緋弾のアリア -黒砂ー   作:silentr

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もともと、「03.悲喜」とこの話は一つでした。なんかうまく繋がらなかったので、ぶった切ったものです。なので時間軸が連続してます。

作者がダラダラした話が好きなので、いつもこんな感じです。


04.日常と無知

 男子寮の下にあるコンビニで買い物をして部屋に帰ってきたキンジ。

 玄関に見慣れた小さな靴を見つける。アリアの靴だ。

 出るときはなかったので、コンビニに行っている間に来たのだろう。

 

 少し身構えながらリビングへと進む。するとそこには想像通り、ソファの上にアリアが寝転がっていた。あまりにも自然な光景にキンジは少しだけ嫌気がさした。

 アリアは帰ってきたキンジを見てソファから体を起こすと、何故か頬を赤く染めてツンと澄まし顔をする。

 

(何だコイツ?)

 

 いきなり湧いたと思ったら、よくわからない行動を取るアリアについていけないキンジ。

 

 最近は当たり前のように、キンジの部屋にバスカービルの誰か来ていた。複製カードキーを当然のように使って。付け加えるならば一応違法行為。

 ここは寮だから、別にこの部屋はキンジのものというわけではない。

 だから強くは言わない。

 キンジはできるだけ気にしないように――するのは難しいので、気にしたら負けだと自分に言い聞かせるようになっていた。

 

 アリアにしてもそうだが、バスカービルの女子たちはここが男子寮だということをもう少し意識して欲しかった。女子がむやみに出入りして良いところではない。

 

 そして、ここは”戦場”ではなく”部屋”なのだから気安く発砲したり、ましてや”大戦”を起こしてはいけない、ということをわかって欲しかった。

 

 特に家主に優しくしてください、お願いします。

 

 「土佐?」

 

 キンジの願いなど知る由もないアリアが、キンジの話に反応する。

 キンジは(自分の部屋のようにおくつろぎになりやがるな、コイツは。)という心の言葉を押し殺しつつ、昨日会った土佐のことについて話していた。

 

 「トサトサトサ…」

 

 アリアはソファの上で腕を組みあぐらをかいて、口の中でブツブツと繰り返す。

 

 (どうでもいいが、レディーがスカートであぐらとか組むな。)

 

 そんなことを考えながらキンジは、アリアが長考状態になったの見てコンビニ袋からお茶を出してコップに注ぐ。

 

 「ほら」とアリアの分も注いで出してやった。

 「あら、ありがとう」と素直に言って受け取るアリア。

 

 あとから言われると、腹立つので先に出しただけだったが、礼を言われたら言われたでなんだか気恥ずかしかった。

 

 お茶をすすりながら、なにやら考え事を続けるアリア。

 

 (アリア、なんか渋いな…いや、おっさん臭いのか)

 

 キンジは、考え込むアリアの姿に失礼な感想を抱きながら、それを見ていた。

 

 アリアは思い至ったらしく顔を上げて「ああ、あの土佐かな…」と呟くように言った。ぼんやりとした今一つ確信がないような口調。

 

 「知ってるのか?」

 

 レキの専門科目の同級生である土佐。それをアリアが知っている理由がわからなかった。

 

 「絶対という自信は無いわね。でも、たぶん。強襲科(アサルト)でもそれなりに有名よ。」

 

 狙撃科(スナイプ)の人間が、なぜ強襲科(アサルト)で有名なのか。わけがわからない。

 

 「有名って?」とキンジは尋ねる。

 「ああ、単純に腕がいいって噂よ」

 

 確かに単純で納得できる理由だ。

 

 (そういや、レキが土佐は狙撃科で2番とか言ってたな、優等生か…なんて嫌なヤツだ)

 

 成績の優劣で人を判断する遠山キンジだった。

 

 「でも、あんまり授業態度よくないみたいで、ランクは――ちょっとわからないわね。たしかAとかBよ。」とアリアが付け加えた。

 

 「十分じゃねえか」

 

 少しキレ気味で突っ込むキンジ。キンジのランクはEだった。

 

 キンジは考えた。AとかB、それが当然とでも言うのだろうか。なんて自分に優しくない世の中だろうかと――。

 ちなみに、転校すること前提で武偵をやっていたキンジが全面的に悪いのであって、世の中は一切関係なかった。

 

 しかし、そんなキンジもいまは違った。今は、立派な”普通”の武偵になるのが目標だった。

 何を持って”普通”とは考えていなかったし、自分がそろそろ人間やめているような状態――つまり「”普通”とか何言ってんのコイツ、テラオカスィー(笑)」みたいな感じにもなっていることも、できるだけ思い出さないようにしていたが、自覚していた。

 

 勉強だってまじめにやっていた。でも、Eだった。それが”普通”の彼の限界だといわんばかりに。

 

 キンジは泣きながら走りたい気分に駆られた。

 

 「れ、レキの知り合いで狙撃科(スナイプ)だぞ?人違いってことはないのか?」

 

 気のせいか涙声。(負けるな俺)自分をはげますキンジ。

 

 「専門の二つや三つ取れるでしょ。あんたもやったじゃない?」

 

 忘れたの?と、少しあきれ気味のアリア。

 

 ああ、自由履修か――と思い当たる。

 取っても単位にならない。しかし、武偵としての経験を積むのであれば決して損はしない(はずの)もの。現にキンジもアリアに初めてあったとき強襲科(アサルト)の依頼を受けたことがある。

 

 だが、狙撃科と強襲科二つなんて酔狂な奴――まあいるだろうけど。

 

 「そういえば…」

 

 何かを思い出したように話題を変えるアリア。

 

 「キンジ?」

 

 何故か怒ってらっしゃる感じの神崎さん。ちょっと怖い。

 

 「なんでしょうか?」と思わず丁寧語になるキンジ。

 

 「あんた…レキとデ、デートとか…な、なにしてたのよ。」

 

 「はい?」

 

 アリアは赤面しながら「ほら、さっさと白状しなさいよ」と腕をパタパタと意味不明に動かしながら言ってくる。

 

 キンジは固まったままで――

 

  え?この赤い人何言ってるの?

 

  飯食って帰っただけですが?

 

  どこで間違ってデートになったのでしょう?

 

  ラーメン屋ですよ?

 

  しかも、スナイプのお姫様壷ですよ、壷で食ったんですよ?

 

  さらに完食時間の最高記録更新しました。

 

  胃に何飼ってるんですかあの子?

 

  正直もうアイツ怖いです。

 

 と、一通り脳内でまくし立てた後「ラーメン食って帰っただけだ」と超要約して話した。

 

 昨日、キンジはレキを誘ったもののどこへ行こうか思案したが、考えるのがめんどくさくなって、以前一緒に行ったことのあるラーメン屋へと向かった。

 相変わらずバイトをしていた後輩の風魔がいた。キンジと一緒にいたレキを見て露骨に嫌そうな顔をしたのを覚えている。

 

 特に希望がない、と思っていたレキだったが、昨日は珍しく「以前のを…」と注文した。

 

 以前の注文。それは壷入りラーメン大食いチャレンジのことだ。

 

 風魔の心配そうな顔を横に涼しげに完食したレキ。

 その容赦のない完食っぷりの前に膝を折って号泣する風魔。

 その様があまりにも哀れで、当分のキンジの脳裏から離れそうもなかった。

 

 それにしてもレキ。なんて恐ろしい子。あの店出禁(出入り禁止の意味)になるぞアイツ。

 

 「ちょっとキンジ!何黙ってんのよ。」

 

 人の回想シーンも土足で荒らす暴虐ぶりの神崎さん。さすがです。(別にほめてないけど)

 

 キンジはコンビニ袋の中を見てあることに気づく。

 そして「アリア、デート行くか?」と何気なくサラリと言いながら立ち上がった。

 

 アリアは「え?え?え?」と、ひたすら「え?」を連発させながら一気に赤面させる。

 キンジも(まあ、そう言ったら、こうなるだろうな。)と思って言った確信犯。

 

 「ど、どこに?」

 

 モジモジしながら上目遣いに聞いてくるアリア。正直可愛い。まあ、いつもが暴虐武人の鬼武偵だけにより一層そう感じる。

 

 「ん?下のコンビニ。買い忘れがあったから一緒に行くか?」

 

 あっさり答えるキンジに「は?」何を言っているかよくわからないですけど?といった表情のアリア。眉間にしわを寄せ、口を開けたままだ。なんだか顔が変。

 

 「おまえ話聞いてたか?俺とレキはラーメン屋に飯食いに行ったんだよ。それをデートと呼ぶならコンビニに行ったって大して変わらんだろ?」

 

 してやったりと得意気のキンジ。

 

 「な、な、何よそれ。」

 

 アリアは(やられた)と悔しげな表情を浮かべて「だったらせめてラーメン屋にしなさいよ」とキンジに人差し指を突きつけながらいった。

 

 これも当然の反応だった。

 

 「ああ、それはだめだ」

 「なんでよ?」

 「後輩の風魔がな…あまりにも可愛そうで当分行けそうもない。」

 

 遠くを見るキンジの目に、後輩風魔の悲しげな背中が見えた。

 

 「な、何かしたの?あんたたち?」

 「いや、俺は何もしていないが…レキが…な…」

 

 キンジはまた思い出す。あのレキの平然と淡々とそして容赦のない食いっぷり。見ててこっちが胸焼けしそうだった。

 そして、風魔の顔が脳裏にチラツく。がくりと膝をついていた、あの激しいまでの号泣を思い出す。なんて見事な負けっぷりだろうか。

 

 キンジは思わずもらい涙があふれそうになるのを堪えた。

 がんばれよ風魔。ちなみにバイトは修行じゃないからな。

 

 「アリア…いや、やめようこの話は。で、コンビニ行かないなら俺一人で行ってくるぞ」

 

 そう言いながら玄関に向かう。

 

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。行くわよ」

 

 後ろからあわててついてくるアリア。

 

 「どうせ、ももまん買うんだろう?」からかいながら靴を履くキンジ。

 「う、うるさいわね」図星を指されて赤くなるアリア。

 

 そんなアリアを見て、キンジは優しい笑顔を浮かべる。

 その優しい顔は誰も知らなかった。キンジも知らなかった。

 まるでキンジ自身がその思いを自分に気づかれないように、知られないように。

 

 ひっそりと優しく笑っていた。

 

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