ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第75話 歩み寄る絶望

 オールマイトは職員室の机で多数の資料を一枚一枚めくっている。その資料はプロヒーローのリストで、国会議員の警備を依頼するプロヒーローの選別。

 国会議員とはあれから何度も打ち合わせをして、別々の地方に分かれて隠れるという国会議員側の意見はなんとか思いとどまってもらい、地方のどこかにまとまって隠れるが隠れ家は全員別々という方針で固まった。

 そこからは時間との勝負である。二日以内に警備を依頼するプロヒーローの選別と人数。警備態勢の配置とシフト決め。警備によって地方に主力のプロヒーローが集中するため、その穴埋めの臨時プロヒーローの呼び寄せ。もちろんそれによってある場所のプロヒーローが少なくなっても駄目なので、バランスを考えながら選ばなければならない。

 だからこうして、本来ならば教員としての仕事を引き継いでいる間も、国務大臣としての仕事を優先してやっている。

 オールマイトは今トゥルーフォームであり、痩せ細った姿をしていて、その表情には疲労が見える。疲れた両眼をほぐすように、両眼の間を指で揉む。

 打ち合わせ後からまとまった睡眠時間を取らず、二、三時間しか寝ていない頭に、このデスクワークは辛いものがある。だが、期限があり、佐藤ら愛国者集団(パトリオッツ)がいつ動いてくるか分からない以上、終わらせるのは早ければ早い方がいい。というより、国民の安全を考えるのならば、最速で終わらせる努力をしなければ駄目だ。

 

「何かアドバイスがあれば、いつでも言ってくれていいんだよ」

 

 オールマイトが背後を振り返る。そこにはスターアンドストライプが立っていた。

 

「日本のヒーローに詳しくない私が口を出したら、逆に困らせるんじゃないかと思ってね。それに、あまり口出しするのはよくない。今の私の立ち場的には」

 

 スターアンドストライプはずっとこうしてオールマイトの影のように付いてくるが、会話は頻繁にしない。どことなく傍観者に徹しているように感じることもある。オールマイトの影から、日本のヒーローや日本人の気質、日本という国そのものの風土を学んでいるのだろう。

 

「放課後になっても騒がしくなった」

 

 スターアンドストライプは職員室の外から聞こえてくる生徒たちの声に耳を傾けつつ、そう言った。

 

「もうすぐ文化祭だからね。色々準備が必要なんだよ」

 

 文化祭は屋台や舞台、ミスコン等のイベントがあり、それら全てを雄英生徒が中心となってやる。当然生徒がやりたいものをやるため、学校の有り物だけでできる規模ではない。屋台であれば屋台に必要な物と食材、調理器具や容器を用意しなければならないし、舞台となれば衣装や小道具作成、演技やダンスの練習だってやらなければならない。イベントをやるなら会場の作成、必要ならばモニターの設置等、準備が必要になる。そして、それは前日だけでやれるものではない。何日も前から少しずつ準備して、文化祭に間に合わせる。だから、放課後になっても大勢の生徒が校内に残っており、生徒同士で打ち合わせをしながら作業を進めているので、雄英高校は放課後になっても賑やかなのだ。

 

「日本人はイベント好きとは思ってたけど、ここまでとはね」

「思い出は大事だよ。こういう時は特に」

 

 スターアンドストライプは苦笑した。

 オールマイトもスターアンドストライプの笑みに釣られ、笑みを浮かべる。

 確かにスターアンドストライプの言う通りだと思う。日本政府が機能停止し、ヴィランの勢いが強まっている状況で、文化祭をやる。子どもの安全を第一とするなら、外部の人間も参加できる文化祭は安全面を考えればデメリットしかない。

 だからこそ、文化祭の決行に関してもすんなり決まったわけではなく、何度も関係者と話し合って決まった。そこには思惑もある。予定通りやることにより、ヴィランを恐れていないというアピール。ヴィランが襲撃してきても守り切れるという自信の表れ。

 

「文化祭の時はこっちにいるんだっけ?」

「うん。こういう時の方が引き継ぎが捗るしね」

「なら、特に気合い入れて護衛するよ。特別な日ほど気が緩みがちになって隙が生まれるから」

「心強くて助かる。今更になるけど、傍にいてくれてありがとう」

 

 スターアンドストライプはポカンとした顔でオールマイトを見つめた。当たり前の行為になんで礼を言ってるんだ? と言いたげな表情だ。そういう人間性だからこそ、彼女はヒーローの本場アメリカでナンバーワンヒーローのまま走り続けていられる。

 文化祭が終わったら、すぐ国会議員と地方に行き、愛国者集団からの襲撃に備えることになるだろう。自分はもうまともに戦うことはできないが、指示を出すことはできる。それが今の自分の戦いだ。

 

「そういえば、ライブをやるんだっけ? (マスター)のお気に入りのクラスは」

「うん。音楽と『個性』を組み合わせた、全く新しいライブをやるんだって張り切ってたよ」

 

 オールマイトは一年A組の生徒たちの生き生きとした顔を思い出し、笑みを浮かべた。

 

 ──邪魔は入らないでくれよ。

 

 オールマイトは心の中でそう願った。

 文化祭の開催には条件がある。それが、途中で危険を感じたらそこで即文化祭を中止し、雄英高校にいる人たちの身の安全を第一にするというものだ。つまり、ヴィランの襲撃があった時点で、その襲撃の規模に関わらず、危険が一パーセントでも生まれたと判断されて文化祭は中止となる。

 オールマイトは一伸びして固くなった体をほぐしてから、再び仕事に戻った。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤は猿石の部屋に行っていた。今後の作戦プランについて、話し合うためである。

 猿石の部屋には他にも(さとし)、霧香、円来、凛の四人がいて、この部屋にいるのは全部で六人。

 猿石は雄英高校の地理や在籍している生徒一覧、教員のプロヒーローの情報を印刷し、佐藤にその資料を渡した。

 佐藤はその資料をペラペラめくりながら、その内容を確認している。その様子を、周りの者たちは息を呑んで見守っていた。テレビがついているため、ニュースを読むアナウンサーの声だけが響いている。

 

「難攻不落の要塞って感じだろうね、一般人のイメージだと。確かに手強そう」

 

 資料を読み終えた佐藤がそう言った。

 

「でも、あまり準備に時間は掛けられませんよね?」

「うん、そうだね。ターゲットがいなきゃ意味ないし」

 

 猿石の問いに、佐藤は即答した。

 そう。雄英高校を攻める理由は雄英高校には無い。正確には雄英高校にいる人物にある。だから、雄英高校からその人物が消えたら雄英高校を攻める意味は無くなる。

 

「オールマイトを狙う。(ヴィラン)連合なみにイカれた発想してるぜ、佐藤さんは。普通は考えられねえ」

 

 怜が口を挟む。

 怜の言う通りで、佐藤はオールマイトをターゲットにしている。そして、オールマイトは臨時国務大臣であり、おそらく国会議員の護衛の指揮を執るため、雄英高校を離れる可能性は十分に考えられる話だ。

 そういう事情があり、佐藤は大急ぎで作戦準備をしているのだ。

 雄英高校が選ばれたのも、オールマイトの行動パターンを分析したうえで、一番佐藤の目的が達成できそうな場所を選んだだけ。

 オールマイト襲撃の候補は四つあった。雄英高校、移動中、ヒーロー公安委員会のあるビル、省庁のビル。この中で、オールマイトの居場所の特定を一番しやすいのが雄英高校であり、行動も読みやすい。

 

「東京都を武力制圧する前に、不確定要素はなるべく潰さないといけないからね。オールマイトはいいエサになってくれると思うよ。スターアンドストライプの『個性』をあぶり出すための」

 

 オールマイトが狙われた理由はオールマイトが元平和の象徴だからでも、国会議員だからでもない。ただ単にスターアンドストライプが傍にいるからだ。

 アメリカ最高のヒーローであるスターアンドストライプの『個性』について分かっていることは、個性名は『新秩序(ニューオーダー)』であり、あらゆるものにルールを付与できるらしいという漠然なものだけだ。そんな状態でいきなり戦ったところで勝てる可能性は限りなく低い。佐藤の世界と接触し、佐藤の情報を手に入れているなら尚更だ。

 だから佐藤は、まずスターアンドストライプとの勝負の前の情報集めをすることに決めたのだ。威力偵察をし、スターアンドストライプの『個性』や条件を明らかにする。そこではじめてスターアンドストライプと同じ土俵に立つことができるのだ。

 

「セキュリティ面を考えるなら、直近だと文化祭があります。この日は外部から人を受け入れるので、機械によるセキュリティは甘くなります」

「問題は、その文化祭にオールマイトがいるかどうか確証がないことかな」

 

 佐藤の言葉に、猿石は頷く。

 

「ええ。今のところ、オールマイトが文化祭の日、雄英高校にいるという情報はありません。それなら、セキュリティが固くても行動パターンの読みやすい通常日を狙うのも一つではあります」

「でも、やっぱり文化祭の方が特定しやすいと思うよ。人多いし」

「僕もそう思いますよ。いつもより侵入しやすいという一点だけを見ても、絶好の機会です」

「それより、襲撃は佐藤さん一人って話だったが、本当に大丈夫か?」

 

 円来がそう言って話を変えた。

 佐藤はそのことに嫌な顔をせず、何事も無かったように円来の方に顔を向ける。

 

「うん、無駄に犠牲を出す必要なんてないから。君たちは外からのサポート。私だけが雄英高校に侵入する」

「……了解。なら、あとはオールマイトが文化祭の日、雄英高校にいるかどうか──」

 

 そこで、今まで全く意識していなかったニュースの音が耳に入ってきた。

 

「──とうに今回の雄英高校の文化祭は素晴らしいものとなりそうです! オールマイトとスターアンドストライプの両方をまさか同時に見ることができるとは! 先ほど入ってきました情報によりますと、オールマイトは雄英高校の文化祭の日、雄英高校にいるということなので、この機会にぜひ行ってみてはいかがでしょうか! 今の日本の状況で、しかも最近ヴィラン連合の襲撃や誘拐のあった雄英高校が文化祭を開催することに驚きはありましたが、文化祭が無くなるのは子どもたちにはきっと悲しいことでしょう。雄英高校の学生は最高の思い出が作れるといいですね!

 それでは、次のニュースは──」

 

 そこから先のニュースの言葉は入ってこなかった。

 

「決行日は決まったね」

 

 佐藤がニヤリと笑みを浮かべ、そう呟く。その時、ゾッとするような殺気にも似た気配が佐藤から溢れ出し、それに当てられた周りの人たちは何も言葉が出なくなっていた。




今さらながら、亜人の作者様の次回作『THE POOL』読みました。控えめにいって最高傑作でしたので、興味のある方はぜひ読んでみてください。個人的には、最高の映画を一本観たような満足感が得られました。
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