ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第78話 混乱

 佐藤はプレゼント・マイクが校内に避難指示を伝えた時点で、作戦を切り替えた。隠密作戦から強襲作戦に。

 プレゼント・マイクを射殺した後、アサルトライフルの構えを解きながら猿石と通信。

 

「猿石君、バレちゃった」

『電話越しにも大声が届いてましたよ。これからどうしましょう?』

「ドローンの設定を変えてほしい」

『分かりました。ドローン番号と変更内容を教えてください』 

「九番から二十四番のエリア設定を一番から八番のエリアに順に割り当て、八機を一グループとして三分毎にスモーク噴射開始で。あ、最後の一機だけこの携帯のGPSの直上で待機するようにしてね」

『了解です』

「それと、(さとし)君たちに作戦をプランBに切り替えるかもしれないと伝えといて」

『……失敗する可能性が?』

 

 その言葉を聞くと、猿石の声色に緊張感が加わった。計算通りにいかないかもしれないと、あの佐藤が考えている。それだけ雄英高校に不確定要素が多いということだ。

 それに、プランBは佐藤以外の人間の動きが重要となる。プレッシャーを感じてしまうのも無理はない。

 

「この場所には優秀な人間が集まっている。サブプランの用意をしておいて、損はないよ」

『分かりました、怜君たちに伝えます』

「それじゃあ伝えたいことは伝えたから、警報を鳴らした後、ロボットを暴れさせて」

『すぐやります』

 

 猿石の言葉通り、十秒後には警報が校内中に響き渡る。耳を両手で押さえたくなるほどの騒音。これは雄英側の連携を妨害する効果がある。言葉以外での連携はよっぽど心を通わせてないとできないからだ。対して佐藤は一人のため、警報でコミュニケーションが取りづらくなろうが全く問題ない。

 佐藤は周囲を見渡した。耳を手で塞いだり、警報に顔をしかめながら慌てて走っている一般客や生徒がちらほらいる。彼らは佐藤に気付くと、大口を開けながら逃げていく。警報で聞こえないが、おそらく悲鳴をあげているのだろう。

 そんな彼らに向けて、佐藤はアサルトライフルを向け、発砲。次々撃ち殺す。運良く狙われなかった人々は、その惨劇を目撃してパニックになり、バラバラに逃げ散っていく。その一部に銃口を向け、再び発砲。人々が血を噴き出し倒れ伏す。生き残った人々のパニックが加速。

 佐藤はアサルトライフルの弾を撃ち尽くしたため、再装填動作(リロード)を挟む。佐藤の周りには死体が十四人転がっていた。生きている人間は見渡す限りにおいてはいない。

 佐藤は何も無駄に暴れているのではない。佐藤の存在がバレた時点で、スターアンドストライプはオールマイトの護衛を放棄し、佐藤の確保を最優先とするだろう。オールマイトのところに行ったとて、スターアンドストライプがいる可能性は低い。

 ならば、こうして暴れ回ることはスターアンドストライプを誘い出す有効な一手となる。

 佐藤は生き残った人たちが多く逃げていった方向に向かって歩き出す。佐藤の視線の先ではドローンが次々と降下して、灰色のスモークを噴射していた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 楽しい文化祭。

 それはプレゼント・マイクの決死の叫びにより、一瞬にして恐怖の殺戮ショーとなった。

 文化祭を楽しんでいた生徒と客たちの表情は一変し、逃げ惑っている。生徒たちは避難訓練などでこういう場合の動きを知っているのでまだマシだが、客は緊急時どこに逃げればいいかなど分からないため、無秩序に逃げている。教員か生徒が避難場所を教えればいいのだが、警報がうるさく鳴っているせいで会話するのも一苦労という状況で、迅速な情報伝達などしようもなく、更には警備ロボまで暴れ出して襲いかかってくる始末。今、雄英高校敷地内は混乱を極めている。

 

 

 雄英高校にあるのは警備ロボだけではなく、ヒーロー科の生徒が訓練するための訓練用ロボも存在している。訓練ロボの中には建物を思わせるほどに巨大なものもあり、猿石は警備ロボだけでなく訓練ロボも暴れさせていた。

 その圧倒的な暴力に一般客が恐怖と焦りから躓き、転んだ。巨大な訓練ロボは右アームを振り上げ、転んだ客を叩き潰すべく勢いよく振り下ろした。そこに割り込む人影。

 

「だらァッ!」

 

 1―A生徒、切島が個性『硬化』で訓練ロボのアームを両腕を交差させて受け止めた。そのまま一気に押しのけ、訓練ロボの右足に思いっきりタックルする。訓練ロボはバランスを崩し、仰向けに倒れた。

 そんな光景を倒れ込んだまま唖然と見ている一般客に向かって、切島は身振り手振りで避難場所の方を指示する。一般客は慌てて立ち上がり、切島に軽く頭を下げた後、切島が指差した方向に走っていった。

 

「なんでロボまで襲ってくんだよ!?」

「何!?」

 

 警報はうるさいが、切島が何か言ったらしいことは口の動きから伝わった芦戸が、大声で訊き返す。芦戸は切島のすぐ横にいる。

 

「なんで! ロボが! 襲って! くるんだ!」

「知らない!」

 

 切島が必死に伝えた言葉を、芦戸はバッサリ切り捨てた。

 巨大訓練ロボはまだまだある。巨大なヤツだけではない。人と同じサイズのロボもいたるところで暴れ、混乱を助長させている。バラバラに当てもなく逃げる一般客を避難場所に誘導しようと生徒たちが指示を出そうとしても、警報と暴走ロボが邪魔をし、避難誘導もままならない。

 切島と芦戸の視界に閃光が走る。上鳴が個性『帯電』による電撃で周囲のロボをまとめて破壊した。

 

「ウェーイ……」

 

 放電後、上鳴が両手でグッドポーズをしてそのまま動かない。

 

「こんな危ない状況でアホになってんじゃねー!」

 

 瀬呂が個性『テープ』を発動し、テープ状のものを上鳴の胴に巻き付け、引き寄せる。上鳴は瀬呂の近くまで移動。瀬呂の近くには八百万、尾白、障子がいる。

 

「佐藤が侵入してるって言ってたけど、他のヴィランはいるのかしら?」

 

 八百万のこの言葉は警報の騒音により、周りのクラスメイトに届かない。八百万は顔をしかめる。常に飛行機が上を飛んでいるような感じだ。そのストレスは確実に精神を削ぎ落としていく。

 

 ──この効果を狙って愛国者集団(パトリオッツ)は警報を鳴らしっぱなしに?

 

 警報は危険を周囲に知らせるためにあるもの。知らせ終えた後も鳴り続けるのは異常。

 八百万はこの状況の全てが愛国者集団の目的のために作られていると判断した。

 

 ──だとしたら、目的はなんですの?

 

 雄英高校の名声を地に落とすため? 雄英高校の人間を殺すため? それとも、国務大臣になったオールマイトを殺すため?

 そこまで思考し、八百万の顔から血の気が引いていく。雄英高校は一度、似たようなことをヴィラン連合にやられたことがある。あの時、ヴィラン連合の目的はオールマイトを殺すことだった。ターゲットを絞れば、人数は必要ない。あとは陽動で相手を惑わせ、ターゲットへの警戒を緩められればいい。もっとも、あの時のヴィラン連合は大人数だったが。まあ、あくまで少人数でも達成できる目的というだけの話だ。

 八百万は愛国者集団がつい最近アップした犯行予告の動画を思い出す。あの動画は現国会議員を皆殺しにするという内容で、オールマイトもターゲットの一人だ。

 佐藤の侵入と愛国者集団の動画が結びつき、それらしい目的が八百万の中に浮かび上がった。

 八百万は相澤にこのことを一応伝えるか迷う。もしかしたら見当違いな結論を出してしまっているかもしれない。もしそうなら、八百万自身が愛国者集団の陽動に協力したことになってしまう。

 一瞬逡巡し、八百万はスマホを取り出す。そして、相澤宛にショートメッセージを送った。情報や気付きは多ければ多い方が、この混乱した状況で適切な判断をするための材料になる。八百万はそう信じ、自身の閃きを相澤に預ける決断をした。

 八百万の視界の端で、峰田が個性『もぎもぎ』を使用し、頭に次々に生まれるボールのような物質をロボたちに投げまくって動きを止めている。峰田が拘束したところで青山が腹部からネビルレーザーを照射し、まとめて焼き払っていた。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 オールマイトはプレゼント・マイクの声と警報から緊急事態が起きていることを知り、すぐさまスマホでホークスやヒーロー公安委員長、HNでの応援要請をした。

 その後、スターアンドストライプの方に視線を向ける。スターアンドストライプは警備ロボや訓練ロボに襲われている人々を守っていた。

 

「スター!!」

 

 スターアンドストライプがロボたちを片付けたところを見計らい、警報に負けない大声で呼んだ。

 スターアンドストライプは跳び、オールマイトのすぐ近くに着地。

 

「私のことはいい!! 佐藤から人々を守ってくれ!!」

 

 スターアンドストライプは何も言葉を発さなかった。ただオールマイトの方に向かって、右手の親指を立てた。

 そこからはまるで嵐のようだった。突風が吹いたかと思ったら、スターアンドストライプの姿は消えていた。

 

 

 ホークスはヒーロー公安委員長とともに、国会議員をどう警備するか、その打ち合わせをしていた。

 そんな中、ホークスのスマホが震えた。スマホを取り出したタイミングは、ヒーロー公安委員長とほぼ同じ。

 ホークスとヒーロー公安委員長は顔を一瞬見合わせ、スマホの通知内容を確認。その内容に衝撃を受ける。

 

「佐藤が雄英高校に!?」

「ホークス!」

 

 ホークスが慌てて立ち上がり、部屋から出ていこうとする。そこをヒーロー公安委員長は呼び止めた。

 

「今すぐ雄英高校に向かいます! 念道は置いてく! 事態は一刻を争う!」

 

 念道と足並み揃えて行っていては、雄英高校に到着する前に全てが終わっているだろう。それでは意味がない。

 ホークスは部屋から出た後、まず装備保管室に向かった。

 このまま雄英高校に直行したいのはやまやまだが、万全の準備をせずに行けば、助けるつもりが逆に足手まといになるかもしれない。銃撃は避けれても防ぐことはできないため、防具は必須。

 ホークスは自分のロッカーから防具を取り出し、身に付ける。次にケースを開け、バラバラになっているアサルトライフルを組み立て、背負った。弾倉をアサルトライフルに入れ、マガジンを二つ防具のポケットに入れる。 

 ホークスは装備保管室を出ると、そのまま窓を開け、外に飛び出した。背中の羽根が両翼を形成している。その両翼を羽ばたかせて、ホークスは雄英高校に向かった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤は灰色のスモークの中に入り、スモークの中にいる人々を殺し続けていた。

 ショットガンとアサルトライフルで撃ち殺し、手斧で切り殺している。

 単騎である佐藤にとって、スモークはデメリットが何一つ無かった。自分以外の動く者全てが敵だからだ。どれだけ暴れようと、敵への損失が増えるだけで、味方に被害は一切無し。警報もそうだが、佐藤は単騎という強みを存分に活かす戦術をやってきた。

 

「バゥバゥ!!」

 

 スモークから吠え声とともに人影が襲いかかってきた。

 犬顔の教員ハウンドドッグ。佐藤の臭いを嗅ぎ分け、視界不良の中でも佐藤を見つけ出し、最短距離でここまで来たのだ。

 佐藤は咄嗟にアサルトライフルの銃身でハウンドドッグの左の引っかきを防御した。だが、ハウンドドッグのパワーにより後方に吹っ飛ぶ。

 佐藤は体勢を整えつつ、ガードしたアサルトライフルを見る。アサルトライフルの銃身は曲がっていた。ハウンドドッグは追撃のため、佐藤に接近。

 佐藤は二回目となるIBMを使用。佐藤の正面に異形が生まれ、突進してくるハウンドドッグを受け止めた。

 

「バゥ!?」

 

 ハウンドドッグから困惑の鳴き声が漏れる。

 佐藤はその流れの間にショットガンに持ち替えており、IBMがハウンドドッグを受け止めたときにはすでにショットガンの銃口をハウンドドッグの腹に突きつけていた。

 佐藤は引き金を引く。ゼロ距離から撃たれたハウンドドッグの体は跳ね上がるが、IBMが捕まえているため、その場に立たされている。

 IBMはそのまま地面にハウンドドッグを叩きつけた。ハウンドドッグの腹部はグチャグチャになっているが、まだかろうじて生きている。佐藤は地面に倒れたハウンドドッグの頭部に銃口を押し付け、発砲。ハウンドドッグは潰れたトマトのように赤い血を撒き散らして死んだ。返り血が佐藤の全身を濡らす。

 佐藤は銃身の曲がったアサルトライフルを捨て、もう一丁あるアサルトライフルに持ち替える。

 ハウンドドッグはエクトプラズムの分身三体と行動していることを佐藤は知っている。つまり、近くにエクトプラズムの分身三体がいるということ。おそらくハウンドドッグは感情的になり、佐藤を見つけたことと付近の死体の数々を見て、これ以上被害を出すまいと先行してきたのだろう。

 IBMは佐藤に追従せず、別の方向へ駆け出していった。

 佐藤はスモークの中でそれを見送り、再び見つけた人影を殺し続ける作業に戻る。だが、最初からいたのならともかく、わざわざスモークに入ってくる人間はいない。

 佐藤は人影を探してスモークの中を歩いていると、唐突にスモークが消えた。

 

「……え? 消えた?」

 

 佐藤は周囲を見渡す。そして、見つけた。

 右手を前に突き出しているスターアンドストライプ(ターゲット)を。

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