ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第56話 青天の霹靂

 テレビからニュースが流れている。

 

 ※ ニューススタジオの全景から女性アナウンサーと男性アナウンサーのバストショットへ。二人の一礼と同時に『牌理真由』と『新田和志』のテロップが重なる。

 

『先日、佐藤ら愛国者集団(パトリオッツ)が旅客機をハイジャックし、国会議事堂を襲撃した事件。この事件解決のために警察とヒーローは総力を挙げて対応しましたが、多数の犠牲者が出てしまいました。エッジショットを始め上位プロヒーローからも死者や重傷者が出ています。また、被害はそれだけにとどまりません。臨時国会に出席していた国会議員が護衛のヒーローも含めて全員死亡していることが警察の捜査によって判明しました。国会議事堂周辺はヒーローとヴィランの戦闘によって損壊が激しく、民間人にも多数の被害者が出ています。愛国者集団のボスである佐藤は影響力をどんどん強めていっているようです。

こちらの映像をご覧ください』

 

 ※ 佐藤を先頭に多数のヴィランが付き従い、佐藤の合図と同時に一斉に撃ち始める映像が流れる。

 

『佐藤は他のヴィランたちを従わせ、このように自らの力を誇示するようなやり方をしています。これは明らかに我々の恐怖を煽り、ヴィランたちを鼓舞しています。

政府が機能停止を起こしている今、これからの日本の未来に不安しかありません。警察とヒーローはヴィランの取り締まりを強化し、一刻も早く佐藤のような凶悪犯を捕まえて国民からの信頼を取り戻してほしいところですね』

 

 ※ 映像がニューススタジオのアナウンサー二人のバストアップに切り替わった。女性アナウンサーがチラチラとデスクの紙に目をやりつつ口を開く。

 

『続いて、次のニュースです。国会議員大量死亡による影響で総選挙を望む国民が増加しているようです。生き残った国会議員は臨時国会に出席しなかった議員であり、国会議員としての責任感が欠けているという考えから、彼らだけに新政府の立ち上げを任せられないという思いがあるようで──』

 

 女性アナウンサーがそう言ったところで、テレビを観ていた少年が手に持つリモコンを操作し、テレビ画面を消した。

 少年──開世遊矢の顔からは血の気が引いている。それもその筈。彼は佐藤が溺れていると勘違いして『個性』を使って助けたことがある。言い換えれば、これまでの佐藤の悪行全ては彼が助けなければ起きなかったことなのだ。佐藤が何かしたとニュースで知る度、彼の中の良心は激しく痛んだ。そして今、彼の良心は限界にきつつある。

 彼はもう良心の呵責に耐えられなくなっていた。早くこの誰にも言えない秘密を暴露し、何かしらの赦しを得て楽になりたいと考えるようになっている。

 こんな罪悪感が湧き上がるニュースを選んで観ていたのも、そうすることで自分の葛藤に踏ん切りをつけるためだ。自分の中の良心と正義感を追い詰め、行動に移させる。

 

「……よし、行こう……」

 

 覚悟を決めた開世はベッドから立ち上がり、部屋から出ていった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤はリベンジエッジの面々を引き連れてアジトの一つに戻っていた。佐藤の動きは慌ただしい。アジトにある物資をなるべく車に詰め込ませるという指示を戻って早々出した。他のアジトに行ったヴィランたちにも同様の指示を出し、一刻も早くアジトの移動準備を済ますようにと命令した。

 

「佐藤さ〜ん、せっかく逃げ切れたんだから、少しくらいゆっくりしたって──」

「沙紀君は針間君と連絡が取れなかったことを忘れたのかな?」

 

 倉庫の地べたに座っている沙紀がそう言うと、佐藤は荷物を持ったまま沙紀に顔を向けた。当然のように笑顔だが、その言葉には棘が仕込まれている。その棘を敏感に感じとった沙紀はふてくされた顔から一転、青ざめた顔になった。佐藤の気分を多少害したかもしれないと考えたからだ。

 

「前も言ったけど、ほぼ百パーセント針間君はヒーローに捕まっている。それで彼らに優秀な尋問官か拷問官、もしくは情報を引き出す『個性』を持つ人間がいた場合、アジトの場所や武器の保管場所、人員、『個性』情報、我々への連絡手段等の情報を奪われる。今動かないと、ヒーローに先手を打たれるんだ」

「わ、分かった分かった! 言ってみただけ! やるやる!」

 

 沙紀が慌てて立ち上がり、デニムショーツのお尻に付いた汚れを両手で払う。

 そこに猿石と、オレンジ色の長髪で赤目の女が近付いてくる。

 

「佐藤さん」

「ん? 猿石君か。髪縛ってたから一瞬分からなかったよ」

「ああ、これですか? その、霧香さんがこっちの方が似合うからって髪ゴムくれて……」

 

 猿石が髪を縛っている髪ゴムを触りながら、照れくさそうに言った。そんな猿石を見た沙紀が「ふぅん。霧香さん、ね」とニヤけ顔になる。

 猿石は沙紀の呟きが聞こえなかった振りをして、隣にいる霧香に右手を向けた。

 

「本格的に仲間になりたいって言ってるんですけど」

「仲間? それは愛国者集団(パトリオッツ)に? それともリベンジエッジ?」

「それは、そのどっちでも──」

「誠さんと一緒のチームがいいな」

 

 霧香が口を挟む。ぎょっとする猿石。

 佐藤はそんな二人を見て頷いた。

 

「じゃあ、リベンジエッジの方だね。だったらそのチームのリーダーは猿石君だ。加入したメンバーの紹介はしてくれると助かるけど、メンバーの加入は別に私の許可を取らなくていいよ」

「あ、分かりました……」

 

 猿石は内心で佐藤の言葉にショックを受けた。

 

 ──佐藤さんはやっぱりリベンジエッジのメンバーじゃないんだ。

 

 猿石の今の問いは、佐藤との関係を改めて確かめる意味もあった。

 佐藤と初めて会った時、佐藤は手を組みたいと提案してきた。手を組むというのは文字通り、一時的な同盟という意味であり、本当の仲間ではない。もちろんリベンジエッジ側は佐藤を仲間だと思っているが、佐藤にとっては都合の良い駒程度の感覚であり、使えないなら切り捨てればいいという考えなのだろう。その意識の差が、猿石にとって少し悲しかった。

 猿石がそんな感じで落ち込んでいる中、二人の男女が新たに近付いてくる。

 

「だったら俺たちは愛国者集団の正式なメンバーにしてもらおうか。狙撃でヴィラン連合の一人は()ってやったし、手柄としては十分だろ」

 

 この二人は狙撃チームであり、より良い待遇を求めている。これまでは金で雇われた傭兵的立ち位置だった。

 

「いいよ、確かに君たちは良い働きをしてくれた。これからはより重要度の高い役割をやってもらおうかな」

「よ、よろしくお願いします」

 

 女の方が前に一歩出て小さく頭を下げた。

 

「うん、よろしくね。物資の移動が終わったら、ヒーローがここに攻めてきた時のためにトラップを仕掛けるから、早く移動を終わらせよう」

「はい」

 

 佐藤はその言葉を最後に物資運びに戻っていく。そんな佐藤に釣られ、他の面々も物資運びをやり始めた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 雄英高校、応接室。

 そこにあるソファに四人座り、一人立っている。ソファは真ん中のテーブルを挟んで二脚ずつ置かれており、片方には根津校長とオールマイトが座っており、オールマイトの隣に相澤が立っている。もう片方は花畑と太った五十代の男が座っていた。

 

「どうですか? 今の話、引き受けてくれますか?」

「……」

 

 オールマイトは絶句していた。それはそうであろう。いきなりやってきて、国務大臣相当の権限を与えるから対ヴィランと対犯罪組織の指揮を執ってくれと言われて、はいやりますと即答できる人は滅多にいない。

 

「今の現状を打開するためには、国民に心の拠り所が必要です。確かに、あなたは今ヒーローではない。ですが、ヒーローではないからこそできる役割があります。あなたがこれまで積み重ねてきた信頼、それはあなたしかない唯一無二のもの。国民を安心させられる人物はあなたしか今の日本にはいないのです」

「随分と勝手なお話ですね」

「相澤クン」

 

 相澤が不機嫌そうに口を挟み、オールマイトがやんわりと注意する。その言葉を聞き、相澤は口を閉じた。オールマイトとしては相澤の気持ちは分かるが、自分のために相澤が憎まれ役をやる必要は無いと思ったのだ。

 

「もちろん国民の信頼だけではありません。オールマイトといえば、不動のナンバーワンヒーローとして長年最前線で戦ってきたヒーロー。対ヴィランにおける経験は誰よりもあると思っており、たとえ体力の限界は迎えているとしても、その知恵と経験は心強い強力な武器になるでしょう。お恥ずかしい話、我々は現場を知らず、ヴィランに対して有効な策を未だに思い付けずにいます。我々の内の誰かがやるより、あなたの方がこの国のためなんです」

「……お二人はオールマイトがヴィラン連合に度々狙われていることは知っていますかな?」

 

 根津が口を開いた。

 

「いや、それは……」

 

 五十代の男が花畑と顔を見合わせ、僅かに首を振った。

 根津はそんな二人を見てため息をつきたい気持ちを抑えつつ、話を続ける。

 

「オールマイトが対ヴィランと対犯罪組織に行政機関のトップとして動く。確かに国民にとって心強い話でしょうし、ヒーローや警察にとっても士気の上がる話でしょう。ですが、ヴィランの視点から見たらどうでしょう? 長年苦しめられてきたオールマイトがそのような立ち場になると知ったら、必ず狙ってくる。特にヴィラン連合はオールマイトを目の敵にしている印象がありますからな、最悪を考えるならオールマイトのいる施設への襲撃を計画するかもしれない。下手すれば、オールマイトを選んだあなたたちも狙われる可能性がありますよ」

「それは──」

「別に構いません!」

 

 根津の言葉に揺さぶられ、取り乱し始めた五十代の男の言葉を遮り、花畑は力強く声をあげる。

 

「我が身可愛さで国策を見誤るつもりはありません! 言われる通り、オールマイトはヴィランから憎まれ、恐れられています。そのため、オールマイトが狙われやすくなるというのは確かに道理です。ですが、それは同時にヴィランに対しての牽制、抑止力も期待できるのではないでしょうか。もちろん無理強いをするつもりはありません。このままここで今までの経験を活かし、次代のヒーローを育てるのもいいでしょう。ですが、その役割はあなたでなければならないのでしょうか? 私はこの国をあなたがナンバーワンヒーローとして君臨していた頃のような、ヴィラン犯罪率の低い平和な国に戻したいのです! それができる人材であなたしか思い付かないのは、私の不明を恥じるところですが……」

 

 その言葉の後、少しの間沈黙が訪れた。その沈黙を破ったのはオールマイトであった。

 

「少し、考えさせてください」

「では、考えが纏まったらこの番号に連絡を。ですが、あまり長くは待てません。明後日までに連絡をいただけない場合、他の相手を選びます。どうか覚えておいてください」

 

 花畑はテーブルに電話番号を書いたメモを置き、立ち上がる。

 

「では、我々は戻りましょう」

 

 それに釣られ、五十代の男が花畑に遅れて立ち上がり、応接室から出ていった。応接室の外にはミッドナイトが待機しており、ミッドナイトが二人を先導して車のところまで連れていく。

 一方、国会議員二人がいなくなった応接室。三人は外の三人分の足音が完全に遠ざかるのを待ち、聞こえなくなったら根津が口を開く。

 

「とんでもない話を持ってきたね、あの二人は。政治家の経験が全くないキミをあろうことか大臣相当に据えるなんて話、あんなことさえなければエイプリルフールを疑うところだよ」

 

 根津の言うあんなこととは当然、佐藤ら愛国者集団のやった国会議事堂襲撃と国会議員の皆殺しである。そんな異常事態が起きたからこそ、平時では夢物語と笑われるような話が現実味を帯びる。

 

「……言っても無駄だと思いますが、俺は反対です。これは彼らが得しかしない話です。たとえあなたが彼らの希望通りの成果をあげ、ヴィランの勢いを削ぐことができたとして、彼らは用済みになったあなたをその地位のまま置いておくことはしない。経験不足だとか、特例だったからとか、あなたを解任する理由なんていくらでも作れる。騙されないでください。口では立派なことを言っているように聞こえても、それは政治家としての言葉です。耳障りが良いだけで、誠実さなんてものは言葉に宿ってないんです」

「そうやって決めつけるのは良くないよ。彼らは本心でああ言っているかもしれないじゃないか」

「そう思わせるのが政治家として必要なスキルです」

 

 オールマイトは相澤の方に顔を向ける。相澤はオールマイトの顔をしっかり見ていた。オールマイトは笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、相澤クン。キミの気持ちはしっかり受け取っておく。でも、一つだけ言わせてもらうと、私は損得勘定で動いたことは一度も無い」

 

 オールマイトは立ち上がる。

 

「しばらくの間、一人で考えます」

 

 そう言うと、オールマイトは応接室を出ていった。

 根津と相澤だけになった応接室。

 

「校長、彼は引き受けてしまうのでしょうか?」

「まあ、引き受けてしまうだろうね。何故なら、彼はオールマイトなのだから」

「では、俺たちヒーローは全力でサポートします」

 

 オールマイトの真っ直ぐさ、悪く言えば頑固さは筋金入りである。説得で考えを改めさせることはできないだろう。であれば、オールマイトの選んだ道を支えるしかない。

 

「相澤君、頼んだよ。ヴィランがオールマイトを狙うような動きを見せたら、しっかり守ってほしい」

「はい」

 

 相澤は力強く返事をした。

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