始業式も終わり。通常の授業に戻ったある日の休み時間。
友人の不知火に「キンジと神崎さんに用があるという男子生徒が来ている」と言われ、彼の指さす廊下の方を見るとそいつはいた。
――土佐?――
ツンツンの黒い髪。浅黒い肌。彫りの深い顔。
勝手につけた通称。武藤2Pキャラ。だが、武藤よりハンサム。
キンジは土佐を見て、他の同級生と騒いでいる武藤を見た。
(ごめん武藤。何度見てもあっちのほうがいい男だ。)と心の中でひっそり涙を流し謝ってから席を立った。
キンジがアリアに目配せすると、話は聞こえていたらしく、何も言わずに席を立ってついてきた。
土佐はキンジたちに気づくと軽く手を振った。
「よお、久しぶり。すまんな。」相変わらず軽い感じの土佐。
「何の用だ?」以前銃口を向けられたことを思い出して、少し不機嫌な表情を浮かべるキンジ。
「ま、ちょお顔かしてや」
そういってアリアとキンジに背を向けて、廊下を歩き出す。どうやらついてこいという意味らしい。キンジとアリアは顔を見合わせると、それに従って歩き出す。
しばらく廊下を進み。自販機のあるコーナーで土佐は立ち止まった。適当に缶ジュースらしきものを3つ買い。2つをキンジとアリアに手渡した。ホットの缶コーヒーだった。
「あ、自己紹介いるか?」
アリアに気を使って、そんなことを言い出す土佐。アリアが「あんた強襲科(アサルト)で有名な”土佐”でしょ?名前知っているからいいわ」と軽く流したので自己紹介は無しとなった。
カシュリ――缶コーヒーのプルトップを引く音。
コーヒーを一口すすり、周囲に誰もいないのを確認してから土佐は話し出した。
「すまんな、わざわざ。で、さっそくやけど遠山。レキちゃんにちょっとお願いしてくれへんかなあ」
いきなり低姿勢の土佐。猫なで声で気持ち悪いことこの上ない。
「なにをだ?」
土佐の説明によれば、あれから(銃口を向けあってから)レキが不機嫌になったらしく無口、無感情はいつもだが、土佐に対してはさらに無視が加わってしまったらしい。そこで『なんとか遠山からレキにお願いしてほしい』ということと、改めて謝りにきたということだった。
まあ、土佐もレキに気のあるヤツの一人なのだろう。自業自得とはいえ、その相手に無視されとあっては結構こたえるものがある。レキも頑固だし簡単に許してくれるとは思えない。それに、土佐本人が頭を下げ続けるよりもキンジの口添えがあった方が許してくれる確率も高い。
レキのことがあるとはいえ、わざわざ謝りにきたヤツに無碍にするわけにもいかず、キンジは「ああ、わかった。レキに頼んでみるよ。」といった。
土佐はキンジに「ホンマか?」を何度か繰り返してから、礼の言葉を述べる。次から次へと饒舌な男。
「いや、頼むわ。レキちゃんに無視されるとキッツイねん」
キンジはわかる気がした。
レキは無口で無感情なところがあるが、話しかければそれなりにリアクションをしてくれる。本人が意識してやっているわけではないだろうが、ときどき小動物のようなかわいい仕草もしてくれる。
それがガン無視とあってはーーキンジは声をかけてもスルーするレキを想像した。
(あ…確かにキツい。)
「で、あたしに用って?」
キンジの用事が一段落ついたと判断したのだろう、待たされていたアリアが不機嫌そうに言う。
「おー、すまん、すまん。」悪気があるのかないのか適当な返事の土佐。
「お、おい。」話を続けようとする土佐をキンジが遮る。
「ん?なに?」と不思議そうにキンジを見る土佐。
「アリアへ用事だろ?だったら、俺はいない方がよくないか?」
一応気を使っての言葉だったが、土佐にはうまく伝わらなかったらしく、不思議なものを見るように、口を開けてキンジを見たまま固まっている。
そして――
「なにいうてんの?遠山は神崎の彼氏やから一緒に聞いた方がええやろ?」なんでそんなことを聞くんだ?と少々あきれ顔で返答してきた。
――はい?
思考停止するキンジ。土佐の言っていることは理解できていたが、何を言っているかわからなかった。
「お前等つきおうてんのやろ?」
――なにそれ?
土佐は言葉を続けるが、キンジの思考は止まったまま。
アリアが近くにいるのはわかっていたが、そちらを見る気になれなかった。いや、むしろ今見てはいけない気がした。
――いつ・どこで・だれが・だれと・なんだって?
「遠山と神崎がつきおうてるって、かなり有名やぞ。そのくせ、レキちゃんたぶらかしたり、峰とか、星枷とか、タラシ込んでるから女の敵とか、ブラックリスト上位独占とか…あれ?どしたん?」
うれしそうに話す土佐。黙れ武藤2P。
――俺とアリアが??
「ナ…」やっと声が出た。だが、キンジに表情はなく口だけが動いていた。
「な?」オウム返しの土佐。
「な?」なぜかアリア。
「なんだそりゃあああああああああ!!」
キンジの絶叫が廊下にこだました。