緋弾のアリア -黒砂ー   作:silentr

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15.終撃

 

 ――相打ち――

 

 

 「ギャン!」「ググッ!」

 

 

 ――相打ち――

 

 

 「ガッ!」「ゴッ!」

 

 

 ――相打ち――

 

 

 「ムガッ!」「アズッ!」

 

 

 そんなに数は無いはずだが、それでもわからない何度目かの相打ち。

 何度も相打ち、何度も転げ回る。そして何度も――立ち上がる。

 

 泥沼状態。

 

 二人とも痛みが無いわけではなかったが、ボクサーが試合中ほとんど痛みを感じていない状態と一緒だった。脳内麻薬の分泌ではじめたころのほどは痛みを感じなくなっていた。それでも体力は減る一方で満身創痍。

 

 あーもうやだ。もう面倒。いい加減疲れた。口の中気持ち悪い。シャワー浴びたい。ももまん食べたい。

 

 これもう、あれよ。そうあれ。なんだっけ?

 

 ああ、そう。イジメよ。イジメ。

 

 「いい加減…しつこいのよ、あんた」

 

 披露困憊、息も切れ切れアリアが言った。

 

 「そっちこそ、さっさと…くたばらんか…このチビすけが。」

 

 土佐も状況はあまり変わらない、かなり疲れている。

 

 「あんた、レキに付きまとってるそうじゃない。あんまりしつこいと、嫌われるわよ…」

 

 アリアの言葉で土佐の動きが止まる。なんだか細かく震えている。

 突いてはいけないところを突いたらしい。

 

 「神崎ぃ…レキちゃん全然口利いてくれへんの…どしたらええ…?」

 「泣くんじゃないわよ、ウザいわね…」さすがに疲れて面倒なので相手にしないアリア。

 

 アリアはすでに理解していた。何故、母親の冤罪を餌にして、この男が決闘を申し込んだのか。

 

 (まったく…やってられないわ)

 

 なぜなら、土佐の背後に見えたから。アリアがもっとも尊敬する彼が。

 推理と謀(はかりごと)が得意な彼が――

 

 ホームズ一世の姿が。

 

 その姿は、子供っぽい笑顔を浮かべると静かに消えていった。

 

 (毎度毎度…口で言って欲しいわ…ほんと)

 

 もしかしたら幻覚かもしれない。

 しかし、アリアの直感がそれを正解だと告げていた。

 それに、そうだとするとあまりにも簡単に納得ができてしまうのだ。

 

 アリアやキンジが、イ・ウーを解散に追い込んだことによる怨恨が土佐 にあるのであれば、それは主にアリアでなくキンジに向けられる。

 アリアは後継者として選ばれ、それを邪魔して解散まで追い込んだのはキンジだからだ。

 それに怨恨ならば決闘する意味がない、直接襲ってくればいい。

 

 (まあ、でも、わかったわ。ありがとう。)

 

 かつて、ホームズ一世はイ・ウーを使ってアリアとキンジの二人を引き合わせ、急激な成長を促すために敵を送り込んだ。結局これはその続き。

 

 ただ、”強さ”と言っても色々ある。これはおそらく精神的な強さや絆の強さを鍛えようとするものだろう。でなければ、キンジとアリア引き離すことに意味がないのだから。

 

 (じゃあ、さっさと終わらせましょうか)

 

 アリアは体力が限界近いのがわかっていた。

 

 視界がぼやけてあやしい。銃が重いのか、腕が重いのかわからないが、とにかく重い。足も鉄か何かで出来ているのかと思うほど重い。

 

 あと1回ぐらいがたぶん限度だろう。

 

 神経を尖らせて、土佐を見つめる。土佐にその雰囲気が伝わったのか、その顔から表情が消えた。

 

 アリアはホルスターから銃を抜き。構える。

 土佐も構えて迎撃する体制。そして、二人の思考が重なる。

 

 ――行く!――来る!――

 

 ガン!地面を蹴り走りだすアリア。砂を蹴り上げ、弾丸のように一直線に疾走する。土佐の左側めがけて。

 

 さて――

 

 土佐の左手の中指がわずかに曲がる。それを確認したアリアはかまわずにさらに突っ込むように走る。すっかり砂埃にまみれたツインテールが尾を引く。

 

 餌に――

 

 土佐の左手が動く。一瞬手が消える。そして銃が構えられる。銃口がアリアを狙っていた。

 アリアは身体を動かす。ほんのわずか右肩が前に出るように。

 

 そして――パァン――銃声。

 

 かかった!――

 

 アリアの右肩に命中。肩が思いっきり後ろに引っ張られる。右手の銃が手を放れて後ろに飛んだ。

 激痛で脳がしびれる。アリアは歯を食いしばり、もつれそうになる足を無理矢理前に動かす。身体がねじれ仰向けになって空中を舞う。背中から地面に叩きつけられて、ザリザリ音を立て滑る。

 服がめくれ上がって背中を擦る。痛い。目の前がチカチカする。唇を強く噛む、ぬるい血の感触と鉄の味が広がる。飛びそうな意識を必死につなぎ止める。

 

 そして――左腕を上げて銃を構えた。

 

 仰向けに寝ころんだアリアの目の前に――土佐の左腕。

 

 土佐が見おろしていた。アリアと目があった。土佐の目が驚愕に大きく見開かれていくのが見えた。アリアは自分の意図を土佐が理解したのがわかった。「くそったれ!」そんな言葉が聞こえてきそうだった。

 

 (気づくの遅いよ)

 

 アリアはまっすぐに延ばした左腕――その先の銃の引き金を引いた。

 

 ガン!――銃声。

 

 土佐の左腕が跳ね上がった。左手の銃が手を放れて宙を舞うのが見えた。伸びきった土佐の腕。それがアリアの狙い。アリアは、その腕に狙いを定めてもう一度引き金を引く。

 

 狙い――二の腕。肩の付け根あたり。

 

 ガン!2発目で土佐の身体がわずかに浮いた。そして、そのまま地面にドサリと倒れる。

 

 砂煙が舞い上がる。

 

 煙る仮の荒野に仰向けに寝ころぶアリア。

 

 静かだった。

 

 アリアの耳には自分の息づかいだけが聞こえていた。

 

 しばらく仰向けのままでアリアは動かなかった。いや動けなかった。

 体力がほとんどなくて動かすのが面倒になっていた。それでもアリアは一度体を横に倒し、起きあがろうとする。

 

 弾丸の当たった右肩が痛んだ。腕はしびれて感覚がなかった。しばらく動きそうもない。なんとか左腕で体を起こそうとするが、左腕にもうまく力が入らない。足もガクガクと震えた。

 

 なんとか、ひざを突いた体制にまで体を起こすと、倒れていた土佐がのそりと動いた。

 

 「神崎ぃ…やってくれたなぁ」

 

 ――ズゾゾッ!

 

 アリアの背筋に嫌なものが這いずった。それは背中を撃たれたときよりもおぞましい、気持ち悪い何か意志のようなもの。

 

 土佐が顔を持ち上げた。アリアは息をのむ。その顔まるで別人。

 

 (いや、ちがう。見たことがある。)

 

 あの”決闘”を申し込んだ日にわずかに見せた顔。自分でも知らずに怯んだ顔。狡猾と悪意にまみれた顔。でも、あれよりもっと酷い。

 

 ――悪の顔。

 

 土佐がアリアを睨む。赤黒い眼。アリアはその場から逃げたい衝動に駆られたが、動くことが出来なかった。嫌な汗が体を流れていた。

 

 (なに、こいつ?どうしちゃったの?)

 

 土佐は足だけでヨロヨロしながら立ち上がる。

 体力的にはアリアと同じようなものなのだろう。その足取りはおぼつかなくかなり怪しい、今にも転びそうだった。

 

 それなのに、彼の全身から立ち上る、その気持ち悪い気配がアリアを不安にさせていた。

 

 「ふ、ふん、その腕でまだやる?」

 

 アリアが土佐の左腕を指さす。

 なんとか、自分を保つために強がってみるが、指が震えていた。

 

 土佐の腕はダラリと力なく下がっていた。左肩の間接がはずれているのだ。

 攻撃の当たった瞬間というのは誰でも油断する。だからアリアは自ら攻撃を食らって土佐に隙を作った。

 

 体力勝負になるとアリアには不利だった。

 腕一本封じ手しまえば、戦力は半減以下。いくらなんでも片手で弾を入れることも出来ない。土佐は圧倒的な不利になる。

 

 だから、左腕の間接を外した。そして、それはうまくいった。

 

 ――が――

 

 土佐の浅黒い顔に亀裂のような笑みが広がる。

 

 

 「ははあ…だアホォ。」

 

 

 本来ならば強がりとも思える言葉。しかし、土佐の奇妙な迫力とともにゆっくりとその口から別の生き物のように吐かれるその言葉。

 

 それは、アリアに危険だと教えていた。

 

 だが、今のアリアには動けるだけの体力と気力がなくなっていた。

アリアの足が震えていた。それは体力を使い切ったからではなく、あきらかに目の前にいる土佐の異様さにおびえていたのだ。

 

 「こんぐら…!」

 

 急に土佐の言葉が途切れ、同時に動きが止まった。

 

 嫌な気配が一瞬で消え、土佐の表情が元に戻った。どこか困ったような表情になりその額から汗が流れる。視線を左右上下に泳がせて、かなりの挙動不審。

 

 (いったい、なんなの?)

 

 アリアは、ただそれを見ていた。めまぐるしく変わる土佐の変化に考えが追いつかなかった。

 

 土佐は、いかにも憎々しげといった表情で、ギリギリと歯を食いしばりながらアリアを睨み――あきらめたようにがっくりと項垂れた。

 

 すっと人差し指を立てた右手をアリア見せる土佐。

 

 そして「神崎ぃ。提案聞くか?」と言った。

 

 

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