■本話登場人物紹介
【浦江滋雄(うらえ・しげお)】
少尉。第92戦術機甲連隊第11中隊所属。コールサインはゼノサイダ11。
ポジションは
【荒芝双葉(あらしば・ふたば)】
少尉。第92戦術機甲連隊第22中隊所属。コールサインはシスター3。
第32中隊の保科・若狭少尉とは着隊同期。明朗快活な性格をしているが、第22中隊の光州作戦参加が決まった際には動揺した。小型種の掃討に必要とはいえ、人々の営みがあったはずの市街地を吹き飛ばすことに抵抗を覚えていた。
【服部忠史(はっとりただし)】
大尉。第92戦術機甲連隊第12中隊長。コールサインはイツマデ1。
BETAには戦略眼・戦術眼があると考えている衛士。乱戦の中でも状況を判断する能力があるが、戦場で他人を慰めるまで余裕があるわけでもない(28話・41話)。何らかの事情で、戦死すれば八代基地の墓に入るであろうと確信している(43話)。
2000年1月、年始にもかかわらず八代基地に残留を強いられている衛士たちは、暇を持て余していた。
「荒芝ァ、貴様か。ここの8持ってるの」
浦江滋雄少尉は荒芝双葉少尉を睨んだ。
「も、もってませんって!」
先輩からの圧に荒芝双葉少尉は、慌てた。
テーブルに並べられたカードは、スペードの8から先が欠落していた。
いわゆる7並べ。
民生用電子機器の製造が絞られている現代において、衛士たちが興じる健全な娯楽といえば、カードゲームやボードゲームくらいしかない。
そして勝負師の鈴木と称された鈴木久実少尉が戦死した後、第92戦術機甲連隊では浦江滋雄少尉が発起人となって“鉄屑ゲーム部”が創部された。
名誉部長は鈴木久実少尉。
部長は浦江滋雄少尉である。
「こんな形でしかやつの名前は残せん」
というのが、彼の言であった。
「それから、パスです!」
荒芝双葉少尉が付け加えた言葉に、その隣に座る第21中隊のライター10・嬉野隆人少尉は疑惑の眼を向けた。演技ではあるまいか。スペードの8を持っているにもかかわらず、出さずに他者を締め上げているのではないか、と思ったのである。
「俺もパスですね」
「……」
第12中隊を率いる服部忠史大尉は、自身の手許にあるスペードの8を眺めながら、目の前のゲームとは関係のないことを考えていた。
(鈴木はBETAの新戦術にやられたようなものだ)
地形を活用して光線級を温存、また地中侵攻を駆使して積極的に高地へ光線級を進出させるという戦術がBETAの間で浸透すれば、人類はさらなる窮地に立たされることになるであろう。
帝国軍参謀本部は対馬で起こった事象は単なる偶然である、と表向きはしながらも、対策を講じないわけにはいかなかったようだ。
極端な話、佐渡島ハイヴから富士山に重光線級が進出した場合、それだけで関東一円は制圧されてしまう(勿論、富士山は火山であるため、容易く地中を行軍できるわけではないだろうが)。
3000m級の山岳に陣取った光線級に対して、地上部隊が攻撃を仕掛けるのは容易ではない。
そこで帝国政府は日本帝国航空宇宙軍に命じ、山地を速やかに攻撃できる軌道爆撃の強化を図っているらしい。すでに種子島宇宙基地は火力投射プラットホームの打ち上げで多忙を極めているようだ。
またこうした動きには、他ならぬ西部方面司令官もまたかかわっているらしい、と服部忠史大尉は聞いていた。
実際、そのとおりである。奇貨居くべし。西部方面司令官は最終決戦に向けた準備作戦“ん号作戦”のために、この状況を利用していた。
このように対馬島奪還作戦と異機種間演習の最中に発生した突発的なテロは、日本帝国に多大な影響を与え始めていた。
対馬島奪還作戦によって日本帝国航空宇宙軍がさらなる軌道爆撃の強化に向かうとともに、帝国海軍は従来の81式強襲歩行攻撃機海神のみならず、新たな陸上機・艦上機の導入・強化を真剣に検討している。
……第二次世界大戦後、日本帝国の艦隊整備は米国政府の干渉を受けてきた。
「日本帝国は大和型以上の主力戦艦を維持し、米国は大型空母を揃えることで、東側陣営を封じこめるための強力な連合海軍を東アジアに建設する」
といえば聞こえはいいが、要は費用対効果が(大型空母に比べると)低い主力戦艦を、日本帝国に押しつけるという代物だ。
ここで米国海軍はアイオワ級戦艦などを維持しているではないか、という擁護の声が上がるかもしれないが、BETA大戦勃発以降、アイオワ級戦艦等は国連統合海軍に貸し出され、維持・運用コストはすべて国連側が持ち出す形になっている。
要は全世界的なプレゼンスを重視する米国側は、主力戦艦よりも航空戦力の拡充に比重を置き、一方で日本帝国のプレゼンスが限定的になるように大型空母の保有を事実上禁じてきたのである。
が、日米安全保障条約が破棄されたということは、国連を介さない形での在日米軍との協力関係が失われただけではなく、米国政府の日本帝国に対する政治的影響力が薄れた、ということも意味している。
つまりいまや帝国海軍の航空母艦および艦上機の整備を禁じる不可視の力は存在しない、というわけだ。
故に帝国海軍は“第一歩”として陸上機・艦上機――それも第3世代戦術機の導入を検討し始めたのであった。
より影響が大きかったのは、F-2A星青と武御雷の異機種間模擬戦だ。
慌てて事態の収拾を図ろうとした城内省の機先を制したのは、当事者となった国防省と国内の治安維持を担う内務省であった。特に内務省の気合の入り方は尋常ではなく、三つ巴の縄張り争いが始まり、その結果として三省合同の取り調べが行われた。
現在のところ首謀者は六須賀築大尉であり、事前の阻止が難しいローンウルフ型のテロリズム、ということになっている。
が、問題はそこではない。
前述のとおり隣国・韓国では恭順派が勢力を伸張させており、日本国内でも社会不安を背景にして恭順派や陰謀論者が出現し始めている。
近い将来、内戦じみた重大事件が生起するとしてもおかしくない。
そしてそのとき彼我、戦術機や機械化歩兵装甲といった重装備が使用される可能性は十分にあった。
……なにせ徴兵対象と戦線の拡大に伴い、そうした武器を使いこなせる傷痍軍人や在郷軍人はいくらでもいるのだから。
こうした陰惨な未来を見据えた日本政府と、国防省関係者の一部が考えることといえば、対人戦において優位に戦える兵器の導入。
戦術機においてはつまりステルス性能を有するような代物であり、F-15J陽炎あるいは94式不知火にこれを採り入れることはできないか、という話が彼らの間で浮上してきた。
かくして2000年1月、満を持して第92戦術機甲連隊に運びこまれてきた第2.5世代・F-15E相当の戦術歩行戦闘機F-15JKは、配備とともに陳腐化した。
なにせ国連・プロミネンス計画の名の下、1999年下半期にはF-15を第3世代水準にまで安価にアップデートするというボーニング社のプロジェクト“フェニックス”が始動していた。
これが成功すれば2001年には、第2.5世代機のF-15JKよりも優れたF-15改修型が出現することとなる。
そのうえ日本帝国の一部では、より対人戦闘能力を有する戦術機が欲されているのだ。
第2.5世代機のF-15JKはあまりにも間の悪い戦術機となってしまっていた。