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「なんだ、あれ……」
日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊第32中隊のラファールMADが上敷香基地まで誘導してきた航空機然とした“何か”を見た誰もが、保科龍成少尉と同じ感想を口にした。
長大なる一対の翼を有する高翼機、といえばそれで終わりだが、ブーメランめいた漆黒の翼には複数の垂直ダクトファンが設けられており、垂直離着陸を意識していることが伝わってくる。
その巨大な主翼の下には胸部・腰部ユニットと主脚が備えられている。主腕もあるが、その先端にマニピュレーターが存在しない以上“腕”と言っていいのかは疑問――その長大なる鋼鉄の腕部に装備されているのは複数基のロケットランチャー。よく見れば全身には誘導弾の垂直発射装置が設けられているのがわかる。
――核決戦航空機動要塞Tu-119。
それがその異形の名称であった。
一時期、米国が月面戦争の戦況好転、またBETAの地球侵攻後はハイヴ攻略を目的とした“単艦制圧構想”の下、戦略航空機動要塞XG-70の開発を進めていたことは前述したとおりである。そして米国は実際に数機の試作機を完成させるに至った。
しかしながら、圧倒的火力で前線を一気に押し返し、押し返しながら単騎で敵策源地を打撃する、その構想に対して真に惹かれていたのは米国ではない。むしろ国内と周辺国に複数のハイヴ建設を許したソ連の方こそ、諜報員から単艦制圧構想と戦略航空機動要塞の存在を知り、これに魅了されたのである。
とはいえソ連には米国製戦略航空機動要塞XG-70を開発し得る先進技術も、G元素関連技術もなかった。最前線には無数のBETAが押し寄せ、後方では政治機能と工業設備の疎開で混乱が続く当時のソ連にそこへ割くリソースの余裕はほとんどない。
故にソ連は既存技術での航空機動要塞の開発に努めた。
G元素を使用するリアクターの代替として、航空機用原子炉を。
絶大な破壊力がある荷電粒子砲や電磁投射砲の代替として、戦術核砲弾を。
抗重力機関の代替として、ダクトファンによる垂直離陸能力を。
米国の航空機動要塞が重力偏向で光線級の攻撃を防ぎ切り、荷電粒子砲でハイヴを吹き飛ばすのであれば、ソ連の航空機動要塞は420mm戦術核迫撃砲や核弾頭を搭載したVLSで遠距離連続核投射を行い、戦域ごと光線級を吹き飛ばし、その後は分厚い装甲で放射能汚染をものともせずに前進。120mm戦術核無反動砲をはじめとする近距離戦闘用核兵器で向かってくるBETA群を焼き払い続け、ハイヴから湧き出し続ける個体を殺し尽くそうというのである。
故に核決戦航空機動要塞、というわけだ。
そして
ひとりはソ連の技術士官、残るは10代のようにみえる――衛士たちの遠目では、その誰もが同じ容貌にみえた――少女たち、である。
が、衛士たちはその素性を知ることはないし、詮索している余裕もなかった。
「本邦所属機の返還、ならびに搭乗者の即刻の引き渡しを求める」
ソ連側の動きは、迅速であった。整備不良が慢性化しつつある地対空レーダーとおざなりな対空警戒が原因で、亡命機の上敷香基地到達を許してしまった時点ですべてが次善の策となっているが、ともかく彼らはあらゆるチャンネルを使い、機体と搭乗者の返還を求めてきた。
一方の日本帝国側は、方針が定まらない。
現場では国防省・内務省・外務省の縄張り争い、あるいは責任の押し付け合いが始まっており、東京でも議論が起こっていた。
東京において最初に支配的となった意見は「機体も搭乗者もソ連に送り返す」という方針であった。隣国と事を荒立てたくはない。ソ連側の主張どおり、搭乗者たちを“卑劣な窃盗犯”として突き出してしまえば、それですべて解決するではないか。
が、議論はそう容易にはまとまらなかった。
“横浜”が待ったをかけたのである。
彼女らの興味は核決戦航空機動要塞Tu-119ではなく、その搭乗者にあるらしく、「機体返還はともかくとして搭乗者の送還は人道にもとる」と横槍を入れたのだった。
加えて米国政府や大東亜連合もまた、帝国政府と搭乗者の処遇について密約を結ぼうと接触を図ってきた。
――機体はともかく搭乗者の方は、政治的カードになるのか?
周囲の反応によって帝国政府側が揺らいだ。
当事者である彼らは搭乗者――オルタネイティヴ第4計画が接収し損ねた第3計画の産物、あるいは第4計画始動後にソ連内で開発・発展が推し進められてきた生体兵器――の価値を、周囲によって教えられたのである。
そこで議論はカードの切り方も含めて議題が増えた状態で、白紙に戻った。
この間、核決戦航空機動要塞は上敷香基地の片隅に露天係止されており、搭乗者もまた政府関係者とともに同基地におり、その状態で丸一日が経過しようとしていた。
「なぜ動かさない……」
第92戦術機甲連隊第21中隊の
弾道弾や戦略爆撃機による攻撃は国家間戦争に発展するが、特殊部隊を出して機体の爆破や搭乗者の拉致を実行するくらいならばそれは単なる国家間摩擦、国境紛争であって問題はない――それがソ連側の標準的思考だと、彼女は思っている。
……実際、そうなった。
日本帝国航空宇宙軍の監視衛星が、樺太島北部にあるソ連軍基地に新たに12機以上の“黒い戦術機”が配備されたのを確認したのが、亡命事件発生から36時間後のこと。一方でこの機影をレーダーサイトでは確認できなかったことから、帝国軍参謀本部はこれをソ連製ステルス戦術機であるとして、ソ連軍は示威行為、あるいはなにがしかの軍事行動に出ると判断した。
続けて国防省や情報省の電波情報分析部門が、ソ連軍による実力行使の可能性大と帝国軍参謀本部に報せてきている。
ソ連軍がステルス戦術機を保有していることは、驚くべきことではない。
なにせ98年時点で日本帝国も特殊作戦用としてステルス仕様の94式不知火を揃えているのだから。
かくして上敷香基地は、厳戒態勢となった。
ソ連特殊部隊の破壊工作に備えて過半数の戦術機は格納庫から野外にて臨戦態勢を採り、日本帝国本土防衛軍北部方面隊第88戦術機甲連隊はソ連租借地との境界線付近に哨戒網を構築した。
第92戦術機甲連隊もまたF-2Aから成る第21中隊、ラファールMADから成る第32中隊が上敷香基地にて邀撃戦に備えて待機している。
駿河野場語名大尉らは一連の事態に際してやるせない気持ちでいたが、思えばこうして外国軍と対峙することこそが軍事組織の本分であり、人類と戦争の長きにわたる歴史を思えば、対BETA戦の方が異常なのであろう。
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「レーダー照射警報ッ!」
「こっちもだ、ロックオンされた――!」
「畜生! こちらスプライト1、ソ連機が発砲! 反撃の許可を求む!」
冷寒の夜、発砲炎の光と曳光弾が奔る。
白い月の下、複数の照明弾が上がる。空中で瞬く赤い光、その下で1機の77式撃震が崩れた。飛来した120mm焼夷徹甲榴弾が増加装甲(盾)の外縁部に命中し、破片が撃震の装甲を叩いたと思いきや、2発目、3発目が主脚に直撃したのである。
「MiG-23です!」
「骨董品同士、やってやる!」
「こちらCP! 待て、事態が――!」
司令部の指示を聞いている暇はなかった。
続けて帝国側の戦陣目掛けて機関砲の掃射が始まっている。
が、すでに日本帝国本土防衛軍第88戦術機甲連隊の戦術機たちは、警戒の横隊を解いて2機ないし4機単位で散開。攻撃を躱して、自衛戦闘に移行していた。
「CP、こちらスプライト2だ。すでに……2機だ、2機やられてる! スプライト8、スプライト12だ!」
「こちらスプライト1! アルファ、ブラボーで敵前衛小隊を潰すッ!」
影を抱く漆黒の森を跳び越したMiG-23MLDの進行先に、77式撃震が飛び出した。
A小隊が敵前面、B小隊が敵側面から砲撃を開始する。
対するMiG-23MLDは空中で身を捩らせると、背面ガンマウントと両主腕部で保持した4門の突撃砲で複数方向に弾幕を張り、十字砲火を躱すためか、森と森の合間に急降下した。
「もらった――C小隊、撃ち下ろしてやれッ!」
後方で高度をとっていた撃震は、眼下のMiG-23MLDに突撃砲を指向する。
「レーダー警報――!」
「2時方向、ミサイル!」
が、彼らはトリガーを引くことが出来なかった。9km先のソ連側陣地から数発の短距離地対空ミサイルが、白煙を曳いて急速に迫ってきたからである。
「光線級と同じだ! 高度をとればやられるぞ!」
「CP! こちらポーラーベア1だ! 8機の戦術機が後方へ抜けていった。カラーリングは黒。レーダーには映っていない。エリアは……」
「突っこんでくるぞ、後続12機!」
9K330対空地両用ミサイルシステムの攻撃を躱し切れず、巨大な炎の塊となって地表へ降下していく1機の撃震。その下でMiG-23MLDが地表面滑走で駆け――その先頭の2機が36mm機関砲弾の
森林と森林の合間ではMiG-23MLDと撃震の予期しない近接戦闘が生起している。
慌てて突撃砲を投げ捨ててナイフシースを展開させるソ連軍機。
対照的に撃震は速やかに動いた。盾の下端を繰り出して、MiG-23MLDの主脚を打撃して転倒させる。そしてその胸部ユニットに機関砲弾を叩きこんでみせた。
「この混戦じゃミサイルも撃てねえだろ!」
「スノーマンブラボーは高度をとって上空から援護!」
「了解!」
「CP、こちらスプライト1。応答せよ。CP、こちらスプライト1、応答せよ」
「スプライト1、こちらスプライト4。データリンクが更新されません!」
「こちらポーラーベアだ。敵の電子攻撃をキャッチした――!」
「おい……!」
上昇して制圧射撃を開始した撃震の衛士たちは、遠方に砂煙を認めた。
「連中、戦車部隊まで繰り出してきやがった」