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戦術機の支援突撃砲ですが帝都燃ゆの山城上総少尉は13km先の光線級を狙撃で排除していました。優れた技量を有しているとはいえ学徒兵である彼女と82式瑞鶴の組み合わせでさえこれくらいの長距離砲撃戦が可能でしたので、中堅衛士と米軍仕様機の組み合わせなら10km以内の狙撃はもちろん可能、とさせていただきます。
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「まさかこんなところでタバコ吸えるとはね」
衛士強化装備のまま竹原晶大少尉は、ラキストに火を点けると、思い切りふかした。
同じく深川正貴少尉もまたわかばのパッケージを取り出した。
彼らの吐き出した煙は、米子の空に溶けていく。
「BETAどももタバコ休憩が必要ってわけだ」
出雲市から約50km離れた日本帝国本土防衛軍中部方面隊・米子基地。
その外れでは第92戦術機甲連隊第13中隊・第23中隊の喫煙者どもが、煙缶を使っていた。
彼らがこうしてのんびりしていられるのには、理由がある。
まず上陸した師団規模のBETAは出雲平野にてなぜか停滞しており、攻勢の兆しを一切見せていなかった。不可解、としか言いようがない。対する人類側はといえば、帝国軍参謀本部・国連太平洋方面第11軍司令部が協議を重ねており、今後の作戦方針が定まっていないらしかった。加えて日本政府・米国政府・国連間で何やら揉めごとが起きているようである。
「敵も味方もゆーちょーに何やってんだか」
馬上くらら少尉は右手を“くるくるぱー”と動かした。
竹原晶大少尉は苦笑し、深川正貴少尉は、
「BETAのタバコ休憩はすぐに終わるだろ」
と真面目くさった表情で言った。
BETAが出雲平野でずっと留まってくれているわけがない。にしても上層部は何をやっているのか。いまが連中を袋叩きにするチャンスではないか――。
苛立ちを覚える深川正貴少尉。
「深川少尉」
その彼に中肉中背の少女が話しかけた。
「BETAは喫煙を行うのですか」
「……」
サングラスをかけて鈍色の瞳を隠している十六良世少尉のことを、深川正貴少尉は苦手としていた。冗談があまり通じないのだ。冗談が通じないというよりは、一般的な常識に欠けるところがある。
「トーゼン、ジョーダンだって!」
馬上くらら少尉は面白がって笑った。
「BETAが何してるのか、何考えてんのかなんてわかんないよ!」
それは違うな、と深川正貴少尉は思った。
BETAの停滞は過去に事例がないわけではない。一衛士でしかない彼でさえ、思い当たる節はある。ひとつは避難民を殺戮して回るために、市街地等に留まったケース。そしてもうひとつは――。
(ハイヴの、建設)
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「ハイヴ建設の“可能性”――」
同時刻、市ヶ谷に再設置された帝国軍参謀本部の面々は憤激していた。
「その“可能性”だけで国連と米国の連中は、出雲に大量破壊兵器を使う、と!?」
国粋主義者の大伴中佐や自他ともに認める反国連主義者の土田大輔中佐は声を荒げたが、元・内閣参事官で現在は帝国軍参謀本部事務官を務める文官・端山堅固は動じずに「そうです」と言いきった。
「18時間以内に出雲平野のBETA群を海へ追い落とせなければ、国連宇宙総軍は戦術核あるいは新型爆弾による軌道爆撃を実施するとのことです」
「これは無茶苦茶ではないですか、端山事務官」
たまらずに将官である身の帝国軍参謀本部・作戦計画部長の永原新一郎少将でさえ声を上げた。
「BETA再侵攻の全貌が不透明であるから、内閣と国連の協議で質・量ともに予備部隊を確保した。その結果として出雲に着上陸した敵群に対して、積極的な攻勢をとれなかったのです。それでハイヴ建設の可能性があるから18時間以内に出雲を攻略せよ、できなければ大量破壊兵器で吹き飛ばす、というのは……」
憤懣をぐっとこらえての永原新一郎少将の言葉。
その心中を端山堅固事務官もわかっている。というよりも彼もまた同じ気持ちであった。半ば仕組まれているのではないかとも邪推してしまうほどだ。甲22号目標に引き続き、出雲に対して新型爆弾を用いることで、同兵器を独占している米国の優位性を確たるものにしたいのではないか、と。
が、端山堅固事務官は疑惑の明言を避け、かわりに彼がよく知る榊首相の擁護を口にした。
「これは私の想像ですが、これでも首相は粘ったのでしょう。明星作戦のやり口をみれば、米国は大出力の核弾頭、あるいは新型爆弾を即時投下していてもおかしくはなりません」
端山堅固事務官の言葉に、数名の参謀が「逆に榊首相は米国に通じているのではないか」と反駁したが、それを上座の参謀総長が手で制した。
「ここで端山事務官に言っても仕方がないこと。カナダを思えば我々には18時間という猶予が与えられている。全力を尽くすのみ、だ」
……。
かくして出雲平野のBETA群殲滅を目的とした出雲攻略作戦は始まった。
その第1段階、光線級の漸減を任されたのは、第92戦術機甲連隊第13中隊と第23中隊である。現在、出雲市内を占領したBETA群の数は2万程度。つまり一帯にいる重光線級・光線級は、200体前後と推測されていた。
(何機、生き残れるんだ)
星空の下、深川正貴少尉は無意識のうちに歯ぎしりをした。
頭ではわかっている。
勝算はあるのだ。
第13中隊・第23中隊は出雲市南部に連なる300m級の山地によって、吶喊開始直前まで物理的に照射を受けずにいられる。
また日本帝国連合艦隊は出雲市の北方に横たわる島根半島を盾として、AL弾と対BETA用榴散弾を備えた水上艦艇を集結させていた。攻撃直前に生じる重金属雲は、光線級の本照射を完全に無力化するであろう。
加えて出雲市内では戦車級以上のBETAが密集している。背の低い光線級は戦車級にさえ視線を遮られることがあり、また突撃級や要塞級によって重光線級の視界もまた狭くならざるをえない。
重光線級、光線級を大方叩き潰せば、連合艦隊の榴散弾や艦対地ミサイルによる攻撃が一方的に通るようになる。
また今回の作戦では大東亜連合が協力を申し出ており、光線級排除が確認され次第、戦術爆撃機隊による航空攻撃が行われることになっていた(大東亜連合軍はB-52のような戦略爆撃機を有していないかわりに、遠方からの照射を考慮した超低空攻撃、海底のBETAに向けて短魚雷を投下する雷撃が可能な戦術爆撃機を多く揃えている)。
しかしながら深川正貴少尉をはじめとする衛士たちは、やはり不安を抱かずにはいられなかった。
(だが、やるしかねえ――!)
戦意を、自分自身で駆り立てる。
(俺たちがやるしかねえ。俺たちができなきゃ、誰にもできねえんだ……!)
標高366mの仏経山。
その向こう側で砲声が轟く。
鋼鉄と閃光が大気裂く音が響き渡る。
眩い光の柱が天を衝く――それに比べて星々の光はなんと貧弱なことか。
仏経山の裏に集った戦術機のセンサーアイが放つ光はなんと小さいことか。
「鉄
氏家義教大尉は静かに口を開いた。
「いまや鉄
その数分後、CP将校からの指示が飛ぶ。
「往くぞ!」
漆黒の山影から、銀の刃を閃かせて決死の機影が飛び出した。
星の光を纏い、重金属の充満する大気を切り裂いて、MiG-29SEKがBETA群の真っ只中に斬りこむ。放置された水田と兵士級の群れを踏み潰しながら着地した佐久本翔中尉機は、迫る要撃級に連続射撃を浴びせると、短噴射で宙へ再度躍り出る。
彼だけではない。
第13中隊の前衛C小隊は短噴射で突撃級や戦車級の群れを跳び越し、跳び越しながら光学・熱源センサーで周囲を走査した。瞬く間に戦術機間のデータリンクで、光線級の現在地が共有される。
「佐久本さん、ありがと!」
続けて第13中隊中衛B小隊が、地表面滑走で奔る。
高速で突進してくる要撃級の合間を縫い、跳ねては要撃級の攻撃を躱す。湯川進中尉は歯を食いしばって次々と飛びこんでくる大型種を回避するその最中に、黄緑の色彩を見た。横跳びして飛びかかる戦車級を躱しながら、突撃砲を連射して2体の光線級を射殺する。
その頭上を跳び越した長野ふゆ少尉機は予備照射が通らない重金属の霧の中、光線級の眼前に降り立つとその両腕を振るう。
粉塵と血煙が、彼女の旋風に色をつけた。
殺到する戦車級さえも、彼女が操るMiG-29SEKを止めるには至らない。
「無茶苦茶ですって!」
浅石友季少尉は慌てながらも自分の仕事をしている。湯川進中尉機や長野ふゆ少尉機に追い縋るために急旋回する要撃級目掛け、36mm機関砲弾を雨霰とぶつけていく。遅れて姿を現した宇佐美誉大尉直卒のA小隊も同様だ。120mmキャニスター弾による面制圧と、支援突撃砲による狙撃が、B小隊・C小隊に向かう要撃級、戦車級を分断していく。
洋上のミサイル駆逐艦が放った艦対地誘導弾が稜線から姿を見せ、旧出雲基地周辺の重光線級と直掩の要撃級を吹き飛ばす。
煌々と輝く火焔と、煤煙。
それを見ながら、F-15JKの群れは周辺河川の堰や土手に張りついた。
「砲戦距離10000程度、当ててみせろ」
膝射や伏射姿勢をとった第23中隊機は、長距離砲撃戦に臨む。