「あの装備をしたゴウをあんなにもあっさり……」
ホークスはゴウと佐藤の戦いに驚愕していた。
明らかに佐藤はありとあらゆる敵への対処法を持っている。それを反射的に引っ張り出し戦術に組み込む機転。そのことから考えても、佐藤は
ただ、ゴウの死は無駄ではない。佐藤の再生能力に関して、おそらく最も解明しづらい仕様が分かったからだ。
──佐藤の再生がまさか再生先にある邪魔なものを分解して再生する能力だったなんて……。
これまで確認されていた再生系の『個性』持ちヴィランの再生は、再生先に邪魔なものがあったら弾き出すか自身が動くかで再生先を確保していた。それを考えれば、佐藤は『再生系個性』の中でも特殊な部類に入る。まあ死んで発動する『個性』である時点で唯一無二な『個性』ではあるが。
ゴウの装備していたアーマーを分解できるなら、おそらくどんな物質であろうと分解できるだろう。つまり、再生時の分解に物質的強度は関係ない。分解されない物質はきっと世界中探しても無いのだろう。
これでエッジショットが何故あんなにもあっさり殺されたのか、説明がつく。エッジショットに佐藤が拘束されていた時、佐藤は仲間に撃たれて死に、復活した。エッジショットは体を細く伸ばす『個性』であり、拘束にもエッジショットの体を使っていた。だから佐藤が復活した際、佐藤の体内を貫いていたエッジショットの体の一部が分解され、佐藤の拘束が解かれたのだ。そして、エッジショットは原因不明の唐突な激痛とショックによって致命的な隙を作ってしまった。
──俺の羽根も佐藤相手だとあまり効果が無いみたいだな。
ホークスの羽根は殺傷力が低い。だからこそ、敵の行動妨害や羽根を機動力とし不意を突くような使い方をする。今の情報を踏まえると、佐藤相手に羽根による行動妨害は難しい。羽根による行動妨害は相手の体に突き刺すか衣服などに引っ掛けるかの大体二パターンになるわけだが、佐藤の体に羽根を突き刺したところで死んで復活すれば、突き刺していた羽根の先端が分解されて外れてしまうし、衣服に引っ掛けてもそれを外す手段など佐藤はいくらでも持っている。
ホークスがそう思考を巡らしている中、銃声が連続して響く。佐藤ではない。もはやHUNTの最後の隊員である念道が、付近の念力で浮かせた二丁のアサルトライフルを交互に撃ち続けている。最初の一発で佐藤が倒れ、次からの弾丸は倒れた佐藤の指が一瞬動いたところに叩き込まれ続ける。佐藤が念道によって殺され続けているのだ。
念道の戦術は、成る程理に
だが、そこまで理解できても、ホークスは念道に対しての嫌悪感を拭い去ることはできなかった。
死なないから殺してもよい、というのは、やはり人道から外れた思考なのだ。ヒーローの精神を持つならば、死なないなら殺すつもりで戦うとはならない。不死だろうが不殺を貫く。相手がどういう能力かは関係無い。相手に左右されずヒーローの精神を貫いてこそ、ヒーローたり得る。ホークスはそう考える。だからこそ、殺しを是とする念道に嫌悪感を抱く。その一方で、その嫌悪感を乗り越えなければ、HUNTという部隊に価値は無いとも思っている。ヒーローの精神が足枷となる敵こそ、HUNTが真価を発揮しなければならない。ヒーローの延長線上の部隊では意味が無いのだ。そういう意味では、念道は自身の立ち場と役割をしっかり理解し実践していると言える。
「……ん?」
ホークスは今、ミルコを羽根でナビしていたため、八階建ての建造物の上を飛んでいた。そこからは佐藤らヴィランたちの位置とヒーローたちの大体の配置が分かる。遮蔽物に隠れて姿を常に見ることはできないが、チラチラと周囲を窺うヒーローやヴィランを見かけることができた。
そういう位置にいるホークスが、思わず声が出るほどの不思議な光景を目にする。ホークスから一つ隣の建物の屋上を、アサルトライフルが浮かびながら移動しているのだ。一瞬念道の念力で動いているのかと考えたが、距離的な関係とヒーローにとって別に有利ではない動きのため、それは無いと判断。そして、その銃口が念道の方を向く。
「念道! 危ない!」
ホークスは念道の付近に待機させていた羽根を使い、念力で銃撃を続けている念道に羽根を引っ掛けて無理やり移動させる。
「むッ……」
念道はいきなり移動したことで困惑した声を出したが、一瞬前にいた位置が銃撃されたところを見て状況を理解。ただ、その予想外のことが念力による銃の操作を一瞬中断させ、佐藤を殺し続けるループが途切れた。
「なんだ、これは!?」
ホークスは自身に標的を変更した浮かぶ銃からの銃撃を回避しつつ、浮かぶ銃から目を離せないでいた。ホークスには見えないが、この浮かぶ銃の正体は銃を担いだ佐藤のIBMだ。本来は佐藤がヒーローを引き付けている間にヒーローの背後に回り一掃する予定だったが、佐藤が殺され続けるという事態になったため、その元凶を排除する動きに変わった。そこを偶然ホークスに見られてしまったというわけだ。
──まさか佐藤の透明な物質を操作する『個性』なのか!? 奴はその物質に銃すら扱わせることができるのか!? それとも
ホークスはすぐにこの不可解な現状をこれまでの情報から分析した。
隠密による奇襲がバレてしまった異形は、ホークスを威嚇射撃しつつ屋上から飛び下りる。そして、そのまま付近にいるヒーローたちに銃を向けた。
「な、なんだ!?」「銃が浮かんで……」「どうなってる!?」
ヒーローたちは異形の着地音に振り向き、銃が浮かんでいる異様さに困惑した。
「くッ……」
ホークスが羽根を操り、銃を向けられていたヒーローたちを羽根で無理やり射線からズラした。異形の射撃は全弾建造物の壁を叩く。ヒーローたちは血の気の引いた顔で弾痕の付いた壁を見た。
異形は弾切れになったアサルトライフルを真上に放り投げる。誰もがアサルトライフルを目で追った。異形はその一瞬の隙を突き、銃撃を逃れた内の一人のヒーローの胸を右手で貫く。
「がはッ」
貫かれたヒーローは口から血を吐き出し、その血が異形の右腕を伝う。異形がヒーローの胸から右手を抜いたところに、ホークスの羽根が異形の全身に殺到した。だが、異形に羽根は刺さらず、ただ異形の表面を覆っただけだった。胸を貫かれたヒーローは力無く地面に倒れ伏した。
──人に似た形をしている。だが、間違いなく人じゃない。コイツはなんだ……!?
ホークスは透明な何かを止めるためだけに羽根を殺到させたのではない。殺到させた羽根で透明な何かの形状を知ろうとしていた。その結果、綺麗に人の形のような空間ができた。だが、完全に人ではない。頭に当たる部分が丸っぽくなく、四角く平たい形をしている。
異形は羽根を意に介さず、横に移動し道路側へ出ていく。羽根の包囲網は簡単に突破された。
「ちッ……」
──コイツ、尋常じゃないパワーを持ってる!
羽根を通して感じた力は屈強なヴィランを抑えた時と同等だった。おそらくあの透明なヒト型の身体能力はヒーローとヴィランの上位レベルに相当するだろう。そんなヤツが透明で姿が分からないうえ、銃といった武器を使えるのはかなり厄介だ。そして、コイツは佐藤が操作している可能性すらあるのだ。その場合は絶望でしかない。
ホークスは透明なヒト型を見失わないよう、羽根を広範囲に飛ばして透明なヒト型を追跡し続ける。
佐藤はIBMの視界を通して、ヒーローたちの中心でIBMが暴れ出したのを知る。
「そろそろ頃合いかな」
佐藤は周囲を見渡し、自身の周囲からヒーローを一掃できたことを確認する。彼らは迂闊に姿を晒して自分や後方で控えているヴィランに殺されることを恐れているようだ。そこに中心付近での透明な何かの奇襲。今、ヒーロー側は動揺し、IBMの対応に追われている。作戦を開始するタイミングとしては、なかなか悪くない。
佐藤は手に持つアサルトライフルを上に向け、発砲。それを見た後方にいるヴィランたちも続いて上に向けて発砲した。それこそ、佐藤ら
◆ ◆ ◆
ある高層ビルの屋上で狙撃銃を構える女ヴィランと、フィールドスコープで佐藤たちの戦闘を見守る男ヴィラン。男ヴィランはフィールドスコープ越しに佐藤が空に向かって撃ったのを確認。
「佐藤からの合図だ。やるぞ」
「……了解」
狙撃銃を握る女ヴィランの手は微かに震えている。理由は彼女が狙っている相手がヒーローではなくヴィランだからだ。スコープ越しの視界には青い炎を撒き散らす男の姿がある。
女ヴィランは屋上に行く前の佐藤との会話を思い出す。その時は周囲に三十人ほどヴィランたちがいた。
『合図をしたら、君にはヴィラン連合の誰か一人を狙撃してほしい。……ああ、そうだ。死柄木君以外のメンバーで頼むよ。リーダーを殺しちゃうとヴィラン連合が崩壊しちゃうかもしれないから』
その言葉を聞き、その場にいた誰もが驚いたのは言うまでもない。そんな反応が面白かったのか、佐藤は微かに笑みを浮かべた。
『忘れたのかな? そもそも私は動画で
ヴィラン連合が出てきたことは、ヴィラン連合が接触した愛国者集団のヴィランからの連絡で知っていた。そして今、ヴィラン連合と共にいる愛国者集団のヴィランたちには彼らと上手くやるよう指示を出しつつ、その裏ではこうしてヴィラン連合狙撃の作戦を立てている。ヴィラン連合は夢にも思わないだろう。ヒーローが大勢いる中、彼らを差し置いて標的にされるとは。
実際、愛国者集団のヴィランたちもこのタイミングで初めてヴィラン連合も標的にしていることを知ったし、リベンジエッジというずっと佐藤と行動を共にしていたヴィランたちもそうだった。
ヒーローどころか、ヴィラン連合というヴィラン界の親玉のような組織にも牙を剥く。その狂暴性に計画を聞かされた愛国者集団のヴィランたちは肝を冷やした。同時に、ありとあらゆる勢力に喧嘩を売るその何ものにも縛られない佐藤の生き方に、ある種の憧れと尊敬を抱いた。
狙撃銃を握る女ヴィランは頭を切り替え、スコープから見える光景に集中する。
彼女がヴィラン連合の
ヒーローたちと交戦しているヴィラン連合の中で、荼毘だけは余裕そうに蒼炎を周囲に放ち、ヒーローたちを寄せ付けずにいた。激しい動きなどしていなかったのだ。
ヴィランの立ち場でありながら、ヴィランを撃つ。そのことが彼女の中の仲間意識というべきところを抉り、苦しめていた。だが、だからこそ、この感情を乗り越えた時、彼女は佐藤のような存在に一歩近付くことができると考えた。そう考えなければ、彼女はいつまでも決心がつかないままだった。
「ふぅ──」
女ヴィランは覚悟を決め、大きく息を吐いて止める。その状態で撃つのと同時に息を吐ききることで、狙撃時のブレを最小限にできるのだ。
女ヴィランは狙撃距離を考慮し、荼毘の少し上に狙いを付けた。荼毘はヒーローを嘲笑するような表情で蒼炎を操り、周囲を焼き払っている。
──せめて苦しまず死んでくれ。
それが同じヴィランとしての情けだと、女ヴィランは思った。
女ヴィランは引き金を引く。視界に火花が散り、轟音が響いた。全身に痺れるような衝撃。
撃ち終わった瞬間、女ヴィランは痺れている体をムチ打って狙撃銃を手早く分解し、バッグに詰める。
「掴まれ!」
「当たったのか!?」
「当てた! もう狙撃は必要無い! ここからは時間との勝負になる! 早く地上に行くぞ!」
「お、おう……」
女ヴィランは男ヴィランに手を伸ばし、男ヴィランはその手を掴んだ。
女ヴィランはその手を掴んだまま、屋上からビルの側面を滑るように落ちていく。
「うわああああ……」
男ヴィランは情けない悲鳴をあげて、女ヴィランにされるがままになっていた。
女ヴィランは地上に近付くと、ビルの側面の突起に手と足を引っ掛けて勢いを殺した。そして、完全に勢いを殺し切った後、ビルの側面を蹴って着地。
「ぐえッ」
男ヴィランは女ヴィランの背負うバッグの上で受け止められ、腹がバッグの硬い部分に当たったことで苦しげな声を漏らした。
「ようやく来たか」
女ヴィランの着地した傍にいた
佐藤は脚部アーマーのガスを噴射させつつ、その場所に向かっている。
佐藤はそうしつつ、あることについて考えていた。沙紀のことだ。彼女を助けるか殺すか、その判断をどうしようか考えている。
──IBMに任せてみようかな。
IBMが助けられると判断したら助け、無理だと判断したら殺す。佐藤は最終的にそう決めた。
佐藤がそう決めた瞬間、IBMはヒーローやホークスとの戦闘を中断し、沙紀の捕らわれている車へ疾走。道路を抉るほどの力で蹴って加速し続ける。自動車同等の速さで走れるIBMにとって、沙紀の捕らわれている車まで到達するのに数分もかからなかった。
沙紀の捕らわれている車まで到達すると、傍にいた護衛らしきヒーローを勢いのまま蹴り飛ばす。次に、異形は右手の爪で車のドアを引き剥がし、後部座席で拘束具を付けられて寝かされている沙紀を左手で起こす。
「な、何!? ま、まさか佐藤さんの透明な味方さん!? 助けに来てくれたの!?」
沙紀は目を輝かせて、何も見えないが確実に何かいる空間を見つめる。
異形は沙紀の拘束具の解放ボタンを押し、沙紀は拘束から解放されたことによる安堵からふぅと息を吐く。
「ありがとう、透明人間さん」
「早く……行け……。撤退作戦は……始まっている……」
「あ、そっか! 分かった! あなたも絶対逃げ切ってね! お礼したいし!」
沙紀は慌てて爪を伸ばし、集合場所に向かって急ぐ。
異形はタイムリミットらしく、ボロボロとその場で崩れて消えていった。
佐藤は集合場所に到着した。佐藤がヒーローを引き付けている間にそれ以外のヴィランたちは集合場所に移動して防御を固めるという作戦だったため、この場には負傷して動けない者を除いてほぼ全てのヴィランがいる。
「撤退する。ポータルを繋いで」
「あ、ああ!」
狙撃手の女ヴィランの近くにいた男ヴィランが両手を上に向け、二つの球体を生み出す。
狙撃手の女ヴィランはその二つの球体の内の一つを掴み、踏み込んで思いっきり指定された方向に投げた。
球体を生み出した男ヴィランは残った一つの球体をそのまま地面に落とす。すると地面が波打ち、楕円形の真っ黒な門が現れた。この真っ黒な部分は今投げた球体が何かにぶつかった瞬間、そこと繋がってそこの景色が見えるようになる。
それから約二十秒後、真っ黒な部分にどこかの建造物が映った。
「全員飛び込め!」
「ま、待って〜〜!」
その時、遠くから沙紀の声が聞こえた。沙紀の現在地からこの場所には、爪で直接門を突き刺して移動するくらいしないと間に合わない距離がある。だが、それをするには角度的にも地形的にも厳しい。
「沙紀君、私に向かって爪を伸ばせ!」
「……ッ!」
佐藤が手で筒の形を作り、それを口にもってきて大声で叫ぶ。その意味を理解した沙紀は下唇をグッと噛みしめ、佐藤に向かって爪を伸ばした。爪が佐藤の体を貫く。内臓の損傷により、佐藤が血を吐き出した。その状態で佐藤は貫いた爪が抜けないように掴む。沙紀は爪を戻して高速移動。爪を戻し切ると佐藤の胸に飛び込む形となった。佐藤は沙紀に抱かれたまま、門に落ちる。落ちる直前、青白い炎光が視界の端に映った。
落ちたと思ったら、横から出てきた。佐藤の背後にあったポータルが閉じる。
佐藤は抱きついている沙紀を引き離しつつ、近くにいたヴィランが装備していたサバイバルナイフを抜き、首を切って死んだ。そして、黒い粒子に包まれながら復活。
「佐藤さん……うわああああ、佐藤さーん! 怖かったよおおお!」
沙紀が泣きながら佐藤に再び抱きついてきた。佐藤は一瞬この鬱陶しい女を殺そうと思ったが、こうして助けたことで忠実な駒になることを考えたら、今は別に殺さなくてもいいかと思い直した。沙紀はきっと今、自分は大切な仲間だと思われていると考えているのだろう。とんだ思い違いだ。
「さて、ヒーローの包囲網は抜けたけど、まだまだ油断できない。ここで散開して逃走を続けるよ」
佐藤がさり気なく沙紀を引き離しつつ、そう言った。周囲にいる大勢のヴィランたちは頷き、それぞれバラバラになってその場から逃走した。