ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第52話 エンジョイライフ

 ホークスはエッジショットの死を遠目から見ていた。この時ほど、援護できなかったことを後悔したことはない。ミルコの動きの予想がつかなかったため、同士討ちを避けるために羽根を飛ばして援護できなかった。こんなことになるなら、同士討ちする羽目になっていたとしても羽根で援護するべきだった。佐藤相手に援護をミスったら、その一瞬の隙でミルコが殺されるかもしれないという不安。その不安を覚悟で塗り潰すべきだった。

 

「隊長、俺が佐藤と戦う」

「ゴウ……」

「エッジショットがあんなにも簡単に殺された。そのせいで、この場のヒーローたちは戦意より恐怖の方が上回ってしまったようだからな。ここでこの嫌な流れを俺が断ち切る」

 

 ホークスの隣にいた全身ヒーローアーマーを身に着けたゴウが、アサルトライフルを持ち上げながら遮蔽物から道路の方に出ていこうとする。その姿はまるで中世の騎士のような見た目で、その姿で銃を持っているとアンバランスに感じる。

 確かにエッジショットは上位の中の上位プロヒーローであり、この作戦の核の一人でもあった。そんなヒーローがあっさり殺されたら、そのヒーローに及ばない自分たちが佐藤に勝てるわけがないと及び腰になるのも仕方ないことだろう。

 ホークスは思わずゴウのアーマーの右腕を掴んだ。あのエッジショットを軽く殺した佐藤を相手にして、必勝は無い。死の可能性は決してゼロにはならない。エッジショットという一桁上位プロヒーローの死を見た直後だからか、嫌な予感が消えない。

 そんなホークスの不安が伝わったのか、ゴウはフッと笑い声をアーマー越しに漏らした。

 

「佐藤の武器は全て把握した。どの武器でも、俺のアーマーは耐えられる。だから……もし俺が佐藤に殺されるとしたら、それは俺たちの知らない能力か武器がまだ佐藤に隠されていることになる」

「ゴウ、お前……情報のために犠牲になるつもりか!?」

「いや、そんなつもりはない。俺はただ早くヴィランを殺したい。ヴィランを殺せるから、俺はHUNTに入った」

 

 アーマー越しからも伝わってくる殺気。ゴウの、ヴィランに対しての憎悪。

 

「もしもの時は頼む、隊長。俺の死を活かしてくれ」

「ゴウ!」

 

 制止の意味も込めて、ホークスは名前を呼んだ。

 だがゴウは背中越しに手袋を嵌めている右手の親指を立てただけで、そのまま道路へ力強く踏み出し、佐藤に向かって歩いていく。

 ホークスは何故かその後ろ姿に死の間際の創壁の後ろ姿が重なった。

 そこで、ホークスにヒーロー公安委員会からの通信が入る。ホークスの羽根に付いているカメラの映像をチェックしているオペレーターからだ。ホークスは沈んだ心を奮い立たせ、通信に応えた。

 

「こちらホークス」

『ホークス! ミルコが危険な状態です!』

 

 女オペレーターの声は切羽詰まっている。

 ホークスはすぐさま両翼となっている大量の羽根の一部を飛ばした。と同時に携帯端末を取り出す。

 

「カメラ映像を端末と同期! それからナビお願いします!」

『了解!』

 

 ホークスは端末を持ちながら両翼を羽ばたかせて飛び上がり、俯瞰的に見える位置に移動を開始した。

 

 

 

 佐藤は血溜まりに沈むエッジショットの胴体の上にあるアサルトライフルを掴んだ。

 ふと、物足りなさを感じる。もし再生がどんな物でも再生の邪魔になれば分解するものだと知っていたら、このエッジショットというヒーローはどんな戦術で戦っただろう。

 そんなことは考えても意味など無い。何故なら殺したから。彼は亜人ではないから。一度殺したら、もう二度と遊べなくなる。そんなことはずっと当たり前だった。なら、何故物足りないと、もっと遊べればよかったのにと考えているのか。

 佐藤の脳裏に、元の世界での出来事がフラッシュバックする。殺しても殺しても、何度絶望を味わわせても立ち上がり、遊び相手になってくれた少年の姿。

 

 ──ああ、そっか。

 

 亜人と戦う愉しさを知ってしまったからだ。殺しても殺しても遊べる最高の遊び相手。お互い同じ能力、IBMという亜人毎に違った特徴を持つ異形。亜人との戦闘はいつも新鮮で興奮した。

 

 ──人間は、殺しちゃったらもう遊べないんだ。

 

 この世界の人間が様々な能力を持っているからこそ、その能力を持つ相手と一回殺したら遊べなくなるということが、余計に物足りなさを感じさせるのだろう。

 

「よくも……」

「ん?」

 

 佐藤は視線をエッジショットの死体から、声がした方に視線を移す。ミルコが建物の壁を支えにしながら、腹部を押さえて立ち上がっていた。押さえている右手からは血が溢れている。

 そんな状態にあるにも関わらず、ミルコの闘志は一切萎えていない。それどころか闘志に加えて殺気すらも纏わせ、怒りの表情で佐藤を睨んでいる。

 

「よくもおおおお!!」

 

 ミルコが佐藤に向かって突風のように駆ける。だが、走りながらも体は時折ふらついた。失血による貧血、聴覚のダメージによる耳鳴りや平衡感覚の狂いが原因だ。ミルコのコンディションは今、最悪と言っていい。ただ佐藤への怒りとヒーローとしての責任がミルコの体を突き動かしている。

 

 ──そんな体になってもまだ愉しませてくれるの?

 

「ははッ、いい闘争心だ」

 

 佐藤はそんなミルコを見て笑い声をあげながら、脚部アーマーのガスを噴射し、横に高速移動。ミルコの突進をかわし、ミルコはそのままバランスを崩して道路を高速で転がった。

 佐藤は勢い余って道路を転がるミルコに向けて、アサルトライフルを構えた。引き金を引く。

 その瞬間、佐藤の行動を読んでいたミルコは背中を向けながら佐藤に向かって跳躍。銃撃をかわした。

 

 ──そうくると思ったぜ!

 

 ミルコは体を半回転させて佐藤を正面に捉えた。あえて不様な姿で隙を見せることで、銃撃を誘ってからの反撃。右足での踵落としの体勢に入る。もし佐藤に今の突進をかわされた場合の作戦を考えたうえで、ミルコは攻撃していた。

 しかし、佐藤は膨大な戦闘経験を積んでいる戦闘狂。佐藤とて、ミルコに銃撃をかわされた場合のプランがあり、殺したと思って隙を作ったりはしていない。

 佐藤は半身になりつつアサルトライフルから拳銃に持ち替え、ミルコの踵落としを受け止めつつ拳銃で相打ちを狙おうとする。

 ミルコはそんな佐藤の動きを見て、舌打ちした。このまま踵落としをすれば佐藤の右腕と右肩は破壊できる。が、その代償に拳銃での反撃をまともに食らうだろう。

 そこでミルコは踵落としをするのをやめ、盾のように使っている佐藤の右腕を踵落としするつもりの右足で踏みつける。そのまま踏みつけた右腕を足場に真横に跳ぶ。佐藤はその衝撃で後転しつつもすぐ片膝立ちとなって反撃できる体勢となり、ミルコの移動した方向にアサルトライフルを構えた。だがアサルトライフルを構えた時には、ミルコはビルを遮蔽物にして射線を切っている。

 ミルコはビルを遮蔽物にして佐藤の方を窺う。聴覚はもう回復していた。そのことに安堵しつつ、ミルコは次の出方を考える。

 

 ──佐藤相手にダメージ交換は無駄だ。

 

 佐藤とダメージ交換をしたところで、一瞬でも余裕があれば佐藤は自殺して全回復する。そのことを理解していなかったから、ミルコは被弾覚悟で佐藤にダメージを与えにいき、結果的に自分だけが不利になっている。だから直前の踵落としの時、ダメージを与えるより自分がダメージを受けないような動きにシフトした。

 

 ──だったら、戦い方は一つ。

 

 佐藤にダメージを与えることに重きを置くのではなく、佐藤の自殺手段を奪う。正確に言うならば銃器や爆発物、刃物といった武器の無力化を狙う。ミルコは度重なる佐藤との戦闘経験から、佐藤との戦い方を理解しつつあった。しかし、非常に残念なことがあるとするなら、そのことを理解したのが被弾後で重傷になってからだったということ。ミルコの腹部の傷は激しい動きによって悪化し、血流が促進されたことによる失血が酷くなっている。

 ミルコの視界が霞む。腹部が痛いのかすら分からなくなってきた。それでもミルコは歯を食い縛り、佐藤が待ち構えているであろう方へ飛び出す。ミルコはそう体に命令した。が、ミルコの意思に反し、体が急停止。ミルコは自身の動きを邪魔した原因の方を睨む。ホークスの羽根が六枚、ミルコの身に付けているポーチに突き刺さり、ポーチを押さえつけることでミルコの動きを止めていた。

 ミルコはすかさずインカムの発信ボタンを押し、怒鳴る。

 

「ホークス、邪魔すんな!」

『あんたまでここで失うわけにはいかない! 今すぐ安全な場所に移動し、ヒールボトルで回復を!』

「私はまだやれる!」

『こんな羽根で動き止められるような状態なんすよ! 客観的に自分の今の戦力を考えてください! 味方を助けるという行為が佐藤の付け入る隙になっていることは、エッジショットさんのことで分かったでしょ!?』

 

 ミルコはそう言われ、血が上っていた頭に冷や水を浴びせられたように感じた。結局のところ、今のミルコは精神力で無理やり体を動かしているだけだ。もしそれでまた窮地に陥り、仲間がそんな自分を助けるために戦闘に割って入って死んだら、きっと自分は自分のことを許せないだろう。いや、エッジショットが犠牲になった時点で、自分のことは許せない。認めるしかない。今の自分はヒーローにとって足手まといにしかなっていないのだと。むしろここで佐藤と共に散ることで、その失敗と負い目から解放されたかっただけだったのかもしれない。

 

 ──情けねえ……。

 

 ミルコの体から力が抜けた。それを感じたホークスの羽根がポーチから一旦離れ、ミルコのヒーロースーツに引っ掛けるように再び飛来。ミルコの体を持ち上げて、愛国者集団(パトリオッツ)の銃撃や(ヴィラン)連合の攻撃が及ばないルートを進み、ヒールボトルのある後方支援部隊のところへ向かっていく。

 

『暴れないでくださいよ』

 

 インカムでホークスがそう言ったが、ミルコはそんなホークスの言葉など耳に届いていない。

 

 ──情けねえよ。

 

 誰かに頼るのを恥とし、チームで行動するヒーローを軟弱と見下し、スタンドプレーを続けてきた結果がこれだ。仕方なくチームを組み、いつも通りの行動をした自分の思慮の浅さ。一人でもやれると自惚れた報い。

 

「ホークス、下ろせ」

『え?』

「自分の足でいく」

『……了解』

 

 ミルコとホークスはインカムでやり取りし、ミルコを持ち上げていた六枚の羽根は近場の建物の屋上にミルコを持っていくとミルコのヒーロースーツから離れた。

 

『カメラが付いている羽根に付いていってください』

「分かった」

 

 ミルコは羽根の後に付いて走り出す。その間、自分に対する怒りと情けなさで涙すら溢れそうになったが、強い自制心によって堪えた。それが、ミルコにとって最後に残されたプライドの一欠片だった。ちなみに、ここでの失敗と挫折がミルコをより強くするきっかけとなるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 佐藤はミルコがいつ飛び出してきてもいいように、ミルコが身を隠した建造物の方にアサルトライフルの照準を合わせていた。

 そこで、佐藤は道路を踏み鳴らす音を聞く。音が聞こえる方に顔を向けた。中世の騎士のような見た目と銃器やバッグという最新道具を装備しているアンバランスな姿。ある種滑稽とも言える見た目の人間が、装備の重量を感じさせない速さでアサルトライフルを構え、佐藤に向かって一直線に駆けてくる。

 

「おお! ボス戦っぽいじゃない!?」

 

 佐藤は声を弾ませ、アサルトライフルの照準を全身アーマーのヒーロー──ゴウに合わせて射撃。アサルトライフルの銃弾がゴウに叩き込まれる。だが、ゴウの身に付けているヒーローアーマーは銃弾を全て弾いた。銃弾がゴウに及ぼした影響は、衝撃で僅かに駆けるスピードを鈍らせた程度だった。

 

「見た目通りの防御力だね」

 

 アサルトライフルのリロードをしながら、佐藤はゴウの装備を分析する。

 ゴウは駆けながらアサルトライフルを佐藤に向け、撃つ。佐藤はいきなりの射撃を避けれず、右胸を三発撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちた。そして、黒い粒子を纏わせながら復活。復活し、体を起こした時には、ゴウが佐藤の十メートル前後まで接近している。ゴウの駆ける速さを考慮すれば、一、二秒後に佐藤の体に触れる。

 佐藤がその情報を認識した瞬間やったのは、アサルトライフルから手を離し、M六七破片手榴弾のピンを抜きつつ、ゴウの方に踏み込むという行動だった。

 ゴウは銃器が意味を成さないことを理解した佐藤が攻めあぐねて慎重になると考えていた。だからこそ、佐藤のその行動は予想外の行動であり、アーマーの視界の悪さと相まって佐藤を捉えきれず、確保しようと伸ばした右腕をかわされ、ぶつかり合う。

 ぶつかり合った瞬間、佐藤はM六七破片手榴弾を持っている右手をゴウの背中に回しつつ、左手は拳銃を握る。

 

「何?」

 

 ゴウは佐藤のその行動に対し、頭に疑問符が浮かぶ。このアーマーは全身を覆っている。背部の方が装甲が薄いとかも無い。つまり、背部の至近距離でグレネードを爆発させたところで無駄に終わる。

 そう思いつつゴウは視界の悪いアーマー越しに頭を下に動かし、胸部に抱きつくようにしている佐藤を見る。背筋に悪寒が走った。佐藤が愉しげに唇を歪ませている。

 そんな中、佐藤の持つグレネードが爆発。背中越しに伝わるとてつもない衝撃。だが、背中を負傷した感覚は一切ない。次に、ゴウは佐藤がどうなったのか、確認する。

 佐藤は死んでいなかった。どうやら自分の背中で爆発させたことで、グレネードの破片を防いだらしい。要は盾にしたのだ、このアーマーを。だが、グレネードを持っていた右手と右腕は守られない。よって、佐藤の右腕は肘から先が吹き飛んでグチャグチャになり、その弾けた血によって佐藤の右肩が血に塗れた。

 

「はははははは!」

 

 そんな状態で佐藤は高笑いしながら、肘から先の無い右腕をゴウの背負っているバッグのベルト部分に突っ込み右腕を固定。固定しつつ、佐藤はすかさず左手に持つ拳銃で顎下から頭を撃ち抜き自殺。佐藤の体は死んだことで力が抜け、倒れようとするが、右腕がバッグのベルト部分に絡まっているため、倒れない。そして、復活が始まる。佐藤の失った右腕の肘から先の部分も。

 

「ぐッ……!」

 

 そこで、ゴウは唐突に激痛を感じた。ゴウが痛みを感じる脇腹の辺りに視線を持っていくと、佐藤の無かった筈の右腕が再生されてアーマーを貫いている。

 それでようやく、ゴウは佐藤の再生の本質に気付いた。

 

 ──佐藤の再生は邪魔になるものは全て分解するタイプだったのか!

 

 だが、今更気付いたところでもう遅い。佐藤はその戦術を狙ってやったのだ。つまり、次の行動も迅速。

 佐藤は右腕がアーマーに穴を空けて再生した瞬間、ゴウの脇腹に突き刺さっている血に塗れた右腕を抜く。抜いた右手でM六七破片手榴弾を掴んだ。そこからピンを抜いて穴の空いたアーマーに再び右腕を突っ込む。そして、グレネードをゴウの体内にねじり込んだ後、右腕を抜いた。

 

「ナイスファイト!」

 

 佐藤はポンポンとゴウの右肩を叩く。ゴウは唸り声をあげながら右腕を振り上げた。ゴウの体内でグレネードが爆発。血がヒーローアーマーの僅かな隙間から吹き出して接触していた佐藤の体を血塗れにした後、その場で崩れてアーマーの山となった。支えが消えたからだ。

 

 ──うん、そうだったよね。

 

 佐藤は血に濡れながら、確かな充実感に包まれていた。

 亜人は命が無限にあるから、無限に愉しめる。それは確かにそうだろう。しかし、たった一つの命で殺し合うこともそれはそれで愉しいものなのだ。

 

 ──だからこそ、君たちはもっと命を燃やして全力で私を愉しませてほしい。君たちにはたった一つしか命がないんだから。

 

 佐藤は悠然と歩き、道路に転がっているハンチング帽を拾い上げて被る。その時の佐藤の唇の端は吊り上がっていた。

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