【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■84.決闘がもたらすものは。

 

 氏家義教大尉が激昂とともに放った迷いなき一撃とともに制御を失った武御雷は、両主腕部を力なく垂らした。

 その2秒後、F-2A星青(せいしょう)は、機械油と血液で濡れた刃を引き抜いた。

 それから数歩引き下がって、再び正眼に長刀を構える。

 

 残心――。

 

 氏家義教大尉の心中に、いかなる後悔もない。

 彼が口にしたとおり、城内省も、武家も、斯衛軍も関係ない。

 この現代において武を以て無抵抗の少女を殺すなどという悪逆は許されない。

 ただそれだけだ。

 管制ユニットを刺し貫かれてもなお、第3世代戦術機・武御雷のバランサーは働き続け、ただ茫然と直立していた。

 

 その周囲でも、死闘の決着はつき始めている。

 

「六須賀大尉ッ!?」

「余所見をしている場合か?」

「くそったれ!」

 

 小隊長である六須賀大尉が絶命したことに動揺した賊の武御雷が、74式近接戦用長刀を横薙ぎに振るう。

 それをしゃがんで避ける櫻麻衣大尉機。

 刀身が頭上を通過していくのと同時にF-2A星青の右主脚部膝部装甲が展開し、65式近接戦用短刀の柄が突出――星青はそれを逆手で握りしめると、一気に斬り上げた。

 瞬間、武御雷の肩部装甲が純白の破片を散らす。

 のみならず、左主腕の付け根にあたる電磁伸縮炭素帯が断ち切られた。

 そして斬り上げられた逆手持ちの刃は、そこから“次”に繋がる。

 武御雷の搭乗衛士が1、2秒先の未来に思い至り、思わず声を上げる。

 

「しまっ――」

 

 武御雷の頭部ユニットに、65式近接戦用短刀の切っ先が叩きつけられる。

 頭部上面装甲が砕かれ、特徴的な睨み眼が割れる。

 そこから滅茶苦茶になった電装系がはみ出した。

 

 その横では眼前の敵に極限まで集中した井伊万里中尉が、武御雷と互角に斬り合っている。

 両主腕部から固定型ブレードを展開させた武御雷は、機体性能を活かした高速の斬撃を放つが、それを井伊万里中尉機は二刀の65式近接戦用短刀で防いでみせる。

 火花散る斬撃の応酬。

 

「もらったッ!」

 

 その最中、武御雷は意表を衝いた。

 第3世代が有する驚異的な姿勢制御は強引な一撃――斬撃を繰り出しながらの下段蹴りを容易く実現する。

 襲いかかる装甲ブレードエッジを有する武御雷の足趾。

 それはF-2A星青の足首を刈り、容易く破壊してしまった。

 

 途端に均衡を失い、崩れ落ちる井伊万里中尉機――。

 

 勝利を確信する武御雷の衛士。

 

 次の瞬間、その網膜に映ったのは巨大な拳だった。

 

「は?」

 

 握り固められたマニピュレーター。

 実戦では到底武器にはならないはずのそれが、武御雷の頭部ユニットに衝突する。

 滅茶苦茶である。マニピュレーターは砕けながらも無数の破片となって武御雷のセンサーカバーに突き刺さり、同時に主腕部先端の装甲板はそのセンサーカバーを破砕して内部構造に至る。

 

「どりるっ」

 

 凄まじい衝撃に武御雷が仰け反ったところを、長野ふゆ少尉機は伸びきった右拳を引き、両拳を腰だめに構えた。

 

「みるきぃ――」

 

 武御雷は、といえば、転倒を避けるための姿勢制御機能が作動し、自動で上体が引き戻されている。

 ……無防備なままに。

 同時に、長野ふゆ少尉は自機の左拳をアッパーの要領で放った。

 

「――ふぁんとむっ!」

 

 青い影を曳く打撃。

 流入する因果を乗せた幻の一撃は、相手の顎を捉えた。

 長野ふゆ少尉機の左マニピュレーターが砕けるとともに、千切れた武御雷の頭部が宙を舞い、首から下もまたふわりと宙に浮いてから、そのまま転倒する。

 それでもなお武御雷は肩口や指先のサブセンサーを使用して戦闘を継続しようとしたが、それよりも先に長野ふゆ少尉は主脚を振り下ろして、武御雷の手指や足首を破壊し、戦闘能力を奪い去っていた。

 

 そこから少し離れた場所では満身創痍の82式瑞鶴と、左主腕や腰部装甲を失ってもなお戦闘力を余している武御雷が斬り結んでいた。

 

「……」

 

 紅の82式瑞鶴を駆る衛士、その瞳には眼鏡越しに機体ステータスが投影されている。

 幾重にも渡る刃同士の激突に伴って発生する衝撃により、すでに関節部は限界をきたしつつあった。

 ゆえに彼女は自機と武御雷の位置関係、そして周囲の状況を確認した上で動いた。

 

 鳴り響く金属音、火花散らす刃。

 

 鍔迫り合いに移行――することなく瑞鶴は次には到底繋がらない体当たりを繰り出して押しやり、武御雷を数歩後退させた。

 74式近接戦用長刀の間合いから、僅かに離れたほどの距離。

 

「撃て」

 

 次の瞬間、瑞鶴と武御雷の剣戟を、固唾をのんで見守っていた警備兵たちが、一斉に動いた。

 演習場の外れの雑木林に潜んでいた機械化強化歩兵が、肩に担いだ対戦車火器――自爆車輌阻止用に持ちこんでいた84mm無反動砲を純白の戦術機に向ける。

 強烈なバックブラストが砂煙を巻き上げるとともに、数発の内、2発の多目的榴弾が武御雷の左主脚と跳躍装置を直撃。複合装甲を有しているとはいえ、戦車ほどの防御力をもたない戦術機にとっては、致命の一撃だ。大きくバランスを崩す武御雷。

 そこへ2、3秒遅れて飛来した91式携帯地対空誘導弾の弾頭が腰部背面装甲をぶち破り、その内部で炸裂し、武御雷から完全に戦闘力を奪い去った。

 

「決着はついたな」

 

 櫻麻衣大尉は眼前の武御雷の胸部ユニットと腰部ユニットの接合部を65式近接戦用短刀で刺し貫きながら、つまらなさそうに言った。

 その周囲では機械化装甲歩兵たちが12.7mm重機関銃を武御雷に向け、「武御雷の搭乗衛士は速やかに投降しろ!」と怒鳴りながら接近しつつあった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……」

 

 健軍基地にて急報を受けた西部方面司令官は、不機嫌を表に出すことなく沈思黙考した。

 人類の内輪もめについてはとうの昔に諦めた。

 が、日本帝国でさえ一枚岩になれないことについては、わかっていても苛立ちと歯がゆさを感じてしまう。

 

(無論、和を乱している俺がいえた口ではないが……)

 

 ところで武御雷、である。

 2000年2月から本格量産が予定されている武御雷の製造数については、被害が軽微で済んでいる九州一円の工業力を使えば、年産60機程度にまでなろう。

 それでも1年間で2個大隊の定数分を満たせるかどうか怪しいところではあったが、仮に九州地方が陥落していれば、年産30機が限界だったに違いない。

 

(……つまり1個中隊とその予備機程度ならば)

 

 今回の一件で、国防省・帝国軍は城内省・斯衛軍に対して大きな貸しをつくった。

 

 西部方面司令官の皮算用は、始まっている。

 

 

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