ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第15話 それぞれの思惑

 テレビ画面が真っ暗になり、テレビの前で呆然とする1―A生徒たち。佐藤の放送が終わった頃には、1―A生徒全員がテレビの前に集まっていた。

 

「おいおい……ヤベェよ、これ」

 

 立たせた赤髪と朱色の瞳の男子、切島が呟いた。誰もその呟きに反応しない。この場にいる誰もが事の重大さを理解しているため、どう言葉を返していいか分からないのだ。

 それから数分後、エントランスの扉が開き、ヒーロースーツに着替えている1―A担任の相澤がやってきた。相澤はテレビ画面をチラリと見ると小さく息をつき、1―A生徒たちを見据える。

 

「揃ってるな。テレビを見る限り、何があったか理解していると思うが、TKテレビ局が帽子のヴィランに占拠された。俺たち教師も全員、帽子ヴィラン確保に動く。だから、俺たちが戻ってくるまで、お前らは個性伸ばしの自主トレやってろ。いいな?」

 

 相澤がそう言って外に出ようと後ろを向けた時、相澤の携帯に電話がかかってきた。

 ほんの十秒程度の電話だったが、相澤は血相を変え、テレビまで走った。テレビのチャンネルを掴み、チャンネルを変える。

 テレビ画面にMt.レディとTKテレビ局を上空から撮っている映像が映った。それらはまだまだ遠く離れている。その映像に女アナウンサーの声が乗っていた。

 

『見えておりますでしょうか! 今Mt.レディと大勢のヒーローが帽子のヴィラン確保に動いています! 今、建物の中で爆発が見え──ああ! 帽子のヴィランが屋上でヒーローを射殺しました! なんて恐ろしいのでしょう!』

 

 まだ遠方だが、屋上のヘリのメインローターが回り出し、浮かび上がる。そして、TKテレビ局の一階から三階が爆発し、建物がMt.レディの方に倒れていく映像をカメラはしっかり捉えている。

 

『TKテレビ局が倒れています! あのヴィランによって! Mt.レディが建物が倒れないよう必死に支えて──きゃあ! なんてことでしょう! 支えた部分が爆発し、Mt.レディが巻き込まれました! 破片が地上に降り注いで……えっ? Mt.レディです! Mt.レディがその身を盾に破片を防いでくれています! ですが広範囲すぎて、カバーしきれていません! 地上では次々に破片が町を破壊し、火の手がそこら中で上がっています! そしてMt.レディが! その身を盾とし一部でも町を守ってくれた守護者が! 小さくなっていきます! ピクリとも動きません! こんなことが許されていいのでしょうか!』 

 

 カメラが動き、佐藤の乗るヘリを正面から映した。遠くからでも、銃口がこちらにむけて突き出されるのが見える。そして、目の前の正面ガラスは叩くような音とともに穴が空き、ガラスに飛び散る操縦士の血痕を映した。

 

『きゃああああああッ! 狙われています! 私たちはあのヴィランに狙われています! 操縦士が撃たれました! ああ……プロペラが……プロペラが落ちていきます……嫌! 死にたくない! 死にたくない! 助けて……助けて……誰か、ヒーロー……』

 

 揺れ動く画面が建物にどんどん近付き、衝撃音とともに画面が真っ暗になった。

 相澤も、生徒たちも声が出てこなかった。それは生々しい死の実況だった。特に最期の言葉はこの場にいる者の心を鎖で雁字搦(がんじがら)めにしたような重さがあった。

 緑谷は顔を俯けつつ、拳を握りしめる。これ以上、犠牲者は出しちゃいけない。

 

「あ、相澤先生。僕ら仮免もありますし、自主トレより救助の手伝いを──」

「駄目だ!」

 

 相澤は緑谷の言葉を遮り、一喝した。緑谷だけでなく、生徒全員が相澤の声に含まれる怒気を感じ取り、息を呑む。

 

「いいか、よく聞け。この帽子ヴィランと戦闘して生き残れたヒーローは今のところ、上位プロヒーローのミルコだけだ。それ以外のヒーローは全員確殺されている。そして今のテレビ、Mt.レディの殺され方を観ただろ? 倒れる建物にも爆弾が仕掛けられていた。最初からMt.レディにぶつけて爆発させるつもりだったのは明白だ。そこまでしてヒーロー殺そうとするヤツだぞ。お前らが軽々しく行っていい現場じゃねえ」

「Mt.レディはやっぱ……死んじゃったのかよ……」

 

 ブドウのような頭をした男子、峰田が涙を流しながら顔を俯けている。

 相澤は峰田に一瞬気遣わし気な視線を向けるが、すぐに普段の鋭い目付きに戻った。

 

「お前らはとにかく、個性を少しでも磨くことを考えろ。ヤツを捕まえるのは俺たちプロヒーローの仕事だ。それに、さっきHNを見たが、帽子ヴィランを捕まえるのに最適なヒーローが動いている」

 

 相澤の言葉にピンと来てない生徒の面々がぽかんと口を開けていた。相澤は微笑し、生徒たちが少しでも安心するよう心掛けて、次の言葉を紡ぐ。

 

「暫定ナンバーワンプロヒーロー、エンデヴァーだ」

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 M字ハゲのスーツを着た中年男がワイングラスでワインを飲みながら、報道ヘリが墜落して真っ暗になったモニターを観ている。彼は四ツ橋力也と言い、サポート企業デトネラット代表取締役社長だ。だがそれは表の顔であり、裏の顔は異能解放軍最高指導者『リ・デストロ』である。

 室内に着信音が響き渡り、四ツ橋はワイングラスを持っていない手で携帯電話を取り出し、電話に出た。

 

『テレビをご覧になりましたか?』

 

 電話から響くは女の声。

 

「ああ、見たよ。実に興味深い。と同時に妬ましい。我々が長い時間をかけて準備してきたのに、それを嘲笑うように軽く社会を壊しにきた」

『私からすればなかなか楽しそうな取材対象(ネタ)ですが』

「だろうね、そうだろうとも。我々はそもそもヒーロー社会という土台の上で戦おうとしてきた。だがこの男は土台そのもの──すなわち政府、ヒーロー、ヴィランそれらを全て一纏めにして戦おうとしている。彼にとって、ヒーローかヴィランかはそんなに重要ではない。重要なのは、自らの意志を通すこと。素質があるよ、指導者としての」

 

 四ツ橋はワイングラスを傾け、ワインを一口飲む。

 

『どうなさいます? この男の起こした出来事に対する我らの行動と今後の方針は?』

「それはあの男が多数のヒーローに狙われている状況を切り抜けられるかどうかによると私は考えている。静観し、見極めるのさ。この男の一手に国が! ヒーローが! どう動くのかを! そしてもしこの男が現状を切り抜けられたその時、彼を利用するか、はたまた目障りな邪魔者として葬り去るか決めようじゃないか!」

 

 電話越しに女がクスリと笑った。

 

『素晴らしい方針ですわ』

 

 通話が終了した電話を、四ツ橋はスーツにしまった。

 

「待つばかりでは何も変わらない、か。感謝しよう、この男に。我々に行動する勇気と素晴らしさを教えてくれたことに。だからこそ我々の引き立て役として、思う存分踊ってくれたまえ」

 

 四ツ橋はグラスのワインを飲み干した。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

「ハハハハハ! 佐藤はおもしれェな」

 

 真っ暗になったテレビの前で、死柄木が顔を手で押さえながら笑っていた。

 

「笑ってる場合かよ。もし佐藤の要求が全部通っちまったら、ヒーローを佐藤が指揮することになるんだぞ。その時はこの国からヴィランを一掃するとか言ってたし」

 

 トゥワイスが呆れたように言った。

 死柄木はそんなことかと言う目でトゥワイスの方を見る。

 

「そん時は佐藤にヒーローとして雇ってもらおうぜ。人事権も佐藤が持つんだろ? てか、あんな要求通るかよ」

「そりゃそうだ。あんな要求通ったらこの国は終わりだもんな」

「案外、終わらせる気かもしれねェぜ」

 

 顔や腕を火傷している黒髪の男が口を挟む。名を荼毘(だび)と言う。

 死柄木とトゥワイスが荼毘に視線を移した。

 

「ヒーローをこの国から一人残らず消すことをゲームっつってたんだろ、この佐藤っていうイカレ野郎は。この国終わらせることになんの躊躇いもねェんじゃねェか?」

「俺も荼毘に同意だな。一回会っただけだが、佐藤はヤバすぎる。マジで遊び感覚で国を滅ぼしかねない」

 

 コンプレスがそう言った。

 トガヒミコは興味無さそうに椅子に座っている。トガヒミコにとって佐藤はどうでもいい存在のため、会話する気にすらならない。

 死柄木は立ち上がり、上着を羽織る。

 

「好都合だろ。滅びんなら滅びればいいさ。国なんざ無くったって、俺たちは好き勝手生きていける」

「で、どうすんだよ? これから俺たちは」

「決まってんだろ」

 

 トゥワイスの言葉に、死柄木は唇を吊り上げた。

 

「佐藤のゲームをプレイしてやるのさ。ところでトゥワイス、プレイする場合の条件ってなんだったっけ?」

「佐藤がゲームのコントローラーを持つ」

「そりゃ無理な話だ。だってそうだろ? コントローラー持ってる方がゲームは楽しいもんな」

 

 それはつまり、佐藤の戦略や戦術、指示といったゲームのサポートを受けず、佐藤など関係なく佐藤の起こした出来事に便乗するということだ。

 だが、彼らは気付いていない。佐藤からすれば、彼らの判断は(ヴィラン)連合を殺す大義名分を得ることができるのだと。

 この瞬間、彼らは佐藤の気分次第で殺される存在になったのだ。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 佐藤はヘリにあらかじめ用意しておいた爆弾詰めのミリタリーベストに着替え、爆弾の入ったポーチをミリタリーパンツの上から取り付ける。その作業が終わったら、佐藤は異形の方に顔を向け、左肩を向けた。

 

「左腕を切って」

「分かった……」

 

 異形が操作スティックから片手を離し、異形は鋭い爪を振り下ろす。爪は佐藤の左肩からキレイに左腕を切り落とし、左腕はドサッと床に落ちた。

 佐藤はその左腕を黒い袋に入れて床に置き、バッグを右手で引き寄せる。バッグを漁り、そこから左腕を取り出す。今切り落とした左腕とは別の左腕。事前に作っておいた左腕だ。この左腕の付け根部分には接着用ヒーローアイテムがすでに埋め込まれている。

 佐藤は左腕の付け根にある接着用ヒーローアイテムのボタンを押し、左肩に押し付けた。強力な接着アイテムにより、ぱっと見は左腕があるように見える。服ごと切り落としたため左腕部分が無くなって妙なファッションになっているが、片手でミリタリーベストを着るのは手間がかかる。くっつけた左腕をミリタリーベストに入れようとして変な向きになるのも避けたかった。そして、ヒーローがこの違和感の意味が理解できるか、興味がある。

 佐藤は楽しければ多少不利な材料があろうとも許せる性分だった。

 佐藤のヘリは事前に決めた進路コースを進む。後方の地上は多数のヒーローが駆けている。

 佐藤のヘリは高層ビルの屋上に触れそうなほど近付いた。この場所は地上のヒーローからは死角となる。その屋上には沙紀が待っていた。佐藤から事前に指示を受けていた沙紀は、テレビ局を出た後、この高層ビルに向かい、爪で屋上まで登っていたのだ。

 佐藤はヘリから左腕の入った黒袋を落とす。屋上に落ちた黒袋に沙紀は駆け寄り、黒袋を両手で持った。

 佐藤はヘリから沙紀に向かって、二本指でサインを送る。沙紀も右手で黒袋を抱えながら、左手を大きく振った。

 ヘリの速度はその間全く落ちなかった。故に、ヒーローたちは通過した高層ビルの屋上でそんなやり取りがされているとは夢にも思わなかった。

 佐藤の乗るヘリは自然公園がある方向に進んでいく。佐藤はヘリに備え付けられているパラシュートを身に付け、ヘリのドアを右手で開ける。

 ヘリが自然公園の上空を通過。眼下には豊かな緑と僅かに赤く色付いた林が生い茂っている。

 

「行ってくるよ」

「オッケイ……こっちも……行く」

「お互い派手にやろうぜ」

 

 異形はコクリと頷いた。

 佐藤はヘリから飛び降りる。ヘリは進路を変えず、直進をやめない。

 佐藤はギリギリのところでパラシュートを開き、落ちる速度を緩める。佐藤がパラシュートで林に入っていく姿は、追いかけているヒーローたちからも見えた。

 佐藤は林に突入して着地。着地した時、ビリビリに破れたパラシュートが頭上から覆い被さってきたため、佐藤はパラシュートのベルトを服から取り外しつつ、覆い被さったパラシュートを頭上からどかした。

 佐藤はそこからしばらく林を歩き、ナイフの切り傷が入った木に辿り着く。その木の下を軽く掘り、佐藤はバッグを取り出した。バッグを開けると、番号の振られた起爆スイッチと拳銃二丁、手榴弾、閃光手榴弾、アサルトライフルと拳銃の弾薬などといった物資が入っている。

 佐藤は二丁の拳銃を腰のホルスターにしまい、アサルトライフルのマガジン、閃光手榴弾、手榴弾をミリタリーベストのポーチに入れた。そして、起爆スイッチを二つずつ腰のポーチにしまう。これで元々持っている起爆スイッチと合わせて五つの起爆スイッチを持ったことになる。

 

「左手を使わない縛りプレイでどこまでスコアが出るか、ちょっと楽しみだね」

 

 それっきり佐藤は息を潜め、木に隠れた。ヒーローが来るであろう方向から注意を逸らさない。

 佐藤は今、完全に林と一体化していた。

 

 

 佐藤がいなくなり、異形だけが乗る報道ヘリ。異形は上空から地上を見渡し、混乱で車が渋滞しているところを見つけた。

 異形は操作スティックを動かし、ヘリをその渋滞している場所に急降下させる。どんどん迫ってくるヘリを茫然と見ていた運転手や乗員は、ハッと我に返ると慌てて車から降りて逃げようとしたが、もう遅かった。

 異形は車の群れにヘリがぶつかる瞬間、起爆装置を押す。すると、ヘリに積まれていた爆弾が爆発し、その影響で周囲の車も誘爆。大勢の人々がその爆発と誘爆に巻き込まれ、炎渦に呑まれて消えていった。




書きたい視点多すぎ問題。
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