ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第61話 チーター

 テレビ画面からニュースが流れている。

 

※ 女性アナウンサーが空港前で興奮した様子で話している。

 

『とんでもないビッグニュースが舞い込んできました! なんと! アメリカナンバーワンヒーローのスターアンドストライプが! 休暇を利用し来日します! スターアンドストライプはヒーロースーツを着て搭乗したようです! 休暇であってもヒーローとしての精神を忘れないという、スターアンドストライプの人柄が分かる話ですね!』

 

「キャシーが日本に……?」

 

 テレビの前でオールマイトが呟く。

 オールマイトは今、新たな仕事場となる内閣府に行くため、雄英高校職員室の自分の机周りを片付けていた。その時無音なのも何か寂しいと思ったため、なんとなくテレビをつけた。そこで気になるニュースがでてきたので、オールマイトは片付けを中断しテレビの前に移動したのだ。

 オールマイトは若い頃、アメリカの大学に通いながらヒーロー活動をしていた。その時子どもだったスターアンドストライプとなる前の彼女を助け、その縁で友人となった。彼女がヒーローの本場アメリカでナンバーワンヒーローになったことは、自分のことのように嬉しかった。

 そんな彼女が、このタイミングで日本に来る。自分が臨時の国務大臣として任命されたという発表がされたこのタイミングで。無関係なわけがない。そして、彼女の性格はよく分かっている。

 嬉しい筈だ。心強い筈だ。なのに、何故こんなにも気分が高揚しないのか? きっと慣れていないからだ。助けられるという行為に。

 オールマイトとしてナンバーワンヒーローに君臨していた時、自分はいつも助ける側だったし、助けられるにしてもそれはお互い様だった。一方的に助けられる側になってきたのは、ワン・フォー・オールを緑谷に託して力を無くした最近からだった。だから、手を差し伸ばしてくれる相手に感謝しつつ、手を差し伸ばされることの悔しさと無力感が溢れてしまう。自分一人で今までやれていたからこその感情。

 

 ──慣れないといけないな、助けられるということに。

 

 今の自分は、助けられてやっと自分の仕事ができるのだから。

 オールマイトはテレビをつけたまま、自分の身の周りの片付けを再開した。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤ら愛国者集団(パトリオッツ)の拠点でも、スターアンドストライプの来日は話題になっていた。

 いつも通り佐藤がソファに座ってテレビゲームをしていると、慌てた様子で沙紀と(さとし)が部屋に入ってきて、佐藤にそのことを伝えた。

 佐藤は当然スターアンドストライプのことは情報として知っている。しかし、知っている情報は一般人と大差ない。個性名は『新秩序(ニューオーダー)』であり、どういう条件かは分からないがあらゆるものにルールを付与できるらしいということだけだ。その付与したルールがどれだけ持続するのか、付与できるルールはいくつなのか、そもそも生物と物体といった違いによって付与できるルールの種類が変わるのか、そういった実際の能力の部分については不明である。

 

「アメリカナンバーワンヒーロー、スターアンドストライプの来日か。確かにビッグイベントだ」

 

 佐藤はテレビゲームを中断し、コントローラーを眼前のテーブルに置く。

 佐藤は改めてスマホでスターアンドストライプを検索し、そこに書かれている実用性のない情報の数々を斜め読みしていく。

 

 ──ルールを思い通りにできる『個性』、ね。

 

 スターアンドストライプについての情報で一番多く書かれている情報であり、そこで終わる情報でもある。これはスターアンドストライプを抱えるアメリカが、国ぐるみでスターアンドストライプについての情報統制をしている証拠。逆に言ってしまえば、強力な『個性』だが条件やルールについて詳しい情報を敵に知られてしまうと対処されてしまう可能性があるということ。本当にどうしようもない『個性』なのであれば、情報漏洩があったところで恐れることはない。そうではないからこそ、これだけアメリカという国がスターアンドストライプというヒーローの情報に神経質になっていると分析できる。

 つまり、スターアンドストライプに勝つためには、スターアンドストライプの『個性』の情報をどれだけ正確に詳しく手に入れられるか。そこが大前提となってくる。

 

「佐藤さん、どうすんのこれ!? アメリカだよ!? ヒーローの本場アメリカナンバーワンヒーローが日本に来るって! さすがに勝てないよぉ」

 

 沙紀が両腕をぶんぶん振り回して感情を表現し、最後はよよよとその場に泣き崩れる振りをした。両手で顔を隠しつつ、チラッと佐藤の顔を窺う。

 

「う〜ん……」

 

 佐藤は天井を見上げた。

 誰もが何かしらのルールに縛られている。『個性』という特殊な能力や特徴によって『無個性』より自由に見えるかもしれないが、それでも縛りや制約、限界がある。『亜人』もそうだ。無限に復活し、IBMという透明な異形を出せる能力と聞けば便利で強力な能力と思うだろうが、実際は条件やルールがある。

 スターアンドストライプはルールを無視できるどころか、ルールを思い通りにできるという。ゲームで例えるなら、それはチート行為だ。ゲームにおいて、決して許してはいけない行為。

 泣き崩れた振りをして佐藤の表情を窺っていた沙紀の血の気が引いていく。無表情でぼけっと天井を見上げていた佐藤の唇が吊り上がり、微かに笑ったからだ。

 

 ──まだまだこの(ステージ)を愉しめそうじゃないか。

 

 正直、少し退屈していた。この国を荒らしすぎた結果、佐藤だけではなく他の勢力も活気づき、ヒーローや警察はその対応に追われている。前の日本にいた時のゲームは違った。敵らしい敵は自分だけであり、相手は全力で自分と遊んでくれた。

 スターアンドストライプの来日は、そういう物足りなさを埋めてくれるポテンシャルを感じさせる。

 

「対戦ゲームでチートを使ってくる相手をどう倒すか、二人は知ってるかな?」

「いきなり何の話だよ」

 

 怜は呆れた目で佐藤を見るが、佐藤は無視して話を続ける。

 

「まずは相手のチートが何か把握する。次にチートの穴を突き、手数で押しまくる。自分に仲間がいるなら完璧な連携が必要。それができれば……」

「できれば?」

 

 沙紀が佐藤の言葉を不安そうに繰り返す。

 

「少しは勝ち目があるかもね」

 

 大前提の話をしてしまえば、チーターには基本勝てない。使うチートによってはどんな作戦も無意味だし、そもそも自分を無敵状態にするというチートを使われれば対戦ゲームで勝つことは不可能だ。だがチートにも強弱があり、佐藤は自分が無敵になるといったチートを使えないと考えた。それならアメリカがスターアンドストライプの情報に細心の注意を払うことはしなくていい。

 

「まぁ、チーター狩りをするためには事前準備が色々必要になってくるし、この国でしか戦えない相手ってわけじゃないからね。ランダムイベントとして考えておこうかな。今のところはね」

 

 そう言いつつも、佐藤はコントローラーを握り直してゲームの終了ボタンを押し、部屋から出ていく。

 そんな佐藤の様子を、沙紀と怜の二人が視線で追いかけた。

 佐藤がいなくなった部屋。二人は顔を見合わせる。

 

「最近はテレビゲームばっかやってたのに、いきなりどうしちゃったわけ?」

「テレビゲームより面白そうなオモチャを見つけたんだろ、きっと」

 

 そのオモチャに心当たりがある沙紀の顔が青ざめていく。

 

「スターアンドストライプが……テレビゲームより楽しいオモチャ?」

「マジなのかふざけてるのか、佐藤さんはほんとによく分っかんねーな」

 

 怜はやれやれといった感じで肩をすくめた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 内閣府のある部屋。

 五十代の太った男や他の国会議員が集まっている。当然花畑もこの場にいた。

 

「スターアンドストライプの来日、誰か事前に知らされた者はいるかね?」

 

 五十代の男の問いに、誰もが首を横に振る。

 

「アメリカは関係なく、個人の意思で日本に来るわけか」

「そういうことにしなければ色々言われるのは目に見えてますからなぁ」

「我が国は救援を他国に求めておらんからな、今のところは」

「これを機に正式に救援を求めるのはどうだ?」

「そんなことをすれば佐藤はどう出てくるでしょうね?」

 

 花畑が口を挟む。

 異能解放軍の一員でもある花畑にとって、他国からの救援は都合が悪い。よって、恐怖の象徴でもある佐藤をチラつかせることで、その選択肢を潰そうと考えた。

 花畑の予想通り、彼らの顔は蒼白になっている。

 

「そ、そうだ! 佐藤は日本を強い国にすると言っていた! それなのに他国に救援を求めれば、他国を当てにする弱い政府だと思われて皆殺しにされるかもしれない!」

 

 この読みは半分当たりであり、半分間違っている。確かに弱い政府と断じて皆殺しにする可能性はある。だが、別にそれが無くても佐藤が皆殺しにしたいと思ったら皆殺しにされるため、他国に救援どうこうは彼らの運命にそれほど関係はない。

 

「……皆さん。一つ思い付いたことがあるのだが、佐藤と一度交渉してみてはどうかな?」

「交渉!?」

 

 五十代の男の言葉に、周囲の者たちは驚きの声をあげた。テロリスト相手に交渉など無駄だと考えているからだ。

 

「考えてもみたまえ。佐藤の要求は明白だ。国土防衛軍を創設し、その総帥とすること。たったそれだけの要求を呑むだけで、佐藤は我が国の人間としてヴィランを掃討してくれる」

「そんな言葉を信じるのか!? 国が主導となってヴィランの安全圏を作れと言っているようなものだ! そんなことをしてしまえば、国民の怒りは計り知れないものになるぞ」

「もちろんヴィランを掃討し終えれば、用済みになった佐藤をそのまま置いておくことはしない。こちらの手の中にあるのなら、罠に嵌めることは容易いだろう。それに、あくまでそれは最終手段。まずは佐藤と交渉してみよう。奴がその名前の通り日本を愛しているというなら、交渉を頭ごなしに拒否するような態度は取らんだろう。逆に取ってきたのなら、我々は決断せねばならない。佐藤と戦うか、佐藤に屈するか……そのどちらかを」

「ふむ、なるほど……」

 

 ──交渉、ですか。

 

 花畑は内心でここにいる者たちを馬鹿にした。

 決断しなければならないタイミングはもう過ぎている。にも関わらず、交渉というワンクッションをおいてから決断を考えている。

 この場にいる彼らはやはり保身のことしか考えておらず、国のことは二の次なのだ。彼らにとって重要なのは自分の命と財産であり、どの選択肢を選べばその両方を守れるか、あるいは最低限の被害で抑えられるか考えている。交渉はそのための判断材料の一つに過ぎない。

 花畑はその交渉は無駄だと言わなかった。

 政府が佐藤と取り引きをしたという情報は、異能解放軍からしてみれば政府を叩き潰すのに使える武器だ。彼らと佐藤が一体どういう交渉をするのかも気になる。

 

「専用の通信回線を用意させ、すぐに佐藤とコンタクトをとってみよう」

 

 そこでの話し合いはその言葉を最後に終わった。

 これから秘書を通して秘密裏に通信コードが設定され、舞台が整えられていくことだろう。佐藤に踊らされた哀れな者たちの舞台が。

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