ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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記念すべき30話にして、お気に入り登録三千人ありがとうございます。前も言いましたが、こんなにも人気が出るとは思っていなかったので、本当にびっくりしています。自分しか需要が無いと思っていたことは、この作品のタイトルがくっそ適当なタイトルであることからも察することができると思います。もっと良いタイトルを思いついたら変更したいとか考えています。
最後になりますが、お気に入り登録、評価、誤字報告、感想毎回ありがとうございます。特に感想はめちゃくちゃ嬉しいので感謝感謝です。


第30話 鬼畜ゲー

 古びた建物内。

 針間と五人のヴィランがアサルトライフルを組み立て、猿石から入る合図を今か今かと待っている。

 五人のヴィランの内の一人が、針間のアサルトライフルを持つ手が震えていることに気付き、顔をにやけさせた。

 

「ビビってんのかぁ? なっさけね!」

 

 針間はムッとして、からかったヴィランを睨んだ。

 

「今から起きることがどれだけ恐ろしいか、理解もできねえのか。羨ましいぜ。佐藤さんと気が合うかもな」

「ははは! 佐藤は気前がいいし、礼儀もなってる! それにやることが面白え! だから俺らは佐藤に従う! そうだろ!? お前ら!」

「おう!」「イェーイ!」「フゥー!」「佐藤バンザーイ!」

 

 ヴィランの言葉に、他の四人のヴィランが拳を突き上げ、歓声をあげた。針間はため息をつく。

 

「まるでお祭り気分だな」

「気分じゃねえよ。正真正銘お祭りだろうがよ。派手にぶちかまそうぜ! ヒーローどもに!」

 

 テンションの高いヴィラン五人を見ていると、針間の手の震えはいつの間にか止まっていた。

 

 ──これからやることの重圧で縮こまってるよりはマシか。

 

 ここまで来たら、佐藤の指示通りやるしかない。そして、そうすることで佐藤を助けられるなら、それも有りかと思う。佐藤はただのごろつき同然のヴィランだった俺たちに大金を与え、物資を与え、何よりも俺たちに意味を与えた。だから俺たちは、佐藤と共に戦える。

 針間は猿石の合図が来るまで、アサルトライフルの点検を続けた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 警察とヒーローが佐藤のハイジャックを知ったのは、幸か不幸か墜落する前だった。理由は飛行計画によって決められていた飛行ルートを大幅に外れたこと。それにより、事前に飛行計画を受け取っていた航空管制機関が不審に思い、無線による通信を試みる。しかし、応答無し。旅客機は操縦士と副操縦士の二人で操縦を担当しているため、二人とも無線に出れないほどの体調不良になるとは考えにくい。となると考えられるのは……。

 管制官が思考を巡らしている間も、飛行機は予定ルートからどんどん外れていく。自動操縦(オートパイロット)にしているなら、なおさら有り得ない。自動操縦にしたら、予定ルートに戻るように操縦するからだ。つまり、誰かがこの飛行機を操縦している……。

 なんにせよ、飛行機は仙台に向かうルートから東京に向かうルートに変更しており、最悪の可能性を考えればこの飛行機はハイジャックされている。

 だから、管制官はまず警察、それも最終的に警視総監まで繋がる緊急の連絡先に連絡。その連絡からハイジャックの情報を知った警視総監は、すぐさま非番も含めた警察官全員へハイジャックの情報がいくよう指示を出し、さらにヒーローのHN(ヒーローネットワーク)の緊急通知にハイジャックの情報を入れた。もちろん優先度は最高のレッドライン。それと同時にマスメディアへ情報を流した。それにより、ハイジャックの情報はヒーローのみならずマスメディアにも伝わることとなる。

 

 

 雄英高校。1―A教室。今は昼休み前の授業中であり、ミッドナイトが担当していた。そんな中、ミッドナイトの持つ携帯がアラーム音を鳴らす。HNの緊急通知。それも重要度が最大の場合のアラームの鳴り方に、ミッドナイトは授業中であるにも関わらず、携帯を取り出して通知を見る。通知を見た途端、ミッドナイトの顔が青ざめていく。

 生徒たちはそんなミッドナイトの様子を不安気に見守っている。ミッドナイトは迷った。しかし、ハイジャックの情報はマスメディアにも知らせてあると補足に書かれていたため、生徒たちに教えても問題は無い。

 

「今、警視総監からHNに情報が流れてきたわ。仙台着の旅客機が……ハイジャックされたって」

「ハイジャック!?」「え!? 誰がやったんだ!?「目的は!?」「どこに向かってるの!?」「やべぇよやべぇよ……」

 

 教室が生徒たちの困惑と絶望の声で埋め尽くされた。

 

「ハイジャックされた旅客機はルートを東京に変更したみたい。つまりこっちに向かって来てるってわけ」

「だ、誰がハイジャックを……?」

 

 緑谷の問いに、ミッドナイトは再び携帯を見る。

 

「さっきの情報に、中部国際空港のヒーローが情報を追加したわ。佐藤似の男性が仙台着の旅客機に搭乗したと。おそらくだけど、佐藤がハイジャックしたようね」

「はぁ!? 佐藤そっくりなヤツを通したのかよ! そこのヒーロー佐藤と裏で繋がってんじゃねえか!?」

 

 爆豪がそう言った。言葉にありったけのトゲがある。暗にヒーローに仕事しろやと言っているのだ。

 

「そのことだけど、そこのヒーローも最初は佐藤だと疑ってたみたいよ? ただ、話を聞いていく内に別人にしか思えなくなったって、その情報のついでに弁解してるわね」

 

 ミッドナイトはどんな理由を並べても、ヒーローは結果が全てだと理解している。だからこそ、弁解なんて言葉を使った。

 

「別人にしか思えなかったって、どういうことですの?」

 

 長い黒髪をポニーテールにしている少女──八百万百(やおよろずもも)が呟いた。

 

「その時のヒーローと佐藤の動画を撮影してSNSにあげてる人がいるみたいだから、気になるならその動画を見てみればいいんじゃない? それより……もう授業どころじゃないわよね」

 

 ミッドナイトの最後の呟きに、生徒たちは何も言わなかった。だが、生徒たちの落ち着きが無くなっていることを、ミッドナイトは見抜いていた。生徒たちはハイジャックの情報と、それに対するヒーローの対応を知りたくて仕方無いのだ。

 ミッドナイトは手に持つ携帯で校長に電話。携帯を自身の耳に当てる。その姿を生徒たちは不思議そうに見ていた。

 ミッドナイトの電話が繋がる。

 

「あ、校長先生、お疲れ様です。一つ確認したいことが……」

『授業を終了して、昼休みに入ってもいいかっていう提案でしょ? 例のハイジャックの報道を観れるように』

「は、はい! その通りですが……」

 

 ミッドナイトは校長の言葉に驚いた。だが、冷静に考えればミッドナイトと似たような提案を先にした他の先生がいたのだろう。他の先生がミッドナイトと同様の行動をしても何ら不思議ではない。

 

『もちろんいいよ。授業より、そっちの方が生徒たちにとって得るものは多いだろう。たとえどんな結果で終わろうとも……ね』

 

 ミッドナイトは校長の言葉に隠されている意図を察する。ヒーロー側が何もできず、今より世間からのヒーローへの目が冷たくなる可能性は十分にある。というより、ハイジャックを防げなかった時点でヒーローに対する批判は避けられない。それでも、そんな立場に置かれているプロヒーローがどんな選択をするか、その姿を見ることは必ずヒーローの卵たちのプラスになる。校長はそう信じているのだ。

 

「分かりました、ありがとうございます。では、失礼します」

 

 ミッドナイトは電話を切り、携帯をしまった。生徒たちに向き直る。

 

「授業はここまでとし、今から昼休みに入るわ! 当然携帯でテレビを観てもオッケー! というより、観なさい。あなたたちに大事なことをきっと教えてくれる筈よ」

 

 ミッドナイトはそれだけ言うと、さっさと教卓の上の教材を片付け、駆け足で教室から出ていった。おそらくミッドナイトも職員室のテレビでハイジャックがどうなるか観るつもりなのだろう。

 ミッドナイトが居なくなった教室。数秒生徒たちはミッドナイトの慌ただしさに面食らって呆然としていたが、ハッと我に返るとそれぞれ携帯を取り出しニュースのチャンネルにする。携帯でテレビが観れない生徒たちは、テレビが観れる生徒に一言言って一緒にテレビを観始めた。

 緑谷も携帯を操作し、国立劇場周辺を報道ヘリでライブ中継しているニュースのチャンネルに合わせる。

 

「緑谷、一緒に観てもいいか?」

 

 左半分が赤髪、右半分が白髪の少年──轟焦凍(しょうと)が緑谷の席に来て言った。その右手には椅子を持っている。彼はエンデヴァーの息子である。

 

「もちろんだよ」

 

 緑谷は笑顔で応え、体を少しだけ右に動かした。轟が緑谷の横に座る。

 同じニュースを全員観ているため、教室中に女性アナウンサーの声が響き始めた。

 

『たった今入ってきました情報によりますと、仙台着の旅客機を佐藤と思われるヴィランにハイジャックされたようです。ハイジャックされた旅客機は東京へとルートを変え、真っ直ぐ向かって来ています。それと今、国会議事堂では臨時国会が開かれており、多数の国会議員が参加されています。これは偶然なのでしょうか? もしかしたら……もしかしたら……この予想は私の間違いであってほしいと心から願うのですが、ハイジャック犯は、佐藤は旅客機を国会議事堂に突っ込ませるつもりかもしれません! 国会議事堂にいる方及び周辺にいる方は早く国会議事堂から避難されますようお願いします! もう一刻の猶予もありません! ああ、神さま……どうかお助けを……』

 

 悲痛そうに顔を伏せる女性アナウンサー。彼女はアナウンサーとして最高のパフォーマンスをした。観る人間の大部分が望むものを提供している。

 緑谷は国会議事堂に旅客機を突っ込ませるかもしれないという言葉を聞き、確かにそうかもしれないとショックを受けた。だが、続くアナウンサーの言葉には少しムッとする。

 今信じるべきはヒーローや警察といった治安を守る職業の人々であり、その人たちを差し置いて神さまへ祈るとは一体何を考えているのか。おそらくそっちの方が悲劇のニュースとして相応しいと判断してだろう。緑谷は周囲を見渡すと、他のクラスメイトも同様の感情を抱いているようで、少しホッとした。

 緑谷がふと轟の方を見ると、轟は握り拳をもう片方の手で包みながら、テレビを食い入るように観ている。そこで思い出した。国立劇場周辺の警備にはエンデヴァーがいると。SNSでついさっき話題になっていた。

 

「こいつらを見返してやれよ……!」

 

 轟が祈るように、だが力強く呟いた。

 緑谷は視線をテレビに戻す。

 

 ──皆さん、頑張ってください。

 

 緑谷も内心でヒーローと警察にエールを送った。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 国立劇場周辺の警備チームにハイジャックの情報が入ってきたのは、ミッドナイトといった現場にいないヒーローたちより少し早い。

 ホークスはこの情報を入手した時、やられたと思った。要求に従わなかったヒーローへの報復を東京に限定し、佐藤が積極的に姿を見せていた理由。つまり、ヒーロー側に『佐藤の行動範囲は東京』だと誤認させるためのブラフであり、ここ一番の時の東京以外での作戦を確実に成功させるための布石だったのだ。

 次にホークスが考えたのは、ハイジャックした目的である。これまでの佐藤の情報と戦闘スタイルを踏まえつつ、ハイジャックした旅客機で何をするつもりか。

 

「……マジかよ」

 

 数秒考え、ある結論に達したホークスの顔から、血の気が引いていく。

 ホークスの達した結論。それは、国会議事堂に旅客機を突っ込ませるという奇しくも女性アナウンサーと同様の結論だった。

 その結論に達したホークスの判断は早かった。

 

「皆さん! この作戦の現場責任者は俺です! 俺の指示に従ってください!」

 

 インカムに飛び交う戸惑いの声と怒号。ホークスはそこに割り込み、怒鳴り声に近い音量で声を出した。うるさかったインカムが静かになる。ホークスはその結果に少し満足し、少し冷静さを取り戻した。

 

『……で、現場責任者どの、この後の指示は?』

 

 エンデヴァーの声。若干皮肉っぽく響いた。かといってホークスはイラつかなかったし、むしろ感謝した。素直に従ったらヒーローとしてのプライドが傷つくが、反発していても何の得も無い。そんな空気の中、実質的なナンバーワンヒーローであるエンデヴァーが渋々ながらもホークスの指示を仰ぐという行動は、他のヒーローたちにとっては気が楽になるし、エンデヴァーがホークスを立てることでホークスの指示にヒーロー側が従いやすくなる。エンデヴァーはそこまで計算してそう言ったに違いなく、やっぱりずっとオールマイトを追いかけ続けたヒーローだけはあると、ホークスは改めて認識した。

 

「まずは今後の佐藤のプランについて、俺の予想を言います。と言っても、単純です。ハイジャックした旅客機を国会議事堂にぶつける。それだけです」

 

 ホークスの言葉を聞いた後、インカムには唸り声に似た音がいくつも入った。確かに単純だが、かと言って阻止する難易度は最難関だろう。あまりにも絶望的な佐藤のプラン。

 

『クソったれ! 早く国会議事堂に向かわねえと!』

 

 そんなインカムの声と共に、ホークスの視界に国会議事堂方面に駆けていく三人のヒーローの姿が映った。ホークスはその姿を目で追い、冷や汗が出た。

 その三人のヒーローの行く先の建造物。少し古びた建物からいきなり六人飛び出し、その三人のヒーローを銃で射殺したのだ。ヒーローを射殺したら、すぐさまその六人は国会議事堂の方に走り去っていった。

 

 ──待ち伏せ……だと……!? てことは……。

 

 ホークスの頭の回転の早さが、出した結論を凄まじい速さで修正していく。犯行予告。午後一時という犯行時間。国立劇場という場所の指定。国立劇場から国会議事堂の間に伏兵の配置。そして、わざわざ早めに予定ルートを逸れた理由。もし佐藤が本気で旅客機による国会議事堂への攻撃を成功させるつもりなら、ぎりぎりまで予定ルートを守り、そこから一気にルート変更して国会議事堂に突っ込めば、情報が駆け巡って混乱している隙をつけただろう。だが、佐藤はわざわざ早めに予定ルートを逸れて、早めにハイジャックした情報がヒーロー側にいくようにした。

 ホークスは奥歯を噛みしめる。佐藤に対しての怒りだ。国立劇場にヒーローを集め、国会議事堂方向に待ち伏せを配置する。つまり、佐藤は暗にこう言っている。『自分を捕まえるために集めた人的資源(リソース)の全てを使って、国会議事堂に旅客機が突っ込むのを止めてみろ』と。

 これは佐藤がヒーロー側に強要したゲーム。ヤツにとっては、こんな大掛かりな作戦も単なる遊びに過ぎない。そして、このゲームのクリア条件は、あと七、八分の間に犠牲者ゼロで旅客機が国会議事堂に突っ込むのを防ぐこと。

 

 ──鬼畜ゲー過ぎるだろ!

 

 ホークスは近くに立て掛けていたアサルトライフルを掴み、思わず舌打ちした。




当初の構想では、ヒーロー側が抵抗する間もなく飛行機を突っ込ませる予定でしたが、私の内なる佐藤さんが『こっちの方が面白いよ』と囁いたため、ヒーロー側に僅かな希望を残しました。
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