■本話登場人物紹介
【望野更沙(のぞみの・さらさ)】
少尉。第92戦術機甲連隊第23中隊所属。コールサインはプリズナー6。
大陸帰りの熟練衛士。92連隊の隊員たちを「家族」と呼ぶ。
第23中隊に辿り着いた理由は度重なる命令違反らしい。
【草水虹華(くさみず・こうは)】
中尉。第92戦術機甲連隊第33中隊の後衛小隊長(C小隊長)。コールサインはラビット9。
父が送ってくれた合成緑のたぬきをまずいと切り捨てたように(56話)、ストレートな物言いをする。
(やりづらい――)
日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊第23中隊のプリズナー5・秋田屋和男中尉は、眼前に迫る要撃級の動きを見切り、後方短噴射をかけた。
要撃級の前腕が空を切るとともに、F-15JKは放置車輌を踏み潰しながら着地する。
その着地点は、秋田屋和男中尉の感覚から若干ズレている。
しかしながら彼はその違和感をおくびにも出さず、流れるように要撃級を再照準し、その尾部感覚器と頭部にバースト射撃を叩きこんでいる。
(出力が大味だ)
悪いことではない。
しかしながら89式戦術歩行戦闘機“陽炎”の搭乗経験があり、その操作感に慣れ親しんだ彼からすれば、F-15JKはこちらの指示に対して敏感に反応し、かつ大出力で応える。
(これが米軍機寄り、というわけか)
秋田屋和男中尉は、斃れた要撃級の死骸を跳び越した虚空の要撃級を120mm砲の一撃で仕留め、さらに続く要撃級を機関砲で撃退する。
1970年代から90年代初頭の韓国政府は、自国がオリジナルハイヴと陸続きであり、国土防衛戦が早晩生じると見做し、時間を要する自国製戦術機開発を放棄、米軍仕様戦術機の大量導入を図った。
ゆえに韓国陸軍をメインカスタマーとして開発されたF-15JKは、どちらかといえば大出力の跳躍装置を積極利用するように設計されており、94式不知火との差異は当然のこととして、陽炎ともまた違った乗り味となっている。
が、第23中隊に所属する衛士の大部分は、さして問題にはしていない。
なにせ過去に問題を起こした関係で、実機教習は黄帯が塗られたF-4Jでこなし、第23中隊配属後は殲撃八型や元・州軍機のF-15AAに搭乗してきた衛士か、94式不知火で苛烈極まる本土防衛戦を生き残った戦巧者しかいないのだから。
「プリズナーブラボーッ! そっちに
「プリズナー1。こちらプリズナー5、了解。各機、教義どおりに引きつける必要はないぞ」
秋田屋和男中尉は手早く小隊機に指示を出すと、外壁が脱落したタワーマンションの向こう側から湧き出した要撃級に向け、連続射撃を開始した。
距離にして2500。
それでも直撃弾が続出する。
(さすがはストライクイーグル、といったところか)
94式不知火で姫路防衛戦に参加、壊乱状態の最前線で自らが率いる1個中隊を壊滅させた責任を背負った過去がある秋田屋和男中尉には、余裕があった。
重要なのは機体性能を熟知し、それを活かすこと。
長距離・中距離砲撃戦が得意なのならば、そうすればよいではないか。
秋田屋和男中尉が操るF-15JKは戦車級の死骸を踏み潰しながら前進し、奇跡的に生残している看板や信号機を折り曲げつつ、慎重に交差点へ進入する。
次の瞬間、彼は予備照射警報を耳にした。
「任せてくださいッ」
望野更沙少尉機が交差点の中央へ飛び出し、横転した乗用車――その背後から瞳を覗かせている光線級を砲撃した。
両断された乗用車の残骸が宙を舞い、その最中に体液が舞う。
飛び散った黄緑色の肉片は、雑居ビルの壁に叩きつけられた。
その様を電子の瞳を通して確認した望野更沙少尉は、口の端を歪めた。
(この射程の長さなら、誰でも守れる――)
直線的に視界が開ける交差点は、光線級を擁するBETA相手の市街戦ではひとつの難所となる。
望野更沙少尉は照準を調整し、今度は戦車級の大群の背後から顔を出したばかりの光線級を狙撃した。
交差点を渡りきった秋田屋和男中尉機はマンションの背後に機体の大部分を隠すと、外壁に沿わせた左指のセンサーで敵を捕捉し、右主腕部を出して戦車級の群れを掃射する。
「プリズナー1、こちらラビット1! 前に出すぎだ、追いつけない!」
「ラビット1、こちらプリズナー1。了解した! プリズナーチャーリーはラビット中隊を援護してやれ!」
電子的仮想空間の中で突出した第23中隊に追随しようと急いでいるのは、第33中隊のA-10Cだった。第2世代戦術機相当まで機動力を改善したA-10Cだが、F-15JKに比較すればその行動力は比べるまでもない。その上、大重量の203mm大口径連隊支援砲“屠龍”を携行しているのから、どうしようもなかった。
「これ、訓練の意味あります?」
第33中隊のラビット9・草水虹華中尉はJIVES筐体の中で、溜息まじりにそう言った。
第92戦術機甲連隊では現在さらなる連隊規模での戦闘力向上を目指し、中隊間の連携強化を図った仮想演習に力を入れている。
その手始めに行われたのがF-15JKを装備した第23中隊と、A-10Cの第33中隊による協同演習だったのだが――経過は芳しくない。
第23中隊も悪気があるわけではなく、敵を有利な位置で迎え撃つ、また前方の光線級を排除するために前進しているうちに第33中隊を置き去りにしてしまったのである。
◇◆◇
「太平洋の篤い友誼の顕現、F-2Aが卑劣なテロリズムを阻止し、日本帝国の窮地を救ったことは大変喜ばしいことです」
F-16を開発したゼネラルダイノミクス戦術機部門を買収したロックウィード・マーディンCEOはそのようなコメントを発表したが、帝国政府にとって純国産戦術機の最高峰ともいうべき武御雷が、F-16Cと94式不知火のクロスオーバー機に完膚なきまでに敗北したことは強い衝撃であった。
「いやこれは武御雷とF-2A星青の性能差によるものではなく、斯衛軍衛士と92連隊衛士の技量差による結果だ」
と一部の軍幹部たちは指摘し、国粋主義者もまたそれに同調したが、しかしながら大勢はF-2Aの存在を認めざるをえなかった。
F-2Aの登場とともに、ロックウィード・マーディン社から94式不知火の部品供給もスタートし、日本帝国本土防衛軍の台所事情は改善されていた。
これにより日本帝国本土防衛軍はF-2Aだけではなく、94式不知火の新造機配備が容易になっている。
前線部隊に近いポストにいる日本帝国本土防衛軍の幹部たちは、狂喜したといっていい。
なにせ日本帝国本土防衛軍中部方面隊の再建にも同機は必要であったし、東部方面隊、東北方面隊、北部方面隊は未だにF-4J撃震を主力としている戦術機甲連隊が少なくないのだ。
武御雷を下したことで一躍有名となったF-2Aはまず1個連隊定数分が発注され、北部方面隊に供給されることが決定した。
しかし人の欲というものは、良くも悪くも働くものだ。
日本帝国本土防衛軍は武御雷のカタログスペックに魅力を感じていたし、94式不知火のさらなるアップグレード機を欲していたし、F-2Aの高機動改修機も望んでいた。海軍は前述のとおり、艦上機に転用可能な陸上機を探し始めていた。
その上、彼らはステルス性能を有する戦術機さえ、導入を検討していた。
それを知った国内外の戦術機関連企業は、やはり一斉に動き出す。
第92戦術機甲連隊によって名を上げたF-2Aにほくほく顔のロックウィード・マーディン社戦術機部門は、しかしながら油断せずにF-2Aのアップグレード機を自社研究し始めている。
一方、F-2Aの活躍でF-15JKが霞んでしまったボーニング社の戦術機部門は、本国議会に限定的なステルス技術輸出を認めるようにロビー活動を開始し、F-15JKのさらなる上位互換機としてステルス形状を有するF-15を提案する準備を始めていた。
突如として浮上した帝国海軍の陸上機選定に向けては、各国企業が手を挙げた。
その急先鋒となったのは当然米国――ではない。
「アメリカの戦じつん機が好き勝手している現状に、俺はどちかといえば大反対」
日本語を操るフランス海軍大将モーリス・ブーロントスの電撃訪日。
「ラハぁルんが負けるという証拠を出せと言われても出せるわけがないという理屈で、最初からラハぁルんのF-18に対する勝率は100%」
帝国政府要人との会談冒頭、彼はそう言った。
意味がわからない、というのが帝国側の人間の感想だっただろう。
なにせ帝国海軍が求めているのは艦上機になり得る陸上機である。
フランス製第3世代戦術機ラファールは確かに優れた戦術機であろうが、海軍機ではないではないか。
「その、ラファールについてですが……」
「ラハぁルんの強さをフうソス人はわざわざ口で説明したりはしないからな」
「……」
「黄金の鉄の塊でできているラハぁルんが貧弱な第2世代のF-18に劣ることなんかありえないでしょ。ラハぁルんにはブレードがあるし、砲撃戦能力も優れている。これ以上の機体は一般的に考えるれないでしょう?」
「……」
「当然、我々フうソスはシャるるドんコうルにラハぁルんを搭載する計画を絶賛計画中だ。おまえらもこれに乗るといいと思うが?」
「……」
「1個中隊分、9ドルでいい。流石謙虚なフうソスは格が違った」
要はフランス側としては2001年に就役予定の航空母艦『シャルル・ド・ゴール』艦上機として、配備が始まったばかりのラファールを考えているらしく、話は思ったよりもデタラメではなかった。
将来始まるであろうラファールの輸出を見据えた販促、という狙いもあるだろう。
しかしながら日本帝国としても利がないわけではなかった。
(艦上機部隊新設を思えば、ラファールを導入した方が米国の横槍を防げるのは事実――)
が、冷静になってみれば、日本帝国には94式不知火があるのだから、こちらを艦上機に転用すればいいだけである……。