ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第23話 HUNT(ハント)

 結局ホークスのアドバイス通りの展開となった。

 次の日の早朝、自分の事務所に行ってヒーロー活動をしようと玄関の扉を開けて敷地の外に出たエンデヴァーは、そこで出待ちしていた多数の記者に取り囲まれてしまい、至るところからカメラが構えられ、マイクもいくつも突き出された。

 その内の一人の若い女性記者が他の人たちを押しのけ、エンデヴァーの前に立つ。マイクを握りしめていた。その背後にはカメラを構えるカメラマンもいる。

 その女性記者がマイクを自分の口に近づけた。

 

「明日は帽子ヴィラン佐藤のヒーローへの要求がある日ですが、エンデヴァーはどうするおつもりですか!?」

 

 周りの記者たちの声に呑まれないよう声を張り上げた後、女性記者はマイクをエンデヴァーの方に向けた。

 エンデヴァーは事前に用意していた回答を口にする。

 

鉢巻(はちまき)とたすきは身に付けるつもりだ」

 

 その言葉を聞き、若い女性記者は目を輝かせる。

 

「つまり……今日中に佐藤を逮捕する自信が無いということですか!?」

「……は?」

「現在のヒーロー社会を牽引するリーダー的存在であるにも関わらず、佐藤の逮捕に消極的なのは、佐藤の残虐さに恐れをなしていると考えてよろしいですか!?」

「……」

 

 まるで鬼の首を取ったように興奮している女性記者に反して、エンデヴァーは冷静に相手の狙いを見極めている。

 この女性記者にとって、エンデヴァーの本心や意思はどうでもいい。この女性記者はエンデヴァーの弱気な発言や消極的な発言を引き出し、それを利用してエンデヴァーの印象を悪化させることで、国民の興味を引いて視聴率を稼ごうという魂胆なのだ。それで国民によるエンデヴァー叩きに発展しようが、この記者はそれを深刻なことだと思っていない。

 人間は良いニュースより悪いニュースの方が惹かれる。そのメカニズムは生存本能によって不安を感じやすい性質からきているのであり、意識的に悪いニュースを回避しようとしなければいつまでも悪いニュースばかり観てしまう。マスメディアはそのことをよく理解しているからこそ、国民の不安や恐怖心を煽るようなニュースばかりを選択して報道し、チャンネルを変えさせないようにしているのだ。

 

「当然今日一日、帽子ヴィラン佐藤の捜索はする。ただ万が一の可能性として、今日中に佐藤を捕まえられない場合もある。その場合、俺の私心で民間人を危険に晒すわけにはいかない。俺が恥を晒して佐藤のテロ行為を止められるなら、俺は要求を呑むという、ただそれだけの話だ」

「実質的なナンバーワンヒーローがヴィランに屈するつもりだと判断してもよろしいですか!?」

 

 もはや女性記者はエンデヴァーの話の内容を一ミリも理解しようとしていなかった。女性記者の頭の中は、どうやってエンデヴァーを貶めるか、そのことばかりにリソースを割いていた。

 エンデヴァーはその記者の姿勢に呆れ、これ以上記者たちに付き合うのは時間の無駄どころか自分にとってデメリットしかないと判断。正面にいる女性記者とその他の記者たちを押しのけつつ、事務所に向かう道を行く。

 

「エンデヴァー! 私の質問に答えてください! エンデヴァー!」

 

 エンデヴァーの背に、女性記者の声が虚しくぶつけられ続けた。

 

 

 

   ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 記者会見の会場は立派な場所だった。それでいて豪華に見えないような配慮が随所にされている。記者会見を開く理由が理由なだけに、無駄に国税を使うなと言われないようにしていると感じた。

 ホークスは会場に用意されているマイク台の前に立つ初老の男を端から横目で見ていた。ヒーロー公安委員長や警視総監、各大臣も、その男の後ろに用意してある机を前にした椅子に座っている。

 初老の男──総理はマイクに口を近付けた。総理の前には置かれた椅子に座った多数の記者がいる。彼らはボイスレコーダーを持っていたり、メモ帳とペンを用意していたりしていた。

 

「本日は急な会見であったにも関わらず、お集まりいただきありがとうございます。私はこの場をお借りして、国民にある重大な政策をお伝えします。

皆さんもご存知の通り、今の日本は個性犯罪者──通称ヴィランの脅威が日を経る毎に増しているような状況であり、皆さんが言われているようなヒーロー飽和社会であっても、このヴィラン優勢の現状に歯止めが利かない状態となっています。

このヴィラン優勢の根本的な原因はなんでしょうか? 一番の原因となるのはずっとナンバーワンヒーローで在り続けたオールマイトの引退でしょう。彼の圧倒的な強さは、ヴィランの犯罪に走ろうとする心を事前に(くじ)きました。

しかし、オールマイトと相打ちとなるほどの力を持っていたオール・フォー・ワンの出現、ヴィラン連合と呼ばれる組織的な犯罪集団の台頭、より強力になっていく個性特異点と呼ばれる現象により、ヒーローが対応できない、あるいは対応できても犠牲が出て今後のヒーロー活動に支障が出るような消耗戦となってしまっています。

ヒーローは元々民間企業と同じ立場であり、中には警察の下部組織と揶揄する人がいることも存じています。何を言いたいかと言えば、彼らは国民の支持を得られないと収入が得られず、困窮した生活を送らざるを得ない現状にあるということです。そういう事情のため、ヒーローは人口の多い都市に流れやすく、人口の少ない地域はヴィランの温床となるという悪循環が起きています。

そこで私はこのヴィラン優勢の現状を打破するため、対凶悪犯罪者制圧部隊──通称HUNT(ハント)の創設を決定いたしました」

 

 総理が僅かに頷く。正面に用意されていたプロジェクターの担当者が電源を入れた。総理と奥に座っている人々の後方のスクリーンに画面が出力され、

 

eroic(ヒロイック)(英雄的な行動で)

phold(アップホールド)(人々を支える)

ational(ナショナル)(国家による)

eam(チーム)(部隊)

 

 と映った。

 ホークスは部隊名をこの瞬間まで知らなかった。ヒーローの形容詞であるヒロイックを入れたり、攻撃的な単語を入れていないことから、政府が頭をひねってなるべく穏便な単語を選ぼうとしたのは想像に(かた)くない。あまり攻撃的な単語を選ぶと非難の的になるのを懸念してのことだろう。だが、それらの頭文字を合わせたHUNTは狩猟という意味がある。穏便な単語を合わせたにしては物騒な部隊名だ。つまり、この部隊名はヴィランに対して向けられた政府からのメッセージに他ならない。

 

「この部隊はスクリーンの通り、我が国の防衛費を使用します。つまり国家が運営する部隊です。そして、この部隊がヒーローと違う決定的な点は、いついかなる場合も国民の命を何よりも優先する点です。そして、国民の命を助けるあるいは守る場合、犯罪者の生死を問いません」

 

 会場内がざわついた。それはそうだろう。国が国民を助けるためなら犯罪者を殺すことを認めると暗に言っているようなものだ。

 

「ショックを受けるのは当然でしょう。これまで我が国ではヒーローが主体的にヴィランを捕まえていたため、ヒーローの理念である不殺が一般的になっていました。どれだけヴィランが凶悪であっても、ヒーローはそのヴィランを基本殺すことができませんでした。しかし、考えてみてほしいのです。命は平等なのは私も同感ですが、民間人の命と犯罪者の命、どちらかしか助けられないのなら、民間人の命を優先すべきではないでしょうか? 犯罪者に対する人道が、時に本当に救うべき命を失うという悲しい結果になってしまうこともしばしばありました。私たちは覚悟を決めなければならない段階に来てしまったのです。断固とした態度で犯罪者を許さず、国民の命と財産を私たちは守らなければなりません。それが国の使命であります。

勘違いしないでいただきたいのですが、犯罪者の命を軽視しているわけではありませんし、命を奪うことを前提にHUNTが行動することは有り得ません。あくまでも最終手段ということをご理解していただきたい」

 

 総理はそこで言葉を区切り、ペットボトルの水を飲んで喉を潤した。

 

「このHUNTの創設につきましては、各大臣とヒーロー公安委員会としか協議していませんので、三日後に臨時国会を召集し、具体的な予算の審議と、我が国で増加しているヴィランによる犯罪行為に対して、他にどのような政策が必要か国会議員全員で考えていくつもりです。

では、ここからは質疑応答の時間となります。質問のある方は手を挙げてください」

 

 記者たちが一斉に挙手を始める。記者たちは首から大きなナンバープレートを下げており、ナンバーで当てる相手を選ぶやり方になっていた。挙手の際にはそのナンバープレートを握り、総理が見やすいようにすること、と会見前に周知が徹底されている。

 

「では、四十八番の方」

 

 総理が四十八番を手に持つ中年の男に向かって、右手の平を上に向けて差し出した。

 中年の男は立ち上がり、同時にマイクを持ったスタッフがその男にマイクを渡す。中年の男はマイクを渡された後、スタッフに無言で軽く礼をして、マイクを口元に持っていく。

 

「対凶悪犯罪者制圧部隊という名前なのですが、対凶悪(ヴィラン)の間違いではないのですか?」

「そこは意図的に凶悪犯罪者という名前にしています。何故なら、テレビ局を占拠した帽子ヴィランに見られるように、もはや凶悪犯罪は『個性』に限らなくなる可能性があるからです。発達した技術や道具を利用しての犯罪者はヴィランの定義に含まれず、対ヴィランとしてしまうとそういう相手への出動ができなくなってしまうため、犯罪者という言葉を使用しています」

「回答ありがとうございました」

 

 中年の男はマイクをスタッフに返し、着席する。

 再び記者たちの手が挙がった。

 

「六十三番の方」

 

 中年の女が立ち上がり、マイクを持ったスタッフがマイクを渡す。中年の女は小声でスタッフに「ありがとうございます」と言った後、マイクを口に持ってきた。

 

「このHUNTという部隊の存在目的は帽子ヴィランが要求として突きつけていた『国土防衛軍』と似通っているように感じるのですが、HUNTはその前身的な立ち位置なのでしょうか?」

「そのようなことは決してございません。HUNTの立ち位置は警察の中の精鋭部隊のようなものをイメージしていただければ分かりやすいです。軍隊としての運用は想定していません」

「回答ありがとうございます」

 

 中年の女がマイクをスタッフに返し、着席。

 記者たちの挙手が相次ぐ。

 

「二十九番の方」

 

 若い女はガッツポーズした後、立ち上がる。スタッフからマイクを受け取り、口元に持っていく。

 

「HUNTは最終的にどれほどの規模の運用を想定していますか?」

「一都道府県最低一部隊を直近の目標としています。日本は四十七都道府県ありますので、最低でも四十七部隊は運用していきたいですね。この辺りの予算は慎重に決めなければならないので、臨時国会で審議します」

「回答ありがとうございまーす」

 

 若い女はマイクをスタッフに返し、着席。

 記者たちの手が挙がる。総理はチラリと腕時計を確認。

 

「次の方で最後にします。十三番の方」

 

 若い男が立ち上がり、スタッフからマイクを受け取る。

 

「帽子ヴィランの佐藤から国土防衛軍の創設とその総帥に任命しろという内容の要求が政府にありましたが、この要求に対し政府はどうお考えですか?」

「そのような要求を呑むつもりは一切ありません! 政府がテロリストの言いなりになるなど有り得ない!」

 

 マイク台を叩きかねない総理の激情に、若い男はたじろいだ。

 総理の後方で座っている各大臣たちの顔からは血の気が引き、その内の一人が「総理! 総理!」と小声で総理を呼んだ。総理はその微かな声に反応し、大臣の方に歩いて近付く。

 

「なんだね?」

「佐藤は頭のネジが飛んでいるイカれたヴィランですよ!? まだ要求の期日まで十日ほどあるのに、早々に答えを出さなくてもよかったでしょうに! あんな質問は適当にはぐらかしとけばいいんですよ!」

「何を馬鹿な! HUNTという強気な政策を打ち出しておいて、ヴィランの要求を断固とした態度で拒否しなければ、国民は結局上辺だけかとガッカリしてしまい、国民の不安を取り除けないではないか! この場ではっきりと我々政府の方向性を伝えることは、きっと正しい! 支持率も明日以降アップ間違い無しだ」

 

 総理はマイク台に戻り、ゴホンと咳払いする。今の質問をした若い男はすでに着席していた。

 

「これで質疑応答を終了させていただきます。最後に、HUNTの部隊長を紹介します」

 

 そこでホークスは端から出てマイク台の前に向かう。実はホークスの前には仕切りがあり、ずっと仕切りに隠れていた。

 ホークスが出てきた途端、会場がざわついた。それは当然で、ホークスは上位プロヒーローに加え、若くして事務所を立ち上げてすぐさま上位に食い込むといった話題性と人気のあるヒーローだからだ。会場のあちこちから「ホークス……?」「ホークスだぞ!」「ホークス!」といった声があがる。

 ホークスは珍しく正装でこの場に来ていた。ヒーロー公安委員長の身だしなみを整えて来いという命令に素直に従った結果である。

 ホークスは一礼した後、マイク台の前に立つ。

 

「どうも! HUNTの部隊長やることになりました! 元ヒーローのホークスです! え〜と、皆さん驚いてますよね? けど、多分俺が一番驚いてますよ! こういうスピーチって意気込みみたいなのを言えばいいんスかね? あ! あと、意気込みの前に、隊員は常に募集してるんで、ヒーロー活動している人とかガンガン入隊してもらえると助かります! ただ、入隊する前にちゃんと犯罪者殺す覚悟は決めてきてください。生温い部隊としてやってくつもりないんで」

 

 会場がシンと静まり返った。ホークスから普段とは考えられないピリピリとした空気が、会場を支配している。

 

「今から意気込みを言います。俺たちはあらゆる手段を用いて、この国に平和を取り戻す」

 

 ホークスの目が会場にある報道カメラを捉える。

 

「ヴィラン連合の死柄木、帽子ヴィラン佐藤、この会見観てるか? お前らと同じところまで堕ちてやったんだ。今まで通り好き勝手できると思うな。これからはこっちが狩る番だ……以上です! ありがとうございました!」

 

 ホークスは頭を下げ、さっきと同じところに引っ込む。

 ホークスの殺気にも似た気迫を浴びせられた会場は、会見が終わるまでずっと静かなままだった。

 

 

 

   ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤とリベンジエッジの面々は応接室で総理とホークスの会見を観ていた。

 ホークスの言葉を聞いた時、リベンジエッジの面々は恐る恐る佐藤の顔を窺った。そこで恐ろしいものを彼らは見てしまう。佐藤が愉しげに笑ったのだ。

 

「イベント盛り沢山でいいねぇ……ますます楽しくなってきたよ」

 

 佐藤はヒーローの情報が載っている本でホークスのページを開く。

 

 ──次のターゲットは彼にしようかな。()りがいがありそうだ。

 

 佐藤は脳内でホークスを攻略するための作戦を考え始めた。

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