決闘当日。
強襲科第5体育館に土佐、アリア、キンジ、ジャンヌ、理子の5人がいた。レキは用があるらしく欠席。白雪は研修でここ一週間ほどいなかった。今日は休日ということもあって、その他の生徒はいない。
もっとも、土佐が人払いしたのかもしれないが、そのあたりはわからない。
土佐は「わかっとると思うけど」と言って軽くルールを説明した。
当然、キンジ、ジャンヌ、理子はただの見物となり手出しは無用。
手出しをすれば、その場でアリアの負け。
見学用の席があるわけではないが、体育館の端に小さな休憩用のスペースがある。本来は更衣室に行き来するためにつくられたスペースだった。
防弾用ガラスで仕切られているので、その中から見物してくれ、ということで簡素なパイプ椅子が用意されていた。
わかりやすい線引きもないので、決闘中にその中から出た時点で、手助けとみなしアリアの負けだと土佐は説明した。
逆にどうしても止めたいのであれば、そこから出てくれということだった。
武器などは手に持って運べるサイズならなんでもいいといった。
手榴弾でもいいといったが、そんなものあるわけない…といいたいが、ときどき米軍の横流し品がなぜか売られるので、持ってるヤツは持っていたりする。しかし投げる前に撃たれて終わるのが関の山。
土佐は最後に「あくまで決闘や。殺し合いちゃうからな」と強い口調で付け加えた。
「にしても…まんまだな」体育館を見回しキンジが言った。
「まんま、ね…」とそのままアリア。
「”決闘”だな…」
「”決闘”ね」
強襲科第5体育館。体育館とは言うもののどちらかといえば倉庫に近い作りだった。
下は乾いた地面でろくに整備もされいない、あっちこっちに空の薬莢が転がっている、ところどころ雑草も生えており、なぜかサボテンまである。
その光景は正に”荒野”と呼ぶにふさわしかった。
これで乾いた風の一つでも吹けば完璧――と思ったら、大きく開けた入り口からひゅるるぅー、と風が音を立てて抜けていき、うわっと砂埃が舞い上がった――よって完璧な荒野だった。
本当に体育館なのだろうかここ?そんな疑問を抱かせるのに十分な光景だった。
「で…あの格好か?」
視線を土佐に移してキンジが言う。それはどこか、『もう好きにすれば?』といった感じだった。
そして、それに同意するアリアもなんだか投げやりに「あー…そうなんじゃない?」とあきれ気味に言って、すでに疲れた感じ。
「なんや、そのリアクション?」
そういって腰に手を当て、不満げの土佐。
その格好。着ているのは武偵校の防弾制服ではあるが、頭には鍔の広い帽子を斜めにかぶり、手に黒いグローブ、腰にいまどき珍しい太いガンベルト2本、そして装飾の入った黒のハーフブーツ。太いガンベルトのホルスターにリボルバー式の拳銃二丁が銀色の光を放っていた。
つまり、映画の西部劇に出てくるガンマンの格好、防弾制服を除けば、ほぼコスプレ。「荒野の決闘」ようないでたち。「夕日のガンマン」でも可。
『なにそれ?』
そう言いたげに、土佐以外は一様に疲れて、がっくりとうなだれていた。
□□□
「一つ確認しておきたいんだけど?」
力が抜けそうになりながらも、なんとか気力を立て直して、アリアが土佐に言った。
「あんた、本当にイ・ウーなの?」アリアは疑わしそうな目で土佐を見ながら指をさす。
「そう言うとるやん。俺。」自分を指さしながら、驚いたように土佐はいった。
「あんたが言ってても、お母さんに冤罪かぶせてるヤツあたしが調べた限りは、土佐なんてヤツいないんだけど?」
「あ、そういうこと」
「ちなみに、オークレーもいなかったわ」
「あー…ジャンヌ、理子。そっち、言ってしもたんか?」
ジャンヌと理子がいる時点で情報が伝わっていると判断したのか、とくに隠す様子もなく二人の名前を呼ぶ。
「我々はオークレーでしかお前を知らん」と腕を胸の前で組んで不満げにジャンヌ。
「そりゃすまんかった。俺、オークレーちゃうよ?いや、違うことないけどな、あっち遠縁やもん。」
特に悪びれた様子もなくヘラヘラと笑いながら土佐が言った。
ぶすっとした顔のまま不機嫌なジャンヌ。いつもならにぎやかなのに、愛想笑いさえうかべようとしない理子。
もしかしたら、イ・ウー時代からこんな感じなのだろうか。わざとやっているのかどうか知らないが、真面目なジャンヌや、複雑な事情のある理子とは合わないかもしれない。
アリアは土佐の態度をみながら頭の中でそんな想像をした。
「他に気になる名前があったけど…。」とアリアが言葉を追加する。
「試しに言うてみてくれん?」興味あります。と言う顔で土佐が言う。
「ヤンガー…マッドサンド・ケリー・ヤンガー」
「ビンゴ!や」
土佐は、嬉しそうに両手でピストルを形作ってアリアを指さす。
「ビンゴ!じゃないでしょ。あんた英語ぐらい勉強したら?マッドは”泥”よ。」
「固いこというなや。”泥”かて”土”やろ?」
「ま、だから気づいたんだけどね。”土佐”じゃなくて”土”と”砂”でトサなのね。マッドサンド。どうせ当て字でしょ?」
「そういうこっちゃ。コールマン・ヤンガーが娼婦に生ませた子供の子供の子供が俺ってところ。まあ、まっとうな家系やないけど、ガンマンの血筋ってことやな。」
「ああ、面倒やから”土佐”のまんまでええよ」と付け加える土佐。
(思った通りのガンマンの血筋…やはり銃撃が得意ということでいいみたいね)とアリアはあらためて思った。
「まあ、正直俺は血筋とか、遺伝とか、そんなんどうでもいいねんけどなあ。」肩をすくめながら、ホントどうでも良いという感じに言った。
「そういや、イ・ウーはなんかこだわってたな。」と言うと、アリアの後ろで理子が何か思い出したのか、嫌そうに顔をしかめた。
「ガンマンね…それでその格好なの?」
「なにいうとんの?決闘ちゅうたらコレやろ?」
「いや、ごめん、なんだかいい」
しまった聞くんじゃなかったと、アリアは肩を落とす、これ以上続けるとホントに脱力してしまうので、急いで話題を変えるアリア。
「か、開始方法はどうするのよ?」
「ああ、これ」そういって、指先でコインをはじく土佐。
キンと音を立ててコインが打ちあがる。裏表、裏表、裏表と、クルクルと回って舞い上がり、落ちきたところを横からぱしっと掴んだ。
「下に落ちたら開始や」
「とことんねえ。あんた、マニアでしょ?」
アリアのその言葉に、土佐は胸を張りふんっと自慢げに笑う。(褒めてないわよ。)とアリアは心でつっこんでおいた。
※アニー・オークレイ、コールマン・ヤンガーは西部開拓時代に実在した人物です。西部劇の映画などではよく登場するのですが、最近は西部劇自体減りましたから、個人的にはちょっと悲しいです。