【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■91.誰かの故郷だから!(後)

 

 第92戦術機甲連隊第13中隊のMiG-29SEKの出雲平野南部に対する斬りこみと、出雲平野北部への艦砲射撃。南北天地挟撃によって光線級・重光線級が混乱に陥る中、最前線を離れたところから見守るF-15JKの群れは、長距離砲撃戦を開始した。

 光線級が存在する一帯に無数の鋼球を降らせ、空を仰いで旋回する重光線級を狙撃する。

 砲撃支援(インパクト・ガード)のプリズナー9・塗伸哉中尉は、87式支援突撃砲で重光線級目掛けて精密射撃を実施する。

 36mm機関砲弾を弾き返すほどの強度を誇る眼球の表面は、狙わない。

 彼がトリガーを弾いた次の瞬間、レティクルに収まっていた重光線級の右大腿が弾けた。36mm弾が突入した薄桃色の表皮が破けて皮下組織と体液が四散し、そうして予備照射に移ろうとしていた重光線級の上体が揺らぐ。

 その0.5秒後、重光線級は右に傾いだまま転倒した。

 

「スプラッシュ・レーザーワン!」

 

 コンクリートの堰に機体の大部分を隠した望野更沙少尉は、120mm弾でこちらを向こうとしていた重光線級を射殺した。突撃支援砲ではない、ただの突撃砲による砲撃で、容易く9km先の重光線級の頭部を撃ち砕く。

 異常なまでの集中力。

 そして続けて望野更沙少尉は、重光線級よりも手前にいる光線級に照準を合わせた。

 その肩は、震えている。

 

「スプラッシュ・レーザーツー!」

 

 光線級が破裂するさまを見て、彼女は笑いを噛み殺していた。

 

(誤射だけはしないでくれよ――!)

 

 敵中、重光線級の脚を横薙ぎの斬撃で刈り、膝部のモーターブレードを眼球に押しつけてそれを破砕した湯川進中尉は、左右を見渡した。この間、背面を衝こうと突進してきた要撃級は、背面ガンマウントの自動砲撃を浴びて絶命している。

 戦場は混沌としていた。

 重金属を含んだレーザークラウドが次々に生じ、その下をF-15JKが放った砲弾が飛び交う。

 

「パッパ5、こちらパッパ1だ」

「パッパ1、こちらパッパ5!」

「小隊を率いて指示した要塞級を殺れ」

「パッパ5、了解!」

 

 混戦の外れで戦況図を使って戦場を俯瞰している宇佐美誉大尉の指示に、湯川進中尉は従った。人間性はともかく、彼女の指揮能力については信用がおける――それがいまの偽らざる心情だった。

 4機のMiG-29SEKは、二手に分かれて要塞級に突進する。

 片方は衝角を惹きつける囮、もう片方が本命。湯川進中尉機と浅石友季少尉機に向かって伸びる衝角――両機がそれを短噴射で躱すとともに長野ふゆ少尉機と植木陽一少尉機が、白刃を閃かせて斬りかかる。

 ごとりと落ちる要塞級の頭部。

 それを一瞥することもなく、MiG-29SEKは要撃級の前腕を軽快に躱して次の要塞級を殺しにかかる。

 

「照射警報――!」

 

 乱戦の中で奔る予備照射。

 警報に動じることもなく自動回避機能をオフにしている湯川進中尉たちは、要塞級の死骸を蹴って要撃級の只中へ跳び、彼らが反応する前に次の行動を起こしていく。

 普段の言動が奇天烈であっても西部方面司令官が選抜した最精鋭のひとりである長野ふゆ少尉は、飛びかかってくる戦車級を肩部カーボンブレードで合わせて惨殺し、要撃級の機先を制してその頭部に剣先を突き立てていた。

 それを跳び越した浅石友季少尉機と植木陽一少尉機は、前面にそびえる要塞級目掛け、両翼から120mm弾を叩きこむ。

 

「ここでボーナスッ!」

 

 浅石友季少尉は左主腕の突撃砲で駆けてくる要撃級を制し、右主腕の突撃砲で崩れ落ちた要塞級の胴部から生えてきた光線級を薙射して殺し尽くす。

 

「あと何体ですかね!?」

「こちらプリズナー1、あと30体ほどで俺たちの仕事は終わりだ!」

 

 気づけばBETAの群れの中に、氏家義教大尉の率いる第23中隊前衛A小隊もまた乱入していた。

 

(やはり俺はこちらの方が性に合っている)

 

 氏家義教大尉が駆るF-15JKは突撃砲を棄てての二刀揃えで、光線級を納めている可能性のある要塞級に斬りかかっていた。

 衝角の先端を急旋回で躱しつつ触手を叩き斬り、そのまま一気に要塞級の弱点まで翔け上る。ただ翔け上るだけではなく、斬撃を放ちながらだ。スーパーカーボンの刃が次々と生体装甲を削りとっていき、最後には最も軟な要塞級の頸部に至る。

 いま彼は後の先で敵を倒す瑤光(ようこう)一誠流ではなく、一撃で敵を粉砕する、あるいは流れるような連撃を放つ無現鬼道流の剣戟で、要塞級を絶命させていた。

 

 その周囲では3機のF-15JKが群れるBETAを圧倒している。

 遠近両戦、それがF-15JKの特長であった。

 米軍機は近接戦闘を想定していない、という風説はそこまで正しくない。G弾はハイヴ坑内から地表面へ第2次・第3次増援を引きずり出してから使用される。故に光線級の視線を切るためにもBETAとの乱戦は当然生起する。

 F-15JKは高い推力比を活かして戦場を駆け巡り、光線級を殺戮して回った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 第92戦術機甲連隊第13中隊・第23中隊の活躍によって重光線級・光線級がほとんど駆逐された出雲平野に、連合艦隊が榴散弾による連続射撃を実施。光線級全滅を確認するとともに、大東亜連合軍の爆撃機隊がその上空に姿を現したことで、出雲攻略作戦は成功――日本政府首脳陣以下、関係者たちはみな快哉を叫んだ。

 それと前後して日本帝国本土防衛軍西部方面隊・八代基地には、2個中隊分とその予備となる戦術機が運びこまれている。

 

「これが海軍仕様のラファール――」

 

 ガントリーに固定された戦術機を見上げながら、東敬一大佐は嘆息した。

 Rafale Marine Area Defender――ラファールMADはフランス海軍に配備予定の最新鋭戦術機である。艦上機といえば陸上機よりも制約が大きく、艦上運用のために性能が犠牲になっているイメージが強いが、ラファールMADについていえばそれは間違いとなる。

 1994年に試作機・試験機が完成、1998年に実戦配備が始まったラファールをさらにアップデートしたものがこのラファールMADであり、00年になってからようやく実戦配備が始まったEF-2000タイフーンよりも一歩先んじており、現行では欧州製最強の戦術機、と呼んでも差し支えない性能を誇っている。

 外見上の大きな特徴は肩口から主腕部、膝部から爪先に至るまでブレードエッジ装甲で覆われていることだ。そういったわけでラファールMADは、かなり鋭角的なフォルムにまとまっている。

 

「整備性は問題になりそうだが……」

 

 言い淀む東敬一大佐に、戦術機担当幹部の久野平太大尉は溜息もなく言い放った。

 

「ラファールMADはまだ常識的の範疇にある機体です」

 

 問題はもう1機種の方であった。

 

 ガントリーによって起立しているその戦術機の制式名称はA-10NTである。

 しかしながらA-10NTは配備済みのA-10Cとは趣を大きく違えている。

 まず角張っていた胸部ユニットや膝部装甲は内蔵されていた爆圧式戦槍を廃するとともに、スリムな鋭角状のそれに置き換わっており、肩部ユニット上部に装着されているドラム式弾倉もまた菱形に改良されていた。

 また塗装は電波を吸収する漆黒の塗装が為されている。

 つまるところステルス仕様のA-10、といったところであった。

 

「隠密性を高める再設計が為されているのに固定型ガトリング砲が備えられているのは、矛盾というほかないな」

 

 東敬一大佐は冷静にそう言った。

 その言は半分正しく、半分間違っている。

 確かにもとより大型機・大火力支援機であるA-10Cの隠密性を高めるなど、愚の骨頂である。いくら外装を設計し直してパッシブ・ステルス性能を付与したところで、その長大なガトリング砲ですべてが台無しだ。

 しかしながら、それでいいのだ。

 本来ならばこのA-10NTは実戦配備される予定のなかった、いわばパッシブ・ステルスの実証機――装甲厚をはじめとして設計的に削れる余地の大きいA-10をベースに、高いステルス性を有する外装を研究した機体なのである。

 それを急遽、第92戦術機甲連隊に送りこむために実戦化したのがこのA-10NTなのだった。

 

 しかしながらこの機体を装備することとなる第92戦術機甲連隊第33中隊の衛士たちにとって重要なのは、そのステルス性ではない。

 A-10NTはA-10Cよりも抜本的な軽量化を施されたことで、第2.5世代機と同様の戦闘機動が可能になっている。

 つまりA-10NTを使いこなせるようになれば、第33中隊は他中隊機を追随、より積極的に支援できるようになるのである。

 

 久野平太大尉もその整備性に目を瞑れば、A-10NTが強力な攻撃機であることを認めざるをえない。

 

「機動力が極限まで高められた攻撃機、ということでFナンバーも与えられています」

 

 ……F-117ナイトホーク。

 

 それがA-10NTの別名であった。

 

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