緋弾のアリア -黒砂ー   作:silentr

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08.血統

 決闘当日。

 

 強襲科第5体育館に土佐、アリア、キンジ、ジャンヌ、理子の5人がいた。レキは用があるらしく欠席。白雪は研修でここ一週間ほどいなかった。今日は休日ということもあって、その他の生徒はいない。

 

 もっとも、土佐が人払いしたのかもしれないが、そのあたりはわからない。

 

 土佐は「わかっとると思うけど」と言って軽くルールを説明した。

 

 当然、キンジ、ジャンヌ、理子はただの見物となり手出しは無用。

 手出しをすれば、その場でアリアの負け。

 

 見学用の席があるわけではないが、体育館の端に小さな休憩用のスペースがある。本来は更衣室に行き来するためにつくられたスペースだった。

 

 防弾用ガラスで仕切られているので、その中から見物してくれ、ということで簡素なパイプ椅子が用意されていた。

 

 わかりやすい線引きもないので、決闘中にその中から出た時点で、手助けとみなしアリアの負けだと土佐は説明した。

 逆にどうしても止めたいのであれば、そこから出てくれということだった。

 

 武器などは手に持って運べるサイズならなんでもいいといった。

 

 手榴弾でもいいといったが、そんなものあるわけない…といいたいが、ときどき米軍の横流し品がなぜか売られるので、持ってるヤツは持っていたりする。しかし投げる前に撃たれて終わるのが関の山。

 

 土佐は最後に「あくまで決闘や。殺し合いちゃうからな」と強い口調で付け加えた。

 

 「にしても…まんまだな」体育館を見回しキンジが言った。

 「まんま、ね…」とそのままアリア。

 「”決闘”だな…」

 「”決闘”ね」

 

 強襲科第5体育館。体育館とは言うもののどちらかといえば倉庫に近い作りだった。

 下は乾いた地面でろくに整備もされいない、あっちこっちに空の薬莢が転がっている、ところどころ雑草も生えており、なぜかサボテンまである。

 

 その光景は正に”荒野”と呼ぶにふさわしかった。

 

 これで乾いた風の一つでも吹けば完璧――と思ったら、大きく開けた入り口からひゅるるぅー、と風が音を立てて抜けていき、うわっと砂埃が舞い上がった――よって完璧な荒野だった。

 

 本当に体育館なのだろうかここ?そんな疑問を抱かせるのに十分な光景だった。

 

 「で…あの格好か?」

 

 視線を土佐に移してキンジが言う。それはどこか、『もう好きにすれば?』といった感じだった。

 そして、それに同意するアリアもなんだか投げやりに「あー…そうなんじゃない?」とあきれ気味に言って、すでに疲れた感じ。

 

 「なんや、そのリアクション?」

 

 そういって腰に手を当て、不満げの土佐。

 

 その格好。着ているのは武偵校の防弾制服ではあるが、頭には鍔の広い帽子を斜めにかぶり、手に黒いグローブ、腰にいまどき珍しい太いガンベルト2本、そして装飾の入った黒のハーフブーツ。太いガンベルトのホルスターにリボルバー式の拳銃二丁が銀色の光を放っていた。

 

 つまり、映画の西部劇に出てくるガンマンの格好、防弾制服を除けば、ほぼコスプレ。「荒野の決闘」ようないでたち。「夕日のガンマン」でも可。

 

 

 『なにそれ?』

 

 

 そう言いたげに、土佐以外は一様に疲れて、がっくりとうなだれていた。

 

 

□□□

 

 

 「一つ確認しておきたいんだけど?」

 

 力が抜けそうになりながらも、なんとか気力を立て直して、アリアが土佐に言った。

 

 「あんた、本当にイ・ウーなの?」アリアは疑わしそうな目で土佐を見ながら指をさす。

 「そう言うとるやん。俺。」自分を指さしながら、驚いたように土佐はいった。

 

 「あんたが言ってても、お母さんに冤罪かぶせてるヤツあたしが調べた限りは、土佐なんてヤツいないんだけど?」

 「あ、そういうこと」

 「ちなみに、オークレーもいなかったわ」

 「あー…ジャンヌ、理子。そっち、言ってしもたんか?」

 

 ジャンヌと理子がいる時点で情報が伝わっていると判断したのか、とくに隠す様子もなく二人の名前を呼ぶ。

 

 「我々はオークレーでしかお前を知らん」と腕を胸の前で組んで不満げにジャンヌ。

 「そりゃすまんかった。俺、オークレーちゃうよ?いや、違うことないけどな、あっち遠縁やもん。」

 特に悪びれた様子もなくヘラヘラと笑いながら土佐が言った。

 ぶすっとした顔のまま不機嫌なジャンヌ。いつもならにぎやかなのに、愛想笑いさえうかべようとしない理子。

 

 もしかしたら、イ・ウー時代からこんな感じなのだろうか。わざとやっているのかどうか知らないが、真面目なジャンヌや、複雑な事情のある理子とは合わないかもしれない。

 

 アリアは土佐の態度をみながら頭の中でそんな想像をした。

 

 「他に気になる名前があったけど…。」とアリアが言葉を追加する。

 「試しに言うてみてくれん?」興味あります。と言う顔で土佐が言う。

 「ヤンガー…マッドサンド・ケリー・ヤンガー」

 「ビンゴ!や」

 

 土佐は、嬉しそうに両手でピストルを形作ってアリアを指さす。

 

 「ビンゴ!じゃないでしょ。あんた英語ぐらい勉強したら?マッドは”泥”よ。」

 「固いこというなや。”泥”かて”土”やろ?」

 「ま、だから気づいたんだけどね。”土佐”じゃなくて”土”と”砂”でトサなのね。マッドサンド。どうせ当て字でしょ?」

 「そういうこっちゃ。コールマン・ヤンガーが娼婦に生ませた子供の子供の子供が俺ってところ。まあ、まっとうな家系やないけど、ガンマンの血筋ってことやな。」

 

 「ああ、面倒やから”土佐”のまんまでええよ」と付け加える土佐。

 

 (思った通りのガンマンの血筋…やはり銃撃が得意ということでいいみたいね)とアリアはあらためて思った。

 

 「まあ、正直俺は血筋とか、遺伝とか、そんなんどうでもいいねんけどなあ。」肩をすくめながら、ホントどうでも良いという感じに言った。

 

 「そういや、イ・ウーはなんかこだわってたな。」と言うと、アリアの後ろで理子が何か思い出したのか、嫌そうに顔をしかめた。

 

 「ガンマンね…それでその格好なの?」

 「なにいうとんの?決闘ちゅうたらコレやろ?」

 「いや、ごめん、なんだかいい」

 

 しまった聞くんじゃなかったと、アリアは肩を落とす、これ以上続けるとホントに脱力してしまうので、急いで話題を変えるアリア。

 

 「か、開始方法はどうするのよ?」

 「ああ、これ」そういって、指先でコインをはじく土佐。

 

 キンと音を立ててコインが打ちあがる。裏表、裏表、裏表と、クルクルと回って舞い上がり、落ちきたところを横からぱしっと掴んだ。

 

 「下に落ちたら開始や」

 「とことんねえ。あんた、マニアでしょ?」

 

 アリアのその言葉に、土佐は胸を張りふんっと自慢げに笑う。(褒めてないわよ。)とアリアは心でつっこんでおいた。

 

 




※アニー・オークレイ、コールマン・ヤンガーは西部開拓時代に実在した人物です。西部劇の映画などではよく登場するのですが、最近は西部劇自体減りましたから、個人的にはちょっと悲しいです。
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