ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第45話 ギャングオルカVS佐藤

 佐藤は拳銃の照準をギャングオルカに合わせつつ、思考を巡らす。

 

 ──まず考えないといけないのは、手持ちの武器であの肉体にダメージを与えることはできるのかってことだね。

 

 屈強な肉体を持つヒーローを実験台にして銃の有効射程を確かめたことはある。その時の実験で、拳銃の有効射程は二メートルということが分かった。だが、それはあくまで人間の話。明らかに人間の姿では無い生物に対し、この情報がそのまま使えるかといったらそうではない。見るからに分厚い筋肉と皮膚で覆われてそうなシャチの姿なのだ。人間と同じ肉体だと思って戦えば計算を狂わされるだろう。

 佐藤はすぐ近くの建物内に逃げ込む。多人数を相手に広い場所で戦うのは不利すぎる。多人数という利点を最大限に活かせるからだ。だからこそ戦場を建物内という狭所に移すことで、まず佐藤は多人数の利点を潰すことにした。この誘いに乗るかどうかは賭けになるが、乗らないなら乗らないで屋上からヒーローたちの動きを見て逃走ルートを決めることができる。

 自分より敵の方が多勢の場合、自分の動向を隠しつつ奇襲と撹乱を繰り返し、敵の戦力を削いでいくゲリラ戦が有効であるということを佐藤は理解している。逃げながら戦うというのは恥ではない。立派な戦術の一つだ。

 この建物はフロアごとに様々な会社が入っているようで、建物に入ってすぐのところに何階になんの会社が入っているかの案内がある。佐藤はそれをチラ見しつつ、走る足を止めない。

 走っている途中、オフィスの扉前を通り過ぎた。一部が透明になっていて中が見える扉で、佐藤はそこから中を見て、人の姿が無く消灯されていることを一瞬で理解すると、通り過ぎた扉から一歩進んだところで力強く床を踏み付け体の慣性を無理やり殺す。振り返り、一歩戻って通り過ぎた扉を開けた。中に入る。どこにでもあるオフィスだ。デスクが並び、デスクの上にはパソコン、文房具一式、ファイル、書類があり、近くにプリンターが置いてある。室内には仕切りがあって休憩室が作られていた。慌ててオフィスから出ていったらしく、書類が足下に散らばっている。ハイジャックが明るみに出た時に東京や航空機の進路先は避難勧告が出たのか、それとも自主的に避難したのか、佐藤は分からない。室内の状況を見るにおそらく前者だが、今の佐藤にとっては無駄な情報だ。そんなことより、もっと大事な物がここにある。

 

 ──ここにある物を使えばシャチ君を殺せるかもねぇ。

 

 佐藤は唇を歪めた。

 

 

 ギャングオルカの作戦は実にシンプルだった。

 ギャングオルカの個性は『シャチ』であり、その中の一つに超音波を発生させて相手の動きを麻痺させるというものがある。それによってヴィランの動きを止め、サイドキックたちが拘束用のヒーローアイテムや『個性』で確保する。そういう作戦。だが、その作戦がいきなり崩壊しようとしていた。

 

「成る程、厄介な相手だ」

 

 並みのヴィランであれば、頭であるギャングオルカを狙って戦いを挑んでくるか、それとも恐れをなして逃げ出すかのどちらかだろう。だが、逃げるにしても佐藤のように建物に逃げる者は一人もいないと断言できる。そこに逃げ道が存在しないことはどんなに頭が悪くても本能的に理解できることだからだ。

 しかし、佐藤は建物の中に逃げた。つまり闘志は全く失われておらず、逃げることしか頭に無い状態じゃない。むしろ建物に誘い込み殲滅するという攻めの一手。

 

 ──これまでの佐藤の行動からして、誘いに乗ることのリスクは高い。だが、建物という狭所では透明の物質を操作するにしても限定される。逃走も困難。

 

 もっと言えば、佐藤はハイジャックからこの瞬間まで、落ち着いて物資を補給する時間と場所も無かった筈。そのことは、前の戦闘で佐藤がアサルトライフルを好んで使用していたにも関わらず、今回の戦闘では拳銃とナイフしか構えていないことから推察できる。佐藤がアサルトライフルを背負ってもいないのも確認済み。佐藤にはベルトの部分で結んで固定しているハンドバッグがあるが、あの大きさではアサルトライフルを分解しても入らない。

 

 ──佐藤の物資は間違いなく枯渇している。これは佐藤を確保できる千載一遇の好機。

 

 それに、佐藤の『個性』の一つはミルコが言うには条件付きの『高速再生』らしい。その条件はある一定以上の肉体的損傷のようだが、それが正しい情報であれば、例えば上階から即死しないように跳んで逃げるなんて芸当が可能。普通のヴィランなら籠城になる場面が、佐藤にとっては逃走もできる籠城となるのだ。その選択肢一つ増えるだけで、攻撃側は攻めざるを得ない状況となる。

 

 ──誘いに乗るなと指示を出したが、誘いに乗らなければならないようだな。

 

 強者とは、力の強さだけではない。いかに自分の土俵に引きずり込み、有利な状況に持ち込むか。そういった頭脳も強者に当てはまる。その点で言えば、佐藤は頭脳と力の両方を持っている強者となる。

 ギャングオルカは微かに笑った。体が武者震いする。強者との戦闘は望むところだ。

 ギャングオルカは佐藤が建物に逃げ込んでから約十秒でここまでの思考を行った。周辺にいるギャングオルカのサイドキックたちは佐藤を追うべきか、それともギャングオルカの指示に従って佐藤を追わないべきか、佐藤の入っていった建物とギャングオルカを交互に見ながら指示を待っている。

 ギャングオルカは彼らに向けて『建物内に突入する』とハンドサインをし、続けて『自分が先頭に立つ』とハンドサインを送った。サイドキックらは戸惑った表情をした後、ギャングオルカの意図を察して頷く。全員耳栓をしているため、ハンドサインが伝達方法としては最適。ギャングオルカのサイドキックたちは必然的に耳栓を付けての現場が多いため、こういった連携は朝飯前だ。

 ギャングオルカはサイドキックたちの先頭に立った。サイドキックたちはギャングオルカの背後から建物内を窺っている。

 ギャングオルカが先頭に立った理由は単純な肉体的強度の問題だ。要するに、佐藤に不意打ちされたとしても一番生存確率が高い者が先頭に立つという至極当たり前の判断。

 

 ──佐藤。お前は一つミスを犯した。

 

 確かに狭所は一人で多数を相手する場合のセオリーだ。だが、ギャングオルカの超音波は狭所において最大限の威力となる。広い場所での超音波は威力が周囲に分散されるが、狭所では壁によって反射し威力分散がほぼ無い。更にギャングオルカは先頭に立っている。味方への超音波の影響は最小限。

 佐藤を逃がさないよう駆け足で移動しつつ、オフィスや観葉植物、自販機の隙間など、佐藤が身を(ひそ)められそうなところは慎重にクリアリングしていく。オフィスを探す時はギャングオルカだけ入り、それ以外は扉の外で周辺を警戒している。

 そうして佐藤と出会うことなく三分が経過。一階フロアのクリアリングが終了し、階段を上がって二階フロアのクリアリングに入る。まだまだ緊張の時間が続く。

 二階フロアもクリアリング完了。三階への階段を上がり、三階フロアのクリアリングを開始。これまで佐藤の姿はおろか、不審な音すら聞こえない。これが二流ヒーローの集まりだったならば、この辺りで緊張が緩んでくるところだろう。しかし、ギャングオルカ率いるヒーロー及びこの作戦に参加しているヒーローは一流の集まり。緊張が緩むどころか集中力が研ぎ澄まされていく。一般ヒーロー並みの思考回路があるなら、佐藤が建物に逃げ込んでから一、二分後に追跡を開始し、クリアリングしつつも急いでいる現状、音を立てずに建物内を速く移動するのは難しいと考えられる。つまり、佐藤と接触するなら三階四階あたりの可能性が高い。もっと言えば、三階は佐藤もヒーローは気が抜けてくるころだろうと考えて不意打ちを狙ってくるかもしれない。

 三階のクリアリング完了。一、二階同様佐藤は発見できず、不審な音も聞こえない。四階への階段を上がる。

 

「シャチョー」

 

 サイドキックの一人が声を出した。ギャングオルカは振り向く。他の面々は振り向かない。耳栓をしていないギャングオルカだけがその声を聞き、反応することができた。

 ギャングオルカと目があったサイドキックは目を逸らす。これから言う言葉が気分を害すかもしれないという不安。だからこそ、ギャングオルカしか声が聞こえない状況で言ったのだ。サイドキックは言葉を続ける。

 

「佐藤のヤツ、もうここから逃げたんじゃ……」

 

 サイドキックは佐藤がもう建物からいなくなっていて、自分たちがこうして無駄な時間を過ごしている間に佐藤は既に遠くまで逃走しているのではないか、と不安になっているのだ。その不安はここにいる全員、ギャングオルカすらも感じている不安。

 ギャングオルカは正面に向き直る。口を開いたサイドキックはその行動をギャングオルカの気分を害したと思い、表情が暗くなった。

 ギャングオルカはそのサイドキックに背中を向けた状態で『上』というハンドサインを出す。そのハンドサインを見たサイドキックの表情が明るくなった。そのハンドサインは上に行くという意味だけではなく、自分たちがやってきたことを信じてやればいいという意味もある。

 ギャングオルカはそのハンドサインをただサイドキックを元気付けるために出したわけではない。佐藤が建物内にいると確信している。根拠は三つ。

 一つ目の根拠。どこの窓も開いていないこと。逃走するなら手っ取り早い窓から逃走する。ならば、窓が開いている筈だ。だが、どこも開いていない。もしかしたら飛び下りる前に窓を閉めた可能性はあるが、窓を開け閉めする音は聞こえなかった。

 二つ目の根拠。落下音がしなかったこと。当然、飛び下りたのなら落下音がする。佐藤の体重は六十から七十の間ぐらいだろうが、それだけの重量が落下すればかなりの音がする。その音をギャングオルカは聞いていない。

 三つ目の根拠。佐藤だから。佐藤の思惑通りヒーローを建物に誘い込めていて、佐藤のようなヒーローを殺すのが好きでたまらないヴィランが、何もせずに逃げるわけがない。逃げたなら逃げたでトラップを仕掛けておくだろう。その仕掛けが何もない以上、佐藤自身でヒーローに何か仕掛けてくる。その確信がギャングオルカにある。

 四階へと上がり、四階のクリアリングを開始。ギャングオルカたちの集中は最大限まで高まっている。三階のクリアリングで佐藤がいなかった以上、四階が今もっとも佐藤のいる可能性が高い。

 

「……む?」

 

 四階フロアに入ってすぐの通路、微かに何かが反射した。ギャングオルカがジッと目を凝らすと、それがスマホの上部、正確にはカメラレンズ部分であることが分かった。

 

 ──その手があったな……!

 

 確かにスマホはカメラレンズが上部に付いている。ということは、死角に完全に身を隠しつつ、スマホのカメラアプリを使うことで死角先の状況を把握できる。

 その刹那の思考時間、佐藤が通路に飛び出してきた。待ち伏せしていたのだから、姿が見えた瞬間攻撃を仕掛けてくるのは当然。

 佐藤はリボルバー式の拳銃を両手に持ち、左手に持つ拳銃を連射。照準はギャングオルカではなく、背後にいるサイドキックたち。

 

「がッ!」「つぅ……」「ぐふッ」

 

 サイドキックたちの苦痛の声が連鎖。

 佐藤は左手の拳銃全弾撃ち尽くした後、ギャングオルカの顔に向かって拳銃を投げた。ギャングオルカは投げられた拳銃を右腕を払って防ぎつつ、力強く踏み込んで佐藤の懐に高速で接近。佐藤が驚いたような表情で口を開く。

 ギャングオルカは佐藤の眼前で超音波攻撃。佐藤は両耳から血を垂らしながら後方に倒れていく。超音波で佐藤を麻痺させた。ギャングオルカはサイドキックたちに『確保しろ』というハンドサインを送ろうとする。そこがギャングオルカにとって、一番の失敗。

 倒れる筈の佐藤が何故か動いた。それも麻痺など一切効いていないように機敏な動き。ほんの一瞬後には佐藤の右手の拳銃の銃口がギャングオルカの左眼のすぐ前にある。左眼の視界に銃口が映ったと思った時にはもう発砲されていた。それも連射。だが、二射目はギャングオルカが佐藤の胴体を凄まじい威力で殴ったことで照準がずれ、横の壁に穴を開けただけだった。佐藤が血を吐きながら後方に吹き飛んでいく。

 

「シャチョー!」

 

 サイドキックたちがギャングオルカを囲んで傷を確認し絶叫。

 ギャングオルカの左眼からは血が溢れている。左眼は灼けるような凄まじい激痛とゴロゴロと何かが転がる不快感。目の中に転がっているのは銃弾だろう。

 ギャングオルカは左眼を左手で押さえながら、何故佐藤に超音波が効かなかったのか、思考を巡らす。今までの相手と何が違ったか。佐藤とこれまで超音波を受けた人間との相違点はどこにあるか。

 

 ──そういえば、佐藤の両耳から血が垂れて──

 

 そこまで思考し、ギャングオルカの背筋に悪寒が走る。ギャングオルカは殴り飛ばした佐藤を見つつ、床に視線を移動。床には血まみれになっている布くず二つに、ポタポタと垂れている赤い血痕。

 

 ──……狂っていると聞いてはいたが、これは……狂い過ぎている!

 

 ギャングオルカが強者との戦闘で初めて高揚感以外の感情に襲われている中、ピクリとも動かなかった佐藤が動き出す。

 

 

 佐藤は吹き飛んでいる最中、空になった左手でサバイバルナイフを握りつつ、通路に仰向けに倒れた瞬間にそのナイフで首を切って死んだ。死んだことにより、亜人の能力で黒い粒子に包まれながら全回復。

 起き上がりながら、佐藤は思考。

 

 ──まぶたで銃弾の勢いを削がれたかな? 脳を損傷させることはできなかったみたいだ。作戦は上手くいったけど。

 

 佐藤がギャングオルカに対してやった作戦。

 まずこの作戦の前提として、佐藤はギャングオルカの個性が『シャチ』で超音波攻撃ができるということを、本の情報から知っていたことが重要だった。

 佐藤はオフィスの一室からボールペンを盗んだら、待ち伏せポイントであるここまでなるべく音を立てずかつ急いで移動。待ち伏せポイントまで来たら、佐藤はサバイバルナイフで服の端を切って布を用意し、布の耳栓を作る。次にボールペンを両耳に刺して鼓膜を破壊。耳栓だけで満足せず、鼓膜まで破壊した理由は、超音波を耳栓で防げると断定できなかったためだ。佐藤はそもそも音波を感知する器官を損傷させれば、脳に超音波が伝わらず影響を無効化できるんじゃないかと考えた。そして即実行。考えても実行しないだろと思うことを躊躇なく実行する。これが佐藤の恐ろしいところの一つ。

 あとは見ての通りの展開。鼓膜を破壊し布の耳栓で耳から流れる血を隠し、スマホのカメラ画面で待ち伏せ。ギャングオルカが現れたら拳銃で取り巻きの動きを止めながら、ギャングオルカが超音波を使ってくるのを待つ。使ってきたら超音波が効いて倒れていく演技をして、緊張が緩む瞬間に一番防御力が低い眼か口内を狙う。そういう作戦だった。

 

 ──でも、超音波が物理的に分かりやすくて良かった。騙す演技がしやすかったなぁ。

 

 拳銃とサバイバルナイフを持って立ち上がった後、佐藤はさっきまで待ち伏せしていた通路へ逃げ込む。

 

 

 

「被害は!?」

 

 ヒーローたちは耳栓を外しながら佐藤の奇襲によってどれだけ被害が出たか確認。

 

「死亡二人。重傷四人。軽傷一人」

 

 この重傷の人数はギャングオルカを含めての人数。ギャングオルカは自分のスーツを千切って左眼を眼帯風に縛って応急処置。凄まじい激痛にギャングオルカは歯を食い縛る。

 そういったことをしている内に、佐藤が平然と立ち上がって左通路に逃げ込んでいくのを目撃。そのことにギャングオルカやヒーローたちは驚愕。

 ギャングオルカの打撃の破壊力はみな知っている。ギャングオルカに至っては、殴った時に佐藤の骨を粉々にする感触が残っている。佐藤は物理的に動けるわけがない。なのに、平然と走っている。

 

「シャチョー! 間違いありません! 奴の個性は『再生』です!」

「あの野郎! よくもシャチョーと仲間を!」

「追うぞ! 絶対に逃がすな!」

 

 ヒーローたちは佐藤を確保すべく、動ける者は一斉に佐藤を追いかける。人数は十八人。ギャングオルカと仲間を傷付けられた怒りで頭に血が上っているのだ。

 

「待てお前たち! 迂闊な行動は──ぐッ……!」

 

 ギャングオルカが止めようと声を張り上げたが、一気に興奮状態になったことで左眼の痛みが増した。思わず苦悶の声が漏れる。

 

 ──俺たちは佐藤のペースに呑まれている。

 

 これはまずい。が、この灼けるような激痛と流血による体力低下と銃弾が左眼に残っていることによる刺激。つまりは動けば動くほどコンディションが悪くなる状態。

 

 ──まあ、関係ないな。

 

 痛みが増す。それがどうした。佐藤が今まで殺してきたヒーローや民間人の苦痛に比べたら、こんな痛み、なんてことはない。

 ギャングオルカは流血による貧血で少しふらつきつつも、確かに一歩を踏み出し、もう一歩。サイドキックたちの後を追う。ここで佐藤を逃がしてはならない。逃がして物資をアジトで補給されたら──。

 佐藤の恐ろしさを体感した今、ギャングオルカの佐藤を確保するという意志はより強くなっていた。

 

 

 

 佐藤が逃げ込んだ通路にサイドキックたちが殺到する。

 通路に入った瞬間、佐藤のサバイバルナイフが先頭のヒーローの首を突き刺した。

 

「はッ!?」

 

 二番目の位置にいたヒーローがその光景に驚き、おもわず声が出た。佐藤の拳銃がそのヒーローの頭を撃ち抜く。

 佐藤はナイフを突き刺したヒーローを盾にしつつ、次々に通路にやってくるヒーローを拳銃で射撃。三人のヒーローが射殺された。そこで右手に持つ拳銃が弾切れ。その後に飛び込んできたヒーローは撃たれないことで弾切れを察し。

 

「弾切れ!」

 

 味方に佐藤の拳銃が弾切れになったことを伝えつつ、佐藤に攻撃を仕掛ける。が、佐藤は右手に持つ拳銃を捨ててヒーローの死体を掴み、ナイフを引き抜く。そのまま右腕を突き出し、ヒーローの死体を攻撃してきたヒーローの眼前に出す。仲間を盾にされたそのヒーローは攻撃を中断。その間にナイフからリボルバー式拳銃に持ち替え、ヒーローの肉盾から銃口を出して射撃。ヒーローの額から血が噴き出し、後方に倒れた。

 

「うわッ」

 

 そのヒーローの後ろから続いていたヒーローたちは、倒れてきたヒーローを避けようと佐藤からそのヒーローへと注意が移る。そこを佐藤が凄まじい照準の速さで連射。あっという間に五発撃ち切り、弾切れ。その射撃で三人が死亡。二人が軽傷。

 佐藤は弾切れになった拳銃をヒーローに向かって投げた。佐藤は後ずさりつつ、今後どうするか考える。

 

 ──残る物資は拳銃七発、サバイバルナイフ、警棒、ヴィラン拘束用ヒーローアイテム四つ。IBMはあと一回。

 

 IBMを使えば、おそらくギャングオルカは始末できるだろう。だが、佐藤の位置はギャングオルカによってヒーロー側に伝えられた筈だ。まだまだ今日という日は続く。切り札を切るタイミングはここではない。そして、まだ戦闘が続くというなら、この場で物資を枯渇させるのも悪手。

 佐藤はこの場からの逃走を決断。盾にしているヒーローを前に押し出しつつ反転。ヒーローが正面から倒れてくる仲間の死体で足踏みする中、全速力で駆ける。目指すは通路の先にある窓。あと窓まで七メートル、六メートル、五メートル、四メートル。

 その間にも、佐藤とヒーローの距離は縮まっていく。元々この世界での佐藤の身体能力は平均以下。近距離での瞬発力はともかく、遠距離で競うとなるとその差が顕著に表れてくる。

 ギャングオルカがあと三メートルというところで佐藤に追いつき、佐藤を掴もうと右腕を伸ばす。佐藤はその時には妨害無く逃げ切るのは無理と判断していたため、わざと一目散に逃げる振りをして追っ手の動きを制限させつつ、捕まえにくる瞬間を狙っていた。

 佐藤はギャングオルカの動きに合わせ、深く身を沈めて右腕をかわしつつ、ギャングオルカの腹部にボール型のヴィラン拘束用ヒーローアイテムを押し付ける。するとそのボールから一瞬で特殊合金製の布状の物が飛び出し、ギャングオルカの体に巻きついて両腕と両足を拘束。ギャングオルカは前のめりに倒れる。

 

「シャチョー!」

 

 佐藤がギャングオルカの後頭部に向けて拳銃を構える。ギャングオルカのすぐ後ろのサイドキックたちはギャングオルカを守ろうと、佐藤になりふり構わず攻撃を仕掛けた。

 佐藤が拳銃をギャングオルカに向けたのはブラフ。本気で撃つつもりはない。まぶた越しとはいえ眼を撃ったのに生きているような相手、後頭部を拳銃で撃ったところで脳にダメージは与えられないだろう。

 流れるような動作でヒーローアイテムを持っていた左手に警棒を持つと、佐藤はわざとヒーローの仕掛けてきた攻撃のショルダータックルを食らう。窓際に吹き飛ばされた。その勢いを利用し、警棒で窓を割る。

 

「あっ、しまった!」

 

 上手く佐藤に使われたことを悟り、そのヒーローは悔し気な表情になる。

 

「シャチ君、また遊ぼうね!」

 

 佐藤は窓に身を乗り出しながら、ヒーローたちの方を一度だけ振り返る。その顔には清々しいほどの笑みがあった。

 

「はははははは!」

 

 佐藤は笑いながら窓から飛び下りた。佐藤の笑い声がビルとビルの間で反響する。

 佐藤は地面に叩きつけられつつ、すかさずサバイバルナイフで首を切る。死亡。そして、黒い粒子を纏って全回復。

 佐藤は立ち上がり、合流ポイントに向かって走り出す。その顔は満足そうだった。


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