ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第59話 前進

 猿石は緊張しながらベッドに横になっていた。今まで慣れ親しんだベッドから新しいベッドになったことが原因ではないし、新しいアジトの部屋に慣れていないからでもない。

 

 ──どうしてこんなことに……。

 

 猿石のベッドはダブルベッドだった。本当はセミダブルの筈だったのに、それじゃ狭いと言ってダブルベッドに変更した人物がいた。その人物こそ、今隣で寝ている賜焔霧香(しえんきりか)という女ヴィランである。

 

「あの、なんで霧香さんが僕の部屋に?」

「付き合ってるんだから一緒に寝るのは普通でしょ」

「つ、付き合ってる!? 僕が!? 霧香さんと!?」

「……違うって言うの?」

 

 目の前で顔を向けている霧香の目が鋭くなる。猿石は思わず顔を逸らした。

 猿石の身体中から更なる緊張と恐怖で汗が吹き出す。

 

 ──もしかして霧香さんのヨロシクに僕もよろしくって返したから、霧香さんはオッケーされたって勘違いしたのかな。

 

 だとすれば、あまりにも不器用すぎる。猿石は今の今まで霧香と付き合っている意識が無かった。それでベッド侵入してきた霧香を追い払わない猿石も猿石で駄目なのだが、ビビりである猿石はとりあえず相手に合わせることで危険を回避する生き方が染み付いているので、霧香のベッドインを許してしまった。

 

 

 ──けど、僕なんかが霧香さんみたいな人と釣り合うわけないし……。

 

「いえ、その……僕じゃ霧香さんに相応しくありませんよ。『無個性』だし、弱いし、勇敢じゃないし」

 

 猿石は自分が『無個性』だということに対し、コンプレックスを常に抱いている。『無個性』である自分が『個性』持ちの相手と付き合うなんて許されないと考えているのだ。これこそ、個性至上主義でありヒーロー社会の闇の部分。『無個性』『弱個性』の人間は普通に生きることすら息苦しい。

 

「『無個性』とか、あなたのそのハッキング能力とか、そんなの別にどうでもいい。私はあなたの心に燃やされたんだから」

「……心? 誰だって僕と同じ以上に優れた心を持てますよ。僕には何の『個性』も無いけど、大抵の人はその人だけの『個性』があるんだ。その時点で僕は負け組だし、彼らの劣化でしかない」

 

 猿石は以前ほど卑屈ではなくなってはいるし、今は佐藤の影響で『無個性』でも『個性』に劣らない能力があれば個性持ちと同格になれると考えている。ただそれは猿石だけの話であり、恋愛や結婚の話となれば別だ。結婚すれば基本子どもを授かる。だが、『無個性』の子どもはよっぽど運が良くないと『個性』は発現しない。自分がそうであったように。片方が『個性』持ちであっても、両方『個性』持ちに比べれば『無個性』になる可能性は高い。

 『無個性』でいることの苦悩と他人からの目が気になり続ける息苦しさを知っているからこそ、『無個性』の遺伝子など後世に残すべきではないと、猿石は考えてしまう。『個性』持ちの数が『無個性』より圧倒的に多いことからも、『無個性』が淘汰されていくのは自然の摂理なのだろう。

 

「もしかして子どもが『無個性』になるかもって日和(ひよ)ってる? あはは! そんなことまでもう考えてんだ!」

 

 からかうような霧香の言葉に、猿石は恥ずかしさで顔を赤くする。

 

「そんなの当たり前じゃないですか! お付き合いの先に結婚があるんですから、結婚した後のことだって考えますよ! 霧香さんの貴重な時間を僕みたいなハズレが奪っていいのかって思うのはおかしいですか!?」

「なら、私がそれで良いならあなたは私と付き合うことに異論はないってこと? さっきから私の気持ちばかり考えて、あなた自身はどうしたいか言ってないよね?」

「僕の気持ち!? そんなの、僕は女性と付き合ったことなんて一度もないし、僕みたいな人間と付き合おうって言ってくれる女性なんていないと思ってたから、霧香さんの気持ちはとても嬉しいですよ。ただ、霧香さんとはまだ出会ったばかりで好きかどうか分からないんです。そんな気持ちで付き合うのは霧香さんにも失礼だし……」

「……言っとくけど、私だってあなたが初めてなんだからね。一緒に生きたいって思える人、今までいなかったから。それだけで、私にとってあなたは特別なんだよ。それこそ、『個性』持ちの人が霞むくらい」

「霧香さん……」

 

 猿石はすぐ横にある霧香の顔を見た。霧香は優しげに微笑んでいる。その笑みが、悪戯(いたずら)っぽい笑みになった。

 

「心配しなくていいよ。あなたと私の子どもは『無個性』になんてならない。あなたの弱々遺伝子なんか、私の遺伝子が全部上書きしちゃうんだから。もし万が一『無個性』で生まれてきたって、あなたのように成長できるかもしれないでしょ。……どう? これで少しは前向きになった?」

 

 猿石の目から熱いものが溢れてくる。

 佐藤から自分の能力に対する自信をもらった。だが能力以外の部分で認められたことはない。霧香は違う。能力だけでなく、猿石という人間の在り方、心を認め、猿石という存在の全てを優しく包んでくれる温かさがある。進化に置いていかれた自分でも後世に何か残していいんだと、そんな錯覚をしてしまうくらい。

 猿石は涙を拭いながら頷いた。

 霧香の顔が近付いてくる。猿石は逃げなかった。唇と唇が触れ合う。

 そして、猿石はその夜、童貞を卒業してしまった。

 

 

 同時刻。佐藤、沙紀、(さとし)は新アジトとなった廃ビルの一室、ソファがあるだけの部屋にいた。全員ソファに座っている。佐藤はスマホを触り、怜は目を閉じて頬杖をつき、沙紀はソワソワしている。

 

「あー! どうなってるかな、あの二人! 私気になります!」

 

 沙紀の言葉に対し、誰からも反応無し。しかし、それでめげる沙紀ではない。

 

「あー! 気になっちゃうなー! どんな空気になってるかなー!」

「……何が気になんだよ」

 

 ──うぜぇ女。

 

 怜はそう思いつつ、訊かなければずっと騒ぎ続けるという確信があるため、平穏な時間を取り戻すべく渋々話に乗った。

 

「猿石君とあの霧香とかいう女ヴィランのことよ! 今頃良い雰囲気になってたりするんじゃないの〜。もしかしてヤッてたりして」

「アイツにそんな度胸ねえよ。仮にそうだったとしても、二人ともごゆっくりどうぞって感じだ。クソどうでもいい」

「あ! そういえば佐藤さんってそういう経験あるの? こう言ったらアレだけど、全然イメージできないよ。女に腰振ってるところ」

 

 そう言いつつ沙紀はイメージしてしまい、そのイメージがあまりに佐藤像から外れていることから可笑しくなってきゃははと笑い声をあげた。

 

「ないよ。言わなかったっけ? 私は幼少から最近までずっと政府に監禁されていたって」

 

 佐藤はスマホ画面から目を離さず、表情すら変えずに淡々と返した。それがより沙紀に気まずさと申し訳なさを感じさせた。

 沙紀は笑い声を止め、そっと佐藤の顔を窺う。いつも通り微笑している。

 

「あ〜と……あ、そうだ! 私で良かったら、佐藤さんに初めての経験、させてあげてもいいよ。佐藤さんにはこの前助けられたし、お金だっていっぱい貰ってるから」

 

 沙紀は腰に手をやり、くねくねと身体を動かしてポーズを決めた。豊満な胸やくびれをアピールするように。ただ一点沙紀に誤算があるなら、佐藤は一切沙紀に視線を送らなかったこと。

 

「気を使わなくていいよ。私は別にそういう行為をしたいと思ったことないし」

「はぁ? 何? 私じゃ不満ってわけ?」

 

 ポーズを取っていた沙紀の目が据わり、言葉に怒気が宿った。怜は無言で首を横に振り、内心で『始まったよ……』と呆れている。

 佐藤はそこで初めてスマホから沙紀の方を見た。

 

「いや、沙紀君は魅力的な女性だと思う。ただ、私にはそういうことが合わないってだけの話さ」

「……もういい!」

 

 沙紀は怒りながら荒々しく部屋から出ていった。佐藤はその後ろ姿を無言で眺めている。

 

「ホント、うぜぇ女だよな」

 

 怜は部屋の中が佐藤と二人になったところで、そう言った。

 

「けど、流石佐藤さん。俺の時はもっと酷かったぜ。殺してやるって襲ってきて、あの時は死ぬかと思った」

「沙紀君は君にも似たようなことを?」

「ああ。あの女の病気みてぇなもんさ。あの女は誰とだって寝れるんだよ。自己肯定感さえ満たしてくれる相手なら誰だってな。あの爪の『個性』のせいで、昔から気味悪がられてたんだろ。その反動か、自分の容姿を褒めてもらうことに貪欲なんだ。だから、容姿を否定されると烈火の如く怒り出す。佐藤さんは断りつつも容姿を褒めたから、あれくらいで済んだ」

「君はなんて言って断ったんだい?」

「失せろビッチって言ってやったよ。その後は思い出したくねえが。ま、一日経てば元通りになるさ。俺の時はそうだった」

 

 そこからしばらく無言の時間が続いた。佐藤は再びスマホを触っている。

 そんな佐藤を怜はチラッと見た。握り拳に力を入れ、意を決して口を開く。

 

「佐藤さん。ネットのニュース見た? あのオールマイトが対ヴィランの総指揮を執るってニュース」

「うん、見たよ」

「佐藤さん的にどうなんだ? ヒーローのやる気とか爆上がりするだろ? かなり厄介だと思うけど」

「どうかなぁ。むしろ攻め気がある人間はハメやすい。それに、オールマイトは最強の戦士だったかもしれないけど、最高の指揮官かどうかはまた別の素質がいるからね」

「別の素質?」

「一番重要なのは客観視で情報を処理し、作戦を立てること。だから、優秀な兵士であればあるほど自分の能力を基準に作戦を立ててしまい、上手くいかず失敗……なんてことはよく聞く話だよ」

 

 指揮官は集団を動かす。その集団の能力をまず正確に見極める能力。同様に、作戦目標の脅威も正確に把握しなければならない。それに加え、置かれている状況や全体の問題を考慮して戦力を割り振っていく判断力。当然万事順調なんてことはあり得ない。こと戦闘に置いては。そんなイレギュラーが発生した時、迅速に作戦を修正できる対応力。指揮官には最低でもそれらの能力が求められる。

 優秀な兵士は高い戦闘力とその場の対応力さえあればなれるが、指揮官はもっと別の方向での能力が必要となる。オールマイトが最強のヒーローだったとして、他人を自分が今までしてきたように動かすなら、確実に失敗する。

 

「あ、けど、オールマイトって何故か分からないけど弱体化して引退したんだっけ? 肉体の限界で『個性』が使えなくなったみたいな記事をどこかで見た気がするなぁ。なら、自分と他人を重ね合わせることはしないかな? だったら少しは期待できるけど」

「……そういう見方ができるんだな。やっぱり佐藤さんはすげえよ。俺なんかオールマイトが指揮官になるって聞いただけで最強のヒーロー部隊が誕生するってビビっちまった」

「それもある意味間違ってないかもね。さっき君が言ったように、ヒーローの士気が上がるのは分かりきってるから。問題はそのヒーローたちをどう動かすかって部分」

 

 怜は頷き、そこで下唇を噛んだ。訊くべきか訊かないでおくべきか、迷っている。佐藤は怜の今の行動をそう分析した。

 怜が彷徨わせていた視線を佐藤に合わせる。目と目が合った。

 

「佐藤さんにとって、オールマイトはターゲットなのか?」

「私はテレビ局で言った筈だよ。『新政府が二週間以内に私の要求を受け入れなかった場合、国会議員は全員殺す』ってね。今やオールマイトだって立派な政府の一員だ。当然、要求を拒否するならターゲットの一人として殺す」

 

 佐藤は淡々とそう言った。いつものように凄みのある笑みではなく、普段の表情のままで。だからこそ、怜は悟った。佐藤にとって大事なのは戦闘であって戦闘に出てこない相手には大して興味が湧かないのだと。

 

 

 

   ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 オールマイトの国務大臣就任の発表から数時間前。

 ヒーロー公安委員長のもとに、とんでもないニュースが飛び込んできた。なんと、佐藤を助けたという少年がエンデヴァーのヒーロー事務所に来たというのだ。

 エンデヴァーのヒーロー事務所にその時いたヒーローたちは最初半信半疑であったが、少年の話を聞いていく内に嘘は言ってなさそうだと判断。佐藤に関することは最優先事項であり、佐藤の情報は迅速に全体で共有しなければならないという意識が彼らにあったからこそ、全体を繋ぐトップ的存在であるヒーロー公安委員長のところまであまり時間もかからず情報が上がってきた。

 そして、発表があったのと同時刻。

 ヒーロー公安委員長、エンデヴァー、ホークスの三人はある診察室にいた。三人とも立っており、初老の医師と佐藤を助けてしまったという少年は対面して座っている。

 

「では開世さん。ここで『個性』を使えますか?」

「は、はい!」

 

 開世はこの状況に緊張しつつ、椅子から立ち上がった。誰もいない方を向き、『個性』を発動。診察室内に黒い点が生まれ、そこから渦が発生。その渦が開世の身長ほどの大きさとなり、渦の中心にはこの部屋とは全く違う景色が広がっている。砂丘と砂で埋もれている地面。

 

「鷹見さん、羽根を砂漠に向かって飛ばしてもらえます?」

「はい」

 

 ホークスは羽根を一枚、渦の中心に向かって放つ。羽根は空間の境目で見えない壁のようなもので阻まれ、空間の向こう側にある砂漠の方にいけない。

 

「なるほど。開世さんはあの砂漠に対して何かできますか?」

「あ、両手で持てるだけあそこからこっちに移動させられます。あの砂漠なら、砂を両手いっぱいに」

 

 開世は渦の中に両腕を突っ込み、両手で地面の砂を握る。そして渦から両腕を抜くと渦が消え、両手いっぱいの砂だけが残った。

 医師はそれを見ながら何度も頷き、机にあるカルテにペンを走らせる。

 開世は両手いっぱいの砂をゴミ箱に捨て、再び座り直した。

 医師は書き終えると、開世の方に頭を向ける。

 

「もう一つ、やってほしいことがあります。この部屋をよく見て、この部屋に渦の先を繋げるつもりで『個性』を発動させてもらえますか? 書いてある文字とかもできたら正確にイメージして」

「は、はい!」

 

 開世は立ち上がり、また誰もいない方を向く。この部屋に繋げるイメージをしつつ、『個性』を発動。だが、いつもの黒い点は生まれず、渦も発生しない。

 

「え? な、なんで!? 今までこんなこと無かったのに!?」

 

 開世は何度も何度も両腕を前に出しては下ろし、という動作をする。だが、何も起こらない。

 

「これではっきり分かりました。開世さん、あなたの『個性』診断した医者は随分といい加減だったようですね。ランダムに空間を繋げる『個性』なんて……いえ、私も事前情報が無ければそう判断したかもしれません。実に分かりづらい『個性』だ」

「……え? ランダムに空間を繋げる能力じゃないんですか? じゃあ僕の『個性』の本当の能力って……」

「今、この部屋に空間を繋げようとして、『個性』が発動しなかったでしょ。なんでだと思います? 答えは簡単です。この部屋と同じ空間があなたが繋げる空間の候補に存在しなかったからですよ。つまり、あなたはこの世界のどこかにその渦を発生させ、空間を繋げているわけではない。この世界とは別の世界に渦を発生させ、その空間を繋げる。簡単に言ってしまえば、そういうことです。異世界と空間を通して繋がる『個性』……とでも言いましょうか。今はまだ両腕を通してでしか空間を行き来できないようですが、『個性』が成長すればそういった縛りが無くなるかもしれません」

「ちょ、ちょっと待ってもらえる!? つまり、開世君の『個性』で助けたのが佐藤なら、佐藤は元々この世界にいなかった人間ってこと? え〜と、分かりやすく言えば、異世界人?」

「そういうことになりますね。彼は日本語を使いますから、おそらく別世界の日本から」

 

 ヒーロー公安委員長が口を挟む。医師は頷いた。

 

「そんな……僕の『個性』がそういう能力だったなんて……」

 

 開世はあまりにも衝撃的な事実に打ちひしがれている。

 

「急な話だったにも関わらず、時間を作って診ていただきありがとうございました。では、これで失礼します。エンデヴァー、ホークス、これから私たちはオフィスに戻ります。この開世君も一緒にね」

 

 ヒーロー公安委員長の言葉に、エンデヴァーとホークスは頷いた。

 ホークスは開世の背を励ますように優しく叩きながら立たせ、肩に手を置いて診察室から出ていく。その後に続き、ヒーロー公安委員長とエンデヴァーも出ていった。

 

 

 オフィスに移動した四人は完全防音となったことを確認して、ようやく気を少し抜いた。

 ヒーロー公安委員長は自身のデスクの椅子に座り、それ以外の三人は応接用ソファに座っている。

 

「さて、開世君。いきなりで悪いけど、佐藤は一秒でも早く片付けなければならない重大な問題なの。これから君には佐藤を助けた状況をさっきの診断を踏まえたうえでもう一度話してほしい」

「はい。あの日はとても暑くて、水が飲みたいとかそんなことを考えながら『個性』を多分発動しました。だから頭に水のイメージがぼんやりとあったんだと思います。その結果、ちょうど佐藤が溺れているところと空間が繋がり、溺れている人がいるって思った時には……」

「助けようと身体が動いていた、というわけか」

「はい……。あの、本当にすいませんでした……」

 

 エンデヴァーが口を挟み、開世は佐藤を助けてしまった罪悪感とエンデヴァーからの威圧感で縮こまった。

 

「あの佐藤がただ溺れるなんてことはないでしょう。多分、敵対した相手に溺れさせられたってところじゃないっすか?」

「そう! そうよ! ホークスの言う通りだわ。その敵対勢力に接触できれば、佐藤について効果的な戦術や詳細な情報を手に入れられるかもしれない。開世君は佐藤を助けた時に繋げた空間の時と同じイメージを思い出して、その時の感覚で『個性』を発動させ続けてもらえる? 常にホークスは傍に置いておく。それで向こうの世界から何かしらのアクションがあった場合、ホークスに対応してもらう。それでいいわね、ホークス」

「いいっスよ」

 

 ホークスはいつも通りの表情で応えた。

 ヒーロー公安委員長がデスク越しに開世の顔を見た。開世はずっと緊張した表情をしている。

 

「開世君もできる限り協力してもらえる? 当然夜になったら送らせるし、迎えも寄越すから。ただ成果が出るまで、学校とかは何らかの理由を考えて休んでほしい。罪滅ぼしがしたいなら、ね」

 

 開世は大きく目を見開き、泣きそうな表情で力なく頷いた。

 

「ホークス、開世君を訓練室に案内して」

「……了解」

 

 ホークスは渋々、といった感じで開世とオフィスから出ていく。

 オフィスの扉が閉まり、エンデヴァーと二人きりになったオフィス。

 

「……ああいうのは感心せんな」

「酷いやり方をしたのは自覚してる。でも、佐藤と早く決着をつけるためなら、どんな手だって使う。その覚悟で佐藤に挑まないと勝てないことは、あなたが一番理解してるんじゃないの?」

 

 少年の善良な心を利用し、言う事を聞かせる。確かに感心できることではない。だが、佐藤に勝つためならば一人の少年の心の傷など安いものだと考えてしまう。そうとも。ヒーロー公安委員会はそもそも裏で平和を脅かす者を始末してきた。誰かの心と引き替えに、この国の平和を守ってきたのだ。誰かが(どろ)を被らなければ平和にできないなら、自分は誰かに泥を被せ続ける。それこそ、ヒーロー公安委員長であることの責任。

 

 ──死んだらきっと地獄行きね。

 

 ヒーロー公安委員長は自虐気味にそう思った。

 エンデヴァーは何も言わず、オフィスから出ていく。そして、オフィスにはヒーロー公安委員長ただ一人が残った。

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