すみません。
原作知らない人でも大丈夫だとは思うのですが、ほとんど説明がありません。
時期的に中国から帰ってきた後の話となります。
―― チーム名 バスカービル ――
真っ暗な部屋。丸い窓が一つ。
男が一人いた。男は部屋そのものだった。
男は見ていた。丸い窓から外を――
その視線は揺れることなく無機質に、ただ一点を見つめていた。
やがて窓の下から上に移動するものがあらわれる。
最初にあらわれたのは黒髪の少年。後ろ頭をかきながらダルそうに歩いていった。
―― リーダー 遠山 キンジ ――
次に目にも鮮やかなピンクブロンドの少女が、少年を追うように小走りで窓の下からあらわれ上に消えていった。
―― サブリーダー 神崎・H・アリア ――
少し遅れて、躍るように落ち着きのない、茶色い髪の少女が窓の下からあらわれて右側へと消える。
―― 峰・理子 ――
そのあと少し間があって、長く艶やかな黒髪を揺らしながら、おしとやかに歩く少女が窓の下からあらわれて上に消える。
―― 星枷 白雪 ――
黒髪の少女からさらに遅れて、ゆるやかにウェーブがかかったショートカットの少女が窓の下からあらわれる。
少女はトコトコと歩き、窓のちょうど中央でピタリと立ち止る。
突然電池の切れたおもちゃのように。
すっと、振りかえって――少女のその目が――男を見た。
―― レキ ――
少女の無機質な瞳と硬質な視線が、男の視線とぶつかる。
男の瞳に少女の瞳が大写しになり、視線が男の瞳を射抜く。
そのまま男の眼底を砕き、頭蓋を貫通、脳しょうを散らせた。
派手な赤い花束を差し出すかのように。
「ぶはっ!」
男は盛大に息を吐き出すと、狙撃銃のスコープから引き剥がすようにその浅黒い顔を離す。
そのままの勢いで身体を起こし、尻もちをつくような姿勢でコンクリートの床に座った。
勢い余って後ろに転がりそうになるのをなんとか耐える。
――何かしたらそうなります――
少女が放った冷徹な視線の殺意――それは視線の狙撃――そして警告。
寒い季節、冷たい風の吹く狙撃科 専門練の屋上。汗など出ようはずもない環境。
息づかいは荒く、額に浮かぶ玉のような汗が頬をつたって流れ落ちる。手の震えが止まらないのは、決して寒いからではなかった。
「冗談やない…今、死んどったで俺。」
ようやく息が落ち着いた頃、急激に現実感が戻り、思い出したように骨と筋肉が悲鳴を上げた。
かれこれ数時間同じ姿勢をしていたので身体がすっかり固まっていた。
(狙撃はしんどい)
男はコキコキと身体を鳴らしながら、さきほどまで狙撃銃のスコープで見ていた方角を見る。
コメ粒よりも小さな点らしきものがなんとか見える。距離おおよそ1700m。
視力の良い男の肉眼でも誰が誰だかなんてわからない、わかるわけがない。
「この距離で目を合わせるとか、あり得へんて…。ホンマ化けもんやなあ、お姫様は。」
呆れ気味の独り言。男はため息まじりにつぶやいた。
(下手すると、ありゃバレとるかもなあ。)
男は少し思案するが、途中でどうでもよくなって考えるのをやめた。
「まっええかぁ、時間あるしな」
両手を頭上に上げて伸びをすると、そのままゴロンと仰向けに寝転がる。
コンクリートの床が少し痛かったが、固まった身体には気持ち良かった。
「おー…ええ天気やな」
男の視線の先に広がる空は重い灰色で塗り固められた寒い空。一般的な”良い天気”である青空はひとかけらもない。
要は気持ちの問題。
(何はともあれ、続きは修学旅行IIのあと。)
男の浅黒い顔に笑顔が浮かぶ。どこか不敵な何かを企むような笑顔が。
12月初旬、曇天、狙撃科 専門練の屋上。北東の風。気温一桁。
「うぉ!さぶぅっ!」
風が吹き、男に冷気の塊叩きつけた。
男はズズッっと鼻をすすると、身支度を整えて屋上から去って行った。