ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第47話 ガンパレードマーチ

 針間のチームは撤退中、『盾』の個性を持つ上位ヒーロークラストのチームとはち合わせる。針間たちにとって、それは最悪の事態だった。

 クラストは佐藤との戦闘でアサルトライフルの威力を体験しており、どの程度の盾で防げばアサルトライフルの銃撃に耐えられるか把握している。更に厄介なことに、クラストは盾で防ぎつつ盾を投げて攻撃できた。

 

「撃て!」

 

 針間はクラストたちの姿を認識した瞬間、反射的に仲間に指示を出した。これは最善の判断だった。クラストたちの態勢が万全になる前に先手を打つことは、彼らにとって数少ない勝ち筋だったからだ。しかし、先に攻撃できても、完全に不意を突けなかったことはクラストたちに対処する時間を僅かに与えることとなる。

 結果として、クラストたちは反射的に射線を切る動きをし、針間たちの銃撃はクラストのチームにいるヒーローの一人の脇腹に一発当たっただけに終わった。

 

「くそッ!」

 

 銃撃の後、針間は悔し気に吐き捨てる。効果的なダメージを与えられなかったことは一目瞭然だった。

 

「ど、どうすんだよ?」

「血を吐こうが走り続けて逃げるに決まってるだろうが!」

 

 針間のチームの男ヴィランが不安そうに訊ねてきたことに対し、針間はキレぎみにそう返した。

 上位プロヒーロークラストの存在はヴィランにとって脅威の一人。それに加え銃撃を防げる『個性』持ちとあれば、銃撃以外に大した『個性』と攻撃手段を持っていない針間たちと相性は最悪。

 不意打ちでクラストたちに有効なダメージを与えられず、撤退戦ということで他のヴィランチームとバラバラに行動することになった針間たちは、ここからヒーローの追撃に苦しめられることとなる。

 ヒーローはヴィランを追うことに慣れている。それはクラストにとっても同様の話であり、特に上位プロヒーローであるクラストはヴィランの追い込み方を熟知している。

 クラストは針間たちを直接狙うのではなく、むしろその進行先を投げた盾で防いだり、少しでも足を留めさせるような攻撃をしたり、クラストのそういった攻撃を囮に他のヒーローたちが針間たちの進行先に先回りしたりした。

 その結果、針間たちは一人、また一人とクラストの攻撃や他のヒーローの攻撃に倒れていく。針間は身に付けている武器とバッグを捨て、少しでも機動力をあげつつ『個性』の硬毛(スパイクヘア)で建物を登るといった縦横無尽な動きで翻弄して逃げ切ろうとするも、最後はクラストの投げた盾に捉えられ、地面にうつ伏せで倒れこむ。そこから針間は起き上がろうとするが、その時にはクラストが針間のところまで追いつき、針間に拘束用ヒーローアイテムを使用することで針間を確保することに成功。

 

「ヴィランの一チームをまとめて確保したぞぉ!」

 

 クラストは拳を突き上げてインカムで熱く報告。ヒーロー側のインカムにはクラストの雄叫びにも似た大声が響き渡る。ちなみに余談ではあるが、ある耳の良いヒーローはそのあまりの大声に「うるせえ!」とキレ散らかした。

 

 

 

     ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤が合流地点に到着した時、既に沙紀がいて佐藤を待っていた。

 

「はい、佐藤さん。ちょっと遅かったねえ。あたしは重いバック背負ってたのに」

「色々あったからね」

 

 沙紀は得意気な表情で佐藤に背負っている大きなバックを渡した。その顔にはハッキリと「私の勝ち。なんで負けたか明日までに考えといてください」と書かれている。沙紀の中では佐藤とどっちが先に合流地点に到達できるかというゲーム感覚だったようだ。重いバックを背負うというハンデがあったうえでの勝利というのも、沙紀の優越感を強くしている。なお、佐藤が途中でギャングオルカたちと戦闘していたことについては一切考慮していない。

 

「ありがとう、沙紀君」

「ふふん、どういたしまして。あたしにかかればざっとこんなもんよ!」

 

 胸を張る沙紀をスルーしつつ、佐藤はバックを地面に置いて開ける。そして手際よくバックの中にある武器を取り出し、あるいは組み立てて装備していく。

 武器と装備の内容はアサルトライフルの八九式五.五六ミリ小銃、九ミリ拳銃、M六七破片手榴弾、M八四スタングレネード、マチェットナイフ、脚部には脚力補助のヒーローアイテム。防弾チョッキや防弾ベスト、及び自分の防御力を上げるようなアーマーは装備していない。死んで全回復できる亜人の能力上、佐藤は防御力より機動力の方を重視するようになった。元いた世界では機動力を上げるような装備が無かったため、必然的に防御力を上げる装備しかできなかった。だが、この世界には機動力を上げる装備があり、防御力か機動力か選択できる。となれば、佐藤の選択は機動力一択。

 

「佐藤さん、そろそろ行く?」

 

 装備し終わったところを見計らい、沙紀が佐藤に声を掛けた。佐藤はミリタリーベストに破片手榴弾四つと閃光手榴弾三つを入れ終わったところだ。佐藤の背負っているバックには余っているアサルトライフルの弾倉や拳銃の弾倉、破片手榴弾、閃光手榴弾が入っている。

 

「いや、もう少し待つよ」

「えっ? もたもたしてるとヒーローたちの包囲がキツくなるんじゃないの?」

「さっき猿石君から連絡があってね、怜君もこの合流地点に向かっているらしいんだ。置いてけぼりにして移動すると怜君が逃げられなくなるかもしれないから、できれば到着を待って一緒に行動したい。猿石君たちが逃げる時間稼ぎにもなるしね」

「な〜る。あれ? そう言えば針間さんは?」

「猿石君によると、連絡が取れないようだ。もしかしたらヒーローに捕まったかもしれないね」

「……助ける?」

 

 沙紀がニヤけた表情から一転真剣な表情になる。佐藤は「ふむ、どうしようか……」と呟き、思案顔となった。

 仮に針間がヒーローに捕まったとして、佐藤が針間を助けたいかといえば、別にそこまでの感情は無い。というより、助けるにしてもどこで捕まり、今どこにいるのかという情報集めから入らなければならず、面倒なうえにこちらも共倒れになる可能性が高い。

 意外かもしれないが、佐藤はヒーローをナメていない。彼らにも亜人のような力──『個性』があり、佐藤より優れた身体能力がある。だからこそヒーローの弱点を徹底的に突きまくり、スタンドプレーしがちなヒーローたちに組織力をもって挑んだ。真っ向勝負ではなく奇襲を続けて先手を取り続けているのも、後手に回ると地力の差で不利になると考えているからだ。それらの点から、こちらの位置がヒーローにおそらくバレている現状、救助作戦で奇襲や奇策は通じない。

 それに、もっと優先すべき理由として、佐藤は早くこの場から退却して次のゲームを始めたい。国会議員のほとんどを殺害するという目的を達成した今、無駄にこのゲームを引き延ばす必要もない。確かに多くのヒーローたちと戦えるという魅力はあるが、ゲームには少なからず目的が無ければ面白くないのだ。もっと言えば、ヒーローとの戦闘はこの国からヒーローを消すという目的に従って行動していれば避けては通れないもの。ここでの戦闘に拘る必然性は皆無である。

 そして、佐藤は決断した。針間を見捨てるという決断を。内心、針間の情報を得たヒーローがどう動いてくるか興味が無いと言ったら嘘になる。結局、佐藤は次のゲームで面白くなりそうな要素を残しておこうとしているだけにすぎない。それに、この場を撤退した後に針間の救出作戦をやる気分になる可能性もある。

 

「……数人のために大勢を危険にさらすわけにはいかない。本心は助けたいけどね」

 

 佐藤は沈んだ表情を作りつつ、そう言った。沙紀は佐藤のその表情を真実と信じたようだ。

 

「分かった」

 

 沙紀は悲し気な表情をしつつも、静かに頷いた。自分たちの置かれている状況を理解できる程度の頭はあるようだ。

 それから十五分ほど待っている間、合流地点を知ったヴィランたちが佐藤のところに集まってきている。怜たちのチームが息を切らして合流地点に来た時には、集まったヴィランの人数は五十人はいた。

 

「佐藤さん、待っててくれたのかよ」

「仲間はできるだけ助けたいからね」

 

 佐藤はカフェテラスにあった椅子を道路の真ん中に持ってきて座っていた。その周囲には武装したヴィランたちが大勢いる。

 

「俺の持ってきた武器、無駄になっちまったな」

 

 怜は仲間として見てもらえていた嬉しさと、自分のせいで危険な場所に待たせてしまった申し訳なさで感情がぐちゃぐちゃになった。自分のその感情を悟られないよう、怜は右手で頭を掻きつつそう言った。

 

「いや、そうでもないよ」

 

 佐藤は穏やかな表情でそう言い、右手を怜の方に差し出す。怜は困惑しつつ背負っていたバッグを佐藤に手渡した。

 

「え? 佐藤さんが使うのかよ? 流石のアンタも重量オーバーだろ。気ぃ使わなくていいって」

「私が戦闘において無駄なことをすると思うかい? ちゃんと使い道はあるよ。それに……」

 

 佐藤は右の建物を見上げた。それに釣られて怜もその建物を見上げる。その建物の屋上には狙撃チームの二人がいて、佐藤の視線に気付いた狙撃銃を持つ女ヴィランが持っている狙撃銃を掲げて見せた。その更に遥か頭上には報道ヘリが飛んでいる。

 

「国民に現実を教える良い映像が撮れそうだ」

 

 佐藤は遥か上空を飛ぶ報道ヘリの小さな機体に視点を合わせて笑みを深くした。

 

 

 報道ヘリに乗る女アナウンサーとカメラマンは報道を続けている。

 

「さ、佐藤がこっち見て笑ってやがる!」

 

 カメラのズームで佐藤を撮っていたカメラマンが、カメラ越しに佐藤と目が合ったあげく佐藤が笑みを浮かべたのを見て背筋が凍った。

 佐藤はヒーロー一般人関係無く殺しまくる狂人であり、テレビ局襲撃時に報道ヘリを落としたことも記憶に新しい出来事である。実際、この時のカメラマンの頭によぎったイメージはその時の映像だったし、そのカメラマンの言葉を聞いた女アナウンサーの頭によぎったイメージもその映像だった。佐藤に意識される=死という式が成り立つくらい、佐藤には強烈な死のイメージがヒーロー一般人問わず脳に植え付けられている。

 

「もっと距離を取って!」

 

 女アナウンサーが発狂に近い甲高い声でヘリの操縦士に叫んだ。女アナウンサーとカメラマンの二人の顔色は真っ青になっている。

 操縦士はその声から恐怖を感じ取り、慌てて操縦桿を操作。報道ヘリが佐藤の上空から遠ざかっていく。それでもカメラマンはカメラの性能を最大限に使い、佐藤周辺の様子をカメラに収めている。

 

 

 佐藤は急旋回して離れていく報道ヘリを眺めつつ、椅子から立ち上がる。右手に持つ沙紀から渡されたバッグと全く同じ見た目と中身のバッグを地面に落とし、バッグを開いて分解状態の銃を取り出した。そして、さっきと同じように分解状態の銃を組み立てて装填していく。そんな佐藤の様子を周囲にいるヴィランたちは不思議そうに見ていた。

 

「当然の話を君たちにしよう」

 

 佐藤は銃を凄まじい手際の良さで組み立てつつ、口を開く。

 

「我々はここで仲間を待っていたわけだが、ヒーローたちがその間何もしていないわけがない。おそらくこの場所を中心に集まってきているだろう。この場から撤退するためにはヒーローと激しい戦闘となる。だが、恐れることはない。君たちの持つ銃は集団戦こそ真価を発揮し、君たちに与えられた『個性』は銃を一斉に撃つという単純な戦術に深みを与える。これからのヴィランの姿、ヒーローと国民の目にしっかりと焼きつけてあげよう」

「おおー!」

 

 その場に集まったヴィランたちは雄叫びをあげ、手に持つ銃を掲げる。それはヒーローと戦闘する恐怖を紛らわし、自身を鼓舞するためやった行動だった。

 佐藤は組み立て終わったアサルトライフルを首から下げ、アサルトライフルの弾倉を三つミリタリーベストに、拳銃を新たに左腿に取り付けたホルスターにしまう。残ったバッグは再び怜に返した。怜は反射的にそのバッグを受け取る。バッグの重量は半分ほどになっていた。

 

「怜君。まだ中に使える武器が入ってるから、必要になったら好きなだけそこから使っていいよ」

「了解」

 

 佐藤は銃身に手を置きつつ、撤退方向へ歩き出す。佐藤に従うように、大量のヴィランも佐藤の少し後ろで射線を確保しつつ付いてきた。

 

「さて、新時代の到来を告げる祝砲をあげようか」

 

 佐藤の視線の先には、遮蔽物に隠れてこちらを窺っている大勢のヒーローの姿があった。

 佐藤が右手をあげ、その右手を振り下ろして遮蔽物に隠れるヒーローたちに向かって指を差す。それがあらかじめ決めていた一斉射撃の合図だった。

 

 

 報道ヘリの高性能カメラは、その一斉射撃の光景をベストといってもいい構図で撮影できていた。佐藤が中心にいて、佐藤たちが銃撃や手榴弾による爆撃をしつつ前進する。その構図はある種のデモンストレーションのような構図であった。

 女アナウンサーはカメラの横に付いている小型のモニターからカメラの映像を観つつ、その映像から伝わってくる恐怖に急かされるように言葉を吐き出す。

 

「皆さん、見えますでしょうか!? 佐藤と彼に率いられるヴィランたちが、ヒーローに対し一斉に銃撃や爆撃しつつ前進を開始しました! 彼らの姿はまるでパレードをしているようです! 最悪のパレードを私たちは見ています! 私たちはただヒーローがこの巨悪を打ち倒すことをただ願うことしかできません! どうか全員捕まえてほしい! 私はこの光景を見てそう強く感じます!」

 

 そこでカメラは、一部のヒーローが隠れていた遮蔽物ごと手榴弾の爆破によって吹き飛ばされる瞬間を捉えた。

 この映像は佐藤の狙い通り、ヒーローにとってもヴィランにとっても、もっと言えば全国民に強烈な印象を与えた。

 後の話になるが、この強烈なインパクトのせいで、ハイジャックから国会議事堂へ旅客機ごと攻撃するという最悪なことが起こっていながら、佐藤の起こしたこの一連の事件は『ガン・パレード事件』『ガン・パレード』などと呼ばれることになるのである。

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