ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第50話 突撃

 佐藤側のヴィランたちは戸惑った。今まで共に動いていた佐藤がいきなり物陰に走り出し、そこからすぐ出てきたと思ったらこちらを無視して道路中央へと飛び出していったからだ。それもあまりに無防備に。

 

「おい! 佐藤のやつ、何考えてんだ!?」「あれじゃヒーローに捕まえてくださいって言ってるようなもんだぜ!」「早く俺たちも続け!」

「待て!」

 

 慌てて佐藤のフォローにいこうとしたヴィランたちを、(さとし)が止める。

 

「お前ら、佐藤さんの話を聞いてなかったのか!?」

 

 その後、声を荒らげた(さとし)は声を(ひそ)めて次の言葉を言う。

 

「あの動きは戦いの前に言っていた佐藤さんの作戦合図だ」

「えッ……? あ、言われてみれば確かに……」

「分かったらヒーローに悟られないように、作戦が開始したことをみんなに知らせよう」

「けどなぁ……」

 

 その中のヴィランの一人が、不安そうな顔になる。

 

「ここに集まってんのは一流のヒーローたちだろ? そいつら相手にあんな作戦、成功させられんのかよ」

「アンタ、この作戦誰が言い出したか知らないのか? 佐藤さんだぞ。佐藤さんがやれるって言うならやれるんだよ。今までだってそうだった」

 

 (さとし)はこのヴィランに怒りすら覚えつつ、そう言った。

 

 ──佐藤さんに便乗しないと何もできないクズが、知ったような口で佐藤さんを疑うな。

 

 佐藤さんは有言実行の偉大な人間なんだ。(さとし)の脳裏には、これまで佐藤が成した偉業の記憶がよぎっていた。(さとし)はもう、自分という存在を救ってくれた救世主として、佐藤を見ている。(さとし)は佐藤の狂信者となっており、佐藤を否定する者、侮辱する者、邪魔する者に対して攻撃的な部分を出すようになっていた。

 (さとし)たちは飛び出していった佐藤の後は一切追わず、佐藤の作戦の動きへとシフトした。(さとし)らによる佐藤側のヴィランへの作戦開始の伝達はスムーズに行われ、二、三分後には佐藤側の全ヴィランが作戦の動きとなった。もちろんその間に佐藤と一流ヒーローたちの戦闘の火蓋は切られ、その戦闘の凄まじさに度肝を抜かれながらではあるが。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤が飛び出してくる行動に、ヒーローたちは意表を突かれた。仲間のヴィランと足並みを揃えて行動するという今までの佐藤の動きとは正反対だったからである。

 その数瞬の迷いが、死に直結したヒーローが四人いた。建造物の陰に隠れて様子を窺っていたヒーローたちのところへと射線を確保するよう佐藤は移動し、首から下げたアサルトライフルを連射することによって側面から四人のヒーローの身体を蜂の巣にした。

 その発砲音こそ、意表を突かれたヒーローたちが我に返り、佐藤へ立ち向かっていく戦いのゴングとなった。

 

「迂闊に飛び出さないでください! まずは遠距離から対応します!」

 

 ホークスは佐藤が道路の真ん中に来た瞬間、インカムでそう指示した。

 佐藤は自分の身を守る物が何も無い、ある意味では正々堂々といえるフィールドに立っている。しかし、不用意にそこに行くのは危険すぎる。敵は佐藤だけではない。佐藤側のヴィランたちの射線が通っている。佐藤は囮であり、佐藤に釣られたヒーローを佐藤ごと撃ち殺す作戦だとホークスは考えた。

 ミルコはイラついている表情を隠しもせず、物陰から佐藤を睨みつけている。今にも飛び出さんとする体勢のまま。ミルコが飛び出さないのはホークスの指示を受けてのことだが、ミルコはすでに我慢の限界に近かった。

 ミルコにとって、佐藤は特別なヴィランだ。何故なら、集団でいたとかではなく少人数でいたのに取り逃がしたヴィランであり、死の恐怖を自身に与えてきたヴィランだからだ。佐藤が何かするたび、ミルコは悔しさで歯ぎしりした。佐藤が生み出した無数の悲劇、それらはすべて静岡刑務所で佐藤を捕縛していたら無かったもの。だからこそ、佐藤をここで必ず捕まえるという気持ちが強くなる。それと、なによりミルコの感情を揺さぶっていることがもう一つ。

 

 ──さっきからドンドンバンバンギャーギャーうるせえんだよ。

 

 優れ過ぎている聴覚を持つミルコにとって、銃声と爆発音、激痛で苦しむ人間の絶叫、それらは多大なストレスとなってミルコを襲い続ける。感情に体が支配されていく。しかし、それこそ佐藤の狙い通りであり、取り返しのつかない悲劇を誘因する要素になってしまうとは、この時のミルコは思いもしなかった。

 出てきた佐藤へのヒーローの反撃は、身を隠しての遠距離攻撃となった。ホークスの剛翼の羽根飛ばし、念道のサイコキネシスによる瓦礫攻撃、あるヒーローの『個性』による弓矢が佐藤に襲い掛かる。遠距離攻撃自体、持っているヒーローは圧倒的に少ないため、この時の攻撃は三人しかできなかった。ヴィランを殺してはならないというルールと捕縛という手順の二つの要素によって、ヒーローは遠距離攻撃より近距離攻撃を重視する思考となっている。HUNTの二人は殺す可能性のある銃より行動を無力化する攻撃の方が有効だろうと考え、『個性』での攻撃をした。

 これらの攻撃に対し、佐藤は瞬時に優先順位をつけて行動を移す。もっとも優先的に対処すべきは動きを封じられる瓦礫攻撃であり、次に動きを制限されるが無力化まではいかない羽根、放ったらかしても問題ないのはただダメージを与えるだけの矢。

 佐藤はアサルトライフルから拳銃に持ち替えつつ、前進する足を止めない。飛んでくる瓦礫を避けつつ当たりそうな瓦礫は拳銃で狙いを付けて射撃。その衝撃によって軌道を逸らす。その間に佐藤の体には四枚の羽根と五本の矢が突き刺さるが、痛覚で体の動きが鈍らない佐藤からすれば問題無い。胴体2枚と左太もも、右肩にそれぞれ刺さった羽根から動きを制限するため動かしている方向と逆の力が加わるのを佐藤は感じる。佐藤はあえてその力を受け入れ、羽根の動く方向と同じ方向へ体を動かした。前進している足が止まり、佐藤の体が浮き上がる。

 佐藤は拳銃の銃身で左太ももに刺さっている羽根を殴りつけつつ、羽根の軌道とは少しズラして左太ももを動かした。こうすることで羽根の先が太ももの肉を抉ることになり、そのまま羽根が佐藤から外れる。あとは簡単だ。羽根によって加わっていた運動エネルギーを体を一回転させることで殺さず、他の三枚の羽根もその間に軌道をズラすことで外す。羽根を刺し続けるためには同方向に力を入れ続けなければならず、姿勢を変えたらその方向から最適な方向へ力を加えなければならない。つまり体を回転させるということは、羽根の運動エネルギーの方向を臨機応変に変化させなければならず、ホークスの羽根から逃れる手段として最適なのだ。

 ヒーローたちは佐藤のその無駄の無い動きに息を呑む。

 

「なんだあれ!?」

「あれが矢が刺さってる人間の動きかよ……」

 

 ヒーローたちのそんな声がちらほらとするが、佐藤にとってそれはヒーローの位置情報でしかない。縦に一回転して綺麗に着地した佐藤はそういった声からヒーローたちの大まかな位置を把握し、右手に持つ拳銃で射撃。佐藤が動いていることで射線が通り、なおかつ佐藤の動きに面喰らって反応が遅れた三人のヒーローが、その射撃の餌食となった。

 佐藤は間髪入れず拳銃を顎下につけ、引き金を引く。四発目の銃弾は佐藤の命を奪い、佐藤はその場に倒れ込んだ。ヒーローたちがその情報を頭に入れ、復活してくると予想し、佐藤に対処しようと行動を移す時には、佐藤の復活は完了する。佐藤が体を起こした拍子に矢がアスファルトの上に落ちた。

 

 ──矢に触ってないのに、落ちた……?

 

 ホークスはそのことに何か引っかかりを感じたが、確信には至らなかった。佐藤はすぐに次の行動をしていたため、それに対処する必要があったからだ。それに加え、ホークスは(ヴィラン)連合の相手もしなくてはならない。敵連合が意図せずとも、ヒーローの一部は佐藤たちと敵連合の挟撃の形になっている。その状況の打開こそ最優先事項であり、一つの事象を熟考する時間など無かったのである。

 佐藤は銃を撃たなかった方向に顔を向けた。建物の陰に身を隠しているヒーロー二人と目が合う。二人とも佐藤への闘志より恐怖が勝っているようで、その目には怯えがあった。

 佐藤は脚部アーマーの太もも部分にあるスイッチを入れる。瞬間、脚部アーマーに取り付けてあるボンベからガスが噴射され、凄まじい速さでそのヒーロー二人に佐藤は肉薄。その勢いのままにマチェットナイフを抜き、片方のヒーローの首を切り裂く。

 

「ごふッ……」

 

 首を切られたヒーローは首を両手で押さえながら崩れ落ちる。その両手はまるで切り口から溢れる血を止めようとしているようにみえるが、全く意味は無くただ両手から血が流れていくだけだった。

 佐藤はヒーローの首を切るのと同時に、脚部アーマーのスイッチを切ってガスの噴射を止めていた。噴射によって生まれた運動エネルギーはヒーローの首を切った後、ヒーロースーツにマチェットナイフを絡ませることで殺した。佐藤は殺したヒーローと背中合わせのような状態になる。

 佐藤はすぐさま拳銃をもう一人のヒーローの右足に向け、撃つ。殺されたヒーローが死角となっていたため、そのヒーローは拳銃が向けられていたことに気付けず、避けられなかった。

 

「……つぅッ!」

 

 右足の激痛。それに気を取られ、佐藤から意識を外した数瞬、佐藤はそのヒーローに向かって大きく一歩踏み込み、マチェットナイフを首筋に当てつつそのヒーローをヘッドロック。そうして生み出した人質という名の盾に身を隠しつつ、片手で拳銃からマガジンを抜き、一旦拳銃をホルスターに収め、新たなマガジンをホルスターに収めた拳銃に入れる。次にホルスターから拳銃を抜き、ホルスターを利用して拳銃のスライドを引く。これで拳銃の装填作業が完了。その間、佐藤は状況確認のために視線を周囲に巡らせている。

 ほんの数メートル先に七人、十メートルほど先には約十五人前後。彼らは佐藤を囲むような位置関係にあるものの、動けずにいる。佐藤が盾として使っているこのヒーローのせいだ。彼らは唇を噛みしめ、悔し気に佐藤を睨むだけで、攻撃するのに絶好の位置にいるであろう佐藤に攻撃できない。

 そんな彼らを見て、佐藤は笑みを深くした。

 

 ──SAT戦を思い出すなぁ。

 

 あの戦闘の時、彼らは同士討ちを恐れてその手に持つ銃を使用できなかった。精鋭の中の精鋭であっても、いやだからこそ、固く結ばれた仲間意識が時には弱点となる。

 

「俺のことは気にするな! 俺ごと佐藤をやれ!」

 

 佐藤の持つ人の盾が顔を引きつらせ、そんなことを声を震わせながら喚き出した。

 

「そんなこと……」「絶対に助けてやるから、諦めるんじゃねえ!」「何か良い方法がある筈……」

 

 その言葉を聞いても、ヒーローたちは攻撃を躊躇した。その躊躇している時間こそ、佐藤が戦術を練る時間でもある。そして、戦術を決めた。

 硬直状態を破ったのは佐藤の方だった。

 佐藤はマチェットナイフでヘッドロックしているヒーローの首を切り裂く。ヒーローの首から血がパッと舞った。その光景に周囲のヒーローたちの目は釘付けとなる。

 佐藤は首を切りながら、もう片方の手で脚部アーマーのスイッチを入れてガスを噴射させていた。つまり、ヒーローたちが人質を殺したと思った時には、佐藤が凄まじい速さで接近している。

 佐藤は一対多の戦闘におけるセオリーである一対一に持ち込むという戦術を取らない。何故なら、佐藤は死なないからだ。一対一のメリットは戦っている相手以外からの横槍が入らないことだが、デメリットとして戦っている相手以外に与えるプレッシャーが少ないため、敵の多くが冷静な判断で戦闘を仕掛けてくる。対して、一対多のメリットは味方が周囲にいるため敵の攻撃が弱くなりやすいことと、多くの敵に死と常に隣合わせの緊張感と恐怖を与えられることであり、デメリットは戦っている相手以外の敵からの不意打ちのダメージだが、死ねば全回復できる佐藤にとっては問題ない。

 近くのヒーローたちの中に潜り込んだ佐藤は目にも留まらぬ速さで拳銃を撃ち、マチェットナイフを振り回して次々と殺していく。もちろん他のヒーローたちからの攻撃を意識しながら。

 ホークスは攻撃の隙を窺いつつ、佐藤の動きに脅威を感じていた。ホークスはこの戦いが初めての佐藤との直接対決で、佐藤の戦闘を直で見る最初の機会だ。

 

 ──佐藤の奴、圧倒的に戦い慣れてる……。

 

 佐藤は常に俺の羽根を意識し、激しい動きと周囲にいるヒーローを利用して羽根を放つ隙を極力排除している。それと、矢が五本刺さっていても平然と動けるところから、ダメージによる動きの阻害は難しいと判断した。痛みに強いのか、服の下に何かしらの防具を仕込んでいるのか、そのどっちもか、佐藤が痛みに耐性がある理由はまだ分からないが、それは戦っているうちに分かるだろう。

 佐藤は突入したヒーローたちの一固まりを殲滅すると、即違うヒーローたちの集団の中へヒーローアイテムの脚部アーマーの機動力を借りて飛び込んでいく。その動きに迷いが無さ過ぎて、隙を窺っている離れたヒーローたちは援護できない。接近して援護しようにも、佐藤の仲間たちの射線が通っているところを移動するのは無謀すぎる。

 

「くそッ、こっちの動きが裏目に出てる!」

 

 ヒーローを二、三チームで固めて散らすことで、佐藤の十八番ともいえる爆撃による被害を最小限にしつつ、連携を取りやすいようにした。が、この配置は佐藤とヴィランたちとの中、遠距離戦を意識した配置であり、佐藤が接近戦を仕掛けてくることは考慮されていなかった。結果、各個撃破されるような形になっている。

 これはリスクを承知で自分とゴウが加勢に行くべきか。その考えがホークスの頭をよぎった時、地面を割った破壊音と突風がホークスに襲いかかった。

 ホークスは咄嗟に左手で突風の影響で飛んでくる石や瓦礫を防ぎつつ、目は閉じない。だから見えた。突風とともにホークスの視界を猛スピードで移動し佐藤へと向かっていった人影。

 

「ミルコさん!?」

 

 ホークスは予想外の援護に、思わずその名を口に出していた。

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