やけに背中が寂しい。スースーする。
なんでだろう?
そんなのわかってる。アイツがいないからだ。
いてほしいときにいない――バカキンジ。
まったく役立たず。
ただの八つ当たりなのはわかっていたが、なんか腹が立つ。
アリアは動き回る。土佐はその場を動かない。最低限の動きしかしない。
相変わらず場を支配しているのは土佐。
食われている――アリアはそう思った。
土佐の異質な気配と迫力がアリアを支配する。
動き回っているときは「曲撃ち」をしてこない。それは当たり前かもしれない、動き回われば普通に当てにくいから。
それにあの技は銃を投げてしまう。外してしまうと一気に戦力が落ちる。先ほどのような不意打ちならまだしも、当たる確率が低いときにやるのはリスクが高い。
アリアは「ふっ!」と何かを決意するように息を一度強く吐き出し、地面を蹴った。
走る。アリアのあとを追うように砂煙が上がる。走る。土佐の左正面に向かって走る。
アリアが突進してくるのを見て、土佐が左手の銃を投げた。
――曲撃ち?なんでこのタイミング?
そう思いながら、銃の落ちる場所と弾道を予想してコースから外れようとするアリア。土佐の手に残った拳銃を警戒する。さきほどは手元に残った拳銃で誘導された。
しかし、投げられた銃の軌道は、さきほどのようにアリアの背後ではなく大きくアリアの右横に逸れていた。そして、アリアを狙い誘導するはずの右手に残った銃が、まったくアリアとは違うところを狙う。
その狙い――
土佐が引き金を引いた。
しまった――アリアの脳裏を駆け抜ける反応――乾いた銃声――弾丸の感触――同時。
土佐は、銃を投げ地面に落として暴発――撃つのではなく、投げた銃を銃で撃ち、暴発させて弾丸を放ったのだ。
さっき砂の煙幕の中でやったのは――
右肩の後ろ辺りに弾丸が食い込む。アリアは横から殴られたように跳び、地面にたたきつけられて転がる。
これか――
もうもうと砂煙が舞い上がる。
弾丸は背中に納めてある刀をかする。おかけで、わずかに威力が落ちたが激痛。さっきよりマシだけど。痛い。
弾丸を跳ね返らせる跳弾ならば弾の威力も落ちようが、暴発で撃ってくるのでは威力は普通に撃つのと同じ。
アリアは横倒しになったままで思い切り顔をしかめる。目の前が明滅してチカチカする。体中から嫌な汗が流れ出す。唇を強く噛み痛みに耐える。口の中に鉄の味が広がった。
チクショウ、チクショウ、イタイ、チクショウ、イタイイタイ。
頭の中に土佐のニヤケ顔が浮かんでは消える。激痛に耐えるたびに、土佐への怒りが膨らむ。
「ガァアアアアッ!」
アリアは獣のように吼える。ダン!と足を踏み込んで力任せに無理矢理立ち上がる。乾いた土で彩られた前髪がほつれて顔に垂れた。暗い陰のあるやたらとギラついた赤い瞳に土佐が映る。
肩を上下に動かしゼイゼイと荒い息を吐き出す。半開きの口から、涎がポタリと地面に落ちて、黒い点を作った。
「トサアアアアアアアアアアアアッ!」
突進。アリアの叫びに痛みと怒りが混ざって身体中を駆けめぐる。
土佐がニヤリ笑った。
アリアの怒りがさらにブワリと一気に膨らむ。目の前が赤く染まる。頭の中まで、その思考までが赤で染まる。
二丁の拳銃を土佐に向かって突き出し。引き金を引く。
ガガッ!ガガン!
まるで相手にするのがバカバカしいと言いたげに、土佐は帽子を手で押さえながらそれをスルスルと避ける。
ガ!ガン!ガキン!ガキン!
――弾切れ?――
銃が弾切れの悲鳴を上げる。アリアの目が驚きで大きく開かれる。
残弾数を意識するのをいつの間にか忘れていた。頭の中を怒りで埋め尽くされ、正常な判断を忘れていた。そんな初歩的なことにさえ気づかないぐらい。
自分に呆然とした。
その赤紫色の瞳に、ニヤニヤと笑う土佐が映る。
土佐は持っていた拳銃を投げる。右と左、両方の拳銃を。拳銃が手を放れてクルクルと宙を舞う。
――うそ?
その一瞬でアリアは血の気が引いた。
――待って、うそでしょ?
クルクルと空中を回る拳銃を見て一瞬で理解した。土佐がなにをしようとしてるかを。
そして、その理解は正しかった。
土佐は二丁の拳銃を投げたはずなのに、その両手には拳銃が握りしめられていた。その場に4丁の拳銃が存在していた。アリアの頭の中に、土佐の手の中で銃弾が消えたり現れたりした光景がよみがえる。
――手品?
拳銃がアリアの視界から消える。
――ちくしょう!この大道芸人が!――
パパパパァン
4発の銃声が連続で響いた。2発の弾丸が空中で舞う拳銃を弾き、暴発を誘う。そして2発の弾丸がアリアの背中を襲った。
最初に撃たれたときのように――背中に直撃。
しかし、あのときとは比較にならないぐらいの勢いで背中を押される。乾いた地面に顔から突っ込み、砂を食んだ。そして、そのまま引きずられるように転がる。
ぶわっと砂煙が上がり、アリアの姿を隠す。
「ガッ!アァァ」
苦痛を和らげようと必死で背を反らす。痛いなんて言葉じゃ足りない、とてもあらわせないぐらいの激痛。息ができない。吐きそうだったが、吐くこともできない。もぞもぞと動きのたうち回る。しかし、のたうち回るのも苦痛。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
苦痛だけ。それだけがアリアの脳を埋め尽くし、ぐちゃぐちゃとかき混ぜる。
「ええ加減やめたほうえんちゃう?神崎」
投げた2丁の拳銃を拾って、4丁の拳銃を両手でジャグリングしながら土佐は聞く。
背中を反らしたまま動かないアリア。その耳に土佐の声は届いていなかった。
イタイ、キンジ、イタイ、キンジ、キンジ、キンジ、イタイ、イタイ
痛みに苦しみながら、アリアはキンジを求めていた。
いつもなら、自分の背中にいるはずの彼を求めていた。
いつもなら、背中を守ってくれる彼を求めていた。
ナンデイナイノ?ナンデイナイノ?ナンデ?キンジ?ナンデ?
何で?を繰り返す。
キンジを繰り返す。
答えるものはいない。
ネエ、ナンデダレモイナイノ?
嫌悪感――無力感――孤独感――悲壮感――
そんな負のイメージがアリアの中で荒れ狂う。
そして
――イタイ――コンナノムリ――ダヨ――アタシ――
敗北感。