緋弾のアリア -黒砂ー   作:silentr

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03.悲喜

 

 

 キンジが土佐と出会った次の日。

 

 男子寮の廊下。スタスタと歩く小柄な人物。

 

 武偵高校指定の制服を翻しながら、本来堂々と入るべきではないところを女子生徒が歩く。

 

 自分になんら非はないといわんばかりに胸を張って。

 

 張る胸が寂しい、神崎・H・アリアがピンクの髪をゆらして歩いていた。

 

 遠山キンジの部屋前。(許可無く勝手に)コピーしたカードキーを取り出してドアを開ける。

 

 「ちょっと、バカキンジ」

 

 靴を脱ぎ捨ていつもの調子で上がり込む。その様はすっかり慣れたもの。

 

 一直線にリビングに入ると「あれ?」と見回し、玄関に戻り靴を数える。

 すると一足消えていることに気づく。どうやらキンジは外出中。

 

 (まあいいや、どうせコンビニだろうしすぐ帰ってくる)と勝手な想像をして、そのままソファにコロンと転がる。

 男子部屋に似つかわしくない女性週刊誌を見つけ(理子あたりが置いていったのだろう。)と、拾ってパラパラとめくりだす。

 

 ぱらりとページをめくる音。コチコチと時計の針の音。ゆっくりとした波の音。通り過ぎ遠ざかる車の音。

 

 

 音――音――静かな音。

 

 

 音が部屋に染み、ゆっくりゆっくりと、薄く引き伸ばされて、広がって静かな部屋になる。

 

 静寂が満ちる。

 

 アリアは一人であることを自覚する。

 

 不安になり、両手で自分を抱くようにうずくまる。

 

 そして、不安の元を確かめるように目を細めた。

 

 

 ――寂しい?

 

 

 他のバスカービルの誰かがいるかと思ったが、今日はきていない。

 

 すっかり集会所と化したキンジの部屋。そうした張本人であるアリア。

 白雪がいれば何かとうるさい。理子がいると何かといじられる。レキがいるときには、自分がにぎやかにしないと逆に間が持たない。

 喧嘩したり色々あるけどそれでもにぎやかな空間。

 

 

 ――ねえ、寂しいの?

 

 

 実家では欠陥品扱い。イギリス・ロンドンで武偵をしていたころも、いつも一人だった。チームでいても一人、誰かいても一人。

 

 一人だった。

 

 東京武偵高校に来てからも誰も合わせることができず一人浮いた。

 どうせ独奏だと――アリアだと、いじけていた。ひねくれていた。どうしていいか――わからなかった。

 だから、一人だったの?

 

 結局、キンジというパートナーが見つかるまでアリアは一人でいることが多かった。

 バスカービルみたいなメンバーが集まるなんて思ってもみなかった。

 

 

 ――どうしたいの?

 

 

 アリアはそれ以上考えるのが嫌になって、頭を切り替えようとソファから思い切り体を起こした。

 ギシリとソファが軋み、起きた拍子に女性週刊誌がすべり落ち、ぱさりと床に広がった。

 

 リビングを見回す。アリアの首の動きにあわせてピンクのツインテールをが揺れた。

 

 男っぽい配色の家電やテーブル。床に広げっぱなしの雑誌。壁や天井の銃創、刀傷。そして、あきらかに女性のものとわかるものが転がる。

 知らない人が見たら、男性が同棲している女性と日夜大喧嘩を繰り広げていると妄想するかな。

 

 当然アリアたちの私物や戦闘の傷跡。

 みんなとても他愛もないこと、たいした時間も経っていないこと、思い出せることが多くて、アリアは目を細めてクスリと笑う。

 残念なことに、それがとても可愛らしい素敵な笑顔だったことに気づく人はいなかった。もちろんアリア自身知るはずもなかった。

 

 

 ――ねえ、どうしたいの?

 

 

 

 「あ…」

 

 かわいい口から小さな声が漏れる。

 

 ようやく気づいた。

 

 いまキンジが帰ってきたら――(そうか、誰もいないんだ…)

 

 口元がゆるみ頬が熱くなった。誰もいないのに恥ずかしくなってクッションに顔を埋める。

 

 (そっか、二人きりか…)

 

 そのままソファに再び寝ころぶと、クッションを抱えて右へ左へとコロコロと転がった。

 

 何か――なんだか――とても嬉しかった。

 

 静かな部屋に一人。さきほど感じた寂しさが、すっと遠ざかっていくような――そんな気がした。

 

 

 

 ――あたし、どうしたいの?

 

 

 

 

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