ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第8話 刑務所襲撃

 空が徐々に白みはじめ、太陽が僅かに顔を出している。今は夜明けの時間帯。

 刑務所へ搬入するトラックに運転手とヒーローの男が歩いて近づいていく。彼らは事務所から出てきたところで、今までちょっとした雑談を事務所でしていた。

 トラックにはすでに刑務所に搬入する物資が載せてある。夜勤の運転手の最後の仕事が、朝方の搬入のための物資を載せるという仕事だからだ。それから朝勤の運転手が積み置きされたトラックを運転し、刑務所に搬入するという流れになっている。

 佐藤が朝方の時間帯を選んだ理由は人目に付きにくくするためという理由だけでなく、朝方の搬入だけは事務所から直接刑務所に向かうからという理由もあった。さらに午前五時ちょっと過ぎという今の時間帯だけは事務所に事務員がおらず、運転手とヒーローだけという制圧するのが比較的楽な状況。佐藤がこの時間帯に目を付けないわけがない。

 運転手とヒーローは駐車場に入ってくる女らしき影に気付いた。薄暗くて顔が見えないが、こんなところに迷って入ってくる女がいるわけがない。つまり、トラックを奪うか破壊するのが目的。

 そう判断した運転手とヒーローはトラックに駆け寄って、運転手はトラックの鍵を開けつつ運転席側に乗り込もうとし、ヒーローはトラックを女から守るためにトラックの正面に立つ。

 その時、トラックの車体の下に隠れていた(さとし)と針間が飛び出し、針間は運転席に乗ろうとしている運転手を引きずり下ろし、(さとし)は背後からヒーローの背に三十センチ程の鉄棒を押し付けながら、『個性』の発動による電撃を浴びせた。周囲が一瞬青白い光に包まれ、ヒーローは短い悲鳴とともに地面に倒れる。倒れたヒーローの首に再び鉄棒を当て、雷撃。ヒーローは完全に気を失った。

 

「な、なんじゃお前ら!?」

「リベンジエッジよ」

 

 地面に這いつくばる運転手の背後まで近付いていた沙紀はそう口にしつつ、指先を下に向けた。『伸縮爪(バンジーエッジ)』により爪が伸び、運転手の背中から胸部を貫く。運転手は口から血を吐きながら死んだ。死んだ運転手のいる地面に血溜まりが生まれていく。沙紀は爪を戻し、血濡れた爪を運転手の服で拭いた。

 その後、沙紀は持っていたペンライトを点け、背後に向かって二回振る。佐藤と丸井がその光を合図に足早にトラックに近付く。

 佐藤は大きなリュックサックと両手にそれぞれバックを持ち、上半身はいつものミリタリーベスト、ベルト付近に弾薬入れポーチ、脚部には脚力を強化するアーマー、右耳には超小型録画用カメラ付きヘッドセットを付けている。

 丸井は真っ直ぐトラックの背後に回り、リアドアを開けた。七割ほどの高さで九割くらい積まれている。積荷は食品、菓子類、日用品など。丸井は荷台に乗り込み、積荷のダンボールに右手を当て『個性』を発動。たちまち積荷が二メートル分消失し、丸井の右手に六十センチの球体が握られる。が、質量は変わらないので片手で持てるような重量ではなく、球体は荷台に鈍い音を出して落下。丸井は慌ててかがみ、球体の上から右手を当てた。トラックの積荷だけで車体まで『個性』で巻き込まなかったのは、直前までやっていた練習の成果である。丸井は佐藤から積荷だけを球体にするよう指示を出され、佐藤にトラックの荷台と車高の寸法を教えられた後、その寸法以内に『個性』の効果範囲を絞る練習を数えきれないくらいやり続けた。

 丸井が球体を転がしながら奥にいく。荷台は死体を埋める穴を作った時と違い平らだ。だから、どれだけ重くても転がして移動させることができる。

 その間に、佐藤、沙紀、(さとし)の三人が荷台に乗り込む。針間がトラックの背後にやってきた。針間は運転手の制服を着て、運転手の社員証を首から下げている。

 

「ライト、点けるぞ」

「うん。ヒーローは?」

「あんたの言った通り、拘束して水をぶっかけて起こした後、家族が捕まっている画像を見せた。助手席で守衛にいつも通りのことをやるとさ」

 

 佐藤はリベンジエッジ以外のヴィランに、このヒーローの家族の誘拐を依頼した。このヒーローの家族愛は本でエピソードを紹介されているほどに有名だった。そこに佐藤は付け込んだ。この運送業者を選んだ理由は近いからという理由だけでなく、付け入りやすそうなヒーローだったというのもある。

 針間は運転席に座り、荷台のライトを付けるスイッチを入れた。荷台に付いているライトが点灯し、薄暗かった荷台が白光で照らされる。

 ヒーローは蒼白の顔で助手席に座らされていた。針間は一瞬ヒーローの方に顔を向け、見下すような笑みを浮かべる。ヒーローはただ奥歯を噛みしめるしかない。ここで針間を倒すことができたとしても、その間に荷台を一度でも叩かれたら、荷台に乗っている仲間が異常に気付いて家族を誘拐したヴィランに連絡するだろう。殺すために。

 針間がトラックのエンジンをかけ、トラックを発進させた。

 佐藤は荷台の中でトラックが動き出したのを感じながら、荷台に置いたリュックサックと両手に持っていたバックのチャックを開けた。

 リュックサックから出てきたのはバラバラにされたアサルトライフル。佐藤はそれを瞬く間に組み立てた。完成したのは二脚付きフルオートアサルトライフル──八九式五.五六ミリ小銃。重量は弾倉含め約四キロ。装弾数三十発。有効射程距離は屈強なヒーローの場合は百五十メートル。落下防止のため、銃床とアイアンサイトの根元にベルトが通してあり、銃をたすき掛けできるようになっている。

 その他に、五丁の拳銃。その内の二丁の拳銃を佐藤は両太もものホルスターに入れる。残りの三丁の拳銃はそれぞれ沙紀、丸井、(さとし)が持つ。彼らも射撃訓練して、拳銃くらいなら扱える技術が身についた。最初は拳銃を使うことを渋っていたが、だんだん彼らは『個性』にこだわらなくなってきている。ちなみに拳銃は九ミリ拳銃。重量は約九百グラム。装弾数七発。有効射程距離は屈強なヒーローの場合は二メートル。

 それから、佐藤はバッグからM六七破片手榴弾とM八四スタングレネードを取り出し、手榴弾は二個、スタングレネードは三個ミリタリーベストのポーチに入れた。

 M六七破片手榴弾の重量は約四百グラム。信管に点火後約五秒で爆発。 五メートル範囲以内の人間は致命傷を受け、十五メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散するようになっている。

 M八四スタングレネードの重量は約二百四十グラム。起爆と同時に百七十デシベルの爆発音と十五メートルの範囲で百万カンデラ以上の閃光を放ち、突発的な目の眩み、難聴、耳鳴りを発生させる。

 佐藤はアサルトライフルの弾倉を六、ベルトの弾薬入れポーチに三ずつ分けて入れた。一弾倉の重量は五百九十グラム。つまり六で約三.五キロ。佐藤が刑務所襲撃に携行する弾薬数は元々の弾倉を含め二百十発となる。ちなみに拳銃の弾薬は持たない。拳銃の有効射程距離が二メートルという短さのため、拳銃はどうしても非常時用と『リセット』用になる。刑務所程度なら十四発あれば十分、というのが佐藤の判断だ。

 これだけで佐藤の装備重量は約十二キロであり、服やアーマー、ヘッドセット、サバイバルナイフの重量も含めれば約十六キロになる。だが元軍人の佐藤にとって、これくらい背負って移動するのは日常であったし、もっと言えば軍人の時は携行食糧や水筒、ヘルメット、医療キット、防弾チョッキも装備していたから、十六キロ程度じゃすまない重量を常に背負っていた。だから、佐藤はこれだけの装備でも普段通りに動ける。

 丸井、沙紀、(さとし)はバッグからそれぞれ自分にあったヒーローアイテムを取り出し、身に付けていた。

 そうこうしている間に、トラックが刑務所に到着した。搬入ゲートにいる守衛に向かってヒーローが引きつっている笑顔を見せつつ手を振ると、守衛も応えて手を振った後、ゲートの管理所にいる相手にゲートを開けるよう指示。搬入ゲートが開いていく。

 トラックが搬入ゲートを通り、搬入場所に着いたらバックで搬入ホームに停車。

 いつも通りの仕事が始まると考えている作業服の男二人が無警戒にトラックのリアドアに近付き、リアドアを開ける。彼らはそこから突き出されてきたモノが理解できなかった。そして、その困惑が二人の最期の感情となった。要するに片方は佐藤のサバイバルナイフで喉を突かれ、もう片方は沙紀の爪で首をはねられた。

 佐藤はヘッドセットの録画用カメラのスイッチを右手で入れつつ、周囲で棒立ちしてこちらを凝視している内の一人に向かってナイフ片手に駆ける。佐藤は逃げようと背を向けた男の首を後ろからナイフで刺し貫いた。アサルトライフルの弾を一発でも節約するため、佐藤はなるべくアサルトライフルは使うべき相手にしか使わないよう決めている。

 他の面々もすぐさま周囲の作業員に襲いかかり、瞬く間に制圧した。

 ヒーローは助手席から降り、自分が助力した『結果』を目の当たりにした。搬入ホームは血の池が至るところにできている。

 

「こんなの、ヒドすぎる……!」

 

 ヒーローが青い顔を右手で覆う。

 

「随分調子良いこと言うじゃねえか。てめえも加担したってのに」

「ここまでヒドいことをするとは思わなか──」

 

 ヒーローの言葉は、針間が右腕の毛を『個性』にして硬化させたラリアットで頭をトラックに叩きつけられて潰されたことによって途切れた。ずり落ちるヒーローの頭はまるでそこだけアイアンメイデンに入れられたように穴だらけになっていて、トラックの側面には血がべったりと付着している。

 

「もうてめえに用はねえよ」

 

 針間はヒーローに唾を吐き捨て、佐藤のいる方に歩く。

 

「佐藤さん、ヒーローは始末した。人質にした家族はどうする?」

「捕まえたヴィランの好きにしていいって伝えといて」

「了解」

 

 針間は携帯電話を取り出し電話している。

 さて、と佐藤はこれから始まる戦闘に向けて思案を巡らせた。この搬入ホームは監視カメラが見当たらないため、まだこの刑務所の人間にバレていない。だが、扉付近と扉を出た通路には監視カメラがあるだろう。沙紀がここのカウンセラーから聞き出した情報と見取り図を信用するなら、監視カメラを管理している警備室は通路を真っ直ぐ行き右に曲がった先の扉にある。そしてヴィランたちを閉じ込めている電子ロックも、そこで解除できる。

 

「ここからはスピード勝負になる。(さとし)君、頼んだよ。万が一の時は丸井君、よろしく」

 

 佐藤にそう言われた(さとし)は、佐藤からは見えない位置でガッツポーズを作る。だが、あくまで表面上は素っ気なく「ああ」と返事をした。丸井は固い表情で頷いただけ。

 もし監視カメラを監視する仕事を怠けずやっていて、扉を飛び出した瞬間、緊急警報を鳴らして警備室を厳重にロックされたとしても、(さとし)の『個性』の前では豆腐を切るように扉を融解させられる。それで万が一切れなかったら、丸井が扉を『個性』で球体にすればいい。

 佐藤は自分より速く走れる針間と(さとし)に扉を開けるよう指示を出し、走り出した二人の後ろに佐藤が続く。佐藤の後ろは沙紀と丸井が周囲を警戒しつつ付いてくる。

 針間が右扉、(さとし)が左扉を勢いよく開けた。バンという音とともに通路の光景が飛び込んでくる。通路にいる人数は六人。音で顔をこちらに向けた。扉を開ける前から八九式五.五六ミリ小銃を構えていた佐藤は走る速度を少し緩め、恐るべき照準の速さで六人の頭を次々に撃ち抜く。通路に赤い血の噴水が六つ生まれ、通路の床と壁を血で彩った。

 

「えっぐ……」

 

 沙紀が思わず言葉を漏らした。そんな沙紀の言葉を意にも介さず、沙紀の前にいる三人は死体のある通路を全速力で駆けていく。

 

「私が左を掃討する! 君たちは警備室に!」

 

 佐藤が指示を出しつつ、下げていたアサルトライフルの銃口を上げる。

 およそ五十メートル先にある通路の突き当たり。銃声を聞きつけ、何事かとやってきた人間の頭を佐藤は撃ち抜き続ける。たちまち悲鳴と絶叫が通路を埋め、安易に通路に顔を出す人間はいなくなった。

 通路の突き当たりはT字となっており、佐藤たちはそこで足を止め、佐藤は左、それ以外は右を僅かに顔を出して確認。

 佐藤の目に背中を向けて逃げていく五人の姿が見えた。佐藤は素早く体を出し、アサルトライフルで四人の後頭部を撃ち、一人は右太ももを撃ち抜く。その一人は一番後続の人間であり、右太ももを撃たれたせいで目の前で折り重なっていく四人の死体の上に前のめりで倒れた。

 佐藤はちらりと背後を見る。背後では沙紀が爪で、針間が腕や足で、(さとし)が九ミリ拳銃で右の通路にいる者を殺戮していた。丸井だけは殺戮に加わらず、周囲をキョロキョロ不安そうに見ている。だからこそ佐藤と視線がかち合い、丸井は居心地の悪い気分を味わいながら、佐藤の視線を振り払うように三人のすぐ背後に一目散に駆け寄った。

 佐藤は軽く笑みを浮かべると、足を撃たれて死体の上でもがいている男に歩いて近付いていく。

 男はもう助からないと考えたのか携帯電話を取り出し、佐藤を怯える目で見ながら携帯電話を耳に当てた。

 

「緊急要請! 緊急要請! 静岡刑務所がヴィラン五名に襲撃された! 近場にいるヒーローはすぐ現場に急行されたし! 繰り返す! 静岡刑務所がヴィラン五名に襲撃された! 近場にいるヒーローはすぐ現場に急行されたし!」

 

 男は必死に携帯電話に怒鳴りながら、帽子の男が血に濡れたサバイバルナイフを抜き、笑みを浮かべながら近付いてくる様を目でしっかり捉えている。

 

「頼む、助けて──」

 

 佐藤は来るなと言っているかのような男の伸ばした腕を掴み、ぐいッと引き寄せながら仰向けの男の首にナイフを刺し込む。「がッ」と短い絶叫の後、男の目から生気が消えた。ナイフを抜くと、こぽッという排水口が詰まった時に出るような音をさせつつ、首から血が溢れ出す。

 もう刑務所の人間はパニック状態であった。襲撃してきた相手に一切立ち向かうことをせず、悲鳴をあげて逃げ惑うばかり。だが、それは仕方ない。彼らはこんな日が来るとは夢にも思っていなかったし、何より刑務所内にはヴィランと闘うべきヒーローがそれなりにいた。にも関わらず応援を要請したのは、それだけではヤバいと直感したからだろう。

 佐藤は正面にアサルトライフルを構えながら、後ずさる。警備室にいるであろう四人と合流するためだ。

 

 ──ライフルの残弾は十四。まだ再装填(リロード)はしなくていいかな。

 

 佐藤が後ろ足で左を警戒しながらT字路のところまで戻ってきた時、けたたましい警報音が刑務所中に響き渡った。おそらく逃げていった者の内の誰かが非常警報のボタンを押したのだろう。警備室であっても、そこまでは制御できない。

 警備室から四人が出てきて、佐藤と合流した。

 

「佐藤さん、捕まってるヴィランたちの電子ロック、全部解除したよ」

「じゃ、帰ろうか」

「えッ!?」

 

 沙紀が戸惑いの声をあげた。他の三人も困惑した表情で佐藤の顔を見ている。

 

「さっきヒーローの応援を要請された。長くここに留まれば留まるほど、脱出は困難になる」

「けど、刑務員の殲滅はどうすんだよ? 解放したヴィランどもは? 全然目的を達成できてねえじゃねえか」

「いいんだよ、もう。目的は達成したんだ。これで国民からのヒーローの信用は落ちるんだから。それに、まだ『スタートボタン』を押す気はないからね」

「……は?」

 

 困惑する四人の横を通り過ぎ、佐藤は侵入した搬入ホームの方へ歩き出した。首を傾げながら、四人がその後ろに続く。彼らはその先に何が待ち受けているか、この段階ではまだ考えもしていなかった。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 小麦色の肌をした白髪の女性の携帯電話に通知が入った。それはヒーローだけが使えるネットサービス『HN(ヒーローネットワーク)』からの通知だ。

 HNは全国のヒーローの活動報告が見れたり、ヒーローに協力を要請することができる。ヒーロー以外は警察や消防署、あるいは刑務所といったヴィランに遭遇する確率が高かったり、あるいは早急に対処しなければならない施設の人間だけがHNに緊急要請できる番号を知っている。特定の番号で電話をかけた後、電話で話した言葉は一字一句文字に置き換えられ、HNの依頼欄に緊急としてメールが入る。その緊急要請に応えられるヒーローはその依頼に了承の返事をすれば、依頼成立。緊急事態が片付いた後、返事があるヒーローの人数と貢献度で報酬を振り分けることになる。

 

「ん〜なになに、静岡刑務所にヴィラン襲撃? そいつらツイてねえな! この私が静岡にいる時に大それたことするなんざ!」

 

 兎のような耳をゆらゆら動かしながら、白髪赤目の女性は緊急依頼に返事を入れた。

 女性は携帯電話をしまい、勝ち気な笑みを浮かべて跳躍。コンクリートの地面を抉りながら跳んだ女性の姿は一瞬で朝焼けの空へ消えていった。




HNに公的機関が緊急時に応援要請の依頼ができるというのは私の独自設定となります。緊急要請できた方がリアリティが増すと思ったので。
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