のイロハを教えてくれたふたりを理不尽に失ったショックは、彼が胸の奥にしまいこんでいた怒りを呼び覚ましていた。

 矢矧豪少尉機は地表面滑走で最先頭の戦車級を轢き殺し、血肉のペーストをぶちまけ、浴びながら、飛びかかってくる戦車級目掛けて両腕を振るう。

 主腕の延長線上にあるブレードが、空中の戦車級を薙ぎ払って死骸に変える。

 その肉片と血液が舞い散る中、1匹の戦車級がJAS-39CBの頭上にまで跳躍し、その凶刃を掻い潜った。

 

「お前らさえ来なければ――!」

 

 頭上から落下してくる戦車級を、矢矧豪少尉は肩部ブレードベーンで吹き飛ばした。

 BETAによって奪われた無数の生命、無数の夢、そして自身の夢。

 矢矧豪少尉は憤怒のままに体当たりしてきた戦車級を刃が装着された膝部装甲で斬殺し、その死骸を踏み潰した。

 

 ……。

 

「さすがは92連隊ですな――」

 

 作戦司令部が設置されているミサイル巡洋艦『愛宕』では、本土防衛軍の高級参謀たちが次の一手を協議していた。

 予想外にも“偶然”生き残っていた光線級の反撃に作戦司令部は一時的に恐慌状態に陥っていたが、第92戦術機甲連隊が瞬く間にこれを制圧してみせたことで、彼らは平静を取り戻すことに成功していた。

 タイムスケジュールは少々の遅延をみせているが、続いては予定通りに日本帝国本土防衛軍西部方面隊対馬警備隊や重迫撃砲中隊が、旧厳原港に進出することになっている。

 

 しきりに第92戦術機甲連隊の奮戦に感心する艦隊参謀たちを筆頭として、作戦司令部内に流れる空気は切迫していない。

 その中で園田勢治少佐は、違和感を覚え始めている。

 確かに状況は悪くない。火力と手数に優る第22中隊は光線級を圧倒し、第12中隊と第31中隊は押し寄せる小型種の群れに対して優勢を維持し続けている。この後に上陸を予定している歩兵部隊が対処できない大型種は、島内にほとんどいなかった。

 だからこそ、疑念が生じる。

 

(こんなに楽に勝たせてもらえるものなのか)

 

 今回BETA側は光線級の存在を隠蔽するという戦術を用い、戦術機部隊の殲滅を図った。

 その彼らがこのまま対馬島を明け渡すのか。仮に光線級の十字砲火で戦術機部隊の全滅を成功させたあと、彼らが次に狙うのは何か――。

 

「上島を砲撃し、旧厳原港のある下島への増援を阻止すべく、予定通りに『美濃』と『加賀』をはじめとする水上艦隊を北上させましょう」

 

 思考する園田勢治少佐の横で、艦隊参謀が発言する。

 

 その数十分後、最前線で戦車級と対峙する八倉世理子大尉が、急を報せた。

 

「HQ、コード911!」

 

「は?」

 

 作戦司令部の面々が呆ける。

 止まった時間の中、オペレーターたちは情報連接しているJAS-39CBが送信してきた音紋、その波形を見て絶句した。

 次の瞬間、水上艦のウイングに立っていた見張りの水兵たちは、下島南部の山々の上に立ち上がる土砂を見た。

 

「噴火!?」

「碇隈山か――?」

「馬鹿、噴火なわけがあるかッ! あれは!」

 

 山頂付近に、朦々と広がる砂煙。

 その中から青白(せいびゃく)の光が伸びた。

 

「予備照射ァ!」

 

 改大和型戦艦『加賀』に着艦しようとしていた無人航空機が爆散し、炎を曳いた破片が航空甲板に降り注ぐ。

 その鉄火の脇を衝撃波とプラズマを伴って奔ったレーザーは、軽巡洋艦『音羽(おとわ)』の艦体中央部を捉えた。蒸散膜を施された装甲が緩やかに蒸発する。そして続く十数秒間で、大熱量の破壊光線は装甲を消滅させ、同艦の内部構造を膨大な熱量と衝撃波で破壊していった。

 訪れる破局。

 数百名の乗組員とともに『音羽』は大爆発を起こして、艦体前部・後部とに切断され、水蒸気が立ちのぼる海面下に没した。

 

「高地からの照射攻撃、だと」

 

 対馬島へ接近した水上艦隊を見下ろせる高所への地中侵攻……否、地中進出。対馬海峡一帯を射程に収めた重光線級、光線級はその曇りなき瞳で洋上に浮かぶ水上艦をじっと見つめている。

 76mm連装速射砲を指向したミサイル駆逐艦『天津風』は、発砲を開始する前に光線級2体からの本照射を浴びて爆発炎上。

 その前方を航行していた駆逐艦『高月』は127mm速射砲による反撃を開始していたが、その砲弾のことごとくを迎撃された上、重光線級の本照射で艦体前部が切断され、前のめりに沈み始めていた。

 

「AL弾に換装する時間はない!」

「撃ちまくれ、飽和攻撃しかない」

 

 光線級、重光線級に迎撃を強いつつ、その防空網を突破して叩き潰してしまおうという攻防一体の連続射撃に水上艦隊が移る中、園田勢治少佐は数秒で光線級吶喊のためのルートを組み立てていた。

 

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