ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第66話 クロスオーバー

 オールマイトとスターアンドストライプが会っていた同時刻。

 ヒーロー公安委員会のあるビル。その訓練室で進展があった。

 訓練室では、開世が佐藤を連れてきた世界との接触を試みている。その隣にはホークスと念道が見守っていた。

 これまで開世の個性によって繋がった世界の景色は水中だった。まるでゴーグルをして見ているようだ。

 変化は突然だった。開世の伸ばす右腕に何かが打ち込まれるのと同時に、水中装備を付けた人間二人が現れ銃口を突きつけてこちら側にこようとしてきた。

 

「あ……れ……?」

 

 開世が崩れ落ちるようにしてその場に倒れていく。その間も向こう側にいる二人がこちら側に来ようと、それぞれの銃床部でガンガン『門』を殴っている。そして、その行為が無駄だと理解すると、『門』から出ている開世の両腕に視線を向け、その両腕を掴もうとした。

 掴もうとする寸前、完全に開世の意識が無くなり、個性の発動が強制終了。『門』が消え、いつもの訓練室の光景に戻った。

 

「開世くん! 念道、医療スタッフに連絡を!」

 

 念道がインカムで医療スタッフを呼んでいるのを横目に、ホークスは倒れている開世を仰向けにし、羽根を一枚、胸に落とす。羽根に伝わる微かな振動。それは生命の鼓動。

 死んでないことを確認したホークスはホッと息を吐き、開世の右腕に突き刺さっているモノを抜いてまじまじと見る。

 

 ──なんだこの形状? 銃弾というよりは注射器のような……。

 

 開世の様子を見るに、おそらくこれは即効性の麻酔弾なのだろう。人間相手にこういうものを使う世界が佐藤のいた世界なのだ。

 

 ──いや、考えてみれば当然か。

 

 佐藤は死んでも即復活する。銃弾は一瞬の行動不能を引き起こすものでしかない。しかし麻酔弾で眠らせれば、眠らせている間は行動不能にできる。しかも当てる部位は関係ない。足でも手でも、当たれば数秒で眠りに落ちるだろう。まあその数秒あれば、佐藤は自殺し振り出しに戻せるのが頭が痛くなるポイントだが。その数秒自殺させなければ勝ちなわけだから、銃弾よりは勝負になるという向こう側の人間の判断なのだろう。

 それにしても、問題なのは佐藤のいた世界の人間に敵対視されていることだ。話しをする暇すらなく、攻撃された。それだけならまだしも、こちらに攻め込もうとさえしていた。

 ただ、そう考えるのも無理はない。開世の話からすると、佐藤が溺れていたところを助けたらしいから、向こうからしたら追い詰めた佐藤を助けたように見えただろう。佐藤の脅威と厄介さは痛いほど分かる。おそらくやっとの思いで佐藤を追い詰め、気を失わせたのだろう。そして、確保しようとしたところを邪魔された。助けた相手に怒りを感じ、敵と認識するのは当然の話だ。

 

 ──どうやって協力してもらおう?

 

 医療スタッフが来るまで、ホークスはその事しか考えなかった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 

「ポータル消失。佐藤の姿無し。ポータルは対象物以外は入れないようだ。銃で殴っても効果がなかった」

 

 水中装備を身に付けた対亜人特選群──通称対亜の隊長が水面に上がり、川辺にいる少年に報告した。川辺は大規模な通行規制がされており、警察官が大勢いる。

 この少年は永井圭であり、亜人というだけで世間から敵扱いされていたが、佐藤が消失して以降は誤解が解け、政府が監視しているという条件の下、自由行動が許されている。

 対亜人特選群は極秘で設立された部隊であり、存在が明るみになれば罰を受ける違法部隊だったが、改めて亜人の危険性を佐藤のやったことを中心に例をあげ、対亜人の戦闘スペシャリストで集めた部隊の必要性を説き、対亜人特選群を設立すると政府が発表。事後承認の形ではあるが、対亜人特選群は違法の部隊ではなくなった。

 現在、この川は激動の渦中にある。ここ数日、この川に何度か渦のようなものが生まれると通報が入り、それから封鎖も含めた万全の準備をしてからの突入だった。だが、一回目のアプローチは失敗した。

 

「他には?」

 

 永井が川辺に上がった対亜の隊長に訊いた。

 

「ポータルの向こう、羽根の生えた若い男と若い女が見えた。ポータルから両腕を出していたのはお前くらいの少年だ。若い男と女は武装していた。最後ポータルから出ていた腕を掴もうとしたが、掴む前にポータルと腕が消えた。おそらくあの少年の意識が無くなると、ポータルが消えて外に出ていた体も向こう側に残るのだろう」

「重要なのはポータル部分ではなく、『誰』がポータルを繋げたかってことか。その少年が繋げていてかつ全身がこちらにきていなかったから、意識を失った時両腕が切断されるように残るんじゃなくて、両腕がポータルの消失と同時に消えた。まだポータルの向こう側の延長線上にあるものとして扱われたんだ」

 

 永井は顎に右手を当てながら呟いた。

 ちなみに、永井たちは佐藤を消失させた渦をポータルという分かりやすい名前を付けて呼んでいる。

 

「次、どうする? またやるか?」

「一つ試したいことがあります」

 

 対亜の隊長がフルフェイスヘルメットを被りながら永井に近付き、永井は思案顔をしつつ対亜の隊長の方に顔を向ける。

 

「なんだ?」

「この川埋めたら、あの渦はどうなるんでしょう?」

 

 永井の周りには対亜の他の隊員や、永井と同年代の少年、スーツ姿の女性、ジャケット姿の男、短髪のがっちりした体格の中年男性が集まって永井の話に真剣に耳を傾けている。そこに高校生だからという懐疑的なものは一切ない。何故ならそんなものが気にならないほど、永井圭の頭脳は優秀だとここにいる誰もが理解しているからだ。

 

「ずっと不思議に思ってた。何故この川にしかあの渦の報告が出てこないのか。あんな派手な渦、不審に思わないわけがない。見かけたら必ず警察なり、もしくはSNSにあげたり、友人に話す。話題になる筈だ。実際、この川の渦は警察にすぐ通報がきた」

 

 余談だが、その通報もどこにこの異常を知らせればいいか分からないから、とりあえず警察に通報してきたというものだった。

 

「それに、相手の視点になって考えた時、移動するにしても常に水の中を選ぶ理由がない。地上ならあんな目立つ渦は出現しないし、何より移動後のデメリットが水の中は多すぎる。だから僕は仮説を立てた。あのポータルはあの川を選んで繋げているんじゃない。あの川の位置しか繋げないんじゃないかって」

「けど永井、あの川は隅々まで調べたじゃねえか。目印になりそうなモンはなかっただろ?」

 

 永井と同年代の茶髪の少年──中野が口を挟む。

 永井は中野の方に視線を向けた。

 

「ああ。僕がまず考えたのは、佐藤が気を失う直前、あの渦を呼ぶ何かを使った可能性だ。IBМが佐藤を追うように水中に入ってきてたし、あの佐藤のことだから、最後の奥の手として残していたというのは説得力がある。だから何か佐藤がやった痕跡が残ってるかと思って調べたけど、中野の言った通りそれらしいものは見つからなかった。でも、またここに佐藤を消失させた渦が生まれてる」

「だから埋めるという提案をしたのか。だが、リスクもあるな」

「はい。ここにしか渦が発生しないなら待ち伏せや罠に嵌めるのも楽ですが、埋めることによってランダムに渦が発生するようになり、佐藤が神出鬼没に日本に現れて好き勝手やり始める可能性は十分有り得ます」

 

 永井は川の方に顔を向ける。永井に釣られ、周囲の人間も川の方に顔を向けた。

 

「ただ、佐藤の姿がポータルの中に見えなかったというのは一考の余地があるかもしれない。それに、何故四ヶ月も経った後にまたポータルを繋げるようになったのか。そこも引っ掛かる」

 

 そこから永井は再び思案顔になり、一言も話さず川の流れをじっと見つめていた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 開世は意識不明の状態だったが、医療スタッフによる診断で麻酔薬による意識消失であることが分かった。

 それから二十分後、開世は意識を取り戻した。

 

「あれ……僕……なんで眠って……?」

「佐藤のいた世界の人に麻酔銃を撃たれたんだよ」

 

 開世はホークスの言葉を聞き、ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒する。

 

「あ! そうでした! ど、どうしましょう? も、もうやめますか?」

 

 開世の態度からは恐怖が伝わってくる。開世にとって、いきなり攻撃されたのは今回が初めてだろうし、敵意を向けられたのも初めてだろう。開世の本音はもうやめたいのだ。ただ、この場において弱い立ち場だから、そう言い出せず、遠回しに伝えている。

 ホークスは微塵もやめたいなんて思ってない。佐藤のいた世界からの反応があった分、一歩前進したと考えている。

 

「開世くん、佐藤のいた世界の人は誤解してるだけだ。佐藤を助けた仲間なんじゃなくて、たまたま佐藤を助けてしまったことを伝えられたら、きっと協力関係になれる。俺たちがやるべきなのは、どうすれば誤解が解けるかという方法で、今までやってきたことを無に帰すことじゃないと思う」

「でも、いきなり攻撃してくるような人たちですよ!?」

「誤解を解く取っ掛かりはあると俺は思ってる。向こうの人たちはこっちに来ようとしてた。その時、俺と目が合った。俺たちの世界を君の『個性』を通して見たんだ。佐藤の仲間だと思っていたのなら、佐藤がいなかったことに疑問を持つ筈。佐藤の性格を知ってるなら尚更そう思う」

 

 問題なのは、佐藤がそういうセオリーを読んで単独行動しているかもしれないと全然考えられることだ。仲間だから一緒に作戦行動。そんなことを当たり前にしない人物であることは、単独でハイジャックした事実が証明している。

 結局のところ、開世にこんなことを言ったのは、開世を少しでも安心させて佐藤のいた世界とのコンタクトをやめさせないためだ。開世が拒絶したら、そこで佐藤のいた世界との接触は無理になる。

 ホークスは佐藤についてかなりの部分が分かってきているが、それでもまだまだ情報が足りないと考えている。佐藤の『復活』に関してはある程度の情報を得られたが、『透明な何かを操る力』に関してはあまり分かっていない。佐藤のいた世界で佐藤を確保寸前まで追い詰めた相手なら、必ず有用な情報を多く持っているだろうし、佐藤に有効な戦術も知っている筈だ。

 その後、誤解を解くやり方として、佐藤の仲間ではないというメモを開世に持たせてみようということになった。

 再び開世が『個性』を使用。その右手には防水用クリアケースが握られており、その防水用クリアケースの中にメモ用紙が入っている。佐藤の世界と繋いだ時のメモの水濡れを防ぐためだ。

 開世の両手が渦で開いた空間を通っていく。指の先から冷たい水に浸かっていくのを感じる。

 前回では即攻撃されたが、今回は攻撃されない。五分近くそのままでいると、水中装備をした人間が開世の『門』から二メートルくらい前のところに立った。その右手には防水ケースに入ったスマホがある。その人間はスマホの画面をこちらに見せた。そこには大きな文字で『これが読めるなら、佐藤をどこにやったか答えろ』と書かれている。

 

 ──日本語……!

 

 ホークスはガッツポーズしたい気分になりつつ、相手がやったようにスマホのメモアプリに文字を入力し、開世の『門』にギリギリまでスマホを近付けた。メモの内容はこうだ。

 

『この少年が佐藤が溺れていると思い助けましたが、その場で佐藤は回復し、去っていきました。佐藤の行方は分かっていません。あと、あなたたちには信じられないでしょうが、私のいる世界とあなたのいる世界は違います。平行世界のようなもので、あなたの世界のどこを探しても、私たちを見つけることはできません』

 

 なるべく丁寧に伝えることを意識しつつ、重要な部分を優先的に入れた。

 この文章をスマホに表示しつつ、画面を相手に向ける。文字の大きさを大きめに設定したため、ゆっくりと指で画面をスクロールし、全文ちゃんと読めるようにした。

 全文読んだ相手は数秒微動だにしなかったが、防水ケース越しにスマホをタップ操作し、再びスマホ画面をこちらに見せた。画面には『三分待て』と書かれている。

 ホークスが無言で頷くと、相手は水面に上がっていった。

 三分後、再び同じ相手が戻ってきた。今度は『門』から一メートル先の位置。

 相手がスマホの画面をこちらに見せた。そこには『何故この場所に繋げるのか』と書かれている。

 すかさずホークスはスマホに文字を打ち、画面を相手に見せる。

 

『この少年はイメージしているところとしか、この異世界を繋ぐ門を作れません。佐藤を助けた時のイメージでやるしかないため、この場所しか無理なんです』

 

 また全文読めるようにゆっくり指でスクロールした。

 相手はそれを読んだ後、スマホをタップ操作。スマホ画面を見せる。『三分待て』。ホークスは無言で頷く。相手は再び水面に上昇。

 三分後、今度はもう一人連れて戻ってきた。同じく水中装備を身に付けているが、見た目は少年に見える。開世と同じくらいの年齢か、それよりもちょっと上。

 その少年が防水ケースのスマホ画面を見せてくる。

 

『水中でやり取りするのは不便なので、次その門を作る時はもう一台のスマホに写っている画像をイメージしてください』

 

 少年はホークス同様にスマホ画面を指でスクロールして全文を読めるようにした。その横で今までの相手もスマホ画面を見せる。そのスマホ画面には、川辺の中心に赤いコーンが置かれ、そのコーンに『KEEP OUT』と黒字で書かれた黄色いテープがぐるぐる巻きにされている画像が表示されていた。

 

 ──これを覚えろって……?

 

 ホークスは冷や汗が出そうになる。開世がその世界に繋げる門を作るためには正確なイメージが必要だ。この画像は確かにコーンが目立っているが、コーン以外にも川辺の情報が色々ある。これだけの情報を正確に頭に焼き付けるのは相当難易度が高い。

 おそらく向こうの少年もそれを理解していたのだろう。

 少年はスマホをタップ操作し、こちらにスマホ画面を見せる。『画像を表示しているスマホをお貸しします』と書かれていた。

 事前にスマホを貸すやり取りはしていたようで、画像を表示していたスマホを持っていた相手が、開世の防水用クリアケースを握っていない方の手に防水ケースごとスマホを握らせた。

 それを向こう側の少年が見届けると、少年はこちらに見向きもせず水面に上がっていった。スマホを渡した相手も少年の後を追っていく。

 これ以上この水中で話すことはないと察したホークスは、開世の左肩を軽く叩く。スマホを渡されるという予想外の展開に唖然としていた開世だが、ホークスのその行為によって我に返った。

 開世が両手を『門』から抜き、渦とともに『門』が消失。開世の手にはメモの入った防水用クリアケースと、渡されたスマホ。そのスマホこそ、接触成功の証だった。

 開世、ホークス、念道の三人は顔を見合わせ、笑みを浮かべる。自分たちがやっていたことが報われた喜び。佐藤の情報が手に入り、佐藤のいた世界の人と協力して佐藤を止められるという希望。少なくとも彼らの方はそう感じていた。

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