【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■81.対馬吹き抜ける鋼鉄の突風!

 

 対馬海峡に遊弋する水上艦隊は、ジリ貧に陥りつつあった。

 副砲や速射砲による連続射撃で光線級に迎撃を強要することで、本照射の直撃から身を守ることには成功していたが、光線級の個体数自体は思うように減らせていない。

 明らかに、艦隊側が不利な状況。

 残弾に限りがある以上、この均衡状態はいつか破れる。またこの状況でさえ、砲弾を蒸発させたレーザーが水上艦を擦過し、衝撃波でセンサー類が破壊されるなど、確実に艦隊側の戦闘力は漸減していた。

 

 打開策が出ないまま、被害状況の読み上げがただただ続いている作戦司令部。

 

 そこで園田勢治少佐は、周囲に切り出した。

 

――下島南部に出現した光線級に対する光線級吶喊(レーザーヤークト)

 

 もう1度、時間が止まった。

 

「やってくれるのか……」

 

 艦隊参謀たちの期待半分、悲壮半分の視線。

 高地を占領した光線級に対する攻撃は、容易いものではない。

 それを艦隊参謀たち、そして園田勢治少佐も理解している。

 

 だがそれ以外に、水上艦隊を救う手立てはない。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「HQの園田だ。作戦を更新する。現在、下島南端の高地に進出した光線級は、水上艦隊を一方的に攻撃している。諸君にこの光線級の排除を命じる」

 

 園田勢治少佐が組み立てた作戦は旧厳原港の確保をいったん諦めた上での、3個中隊による光線級吶喊である。

 

 まずFC-1から成る第12中隊“キマイラ・スラッシャーズ”が先発。

 光線級が布陣した碇隈山・松無山(ともに300m級)の北方に連なる、500m級の萱場山、竜良山、木樹山を盾にしながら下島西海岸へ進出してから陽動目的の攻撃に移り、光線級の直掩に就く要撃級、戦車級を引き剥がす。

 

 続いてJAS-39CBの第31中隊“サイウン・トルネーダーズ”、F/A-14Nの第22中隊“バトル・シスターズ”が、光線級から成る敵陣地の北東にそびえる宮ノ岳山の北側に進出。そこから水上艦隊に向けて照射を繰り返している光線級たちへ突撃をかけ、最初に碇隈山、次に松無山の順番で攻略を試みる。

 

 つまり第12中隊が西海岸で陽動にあたり、隙を衝いて第31中隊、第22中隊が東海岸から一気に勝負を決しにかかる格好だ。

 

「高地を占領した光線級の駆逐は困難極まる任務だ。しかしながら、それを知ってもなお私は命令を下す。現時点で1000名以上の死傷者が出ている。青いマーカーひとつに、300以上の人命が存在しているのだ。彼らを救うため、光線級吶喊を実施せよ」

 

(畜生、やってやるッ!)

 

 矢矧豪少尉は武者震いとともに、後方跳躍で眼前に迫る戦車級から距離を取ると、踵を返して指示された集結ポイントに向かった。

 死の臭いを感じ取りながらも、そこまで言われたら逃げられぬ。

 恐怖はない。あるのは高揚だけだ。

 

 計画通り、8機のFC-1は萱場山、竜良山、木樹山の北方を走る県道192号線を西進。

 西海岸を臨む旧厳原町豆酘瀬に達したところで一気に南へ転進した。

 

「来るぞ! 要撃級50ッ!」

 

 南海岸に居合わせた要撃級と戦車級の群れが、県道24号線に沿う形で山間(やまあい)を通り、FC-1の迎撃に向かう――そしてそのまま36mm機関砲弾の瀑布に晒される形となった。

 全滅したB小隊の代わりに前衛に立つのは、イツマデ3・村野欣也少尉とイツマデ4・牟田美紀少尉だ。

 森を薙ぎ倒しながら現れる要撃級が、次々と突っ伏したまま絶命していく。

 曳光弾が下草を焼き、その小火を踏みながら戦車級の群れが押し寄せる。

 次の瞬間、後衛小隊が放った120mmキャニスター弾が空中で炸裂し、数千個の鋼球が木々を射抜き、放棄された田園を叩き、土煙と血煙が巻き起こった。

 

「こちらサイウン1、位置についた」

「こちらシスター1、砲撃支援準備完了」

 

 要撃級や戦車級が山を下り、第12中隊に向かい始めたのを確認したあと、第22中隊・第31中隊は盾となる宮ノ岳山の北側に進出した。

 

 途端、ぱたりと艦砲射撃がやんだ。

 何も思わないまま、光線級たちは機械的にその瞳を海上に浮かぶ鋼鉄に向ける。

 その1秒後、甲高い発射音が鳴り響き、稜線上に陣取っていた光線級たちは一斉に北東の空を見た。

 

 大空を埋め尽くす炎、炎、炎。

 約300発の127mmロケット弾は稜線上の光線級が放ったレーザーによって次々と爆散し、山々を橙に照らし出し――数十発のロケット弾は碇隈山北側から山頂付近にて炸裂し、複数の光線級を森ごと削り取った。

 火を曳く弾片が降る中、宮ノ岳山北側から碇隈山に至る約4kmの距離を、10機のJAS-39CBが翔け抜ける。

 最先頭の矢矧豪少尉機と実方成也少尉機は火の雨の中を跳躍し、小柄な機体には不釣り合いなほどの出力を誇る噴射装置で、碇隈山の頂上を飛び越した。

 

「よう――クソ目玉どもッ!」

 

 碇隈山の斜面に直立していた重光線級が、迫るJAS-39CBを捉える。

 予備照射が始まった瞬間、実方成也少尉は右主腕部のブレードでその眼球を破裂させていた。

 その隣で矢矧豪少尉機は斜面を滑り落ちながら小型種を轢殺。

 慌てて彼は、主腕部のブレードを斜面に突き立てて滑落を止める。そうして体勢を立て直し、上体を起こすとともに背部ガンマウントを稼働させ、周囲の光線級を射殺してまわりはじめた。

 

「友軍誤射に注意しろ!」

「了解!」

 

 その数秒後、さらに中衛、後衛小隊が稜線を飛び越え、光線級たちに襲いかかる。

 急上昇、急降下。

 開発時に想定されていた主戦場である山がちなスウェーデンの地形と、この対馬の戦場はよく似通っている。

 

「長距離砲撃戦だ! 松無山の稜線を制圧するぞ!」

 

 一方、ロケットランチャーを投棄して身軽になったF/A-14Nボムキャットは、碇隈山の山頂付近に登りきると、内院浦を挟んで向こう側にある松無山目掛け、支援突撃砲の狙撃や120mmキャニスター弾による攻撃を開始した。

 

 彼我の距離は約2500m。

 近くはないが、有効射程外というほどの距離ではない。

 

 碇隈山の西側斜面・南側斜面で殺し回るJAS-39CBに向け、予備照射を開始した松無山東側の光線級、重光線級が次々と狙撃され、谷底へ転落していく。

 

「碇隈山周辺の光線級、全滅」

「サイウン7、サイウン8、内院浦を突破――松無山へ取りつきます!」

「サイウンアルファが松無山北側の尾根から攻撃を開始!」

 

 第92戦術機甲連隊の光線級吶喊をモニターしていたミサイル駆逐艦、主力戦艦のCICの下士官、士官たちは知らず知らずのうちに両こぶしを握り固めていた。

 

 もともと山地での遭遇戦に長けたJAS-39CB、そして長距離砲撃戦を得手とするF/A-14Nはこの日、200体近い光線級・重光線級を撃破――水上艦隊を窮地から救ってみせた。

 

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