ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第81話 継承者

 雄英高校の謝罪会見。

 その会見は日本のみならず世界に衝撃を与えた。

 その理由は雄英高校の知名度と、何よりスターアンドストライプの存在。

 スターアンドストライプはアメリカナンバーワンヒーローにして、世界一のヒーローといっても過言ではない。そんなヒーローが被害を出したうえに取り逃したとなれば、それだけで話題になる。それが日本政府を壊滅させた愛国者集団(パトリオッツ)のボス、佐藤となれば尚更だ。

 今、日本は世界中から注目されている。ヴィランの隆盛に現状でどう対処するのか、というところを。

 緑谷は保健室のベッドのうえで、そんな内容のネットニュースをスマホで見ていた。右足の骨折はまだ完治していない。緑谷だけならともかく、避難時に大なり小なり負傷した人が多く、そういった人の治療もしなければならなかったため、リカバリーガールはそっちを優先して負傷者の治療にあたった。

 夕方になる頃には、応援で燃輪が駆けつけ、ヒールボトルでリカバリーガールの手助けをした。そのおかげで負傷者の治療は順調に進み、緑谷の治療の番がようやく回ってきた。

 

「チュ〜〜〜」

 

 リカバリーガールが唇を伸ばして緑谷の右腕にキスをし、そのまま吸い取る。それがリカバリーガールの個性『治癒力の超活性化』の発動条件。

 緑谷の治癒力が活性化し、右足骨折がみるみる治っていく。完治した時には、緑谷の表情は疲労感でいっぱいになっている。

 リカバリーガールの『個性』はあくまで相手の自然治癒力の補助のため、活性化は傷が治るかわりに体力を大幅に消費してしまう。右足骨折はそこそこ重傷であり、緑谷の体力をかなり奪っていた。

 

「全くまた無茶して。今回はそれで助かったからいいけど。あまり心配かけさせるんじゃないよ」

「……はい。ありがとうございました」

 

 リカバリーガールの言葉に、緑谷は素直に頭を下げた。

 リカバリーガールの言葉の真意くらい、緑谷には伝わっている。佐藤と出くわし、撃たれた後の行動を叱っているのだ。

 緑谷は佐藤に撃たれた後、佐藤の行動を監視するため、全力で逃げなかった。佐藤という悪を見て見ぬ振りをして逃げることが許せなかったことによる迷いが、この右足骨折という結果に繋がった。あそこで佐藤を監視しようなど考えず、自分が助かることを最優先すれば、こんなことにはならなかった。

 リカバリーガールが椅子から立ち上がり、保健室の扉を開けると、そこには1―Aの面々が揃っている。彼らは緑谷が完治するまで邪魔になるかもしれないと面会に来ず、リカバリーガールが治療するという話を聞いて慌てて扉前に集まった。

 佐藤と戦い重傷を負ったというのは、緑谷の実力を知っている1―Aの生徒からすれば、それだけ佐藤が恐ろしい存在だと認識するのに十分な根拠になった。

 

「デクくん! 大丈夫?」

 

 麗日が小走りで緑谷の寝るベッドに近付き、声を掛けた。その後ろに切島、上鳴、峰田、芦戸、蛙吹、八百万、飯田、轟がぞくぞくと付いてくる。

 

「うん、大丈夫。ありがとう」

「緑谷、心配したぜ」

「ごめん」

「謝んなよ。どうしようもなかったことなんだし」

 

 上鳴は笑った。その笑顔が緑谷を元気付けようとした笑顔なのは、緑谷には痛いほど伝わった。

 そこから約十秒沈黙が続いた。

 その沈黙を破ったのは轟。

 

「佐藤はどんなヤツだった?」

 

 そう。今この場にいる彼らは、緑谷の安否も大事だが、それと同じくらい実際に佐藤と戦った緑谷の意見を真っ先に聞きたかった。

 

「怖かった。なんていうか、殺意とかもそうだけど、人の命なんてなんとも思ってない感じが……」

「そうだよね。何百人って命を奪ってきたんだから、マトモな精神してるわけないよね」

 

 芦戸は珍しく沈んだ表情で頷いた。

 芦戸は直接佐藤と対峙したわけではないが、佐藤の作り出した混乱の中にいた。それは雄英高校にいた全員がそうであり、佐藤に会わずとも、自分は死ぬかもしれないという緊張感を常に感じていた。

 緑谷はそんな危険人物と直接戦い、右足を骨折という重傷を負ってようやく死を回避できた。緑谷の心境を考えたら、これからヒーローを目指すことを諦めてしまうかもしれないほどの衝撃だろう。

 実際、ここに集まった緑谷のクラスメイトはそれを危惧して、緑谷を励ますために来たのだ。全員いないのは大人数で保健室に押しかけるのは迷惑かもしれないと考えたので、人数を決めてお見舞いに行った。

 

「だからかな、より許しちゃいけないって思った」

「え?」

「これ以上被害が増える前に捕まえないとって」

 

 緑谷以外の全員が、緑谷がまだ佐藤と戦う闘志が萎えてないことに驚いた。しかし、緑谷はそうだったと思い直した。

 緑谷は普段の学校生活ではどこかビビりで、大人しい印象がある。だがヴィランに襲撃された時、緑谷は誰よりも勇敢と冷静さをもってヴィランに立ち向かっていった。緑谷は恐怖が大きければ大きいほどむしろ勇気を奮い立たせるタイプなのだ。

 緑谷を励ますつもりがこっちが勇気をもらっている。

 そう自覚したクラスメイトの面々は表情を和らげ、お互いの顔を見渡した。緑谷は大丈夫だ、ということを暗黙の了解として頷き合う。

 リカバリーガールはそこで何かに気付いたように廊下を見た。

 次に、生徒たちの方に視線を向ける。

 

「ほらほら、骨折は治ったけど体力はより消耗してるんだ。顔を見たなら休ませてやんな」

「ああ、はい! では、失礼します! 緑谷くん、安静にな!」

「うん。飯田くんも来てくれてありがとう」

 

 緑谷の言葉に飯田は笑みを浮かべて頷き、保健室からぞろぞろと1―Aの面々が出ていった。

 保健室内はリカバリーガールと緑谷が二人きりとなる。

 

「じゃあ、他の患者を治しにいこうかの」

「あの、僕は……?」

「しばらくそこで休んどれ」

 

 リカバリーガールは緑谷が座っているベッドを指差した後、保健室から退出した。

 

「しばらくって……」

 

 緑谷は保健室のベッドで休むのと、寮の自室で休むことの何が違うのか分からない。むしろ、ただ休むだけなのに、保健室のベッドを一つ占領することに罪悪感がある。

 ただ、緑谷は素直だった。そこで休めと言われたら、体力が回復するまでかリカバリーガールが「もういい」と言うまで言われた通りにする。

 リカバリーガールが退出してから三分ほど経った頃、保健室の扉が開き、オールマイトが入ってきた。

 

「オールマイト! もう帰ってきたんですか!?」

 

 緑谷は思わず起き上がる。

 

「うん! すぐそこだったからね!」

 

 オールマイトは右手を軽く上げた。

 

「リカバリーガールには気を使わせてしまった。それはそれとして、君が無事で本当に良かった……!」

 

 オールマイトの言葉で、緑谷は何故保健室で休むようリカバリーガールが言ったのか、分かった気がした。

 おそらくリカバリーガールはオールマイトの姿に気付き、人払いするために1―Aの面々を部屋から追い出し、自分も部屋から出ていったのだろう。リカバリーガールはオールマイトと緑谷の関係を知る数少ない一人であり、オールマイトと話す時はなるべく二人きりの方が『ワン・フォー・オール』に関するボロが出ても誰かに拾われないと考えている。『ワン・フォー・オール』の秘密が知られれば、全盛期のオールマイトの『個性』をなんとしても欲しいと考える人間が現れる可能性や、育つ前に排除しようとするヴィランが出てくるかもしれない。その危険を考えれば、情報漏洩の可能性を極力減らそうとするのはある意味当然と言える。

 

「ワン・フォー・オールに救われました」

「それも君の機転があったからこそさ」

 

 そこで、二人の間で沈黙の時間が訪れた。二十秒ほど経った後、緑谷が口を開く。

 

「実は誰にもまだ話してないことがあって……」

「ワン・フォー・オール絡みか」

 

 オールマイトの言葉に、緑谷は頷く。

 

「多分、そうだと思います。佐藤と戦っている時、刺すような頭痛に襲われたんです」

「頭痛?」

「はい。オールマイトはヒーロー活動していて感じたことはありませんでしたか?」

 

 オールマイトは顎に手を当て、考える。それらしい心当たりはない。オールマイトは首を振った。

 

「いや、そんなことは一度もなかった。それで、なんでその頭痛がワン・フォー・オールと関係していると思ったんだい?」

「なんていうか、その頭痛が危険を教えてくれてるって直感で分かったんです。実際、その場所から避けた瞬間、透明な敵からの攻撃がきました」

「なるほど……」

 

 ──IBMの攻撃は上位プロヒーローの身体能力に匹敵する……それを避けたか!

 

 オールマイトは緑谷が『ワン・フォー・オール』の能力だと考えた理由に納得した。確かに先読みでもできない限り、避けるのは至難の技だろう。

 

「体育祭の時、オールマイトに僕、言いましたよね? 幻覚が見えたって。その時オールマイトは『ワン・フォー・オールの面影みたいなものでそこに意思は無い』って言ってましたけど、本当にそうなんでしょうか? ワン・フォー・オールを繋いできた人たちの『個性』をも取り込みながら、ワン・フォー・オールは成長し続けているのかも……」

「それならなんで私の時は今までのワン・フォー・オールの継承者の『個性』が使えなかったんだと言いたくなるが……。

そういえば、お師匠は私がワン・フォー・オールの面影を見たと伝えた時、『ワン・フォー・オールは溜め込む個性』だと言っていたな。意思も力も何もかも溜め込むから、その溜め込まれた意思が幻覚という形で現継承者に見えてしまうと。もしかしたら君の言う通り、今までの継承者の《個性》も溜め込まれているかもしれない」

「ワン・フォー・オールは身体能力の強化だけじゃない……?」

 

 緑谷は右手の平をジッと見つめる。

 

「どこまでできるか分からないが、ワン・フォー・オールの今までの継承者の情報を集めてみる。その中に敵の攻撃が分かる系の『個性』か、危険を感じる系の『個性』があれば、君の推測通りということになるからね。なんにせよ、その頭痛が君の命を救ったんだ。その力は君の助けになってくれるものだよ」

「はい!」

 

 緑谷は力強く頷いた。

 緑谷の希望に満ちた顔を見て、オールマイトは逆に表情が暗くなる。

 緑谷はオールマイトの表情の変化に気付いた。

 

「オールマイト?」

「ああ、ごめんね。実は、ワン・フォー・オールについて調べるのはすぐにとはいかないんだ。というより、これから君と会えなくなりそうだから、無理やりにでも今会いにきたのさ」

「どういうこと?」

「愛国者集団だよ」

 

 その名前が出た瞬間、空気にピンと緊張が走った。

 

「正直、佐藤の行動は我々の予想より早すぎる。雄英教員の引き継ぎをしながら、国務大臣として仕事をするのはもう限界を感じているんだ。だから、明日からはずっと防衛省で缶詰め状態になる」

「そうなんだ……」

 

 緑谷はそうなるのも仕方ないと思った。

 佐藤のやったことをテレビ局の占拠からだとしたら、それから三日後にたすきをしていないヒーロー狩り、五日後に国会議事堂襲撃、そして十五日後。つまり今日、雄英高校襲撃。時系列で並べたら、愛国者集団の行動がどれだけ異常なスピードか、分かる。連中は半年、一年かけてやる行動を二週間でやってのけている。そこまで活発かつ過激なことをやるヴィラン組織は愛国者集団が初めてなのだ。無意識の内に今までの経験から対処スピードを決めてしまっていた。それが後手後手に回ってしまっている一番の原因でもある。

 

「これからは愛国者集団の壊滅を最優先とし、他のヴィラン組織への対処は最低限になると思う。多分そうしないと対処できない」

「オールマイト、あまり無茶しないでね」

「君がそれを言うのは説得力ないね! 約束はできないけど、努力はするよ。でも、私にとって一番大事なことはみんなの明日を守ること。そのためなら、私も他のヒーローたち同様命を懸ける」

 

 オールマイトの目には決意の光が灯っている。

 オールマイトの表情を見て、緑谷は心を決めた。もしインターンの依頼があったら、必ず志願しようと。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 佐藤は猿石、怜の二人とともに動画を撮った。

 動画撮影終了後、佐藤は猿石に話しかける。

 

「分散させていた物資を集めようか」

「……いつまでです?」

「三日後くらいかな。集まり次第、東京都制圧作戦を開始するよ。それまでは何回か作戦会議をしたいと考えている」

「その作戦の先は?」

 

 猿石がおそるおそる問いかけた。佐藤という人間性を間近で見続けてきたからこそ、なんとなく答えが分かっていながら、考えている答えが間違っていてほしいという希望を込めて。

 

「その時に考えるよ。これまでもそうだったでしょ?」

 

 その通りだ、と猿石は思う。

 道筋っぽいものはありつつも、その時の感情に従って決める。ヒーロー公安委員全員の暗殺も、国会襲撃後は刺激が足らないと止めたくらいだ。

 

「でも、物資は少しくらい残しておいた方がいいんじゃ……?」

 

 佐藤はふぅっと軽くため息を吐いた。

 

「明日のことを考えてセーブするのは愉しくないよ。明日なんて考えず、今この瞬間に全ベッ卜(賭け)。それがハラハラしていいんじゃないか」

 

 それは刹那的な生き方。明日という未来を考えず、その時その時で面白そうな選択をし、目標を立ててもすぐ飽きてべつのことを始める。ヒーローは真逆であり、明日という未来のために戦う。だからこそ、佐藤とは相容れない。

 雄英高校側が謝罪会見を開いた三時間後、愛国者集団のホームページPATRIOTS(パトリオッツ).comに動画が投稿された。

 その内容はスターアンドストライプの日本からの退去要求であり、もし明日の十時までに何かしらの交通手段で日本を出たと確認できなかった場合、アメリカも我々を妨害する敵とみなし、愛国者集団の標的とするという内容だった。

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