ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第4話 クリア条件

 佐藤はジェットパックを背負い、倉庫を飛び回っていた。五分ほど飛んでいると警告音が鳴り始め、『あと一分で飛べなくなります。着地してください』と抑揚の無い女の大声がスピーカーで流れ出す。はっきり言ってめちゃくちゃうるさい。だが、安全性を考えればこういう機能を付けるのは合理的だ。

 佐藤は噴射の方向を制御するハンドルを制御し、倉庫の床に着地。

 

「こんな小型のジェットパックがあるなんて、凄い技術力だなぁ。ただ、飛行時間は短いけど」

 

 ジェットパックを外し、次に胴体を覆うアーマーを装着。

 

「針間君、思いっきりやっちゃって」

「いいのかよ」 

「うん」

 

 針間は右腕の毛を『個性』で硬化させる。ハリネズミのような、無数の硬いトゲに覆われた右腕になり、そのまま佐藤の胴体にラリアット。佐藤は吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

 佐藤は起き上がろうとしたが、衝撃で肋骨を骨折し、上手く起き上がれない。アーマーを見ると、傷一つ付いていなかった。どうやら防御力は最高級だが、衝撃の吸収力は全く考慮されていない。

 佐藤は腰から拳銃を抜き、こめかみに発砲。黒い粒子に包まれながら復活。平然と起き上がり、アーマーを外した。

 

「これは私には合わないな」

 

 佐藤はこのように、片っ端からヒーロースーツに使用されているアーマーやアイテムを試し、役に立ちそうかどうか熟考していた。それをする佐藤の表情は愉しげで、まるでおもちゃを与えられた子どものように上機嫌。

 

「佐藤さんさぁ、そろそろ紹介してくれてもいいんじゃない? 佐藤さんを助けた透明になれる味方」

 

 近くでそんな佐藤の様子を見ていた沙紀が言った。

 

「彼はシャイでね、無口なんだ。筆談しかできない」

 

 佐藤はIBMを使用して異形を傍に作りつつ、メモ用紙とペンをその異形に渡した。異形はメモ用紙とペンを受け取り、『よろしくおねがいします』と少し汚い字で書いた後、ペンを佐藤に投げ、メモ用紙を真っ二つに破った。異形が見えない彼女らの目には、浮いているペンがメモ用紙に文字を書いた後、いきなり佐藤にペンを投げたうえに、書いたメモ用紙を破るという攻撃的な態度に映り、困惑した。友好的なのか、反抗的なのか、判断がつかない。とりあえず傍にはいるようだという認識だけが確たる事実として彼女らの中に残った。佐藤はペンをキャッチし、やれやれという風に首を横に振った。これは佐藤の一人劇場であるが、透明の味方が扱いの難しい人物だと思わせておけば、藪蛇をつつこうとする人間はいなくなる。

 佐藤の狙い通り、沙紀とその周囲の者たちは透明の味方について、それ以上触れようとはしなかった。

 

「佐藤さんって銃を使うけど、珍しいね」

「ん?」

「ヴィランは基本的に自分の『個性』を活かす形で戦うから、そんな『個性』の介入しようもない銃を使うのは恥なんだよ。それに佐藤さんの『個性』、めっちゃ強い『個性』じゃん。銃なんか要らないって」

「いや、使うけど」

「なんで銃にこだわるの?」

「別にこだわってないよ。殺しやすいから使う。もっと殺しやすい武器や道具があったら、そっちを使う。状況、目的に応じてね、使う武器と道具を選ぶんだよ。普通でしょ」

「いやいやいや、ヤバいってぇ……それはヴィランの枠飛び出ちゃってるよぉ……」

 

 沙紀は顔を引きつらせている。他の者たちも同様の表情。

 佐藤は首を傾げた。彼らが何故こんな当たり前の話にショックを受けているのか、理解できない。

 

「そういえば、君たちはどうしてヴィランに?」

「この『個性』がヒーロー向きだと思うわけ?」

 

 沙紀が佐藤の目の前で爪を伸ばしてみせる。

 

「ヴィランを殺せる良い個性だよ」

「佐藤さんはずっと捕まってたから知らないだろうけど、ヒーローはヴィランを殺しちゃダメなんだよ。基本的には無力化。どうしても殺すしかない、または人の命を救うためやむを得なく……とか、必ず理由が必要になる」

「つまり……ヒーローになれなかったからヴィランになったの?」

「……そうよ。てか、ヴィランになるヤツは大抵そうだし」

「ヒーローだけが『個性』を心置きなく使えんだよ。不公平だよなァ」

 

 金髪の少年(さとし)が不機嫌そうに口を挟んだ。

 

「君はまだまだこれからだろう。ヒーローになれるチャンスはまだまだあるよ」

「……アンタからそんなこと言われるなんざ考えなかったぜ。あんなこと平然とするアンタから」

「一体どれのことかな」

「自分を解体して臓器売ってることだよ。あんなモン、『個性』を研究し、突き詰めていかねェと思いつかねェよ」

「まぁ、私は政府に実際に研究されてたし、研究成果も見せられたからね」

「それと自由になった後で同じことをするのは別の話さ。強制的にやられたんじゃなく、自分の意思で『個性』を私的な理由で使った。俺も同じさ。『個性』を制限せず、『個性』を誰よりも磨きたい。そのためなら、人死になんざ気にしてられるか」

「なるほど。じゃあ、これからも『個性』のためにガンガン()ろうね!」

「お、おう……」

 

 (さとし)は困惑した。(さとし)はこの話を初めてしたわけではなく、むしろ自分にヒーローにならない理由を尋ねる人間に得意気に話していたが、いつも否定的な反応をするか、曖昧な反応をするかで、佐藤のような肯定的かつ積極的な反応をする相手は初めてだったからだ。

 

 ──実に面白い。

 

 その一方で、佐藤は彼らの思考を興味深く考えていた。彼らがヴィランになった理由はヒーローになれなかったから。彼らがヒーローになりたかった理由は『個性』を心置きなく使うため。これらから推理するに、ヒーロー以外で『個性』を私的使用するためには複雑な手続きが必要か、最低限の『個性』使用は違法だけど黙認されているというかなりグレーな状況にあるか、あるいはそのどちらもか。

 

 ──私をここに連れてきた少年も、人気(ひとけ)が全くないところで『個性』を使ってたなぁ。

 

 つまり、答えは明らかだ。『個性』は政府によって厳しくルール化され、抑圧されている。だからこそ、『個性』を好きに使えるヒーローが人気なのであり、ヒーローになりそこねた者はヴィランに堕ちやすくなる。

 佐藤は笑みを浮かべた。この日本を理解したからだ。そしてその弱点(ウィークポイント)も。

 

 

 

 佐藤は倉庫から事務室へと移動した。元は工場のため、事務室も設置されている。

 事務室では、佐藤と組むことを決めた痩せた長髪の男がパソコンで動画を観ていた。ヒーローが人命救助している動画。佐藤が来たことに気付くと慌てて動画を閉じ、前に開いていたヴィランのニュースサイトが出てきた。

 彼は猿石誠といい、この廃工場は彼の叔父から売り手が見つかるまで貸されている、つまりは管理人としてこの廃工場を使用することを許されている立場だ。だからこそ廃工場であっても電気、水道、ガスが使用できる。そして、彼は『無個性』だ。そこは正直期待外れだった。

 

「あ、佐藤さん、あの、どうしたんですか?」

 

 彼は目を見て話さない。そして、私を恐れている。

 

「いや、用ってほどでもないけど、お礼が言いたくてね」

「いえいえいえ! とんでもありません! むしろ佐藤さんのおかげでお金がどんどん増えて……。前の二億も僕たち五人で分けていいって言ってくれて、みんなとても喜んでましたよ! でも、ホントに佐藤さんは報酬無しで良かったんですか? あんなに何度も痛い思いをしたのに」

「気にしなくていいよ。むしろ銃器全部とヒーローアイテムの優先的選択権利を貰ったから、私の方が得してる」

「そんなことありません! でも、そう言っていただけると気が楽になります。佐藤さんはすごいです。あんなスゴい『個性』をあんな風に使える覚悟と勇気。僕には『個性』が無いし、『個性』があっても佐藤さんみたいな使い方はできません」

 

 ちなみに佐藤がどうやって『臓器』のコピーをやっていたかといえば、『亜人』の特性である『復活時回収範囲外にある部分は新しく作られる』というものを利用したためだ。つまり死ぬ直前に取り出した臓器を回収範囲外まで移動させることで、臓器のコピーを作っていた。

 

「そんなことないよ。猿石君だってパソコンにすごく詳しいし、ハッキングやプログラミングの腕もすごいじゃないか。君がいたから短時間でヒーローのスケジュールやパトロール範囲が分かった」

「僕は『無個性』だから、こんなことしかできないんですよ」

「…………」

「『個性』持ちの人だって、勉強すれば僕と同じことができます。でも僕は、誰もができることしかできないんです」

「……それは違うんじゃないかな」

「……え?」

「確かに私は『個性』持ちだよ。でもただの死なない能力だ。もっと言えば、幼い頃に死ななければ私はずっと『無個性』だ。私が思うに、『個性』には二タイプあると思う」

「二タイプ?」

 

 猿石は首を傾げた。

 佐藤は頷く。

 

「そう、先天タイプと後天タイプの二タイプだ。これで分類するなら、私は死んで『個性』が発現したんだから、後天タイプ。逆に鎌井君や針間君は先天タイプ。何が言いたいかといえば、生まれた時に『個性』を持っていなくても、生きていく間に『個性』を手に入れることができる。君は確かに生まれた時は『無個性』だった。でもそれに腐らず努力して、高いプログラミング能力を身に付けた。このプログラミング能力はもう『個性』と言っても遜色ないと私は思うな」

「佐藤さん……」

 

 佐藤は猿石の顔を見ると、猿石の頰に涙が伝っていた。

 

「僕、僕、今までそんな風に言ってもらえたこと無くて……。ずっと『無個性』の悪あがきだって言われてたから」

「上辺しか見ない人たちの言葉なんて気にしなくていいよ。これから一緒に見返そう!」

「はい!」

 

 猿石は初めて佐藤と視線を合わせ、笑みを浮かべた。

 佐藤は猿石の肩を軽く叩く。これで彼は私を信用した。駒として使いやすくなる。

 佐藤は典型的なサイコパスだ。佐藤にとって会話は他人をコントロールし自分の支配下に置く手段の一つのため、相手が気に入る言葉を平然と、時には感情を込めて言う。これも彼のゲームだ。

 

「さ、佐藤さーん!」

 

 そこで沙紀が慌てた様子で佐藤に駆け寄ってきた。

 

「何?」

「あ、あの、あのあの、ヴィ! ヴィラン! ヴィラン連合の人が! さ、さささ、佐藤さんに会いたいって、こ、ここここここに!」

「……私に会いたいって?」

 

 コクコクコクと壊れたおもちゃのように頷き続ける沙紀。

 佐藤は猿石に手を振って別れを告げた後、ヴィラン連合の人間が待っている場所に向かった。

 ヴィラン連合の訪問者はマスク男だった。誇張ではない。顔の上半分がグレー、下半分が黒のマスク。ちなみに着ている服はタイツのようなピッチリとした黒のラバースーツ。両腕に腕輪のようなものを付けている。

 そんな男が倉庫に急遽持ってきた椅子に座りつつ、倉庫内をキョロキョロ見渡していた。

 佐藤は倉庫への扉を開け、マスク男に軽く頭を下げる。

 

「どうも、私が佐藤です」

「めっちゃ普通! 全然イメージとちげえ!」

 

 腹を抱えて笑うマスク男。それを周りにいるリベンジエッジの面々が緊張した様子で見ている。それは当然で、このマスク男は一人でここに来た。護衛を連れずに。それは襲われても一人でなんとかできる自信の現れか、ただの能天気か、そのどちらかしかない。もちろんリベンジエッジの面々は前者だと考えている。

 

「俺はトゥワイスってんだ! 早速訊きたいんだが、自分をコピーするのってどんな気分だ?」

 

 ──コピー? なるほど、やはり臓器売買のカラクリをそう考えたか。計算通りだね。

 

 佐藤はトゥワイスの向かいに置いてある椅子に座った。そして、リベンジエッジの面々に向かってハンチング帽のツバを軽く右手で触る。これは佐藤の『個性』を不死身だと言わないようにという指示だ。リベンジエッジの面々は微かに頷いた。

 

「別に何も思わないよ」

「そんなわけねぇだろ! だって自分だぜ! 自分が目の前に出てきて、何とも思わねえのか!?」

「思わない」

「だから、なんで!?」

「それは自分じゃないからね」

「いやいや、そんな話してんじゃねえよ。その自分だって実は自分が生み出したコピーの一人かもしんねえっていう話をしてんだよ!」

「それも含めて、だよ。自分がコピーだったとしても、自分は自分。自分の意思で動ける。それだけで自分以外は他人である根拠になる」

「オリジナルは興味無いと?」

「コピーした一人一人がオリジナルだよ。だから、コピーする場合は責任を持たないとね。新たな命を生み出した責任を」

「責任……」

 

 トゥワイスが呼吸を整え、顎に手を当てる。トゥワイスは倍にする責任など考えたこともない。何故なら、自分が創造主だからだ。倍にしたモノは『個性』の力によるものだから、自分と同等はあり得ない。だからこそ、自分と同等になろうとするコピーが許せず、自分がオリジナルだと思う自分も実はコピーなのではないかと不安になっている。

 その点、佐藤は明確な意見を持っている。すなわち、自分は自分。それ以外はコピーであろうと他人。だからこそ、迷わない。

 トゥワイスは個人的に訊きたかったことが訊けたため、訪ねた目的の半分は果たした。後は残りの半分の目的である、ヴィラン連合の味方にするメリットがあるかどうか判断し、メリットがあるならヴィラン連合への引き込みをすること。

 

「なぁ、佐藤。何が目的でヴィランになった? こんなに武器や金を集めて、何がしてえ?」

 

 トゥワイスの言葉に、リベンジエッジの面々も息を呑む。彼らは信じている。佐藤は四十年間政府に人体実験されてきたと。そんな佐藤の目的が気にならないわけがないし、実際にこれだけの武器と金を文字通り自分を削って手に入れている。ささやかな目的なわけがない。

 佐藤は微笑を浮かべる。

 

「ついさっき決めたよ。この国からヒーローを一人残らず消す」

「「「「「「……え?」」」」」」

 

 奇しくも、六人分の困惑した声がハモった。

 

「今、なんて言いやがった?」

 

 トゥワイスが驚愕の目で佐藤を見ている。

 

「トゥワイス君、この国の現状を見よう。『個性』の恩恵をヒーローが独占している現状を。今や総人口の八割はなにかしらの『個性』を持っている。そして、この割合は時が経つごとにどんどん増えていくだろう。もはやヒーローの受け皿だけでは保たなくなってきている。私はヒーローに縛られたこの国を開放したい」

 

 拳を握りしめ、力説する佐藤。

 

「……ヒーローを消したら、どうする?」

「その時は……アメリカにでも行こうかな」

「はぁ!?」

 

 理解できないという目を向けてくるトゥワイス。だが、理解できなくて当然だ。

 だから、佐藤は理解できるように教えてやろうと思った。

 

「トゥワイス君はゲームをプレイしたことはあるかな?」

「は? なんだよいきなり。ねえけど、知ってはいる」

「私はね、クリアしたステージは基本的に遊ばないんだ。最近はボスを倒したら裏ボスがいるみたいな構成があるみたいだけど、大体クリア済みのステージって簡単になってるからさ」

「……ゲームだって言いてえのか? この国からヒーローを一人残らず消すのが、ゲームだと」

「それがこの(ステージ)のクリア条件だよ」

 

 佐藤がそこで愉しげな笑みをする。

 トゥワイスは耐え切れず、椅子を立った。

 

「俺らはな! 遊びでやってんじゃねえんだよ! 本気で俺らの居場所を作ろうとしてんだ!」

「そう。まぁ、考えといてよ」

「……何をだ?」

「私のゲームをプレイするかどうか。ただし、プレイする場合でもコントローラーは私が持つ。これが条件。ゲーム名は、そうだな……『ヒーロースレイヤー』だ」

 

 トゥワイスは舌打ちし、倉庫から出ていく。

 

「また会おう、トゥワイス君。今度はゲームで」

 

 トゥワイスの背後に佐藤がそんな言葉を投げかけたが、トゥワイスは無視した。

 佐藤がこの国でするゲームは決まった。明確な目的ができた佐藤は、これからこのゲームのクリア条件を満たすため、より一層奔走することになる。




読者さまにお知らせ。

『原作キャラ死亡するかも』という曖昧なタグを今まで使用してきましたが、この先の構想を考えると死亡が確定しているキャラがいることに気付いたので、タグを『原作キャラ死亡』に変更します。
佐藤相手なら仕方ないと思ってくださる方は、引き続き読んでもらえると嬉しいです。
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