ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第17話 エンデヴァーVS佐藤

 佐藤は息を整えつつ、自分の戦闘力をこれまでの戦闘を思い返しつつチェックしていく。それにより現在自分にどれだけの物資が残っているか分かった。残りの物資はアサルトライフルの弾倉一つに閃光手榴弾一つ、自身の体を爆破するための起爆装置一つ。これだけである。最後は自分を爆破して終わらせる予定のため、佐藤は物資を渋らず、どんどん物資を消費していったのだ。それに加え、IBM(異形)は戦闘に参加させないと決めている。これで、佐藤の戦闘力が算出される。アサルトライフル六十発、拳銃二丁の九発ずつ、閃光手榴弾一つ、自爆。要するに、この四択が佐藤の取れる攻撃手段だ。

 

 ──さて、どうしようか。最初はアサルトライフルを中心に戦闘を組み立てる。それが通用しなかったら、次は自爆に巻き込むのが確実かなぁ。

 

 あの炎のヒーローを佐藤はもちろん知っている。ナンバーツーのヒーローであり、ナンバーワンのオールマイトがいなくなった今は次期ナンバーワンヒーローの呼び声が高い。そして、接近戦を好む。

 オールマイトは己の身体能力だけで長い間ナンバーワンの座を死守していた。そんなオールマイトを超えようとした結果、接近戦の方に戦い方が寄ってしまったのかもしれない。

 佐藤にとって、炎のヒーローが何故そうなったかの事情はどうでもいい。自分に都合が良い。それさえ分かっていればいい。

 

 

 

 佐藤から少し離れたところに立つ炎を纏う男。ナンバーツーヒーロー『エンデヴァー』は視線を落とし、自分が踏みしめている荒れた地面に肉片が散らばっているのを見た。次に周囲を見渡す。倒れた木々とボコボコになっている木々、飛び散る血と肉塊の川。大量の臓物がこぼれ、異臭を放っている。そして、激痛に声をあげている負傷したヒーローたち。

 エンデヴァーの顔が険しくなり、両拳を握りしめる。

 

「エンデヴァー、来てくれたのか」

 

 木々に隠れ、佐藤の方を窺っていたヒーローたちの一人が、エンデヴァーの姿を見てホッと息をついた。

 

「ここは俺に任せろ」

「……分かった。ここは任せる」

 

 ヒーローたちが木々から飛び出し、佐藤に背を向けて後退していく。

 佐藤はアサルトライフルを彼らの背に向け、撃った。背中を撃たれたヒーロー二人がうつ伏せで倒れ、他に逃走していたヒーローたちは慌てて遮蔽物に隠れる。

 うつ伏せに倒れたヒーローから血が溢れ、血溜まりとなっている。ピクリとも動かない。

 エンデヴァーの握る拳に更に力が入る。佐藤を睨んだ。

 

「何故撃った?」

「倒すべき悪が目の前にいるのに逃げる。そんなヒーローに何の価値が?」

 

 その声が聞こえていた逃げようとしたヒーローたちは、そんな言葉を他ならぬ悪に言われ、悔しさと情けなさで奥歯を噛みしめる。

 佐藤はアサルトライフルから右手を離し、そのままエンデヴァーに人差し指を突きつける。

 

「キミもキミだよ。まだこれだけのヒーローが生きているのに、ここは任せろなんて自己中心的な意見だ。もっと指示するべきことはあるでしょ。負傷者を救出しろとか、この方向から攻撃しろとか、敵の情報を教えろとか。この場から退避させるより有意義な人の使い方が」

「……」

 

 エンデヴァーは無言で佐藤の言葉を聞いている。エンデヴァーはこの現場の惨状に内心ショックを受けていた。だからこれ以上被害者を出したくないという一心で、自分以外のヒーローをこの場から退避させたかった。だが、それは同時に他のヒーローを軽んじる行為だとも分かっていた。分かっていて、暗にこの場から逃げたかったら逃げていいと彼らに逃げ道を作った。

 

「確かキミってずっとナンバーツーのヒーローだったよね。不動のナンバーワンヒーローのオールマイトが引退した今、やっとナンバーワンになれるチャンスが巡ってきたんでしょ。ヒーローの本でキミのことはいっぱい書いてあった。その情報とキミの今の行動を見てると納得できる」

「俺がオールマイトを超えられないことに納得できるだと? 貴様……」

「じゃあ訊くけど、なんでヒーローやってるの? 人助けしたいとか、たくさんの人を笑顔にしたいとか、そんな理由なわけないよねぇ。だってそんな話どこにも書いてなかったし。ナンバーワンになりたかったのも、自分の力を国民に見せつけたいからみたいな、そんな私的な理由なんでしょ?」

 

 エンデヴァーの表情が曇る。エンデヴァーがナンバーワンヒーローに拘るのは、ナンバーワンになりたいというよりはオールマイトに勝ちたいという気持ちが強かったからだ。だからオールマイトが引退するという話を聞いた時、エンデヴァーに宿った感情は喜びではなく怒りだった。勝ち逃げされたような気さえした。オールマイトに勝ってナンバーワンになりたかった。だが他人から見れば、ただナンバーワンになりたいだけの人間に見えるかもしれない。

 

「英雄に自尊心(エゴ)は必要だけど、救世主(ヒーロー)利己主義(エゴイスト)は必要ない」

 

 佐藤は唐突にアサルトライフルのグリップを右手で握り、銃口をエンデヴァーに向ける。佐藤は休憩するために話し続けていただけであって、話の内容に興味は無い。一方、佐藤の話に動揺しつつも、佐藤の一挙一動を注視していたエンデヴァーはその佐藤の動きに対応できた。

 エンデヴァーは前面に炎の壁を創り出す。佐藤はその炎の壁越しにアサルトライフルを撃った。放たれた銃弾は炎の壁に突入した瞬間、高熱で溶けながら軌道が変わり、エンデヴァーの放出し続けている炎に最後は消えた。

 佐藤はその一連の変化を見た。炎に銃弾が突入した瞬間に溶けて無くなった訳では無い。ということは、溶けるまでに猶予があるということだ。どれくらいの距離なら放出し続ける炎の壁を貫けるか、検証する必要がある。

 佐藤がアサルトライフルのトリガーを再び引こうとする。エンデヴァーの背後に炎の噴射がチラリと見えた。佐藤はアサルトライフルから手を放しつつ、木から横っ飛びをした。エンデヴァーが瞬く間に佐藤が隠れていた木に接近している。炎は自身の体に纏っているだけで、周辺の林への炎の影響はほとんど無い。炎を完全にコントロールしている。これほど燃えやすい物が多いところに入ってきてもほとんど燃やしていないのは、凄まじい練度と言わざるを得ない。

 佐藤は横っ飛びしつつも拳銃を抜き、エンデヴァーに銃口を向ける。その銃口を向ける前にエンデヴァーは佐藤にギリギリ届く距離の炎を噴射していた。拳銃はその炎に包まれそうになる。佐藤は拳銃をエンデヴァーに向かって放り投げた。拳銃は噴射され続ける炎に包まれ、溶けてドロドロの物体になった。

 

 ──これは……相性最悪かな!?

 

 遠距離は炎の噴射で防がれ、近距離は熱で銃そのものが駄目になる。これは佐藤にとって最も優れた戦術の一つが封じ込められたと言っていい。

 それを理解した時、佐藤がとった行動はある意味明白だった。彼は突如エンデヴァーに背を向け、エンデヴァーに起爆装置を見せないようにしつつ、いつでもスイッチを押せる位置に指を持ってきたのだ。

 エンデヴァーはその佐藤の行動を見て、次の武器を取り出すための動作であり、背を向けた理由は取り出す武器を隠すためだと考えた。

 エンデヴァーは以前ミルコがHNに書いた佐藤の情報を知っている。個性が『超再生』であり、その条件が致命傷レベルの損傷であり、その条件を満たすため自傷行為をする場合があると。それを踏まえれば、エンデヴァーは炎撃で佐藤を動けない程度に火傷させる方法は使えず、自傷できないよう手足を拘束するしかない。

 故に、佐藤が背中を向けた瞬間、エンデヴァーは距離を詰めた。背中を向けつつエンデヴァーから視線を逸らさなかった佐藤と目が合う。その口元が歪んでいる。笑み……? とまず認識した。ゾクッと背中を悪寒が走る。紛れもない、それは死の恐怖。

 そこからはコマ送りの世界に、エンデヴァーは放り込まれる。エンデヴァーは反射的に佐藤から炎の噴射で離れる。佐藤がスイッチを押した。佐藤の体が爆発に包まれる。エンデヴァーは後退しつつ、爆風を炎で相殺しようとした。無意味だった。瞬間的な爆風はエンデヴァーの扱える瞬間的な炎の噴射を超えていた。多少爆風の威力を軽減する程度の効果はあったが、気休めレベルだった。

 エンデヴァーは爆風から完全に逃げることはできず、爆風に呑み込まれて吹き飛ばされた。体のところどころに傷を負いつつ、地面に背中から叩きつけられそうになる。エンデヴァーは背中から炎を噴射し、衝撃を和らげた。

 エンデヴァーはすぐに起き上がる。エンデヴァーはそもそも移動速度が速いため、爆風も直撃では無かった。

 エンデヴァーは佐藤が爆発した辺りを見る。もしかしたら再生するのかもしれないと考えたからだ。しかしいつまで待っても、再生はしなかった。佐藤の爆発地点に残っているものは、荒れ果てた林と佐藤の一部と思われるボロボロの左腕。

 隠れていたヒーローたちが次々エンデヴァーに寄ってくる。

 

「さすがだぜエンデヴァー! あのイカれ野郎にあっという間に負けを認めさせて自爆させるなんて! これでこの騒ぎも収束していくな!」

「……」

 

 エンデヴァーは返事をせず、佐藤の自爆地点に近付き、ボロボロになった佐藤の左腕を手に取った。

 再生はしていない。これであの帽子ヴィランは死んだ筈だ。そう思いながらも、エンデヴァーは自爆直前の佐藤の笑みが頭から離れない。

 エンデヴァーからモヤモヤとした嫌な気分はいつまでも消えなかった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 薄暗い室内。ポツンと一つだけ置かれた机。その机はかなりの高さがあり、その机には左腕が置かれている。突如、その左腕から黒い粒子が溢れ、その黒い粒子は人型を作り、粒子は血・臓器・骨・肉・皮となり、やがて裸の中年男を形作った。

 その部屋の隅に沙紀、針間、丸井がいる。針間は復活した佐藤を見ると、着替えと武器が入ったバッグを足元に置いた。沙紀は佐藤の方を見ないよう、スマホ画面を見ながら操作している。

 佐藤の左腕が渡されてから自爆するまで八分三十秒あった。その間に沙紀は左腕の入った黒袋を肩にかけて、日陰になる方から高層ビルを一気に地上まで下り、あらかじめ丸井と針間が確保しておいた近場の建物内に移動。この建物は朝は無人のため、余計な殺人はしないで済んだ。

 佐藤はシャツとズボンに着替え、拳銃とサバイバルナイフを隠し持つ。

 佐藤は扉に近付く。沙紀と丸井がいる方に。沙紀はスマホをしまい、いつも佐藤が被っているハンチング帽を渡した。

 佐藤はハンチング帽を笑みを浮かべて被る。佐藤の頭の中はさっきのエンデヴァー戦でいっぱいになっていた。

 

 ──もしあの爆発で生きていたら、今度はガチでやりたいなぁ。

 

 そんな佐藤の思考をよそに、沙紀は佐藤のハンチング帽への愛着に少し興味を持った。このハンチング帽にしても、佐藤は同じ物をいくつも持っている。

 

「佐藤さん、ハンチング帽に何か思い入れがあるの? それとも単純に好きだから?」

「えっ、どうしたの急に」

「なんとなく気になったから。いつも佐藤さん、その帽子を被ってるし」

「私が帽子を被る理由は、主人公(プレイヤー)にはトレードマークが必要だからさ。マリオだっていつも帽子を被ってるでしょ」

「マリオ? 有名な人?」

「あぁ、そっか。マリオ無いんだったね……」

 

 佐藤は少し残念そうに呟いた。

 佐藤たちはそこから少し歩き、針間が置いといた車に乗り込んだ。

 

「これからヒーローはどう出てくるかなぁ。出方によってはエンデヴァーくんのヒーロー人生を終わらせてしまうかもしれない」

「えっ、なんで?」

 

 佐藤の独り言に、沙紀が食いついた。沙紀は話好きのため、面白そうな話ならなんでも話に加わる。

 

「本当の悪というのは、ヴィランのような分かりやすいものじゃない。例えば正当性という名の盾を手にした国民とかね。彼らの攻撃性は目を見張るものがある。これからどうなっていくか愉しみだねぇ」

 

 その日の午後には、帽子ヴィランはヒーローとの激闘の末に自爆して死亡というニュースが溢れた。




これでプロローグは終わりです。
これからは佐藤サイドの描写は最小限にして、ヒーローサイドや他サイドの描写を増やしていく予定です。
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