【完結】鉄屑戦記   作:河畑濤士

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■96.“小競り合い”。

 

「詳細不明の発砲事故をきっかけに、現在ソ連地上軍・帝国防衛軍の間で小競り合いが発生中。事態の収拾のため、国境警備軍に出動を命じた」

 

 というのが樺太島外の全世界に向けた、ソ連側の公式発表であった。

 

(“小競り合い”か)

 

 第92戦術機甲連隊第32中隊の指揮官、田所真一大尉は無感情のまま、人影が走る浜辺の直上へ数発の120mmキャニスター弾を撃ち出し、洋上に浮かぶ大型漁船に36mm機関砲弾を叩きこんだ。

 彼は警告の言葉を口にはしなかった。

 これは酷い混乱状態の中で起こった不幸な事故、予期しない小競り合いなのだ。

 ソ連側が第1世代・第2世代戦術機による攻撃を仕掛けつつ、本命のステルス機を送りこみ、また戦術機部隊の行動を囮として第2の本命である特殊部隊を上敷香基地に最も近い臨海部に隠密上陸させようなど、考えるはずがないではないか。

 

――高速飛翔体接近警報。

 

 浜辺に発射炎が瞬き、1発の赤外線地対空ミサイルが発射されたが、田所真一大尉機は自動でフレアをばら撒いて敵のシーカーを騙すことに成功した。慌てずに彼はラファールMADの優れたアビオニクスが発射炎を観測した地点――携帯型地対空ミサイルを構えていた特殊部隊員へ、36mm榴弾を連射する。

 

(光線級に比べれば、ぬるい)

 

 ラファールMADには、対戦術機戦を想定した近接防御モードもある。

 レーダーと突撃砲を保持する任意の主腕部を連携させることで、20mmバルカンファランクスと同様、自動で飛来するミサイルを迎撃できるのだ。海軍機として改良されたため、空対艦ミサイルや攻撃機に狙われた輸送船上で自衛戦闘に加入できるように改良されているのである。

 

 また第92戦術機甲連隊のラファールMADやF-2Aは、ソ連軍の電子攻撃を受けている樺太庁でもあっても、通信や部隊内データリンクに異常をきたすことがなかった。第88戦術機甲連隊に配備されている実戦仕様の97式吹雪も同様である。

 そのため第92戦術機甲連隊第21中隊や第32中隊は、上敷香基地の直掩部隊・機動予備部隊として温存されていた。消極的な作戦指導のようにも思えるかもしれないが、敵の狙いは機体か亡命者、あるいはその両方。敵の狙いがわかりきっているだけ、守りやすいといえた。

 

 F-2Aは避難が完了した基地周辺の市街地、その一角に潜んでいる。

 

(ここでF-16XLのFCSが活きるとは)

 

 第92戦術機甲連隊第21中隊前衛C小隊を率いる仕手功一中尉は、F-2Aのセンサー類が対戦術機モードになっていることを確認し、夜空を電子の瞳を通して見つめた。

 帝国製94式不知火と米国製F-16系列、双方の血筋を引くF-2A。

 そのアビオニクスは前述したとおり、対人戦闘を想定したF-16XLのそれが流用されている。F-2Aが備える対戦術機モードは、ステルス戦術機が跋扈する戦後で活躍するための機能として、敵機が発する赤外線を検知する高性能FLIR/IRSTを活用し、突撃砲の最大射程であればステルス機を捉えられるようになっていた。また光学的な機影捕捉能力も向上している。

 放出する赤外線の低減が徹底されているF-22相手では役に立たないかもしれないが、従来機の外装をいじった程度のステルス機であれば、何ら問題はない。

 

「来た」

 

 F-2Aの向日葵色のセンサーカバーが、淡く光った。

 電波をまったく出さないまま飛来する複数の機影が、夜空に浮かんでいる。

 

(“見られている”とはまったく思わない、か)

 

 このとき上敷香基地に急速接近していたのは、Su-27のステルス仕様機であった。同機の特徴的なブレードエッジ装甲は全て取り払われ、外装はステルス性を意識した鋭角的なものに変わっている。存在を隠すために、レーダーはおろか無線通信さえ行っていない。

 

 しかしながら対する第21中隊側もまた、レーダーも無線も封止したまま雑居ビルの影に隠れていた。自ら電波を発することが少ないステルス機は、パッシブセンサーが充実している可能性が高い。であるから初撃を加えるまで、驚くべきことに第21中隊機はハンドサインで連絡を取り合っていた。

 

 状況は駿河野場語名大尉機が、右主腕で保持した長刀を掲げるとともに一変する。

 

 火線が漆黒の戦術機を捉えた。先頭2機の装甲が弾け飛び、1機は空中で爆散。もう1機は被弾の衝撃でバランスを崩し、地表に叩きつけられた。残る10機のステルス機は、不意打ちを受けたことのショックと、周囲から丸見えの高度を飛んでいるという恐怖から、反射的に降下に移る。

 それが狙い目だった。

 対照的に仕手功一中尉ら前衛C小隊は軽々と上昇し、上空から120mmキャニスター弾と機関砲弾を撃ちかけ、瞬く間に3機を地表に縫いとめた。

 

「ライター1です。部隊内データリンクを回復させてください。続けて鶴翼陣(ウイング)です」

「ライターブラボー、了ー解っ!」

「ライターチャーリー、了解」

 

 敵が動揺から立ち直れていない間に、F-2Aは機敏に動いた。

 前衛C小隊は急降下して敵の頭を抑え、A小隊、B小隊はその側面から砲撃を開始する。

 激しい十字砲火。後退しようと足を止めた1機が、突撃砲の連射を横合いから浴びて崩れ落ちる。

 速度を殺せば射殺される――漆黒のSu-27は、進行方向の仕手功一中尉が率いる前衛小隊を突破するしかない。

 

「迎え撃て」

 

 躊躇せずに仕手功一中尉機は左主腕の突撃砲で敵を牽制しつつ、増加装甲を掲げながら突撃する。F-2Aが保持する大盾は複合装甲であり、加えて被弾経始もついている。迎撃の36mm機関砲弾を弾き返しながら、仕手功一中尉機はそのまま敵機に吶喊した。

 

 そのまま増加装甲で殴りかかるF-2A。

 それを急制動、紙一重で躱そうとするSu-27。

 

「甘い」

 

 その0.3秒後、増加装甲表面に装着されている爆発反応装甲が手動起爆した。

 本来ならば取りついた戦車級を排除するための機能だが、指向性爆薬を内蔵したそれは、対戦術機戦闘において装甲片を散弾として放つ近接武器となる。ショットガンじみて放たれた鋼鉄の霰は、Su-27の胸部装甲を叩き、頭部ユニットをズタズタに破壊した。

 

 頭部ユニットが大破したまま、脇をすり抜けていくSu-27。

 それを一瞥することもなく、仕手功一中尉機は素早く突撃砲を棄て、後続機――左主腕部に近接戦闘短刀を保持したSu-27を迎え撃つ。

 仕手功一中尉は膝部ナイフシースを急速展開させ、抜刀モードに移行させた。

 しかし、間に合わない。

 ナイフを逆手に握るSu-27の左主腕が振り上げられる。

 その刃先が振り下ろされる先にあるのは、仕手功一中尉機の胸部ユニット。

 

 それを仕手功一中尉は冷徹な瞳で見据えていた。

 掲げるのは、起爆によって半壊した増加装甲。その上端を敵の左主腕に噛ませ、刃が振り下ろされるのを防ぐ。と同時に、右主腕で近接戦闘短刀を膝部から引き抜きながらの斬り上げを放ち、敵胸部ユニットを破壊していた。

 

「大したこと、ないですね!」

 

 仕手功一中尉機に照準を合わせていたSu-27の肩部装甲が弾ける。虚空を舞う漆黒の装甲片。次の瞬間には腰部前面装甲が砕け、弾薬を収納する膝部ユニットが炎上し、胸部装甲を貫徹した36mm弾が炸裂。無残な姿となったステルス機は、背面へ転倒した。

 強襲前衛(ストライクバンガード)ライター10・荒倉恋少尉が操る2門の突撃砲は、次の標的を探し始める。

 

 が、すでにステルス機の編隊は壊滅状態に陥っていた。

 

◇◆◇

 

 ステルス仕様のSu-27による攻撃が失敗してから5時間後。

 日本帝国本土防衛軍北部方面隊第88戦術機甲連隊をはじめとする日本側の守備部隊は、事前に定められていた撤退ラインまで遅滞戦術を採りながら後退した。

 一方、ソ連側は先制攻撃から優勢に立っていたものの、その前進は緩慢なものとなった。

 それもそのはず。ソ連租借地から打って出たMiG-23MLDをはじめとする通常戦力は、あくまで陽動であり、本命の作戦が失敗した以上、彼らが南侵を継続する理由はない。また日本帝国本土防衛軍の抵抗を退けながら、上敷香基地にまで達するだけの能力もなかった。

 

 かくして樺太庁内における戦闘は、膠着を迎えた。

 

「このままやられっぱなしでたまるかよ」

 

 払暁の中、日本帝国本土防衛軍西部方面隊第92戦術機甲連隊第21中隊と第32中隊は、対戦術機部隊・機械化部隊装備に換装を終えている。

 

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