ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第58話 ライジングサン

 エンデヴァーの記者会見での公表は、ヒーロー公安委員長が想像した世間の反応とは違う反応になっていた。

 (ヴィラン)連合の荼毘がエンデヴァーの死んだと思っていた息子だったという告白は確かに衝撃的であった。そのことを責め立てる輩もいたにはいた。だがそれ以上に、圧倒的といっていい差でエンデヴァーに同情的だった。

 これにはいくつか理由がある。

 まずエンデヴァーは佐藤の起こした事件である旅客機を国会議事堂にぶつけようとしたのを阻止し、ハイジャックされていた乗客を救出した。もちろんそれはエンデヴァー一人の力ではなく多くのヒーローの協力あってのことだったが、救出作戦の立案や自身のサイドキックであるキドウを犠牲にしたという情報が後日明かされたことにより、エンデヴァーのヒーローとしての評価は上がっていた。エンデヴァーの頑張りが報道ヘリを通してテレビ中継されていたことも、エンデヴァーの評価アップに拍車をかけていた。

 第二の理由として、世間はヴィランの暗いニュースにうんざりしていたこと。佐藤が本格的に動き出して以降、明るいニュースは全くといっていいほど無かった。佐藤ら愛国者集団(パトリオッツ)はヒーロー一般人関係なく被害を出すため、傍観者の立ち場であれこれ言うこともできない。無責任に言った言葉がそのまま自分に返ってくる可能性はゼロではないからだ。

 第三の理由として、国民がエンデヴァーにオールマイトの代わりを期待していること。オールマイトという絶対的な存在を失った今、その次の絶対的存在を求めてしまうのは当然な流れだ。この流れはエンデヴァーがこの事実を包み隠さず公表したという部分によるものでもある。エンデヴァーが保身に走らず、国民に対して情報を公開し謝罪した姿は、国民にヒーローとして在るべき姿を思わせた。以前のエンデヴァーからは考えられないような誠実な対応は、国民にオールマイトの代わりを任せられると認められることとなった。

 ヒーロー公安委員長はオフィスにあるデスクの椅子に座り、予想外な世間の反応に複雑な気分になっている。エンデヴァーが槍玉に上げられなかったことは喜ばしいことだが、自分の読みが外れていたことは悔しい。それはつまり自分に正確な状況判断ができないという証明。

 ヒーロー公安委員長が眼前のデスクトップパソコンでそういった世間の反応をチェックしている中、スピーカーから声が響く。

 

「ホークスです」

 

 ヒーロー公安委員長は扉前に設置されているカメラ映像をモニターで観て、ホークス本人であることを確認。情報漏れ防止のための防音設備と襲撃者防止のための監視カメラ。オフィスがそういう作りをされているため、ヒーロー公安委員長に用のある人間は扉横のインターホンでやり取りをする必要があるのだ。ヒーロー公安委員長が監視カメラで相手を中に入れてもいいと判断したら、ヒーロー公安委員長のパソコンから扉のロックを解除し、扉が自動で開く仕組みになっている。

 ヒーロー公安委員長は扉のロックを解除。ホークスが入室したのを見て、ヒーロー公安委員長は扉を閉める。

 ホークスは完全に扉が閉まったことをチラッと背後を見て確認。それからヒーロー公安委員長の方に顔を向ける。

 

「どうやら世間の反応に困惑しているみたいっすね」

 

 ホークスはエンデヴァーの公表に関する記事がデスクにあるタブレットに表示されているのを見ながら、そう言った。

 

「あなたはこうなるって読んでたって言いたいの?」

「いえ、正直ここまで好意的とは……。国民は第二のオールマイトを熱望している。それだけ愛国者集団(パトリオッツ)の存在が、佐藤が恐ろしいんでしょう」

「確かにそういう見方もできるわね」

 

 佐藤は今までのヴィランとは決定的に違う点が二つある。

 一つ目は『個性』にこだわっていないこと。積極的に武器を使用し、使える手段はなんでも使う。ハイジャックはその最たるものだ。ハイジャックした旅客機を質量兵器として国会議事堂にぶつけようとするなど、常人の思考を超越している。

 二つ目は無差別殺人ということ。佐藤は分け隔てなく殺す。ヒーローだろうがマスコミだろうが一般人だろうがヴィランだろうが関係ない。殺したいと思ったら殺す。そんなヴィランは今まで存在していなかった。どんなヴィランも殺す相手の傾向があり、誰彼構わず危害を加えていくようなことはしなかった。いつ標的にされるか分からない恐怖。更にはそんな縛られない生き方によって他のヴィランたちが愛国者集団に入り、佐藤の模倣者が増えていく影響力。国民は感じているわけだ。このまま佐藤を放置し続けるのはヤバすぎると。ヒーロー叩きなどして自分たちを守ってくれる相手を減らしたくない。今回の件はそういう生存本能的な判断がヒーローにとって幸運な方に動いた。

 

HUNT(ハント)の人員補充はできそうっすか?」

「質を採用条件に入れなければ、ね」

「俺は甘さを無くしていたつもりでした。でも、佐藤を相手にするにはまだまだ甘かった」

「私も予想外だった。佐藤の銃火器に対応できるメンバーを集めたのに、二人も失うことになるなんて……」

 

 ゴウと創壁。二人とも銃火器に対する防御手段を持っていた。にも関わらず、あっさりと殺された。佐藤への認識不足によって。

 

「死んだ時、全回復で復活する『個性』。しかも復活する際に邪魔なものがあった場合、それを弾き出すのではなく分解する」

「ゴウがフルアーマーであったにも関わらず、佐藤にやられた理由ね」

「ドローンを使用しての爆撃も想定していなかった」

「私たちがあなたの羽根でやろうとしていたことを先にやられてしまったわね」

 

 前政府とヒーロー公安委員会は佐藤か死柄木のアジトを特定次第、ホークスの羽根と爆弾を使用した拠点一斉爆撃作戦を計画している。その作戦を多少の差異があるとはいえヴィランに先にやられるなど、屈辱にも程がある。佐藤がそのことを知っていてあえてやったという可能性は考えない。この状況でこちらの情報が漏れているのであれば、日本とヒーローは佐藤やヴィランにどう足掻いても勝てない。そもそも情報漏洩防止には力を入れているし、気を付けている。内通者が近くにいない限り、情報が漏れることはあり得ない。

 

「他にも、佐藤は厄介な『個性』があります」

「透明な何かを生成、操作する『個性』のことね」

「生成? 根拠は何かあるんスか?」

「ないわ。ただ、そう考えるのが合理的よ。おそらく人一人分以上の質量があるものを常に連れ歩いているとしたら、いくら透明だからといっても存在に気付く」

「間違いなく人型ですよ。羽根で形を確かめました。ただ……完全に人の形ではなかった。身体能力は俺の羽根で感じた限り上位プロヒーローと同等。しかも銃を使用してた」

「その身体能力で人間と同じように道具を扱えるとなると、とても厄介ね」

 

 ヒーロー公安委員長は軽く息を吐いた。

 透明なだけでも厄介なのに、身体能力は上位プロヒーロー同等で道具も人間と同じ器用さで使える。しかも物質であるため、人間的弱点が存在しないうえに、破壊できたとしてもおそらくまた佐藤は透明な物質を生成し、操作できるだろう。要するに、相手するだけ無駄で損をする。逆に佐藤からしてみれば、これほど心強く使いやすい味方はいないだろう。

 

「俺は今回、初めて佐藤と実際に戦いました。多くの仲間と共に戦い、包囲してヒーローとHUNTが全力で攻撃すれば、重火器しか武器に使わない佐藤の無力化なんて簡単だと、心の奥底で思っていた。でも、実際は違った。佐藤はヒーローアイテムで自身の脚力を上げ、あえて集まっているところに飛び込んで同士討ちを誘いながら戦っていた。同士討ちを恐れた俺たちは『個性』や重火器を使えず、各個撃破された」

 

 これが熟練のチームであれば、息の合った連携で佐藤に懐に入られても対応できたかもしれない。しかし、即席チームが入り混じる中では仲間を傷付けてしまうかもと及び腰になる。その躊躇と迷いを、佐藤に突かれた。

 

「どんな状況でも佐藤を逃がすことこそ最悪と認識し、そのためならどんな手段でも使える。場合によっては自らがその犠牲となることも厭わない。そういう人材をなるべくHUNTのメンバーに選んでください」

「……どれだけ難しい条件言ってるか分かってる? 特に今のヒーロー社会において、誰かを救うために犠牲になることはできても、ヴィランを倒すために犠牲になれるヒーローは少ない。あなたのような人間はね」

「それでも、お願いします。俺は進みつづけなければならない。ゴウや創壁の犠牲を無駄にしないために」

 

 ホークスはオフィスの扉の方に移動し、頭を軽く下げた後、ドアノブに手を掛けた。内側からなら扉を手動で開けることができる。ホークスは扉を開け、オフィスから出ていった。

 ホークスは廊下を歩きながら、佐藤との戦闘を思い返す。佐藤の『個性』はおそらくほとんど解明できているが、まだ完全に解明できているわけではない。特に透明な何かを操作する『個性』に関しては分からないことがまだあり、本当に佐藤の『個性』なのかどうかすら断定できない。

 

 ──佐藤に勝つためにはまだ足りない気がする。最低でもあと一手、俺たちにとって有利となる要素が欲しい。

 

 ホークスはそんなことを考えながら、念道の待つトレーニングルームへと向かった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 ヒーロー公安委員長とホークスが会ってから数時間後、正確には午後六時、生き残った国会議員たちによる緊急記者会見が開かれた。緊急であったにも関わらず、記者会見の場には大勢の記者が集まった。それだけ政府の動きが注目されているのだ。

 五十代の男性が中央に座り、両サイドには花畑とオールマイトが座っている。

 オールマイトがこの場にいることに、記者全員が疑問に思っていた。てっきり新政府立ち上げの選挙や新政権発足に関する発表がされると考えていただけに、オールマイト同席の意図が分からなかった。

 

「緊急であったにも関わらず、これだけ集まっていただきありがとうございます。この決定だけは一秒でも早く国民にお伝えしなければならないと思い、この会見を開きました。

我々政府は今の日本の状況において、緊急事態宣言を発出します。一刻も早く我が国から勢力を増しているヴィラン組織を一掃することこそ、我々が最優先でやらなければならないことです。そこで超法規的措置として、臨時の国務大臣を我々で指名し、ヴィラン組織や犯罪組織に対処してもらうことに決定しました」

 

 会場がざわめきに包まれる。そこまで言われれば、オールマイトがこの場にいる理由を誰もが察することができたからだ。

 そんな会場の反応を満足気な表情で五十代の男性は見渡し、言葉を続ける。

 

「そうです。この場にいる皆さんお察しの通り、元ナンバーワンヒーローで平和の象徴とまで呼ばれた日本の誇る最高の人物、八木俊典さんを政府は臨時の国務大臣に任命します。彼は快くこの話を引き受けてくれました。

では、これから国務大臣となる八木俊典さんに挨拶をしてもらいます」

 

 オールマイトはトゥルーフォームだった。痩せ細った姿であり、オールマイトであった時の筋骨隆々の姿とはかけ離れた姿。不安に感じる記者は大勢いる。

 オールマイトは一礼し、一度咳払いをした。

 

「国務大臣に任命されました、八木俊典です。私は全身全霊で与えられた役目を全うし、この国に住む人々が安心して暮らしていけるよう力を尽くしていきます。国民の皆さん、今のような苦しい状況こそ、助け合いの精神が大切だと私は考えています。一丸となってこの国に平和を取り戻しましょう」

 

 そう言い終えた後、オールマイトは再び一礼した。

 会場内が大きな拍手に包まれる。新たな希望の風の到来。絶望に包まれていた日本の淀んだ空気を吹き飛ばすような明るいニュース。オールマイトという存在が持つ不思議な安心感が、人々の心に火を灯していく。希望と闘志の火を。

 そんなオールマイトを横目で見ながら、花畑の口角は僅かに上がっていた。

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