緋弾のアリア -黒砂ー   作:silentr

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10.装填

 

 アリアは土佐に近づけなかった。

 

 背中に当てられた一発の弾丸。そして得体の知れない攻撃。それらが、アリアの中の警戒心を膨らませていた。

 

 まだズキズキと背中が痛む。それでもいくぶんマシになった。

 

 早撃ちと曲撃ち。土佐はアリアが想像してた以上の難敵で強敵だった。

 狙撃に関しては、今一つはっきりしていなかったが、土佐の銃口がぶれることなくピタリとアリアに照準を合わせるのを見て、その正確さに現れていると捉えた。

 

 アリア自身も理子、ジャンヌ、ブラドー、パトラとイ・ウーとの戦いを経験してきている。その中で土佐は能力的に比較するならば、誰よりもふつうかもしれない。

 しかし、特に派手な能力を持たずに、己の才能と経験・能力で闘う土佐は、堅実かつ確実で、現実的な意味で手強いとアリアは思った。

 

 最初にアリアが一発食らってから何度か撃ち合ってはいるものの、距離がありすぎて当たる気配がない。

 

 お互い遠くから撃ったところで、撃つ前に弾道を予測して避けてしまうからだ。どちらかが余程油断でもしない限り、遠くから攻撃しあっても進展がない。

 

 やはり、接近戦で畳みかけるしか――。

 

 二刀の刀、二丁の拳銃を組み合わせてのアル=カタ戦――接近戦を得意とするアリア。なんとか接近戦に持ち込みたかった。

 

 相手の隙を伺うように、銃撃と移動を繰り返す。

 結果として、土佐を中心にぐるぐるとその周囲を走るアリア。

 

 土佐は動かない。場を支配しているのは土佐。それはアリアも理解していた。まるで、自分が相手の死を待つ野生動物になったよう。

 

 よくない流れ。

 

 アリアは素早く弾倉を入れ替えて再装填。

 

 地面を蹴って飛び出す。先ほどから何度目だろうか。

 

 土佐の右正面。真っ直ぐ突進。おそらく相手の一番やりやすい位置。だからこそ油断をする。油断を誘うために走り込む。アリアが地面を蹴るたびに砂煙が立ち上がった。

 

 土佐の右手の拳銃がアリアに向けられる。

 

 やはり早い。集中していれば見えないほどではないが、ほとんど認識ができない。照準も正確一発でピタリと決めてくる。気を抜けば間違いなく撃たれる。

 しかし、逆に予測しやすい。アリアは土佐の銃口から弾道を予測する。

 

 土佐の指が引き金を――

 

 反応して身体をずらすアリア。

 

 ――引いた――パァン――銃が火を噴く――キュン――風切る音。

 

 アリアの横をかするように弾丸が通り過ぎた。

 

 6発目――右側の拳銃弾切れ、左側の拳銃残弾1。

 

 アリアは一気に土佐へと突っ込む。だが、土佐は右手に残る拳銃の撃鉄を親指で上げて、その銃口を何事もなかったようにアリアに向ける。

 

 一瞬の判断。経験が告げる脳裏の警告。

 

 土佐がアリアに銃口を向けた瞬間”何かが間違っている”と、”全力で避けろ”と何かがアリアに命令した。

 

 アリアは身体を無理矢理に動かして銃口から逃げる。骨が軋み、内蔵が捻れ、筋肉がミチミチと嫌な音を立てた。

 

 その直後――パァン――弾丸の直線がアリアの腕の近くに引かれる。

 

 

 (どういうこと?)

 

 

 土佐のリボルバー式の拳銃は6連装のはず、右手の拳銃は弾が切れていた、その後弾を込めた様子もない。なんで弾を込めずにそれ以上撃てるの?

 

 不用意に近づくのは危険。足を止めずに再び距離を置くアリア。

 

 「あー…神崎」

 

 あいかわらず嫌な笑い顔の土佐。見る度に腹を立ててる気がした。このあたり、武藤のほうが爽やかさがあっていい男かも。ちょっと暑苦しいけど。

 

 「なによ?」アリアが足を止めて返事をする。

 「お前、残弾数、数えてるやろ?」

 「だったらなに?」読まれていたが、それがどうした。それぐらい誰でもやる。

 

 「無駄やからやめとき」

 

 何を言っているの?そういう顔で土佐を見るアリア。

 

 土佐はアリアに見せつけるように手の平に銃弾を置く。そして、グっと握って、再び開く。銃弾は消えていた。

 

 そのまま手の甲をアリアに見せるように顔のところまで持ち上げて、手首を回して手の平を見せる。指と指の間に銃弾が挟まっていた。

 

 さらに、そのまま拳を握ると銃弾は消える。

 

 「手品?」

 「つまりや」

 

 そういって、拳銃を一つだけ右手に持ち、弾倉から弾丸を全部抜くと、アリアに見せつける。

 切ったレンコンのような弾倉”タネも仕掛けもありません”そう言いたげに。

 

 土佐はそのまま弾倉を元に戻し撃鉄をあげる。そして地面にむけて引き金を引いた。

 

 パァン

 

 弾のないはずの拳銃から弾が出て地面と穿ち、砂埃があがる。

 

 「なるほど、そういうことね」憎々しげに土佐を見据えるアリア。

 「そういうこっちゃ」土佐は涼しげな表情で見下ろしていた。

 

 土佐は手品の手法を使って銃に弾を入れていたのだ。

 

 さっきから気になっていたが、どおりでやたらと銃をホルスターに納めて抜き打ちするわけだ。あれは手を自由に使えるようにするためか。

 

 毎回6発入れているとは限らないから、残弾数を数えても意味がない。

 

 本当の意味で持っている弾丸が尽きるまで、残弾0にはならないと考えるのがたぶん正解だろう。

 

 これで残弾を数えて隙を突く手は使えなくなった。

 

 リボルバー式拳銃なんて持ち出してくるから、特殊弾やマグナム弾でも使うかと思ったら、全然そんな気配はない。暴発を起こしやすいのと、手品がやりやすい――要は使い慣れているのだろう。

 もっとも、マグナム弾なんて使われたら最初の一発で病院送りで終わっていたけど。

 

 あの黒いグローブもやけに厚いと思ったら、熱くなった空薬莢を取り出すためのもの。あんな動きにくいものつけて、よく手品なんてできる。

 

 結局、必要があってあの装備ということね――全部土佐の戦術に最適だから使っている。まあ、帽子とブーツはさすがにおまけっぽいけど。

 

 ヘラヘラ笑ってる癖に計算高くて抜けの目ない――つくづく大道芸人、いけ好かないヤツ。

 

 

 「あんた、サーカスにでも入ったら?」

 「ああ、そのつもりやで」

 

 

 嫌みが通じないやつ――ふざけてる――ますます腹が立った。

 

 

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