ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第22話 それぞれの道

 警視庁での会議の終わり、屋台の焼き鳥を食べているホークスの携帯に電話がかかってきた。焼き鳥の串を皿に置きながら携帯を取り出す。電話の相手を見て、ホークスは席を立ち、会計を済ませた。

 屋台の暖簾(のれん)をくぐりつつ、ホークスは電話に出る。相手はヒーロー公安委員会の会長だ。電話の向こうから女性の声が聞こえてきた。

 

『ホークス、総理からあるプロジェクトの提案があったわ。私はあなたこそ、そのプロジェクトのリーダーに相応しいと考え、こうして連絡を取らせてもらったのよ』

「……俺ヒーローやってんですけど」

『しばらくヒーロー業は休業してもらうことになるわね』

「拒否権、無いんスか?」

『拒否してもいいけど、とりあえず内容を聞いてから判断してもいいじゃない?』

 

 その意見に対してホークスは異論が無かったため、無言で肯定の意を電話先に伝える。相手もホークスとの付き合いが長い故の理解でその意を察し、話が進んでいく。

 プロジェクト内容を全て聞き終えたホークスは、深く息をつく。それほど、今聞いたプロジェクト内容は衝撃的だった。

 

「……つまり、政府も対ヴィランに乗り出すってことですか?」

『これだけヴィランが暴れているのにヒーローだけに任せていたら、政府にも国民の不満がぶつけられるようになる可能性がある。ヒーロー公安委員会があることにはあるけど、具体的な行動はあまり表に出してこなかったし』

 

 単なる政治パフォーマンスの一環か、とホークスは思った。本気でこの国からヴィランの脅威を一掃したいと考えているなら、もっと早く行動に移した筈だ。

 しかし、オール・フォー・ワンや死柄木、佐藤というヴィランを見てきたホークスにとって、ヒーローがどれだけ不利な状況で戦わされているかということも痛いほど理解できている。ヒーローに変化が必要だとしたら、このプロジェクトはそのきっかけになるかもしれない。

 ホークスは目的を達成する際、常に最速最短の行動を考える。そんな彼だからこそ、セオリーにとらわれず、柔軟な思考で物事を解決する。

 

 ──このままじゃ、ヒーローは後手後手に回る。時代に取り残されるのは、俺の主義じゃない。

 

 ヒーローが変わらなければならない転機にきているのだとしたら、その先駆けとなる。そんな決意のようなものが、ホークスはこの電話での会話で芽生え始めていた。

 

『それで、どう? 引き受けてくれる?』

「引き受けなかったら、他の人になるだけなんですよね?」

『そうなるでしょうね。私としては一番優秀なあなたに引き受けてもらうと助かりますけど』

「……はぁ、しゃーないっスね。やりますよ」

『ありがとう。明日総理が記者会見を開くから、そこでこのプロジェクトは発表される予定になっているわ。あなたも登場してもらうから、身だしなみはしっかり整えて会見場所に来なさい』

「りょ〜かいです」

 

 そして、電話が切れた。

 ホークスはしばらくスマホの画面を見つめる。だが、画面を見ているわけではなく、今の話を思い返して思考を巡らせているだけだ。

 良くも悪くも状況が動き出している。この変化を上手くヒーローの追い風にしていけるか。それが重要であり、これからの役割となるだろう。ホークスはそのことをよく理解していた。

 ホークスはふと、このプロジェクトの前にあるヒーローに会いたくなった。この時のホークスは何故会いたくなったか分からなかったが、後々理由が分かった。自分は自分が思っていた以上にいきなりのことに動揺していて、心の整理をそのヒーローと話してつけたかったのだ。

 ホークスは翼を広げ、そのヒーローのところに飛び立った。

 

 

 

   ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤の動画がテレビ局から流された後、エンデヴァーのヒーロー事務所は電話が鳴り止まない状態になっていた。クレー厶といえば聞こえは多少良いが、実際は罵詈雑言の嵐である。その内容は佐藤が生きていたことに対する非難と罵倒がほとんど。

 エンデヴァーが事務所に来た途端、事務所にいたサイドキックたちは気まずそうな視線を向けた。エンデヴァーは視線を巡らし、電話対応しているサイドキックを見る。

 

「それに関しましては、エンデヴァーは死んだと言ってはおらず、爆発したところを見たと言ってまして……はい、勝手にマスメディアが勘違いしてそういう意味合いの報道をしただけでして……」

 

 そういう取り繕う言葉が至るところから聞こえてくる。

 エンデヴァーは一番近い電話に近づき、電話対応をしているサイドキックに右手を差し出した。サイドキックは驚いた顔をしつつも、受話器を渡す。エンデヴァーは耳元に受話器を持っていく。男の怒鳴り声が響いてきた。

 

『エンデヴァーに会見開いて謝罪するよう伝えろ! 適当言って俺たち国民をぬか喜びさせやがって! それでも暫定ナンバーワンヒーローかよ!? ヒーローの恥晒しがァ!』

「俺は事実しか伝えていない。貴様が勝手に勘違いしただけだ」

『その声……エンデヴァー!? ふ、ふん! よくそんな口叩けるなァ! 国民が今不安と恐怖に叩き落とされているのに、言う言葉がそれか! 万年ナンバーツーらしい態度だぜ!』

「…………」

『どうした!? 言葉も出てこねえか! 自分のことしか考えねぇカスが! ヒーローなんざ名乗んじゃねえ!』 

 

 エンデヴァーの受話器を握る手は震えていた。怒りの感情からだ。この受話器が事務所の備品でなければ、今頃消し炭になっているかもしれない。

 そんなエンデヴァーの様子を、受話器を渡したサイドキックや周囲のサイドキックが息を呑んで窺っている。怒り心頭のエンデヴァーがどう返すのか、気になっているのだ。

 エンデヴァーは電話に向かって怒鳴り返そうとしたが、寸前のところで思い留まった。フラッシュバックしたからだ。引退したオールマイトと息子の焦凍(しょうと)の仮免補習の会場で話した内容が。

 

 

『先月の犯罪発生率が、例年に比べ三パーセント増加だそうだ。俺は……誰よりも多く事件を解決に導いてきた。今も今まで以上に解決している。にも関わらず、聞こえてくる。お前が築き上げてきた何かが崩壊していく音が。

元ナンバーワンヒーロー、平和の象徴とはなんだ?』

 

 俺はその時、一度もオールマイトの顔を見なかった。顔を突き合わせて話せるほど、俺はオールマイトが好きじゃなかった。むしろ憎んでいたとすら言える。俺の前を常に走るオールマイトが目障りで仕方無かった。だが、実質的なヒーローナンバーワンになって気付いた。ナンバーワンの重圧はとてつもないものなのだと。そして、それを一切感じさせなかったオールマイトの凄さを多少は認められるようになった。だからこうしてオールマイトと会場で会った時、話したいと思ったのだろう。世間話じゃない。もっと踏み込んだ話を。

 

『俺は別にナンバーワンになりたかったんじゃない。ただナンバーワンになりたいだけなら、いくらだって貴様のようにヘラヘラ愛想を振りまいただろう。俺は誰よりも強くなりたかった』

『……君らしくないな』

『いいから答えろ!』

『……私がヒーローになった頃、街行くみんなが不安そうな顔をしていた。どれだけヒーローがいても犯罪は減らなかったし、今よりずっと怯えていた。だから、私はこの国に象徴が必要だと信じ、その道をひた走ってきた。希望でもあり、警鐘でもある強い光……そういう存在になると誓って走り続けた。

私と君を比較する声が世間から多く出ているのは知っている。でも、君と私は違う。エンデヴァー、君は私の道を行こうとしなくていい。君は君の思うやり方で、この国の人々を守ってほしい。何故君は強く在ろうとするのか、その答えはきっとシンプルだ』

 

 

 エンデヴァーはそのやり取りを一瞬で回想し、自制心が働いた。ここで怒鳴ったら今までの俺と同じだ。俺は息子に、焦凍に誓った。焦凍が胸を張れるような最も偉大なヒーローになると。

 受話器を握る手の震えが止まった。深呼吸して精神を落ち着かせ、受話器を握り直して耳に当てる。

 

「……俺はそう言われても仕方が無いことをしてきた。だから、俺が言えることは一つだけだ。必ず帽子ヴィラン──佐藤を捕まえる。ヒーロー(おれたち)を信じてほしい」

『はぁ? 信じる? 信じてほしいなら結果出せよ! やられっぱなしのくせに偉そうに!』

 

 それからも男の罵倒が続き、満足したら電話を一方的に切った。

 エンデヴァーは周囲のサイドキックと視線を合わせ、肩をすくめた。まだまだ様々な電話のコール音は鳴り続けている。その電話一つ一つにエンデヴァーは今言った言葉を伝えた。反応もだいたいは前と同じ。そもそも事務所まで怒鳴り込んでくるような輩は怒鳴りたくて電話してくるのであり、真摯な態度をどれだけしようが自身の態度を改めることはしない。

 エンデヴァーは結局サイドキックから「もう俺たちに任せて休んでください」と言われるまで電話対応をし続けた。現場に出ず事務仕事をこれだけ長い時間やったのは、おそらくヒーローになってから初めてのことだっただろう。そのエンデヴァーの変化に、サイドキックたちは気付いていた。

 エンデヴァーは自宅までの道を歩く。もう深夜で、街灯や建物の明かりだけが闇を照らす光だった。道行く人々はエンデヴァーに対しあからさまな敵意を向けはしなかったが、睨んだり遠くで舌打ちしたりといった陰湿なやり方をやってきた。

 そういった人々に対し、エンデヴァーは笑顔を振りまくことはしなかった。ただ前を見据え、歩き続けた。下手(したて)に出るなど考えなかったし、そもそもヒーローが一般人より下だという認識もない。

 自宅に着くと、自宅の前にホークスがいた。ホークスはエンデヴァーに気付くと、気軽に右手を上げて挨拶してきた。

 

「エンデヴァーさん、こんばんは」

「貴様か。ここで何をしている?」

「エンデヴァーさんを待ってたんですよ。ちょっと話したくて」

 

 エンデヴァーの背筋にゾワッと悪寒が走り抜けた。ホークスの言葉が気色悪いと感じたからだ。エンデヴァーが想像したことに察しがついたホークスは笑い声をあげる。

 

「やだな〜。エンデヴァーさんと雑談したくてこんな夜中に自宅前で待つなんてするわけないじゃないですか。それなりに重要な話ですよ」

「さっさと要件を話せ」

「俺、ヒーロー辞めることになったんで、挨拶に来たんスよ」

 

 エンデヴァーは思わずホークスの顔を凝視する。ホークスは笑みを浮かべつつも、目は決意の光を宿していた。

 

「……何?」

「いやいや、だってキツいですよ、ヒーロー。制約は山ほどあるし、周りの目も気にしないといけないのに、ヴィランはそんなことお構いなしですからね〜。やってるだけ命を無駄にするだけかなって」

「貴様……病院で言った言葉は噓だったのか? 自分の正義は研ぎ澄ませてあるとか言ってたが」

「だからこそっスよ。ジレンマってヤツですかね」

「なるほど。結局貴様は逃げた臆病者だったということか。二度と俺の前に現れるな」

 

 エンデヴァーはホークスの横を通り過ぎ、玄関の扉に手をかける。

 

「エンデヴァーさん。エンデヴァーさんにとって、ヒーローってなんです? ドロップアウトする俺に教えてくださいよ」

 

 エンデヴァーはホークスを怒鳴ろうと振り向いたが、そこで止まった。ヘラヘラしていた顔が引き締まっていたからだ。これはヒーローを諦めた顔じゃない、とエンデヴァーは一瞥で見抜いた。だから、答えるつもりも無かった問いに答えてやるつもりになった。

 

「そんなの決まってる。ヴィランを倒し人々を助ける仕事であり、人々をあらゆる脅威から守る仕事だ。それ以外に何がある?」

 

 その言葉を聞いて、ホークスは笑った。寂し気な笑みにエンデヴァーは感じた。

 

「そうっすよね。俺もそう思います。けど、ヒーローには贅肉(ぜいにく)がくっついてる。だから遅い。だから届かない。もっと削ぎ落とさなきゃ駄目だ」

「貴様……一体どうしたのだ?」

 

 エンデヴァーの問いに答えず、ホークスは両翼を広げる。

 

「もう俺行きますよ。ただ一つ最後にアドバイスさせてもらいますけど、明後日から鉢巻(はちまき)とたすき付けるか、今の内に考えといた方がいいっスよ。絶対明日マスコミが訊きに来ると思うんで」

 

 ホークスは暗闇へと飛び立ち、消えていった。エンデヴァーはその姿を追い、漆黒の空を見上げていた。

 

 

 ホークスは暗闇を翔けていた。

 ホークスは幼少の頃の記憶を思い出している。エンデヴァーの人形を抱えながら、公安の人間に訊いたのだ。

 

『俺もこの人みたく、悪い奴をやっつけるヒーローになれますか? 俺を救ってくれたみたく、みんなを明るく照らせますか?』

 

 ホークスはさっき見たばかりのエンデヴァーの顔を頭に描きながら、気分が落ちていくのを感じた。

 エンデヴァーはホークスにとって目標のヒーローであり、ヒーローというものにも特別な感情を抱いている。そして、自分の選択はそういったモノに泥をかける行為になりかねないことを理解してしまっている。

 だがこれから先、同じやり方じゃ未来は無いとホークスは判断した。その先にみんなを明るく照らす未来は無いと。

 

 ──だからエンデヴァーさん、これから見せてください。俺が捨てた選択の先にも光があることを。俺が失敗した時のために。

 

 ホークスは信じている。エンデヴァーは最高のヒーローだと。だからこそ、自分じゃ辿り着けない未来を切り拓く筈だと。そういうヒーローをこれから支えるのが、明日からの俺の仕事だ。

 ホークスは闇を翔け続けた。




もしかしたらお気づきの読者もいるかもしれませんが、ヒーローで好きなキャラトップスリーがエンデヴァー、ホークス、ミルコなんですよね。三人ともカッコいいので好きです。
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