ヒーローと亜人   作:ガジャピン

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第82話 失踪

 スターアンドストライプは愛国者集団の動画が投稿されてすぐ、動画の内容が自分に向けられていると多くの人から連絡がきた。そのおかげですぐに動画を観て、決断するまでの時間を確保できた。

 スターアンドストライプはアグパー司令に直接電話をかける。アグパー司令にはコール音一回目で繋がった。

 アグパー司令は愛国者集団の動画内容を知っていた。スターアンドストライプが置かれている状況もだ。その上で、アグパー司令は迷い無く力強い声で話す。

 

『スター、アメリカのことはこちらに任せればいい。犯罪者の言葉に右往左往するほど、アメリカは臆病風に吹かれていないさ。

これは佐藤の苦し紛れの策だ。正攻法じゃお前に勝てないから、搦め手で排除しようとしているのだよ。苦しいのはむしろ佐藤の方だ。ヤツにナンバーワンヒーローの力を見せてやれ』

「了解」

 

 スターアンドストライプは携帯電話を切った。

 スターアンドストライプの気分は電話する前と比べて格段と良くなっている。アメリカに帰るべきかどうかの迷いが消えたこともそうだが、自分以外のアメリカヒーローが自分の留守の穴をしっかり埋めてくれると確信できたことがなにより嬉しかった。

 スターアンドストライプは両拳を握りしめる。

 アメリカ軍やヒーローとの絆を感じられたのは良い。だが、帰らなければアメリカを標的にすると言われて怒りを感じないほど、精神が成熟しているわけではない。愛国者集団の動画はアメリカ国民からスターアンドストライプへ批難させる目的もある。スターアンドストライプが帰らずアメリカで愛国者集団が犯罪をすれば、『スターアンドストライプが帰らなかったせいで犯罪が増加した』と言う人間が出てくるだろう。国民からの支持率が大事なヒーロー業で、イメージダウンを狙うやり方は理に適っている。

 だから、怒りが込み上げてくるのだ。『こう言えばヒーローは従うしかないだろ?』と言わんばかりの傲慢さが。それとなによりもアメリカ国民に不安と恐怖を与えたことが。

 

 ──佐藤。アメリカに喧嘩売ったこと、後悔させてあげる。

 

 それが自分がいないアメリカを守ると言ってくれたアグパー司令の信頼に応える方法だ。

 スターアンドストライプは日本に残ることをオールマイトに伝えるべく、再び携帯電話を取り出した。

 

 

 

     ◆     ◆     ◆    

 

 

 

 雄英高校襲撃があった日の翌日。

 早朝、何気なくつけていたテレビで女性アナウンサーが国会議員の行方が分からなくなったというニュースを読み上げた瞬間、デスクで黙々と仕事をしていたオールマイトは紙に書いてる手を止めた。

 オールマイトはテレビの方に顔を向ける。

 

『──臨時国会議員の八木俊典さん以外の国会議員十三名と連絡が取れなくなったとたった今、情報が入りました。八木さんと連絡が取れるかどうかはこれから確かめますが、他の十三人の国会議員は居場所も分からなくなったと、彼らの秘書から情報提供がありました。行方については情報が入り次第、またお伝えします』

 

 その時、オールマイトのスマホに電話が掛かってきた。画面を見る。ホークスの表示。すぐさま応答ボタンをタップ。

 

「もしもし。ホークス?」

『ああ、オールマイトさん! ニュースご覧になりましたか!? ネットニュースでもいいんですけど!』

「私以外の国会議員が行方不明になったというニュースのことだ

ね? 今ちょうどテレビのニュースで見たよ」

『この大事な時にやってくれましたよ、あいつら! これでますます俺たちの風当たりが強くなる。せっかくオールマイトさんが記者会見までして世間の空気を変えたのに、全部台無しです!』

 

 平和の象徴と言われたオールマイトが記者会見で臨時国務大臣に任命され、治安改善の総指揮を執ることを意気込みも含めて国民に伝えたことにより、日本の未来に絶望していた国民に希望の光を少しでも見せれた。そうすることで国民の支持を得て、ヒーローと警察への協力をしてもらうつもりだった。

 だが、これでは結局日本は駄目かとネガティブ思考となってしまい、国民は保身第一でヴィランに目をつけられないよう情報提供を渋ったり、国外に国民が移住してしまうかもしれない。

 

「いや、彼らだけのせいじゃない。私が甘かったんだ。この緊急事態に、雄英高校の引き継ぎをしながら国務大臣としての仕事をするなんて中途半端なことをやっていた。挙げ句の果てに雄英高校への襲撃を許し、ヴィランを調子づかせるきっかけを作ってしまったかもしれない」

『そんな……。佐藤の雄英高校襲撃は計画的でした。少人数で目立たないように近付き、ポータルの『個性』で雄英高校の鉄壁を突破。その後、内部からハッカーにセキュリティを乗っ取らせ、陽動と封鎖をやらせた。これだけ用意周到で迅速な作戦、事前に動きを察知してないとどうやっても止められませんでした』

「それでも早急に警備態勢を整え、情報共有がしっかりできていたら、佐藤たちの動きを事前に察知できたかもしれない。問題なのは、ヒーローと警察がまだまだバラバラで、連携が取れているとはいえない今の状況を改善できていないことだと私は思う」

『それは確かにそうですね。HUNTとヒーローの連携も上位プロヒーローとしかまともにできていませんし』

 

 オールマイトは自分を落ち着かせるようにふぅと息を吐いた。

 

「国会議員の居場所は本当に分からない?」

『一人だけ分かってます。その人だけ監視カメラがあるところを通って逃げたので。今は愛知県の泥花市に車を止め、事務所にいます』

 

 ホークスは監視カメラの映像から車を特定し、羽根で監視カメラを辿りつつその車まで追いつき、発信機としてその羽根を車の目立たないところに突き刺していた。突き刺すといってもボディの繋ぎ目に挟み込むようにしたため、ほとんど音を立てなかった。

 

「分かった。続きは人を集めてから話そう。七時に私のところに来てくれ。あと、スターアンドストライプのこともその時に」

『分かりました』

 

 ホークスはそう言った後、電話を切った。

 オールマイトはスマホをポケットにしまい、中断していた仕事を再開した。

 七時になり、オールマイトのいる執務室にはホークス、念道、ヒーロー公安委員長、スターアンドストライプ、エンデヴァー、ミルコ、クラスト、リューキュウ、ギャングオルカが集まっている。

 

「スターは本当にアメリカに帰らなくていいんだね?」

「ああ、愛国者集団を……いや、ヴィラン連合とやらも潰すまで、日本にいるよ」

 

 スターアンドストライプの言葉に、スターアンドストライプ以外の面々は顔を見合わせた。日本にとっては最高だがアメリカはどうなるのか、という複雑な心境を誰もが抱いた。

 そんな心を見透かしたように、スターアンドストライプは笑みを浮かべる。

 

「アメリカには頼りになる人が大勢いるって分かったから、アメリカは彼らを信じて任せることにしたんだ。日本政府が機能停止している中、ヴィラン勢力が活発化してる問題を解決することを優先した方がアメリカ的にも都合が良いしね」

 

 自国を戦場にせず、他国でヴィランを捕らえた方が自国民が巻き込まれない分戦いやすい。アメリカに攻めてくる可能性のあるヴィランなら尚更だ。

 それに、日本に恩を売っておくなんて考えはスターアンドストライプはしないかもしれないが、結果的に恩も売れてアメリカと日本が友好的になるなら、今この絶望的な日本を救うことがアメリカにとってプラスに働く。そう考えた者がアメリカにいるのだろう。

 そんなアメリカ側の思惑がどうでも良くなるほど、今の日本にとって戦力補強は喉から手が出るほど欲しいものであり、スターの滞在はありがたい。

 オールマイトはスターアンドストライプに視線を向けながら微かな笑みを浮かべる。

 

「スターがいてくれることは本当に助かるよ。愛国者集団のあの動画もスターを脅威に感じての揺さぶりだろうし」

「あの動画があったからこそ、余計に日本に残って愛国者集団を叩き潰したいって思ったね」

 

 スターアンドストライプのその感情はこの場の誰もが共感できた。日本のヒーローもたすきとハチマキをしなければ周りの被害を気にせず殺すという内容で佐藤に脅迫されているからだ。そうやってこちらの動きをコントロールしてきているという意味では、今回のスターアンドストライプへの愛国者集団の動画とヒーローへの脅迫は同じやり方だ。

 

「それで、これからの動きだけど、何か意見がある人はいるかい?」

 

 オールマイトの言葉を聞き、ホークスが右手をあげる。オールマイトはホークスの方に顔を向け、頷いた。

 

「今回の国会議員の失踪。ある意味、チャンスかもしんないッス」

「チャンスだと? 一人しか足取りは分からないのにか?」

 

 エンデヴァーが腕組みしながらホークスを睨む。ふざけたことを抜かすな、と言わんばかりだ。その視線を受けても、ホークスは怖気づかず、真っすぐエンデヴァーの顔を見すえる。そのホークスの顔には自信が満ち溢れており、エンデヴァーは険しい表情を少し和らげた。

 

「近くにいた俺たちの目を掻い潜って逃げたんです。国会議員たちは一人を除いて相当用心深かった。となれば、当然愛国者集団も簡単には彼らの行方は分からない筈です」

 

 失踪した国会議員は愛国者集団に殺されることを怖れていた。愛国者集団に居場所を特定されないよう細心の注意を払っただろう。

 

「つまり貴様は、失踪した国会議員を特定するため、これから愛国者集団の動きが活発化する可能性がある、と言いたいのか?」

「ええ。そして、特定するための情報として、ヒーローや警察の動きも入ってきます。それを逆手に取れば、愛国者集団を罠に嵌められるかもしれません」

「どうやって罠に嵌める?」

「オールマイトさん、地図帳を借りてもいいッスか?」

「ああ」

 

 ホークスはオールマイトのデスクに広げられている地図帳をめくり、目当てのぺージを開く。

 

「居場所が分かっている国会議員は花畑。その花畑が逃げ込んだのが地図のここにある花畑個人の事務所です」

 

 ホークスは地図の一点を指差した。

 周囲の視線がホークスの指先に集まる。

 

「まずエンデヴァーさんはサイドキックを引き連れ、花畑の事務所に行ってもらいたいです」

「俺がエサになるわけか」

「エンデヴァーさん、目立ちますし。適任だと思いますけどね」

 

 ヒーローはヴィランの隆盛を防げず批難が集中しているが、ヴィランを捕らえたり人命救助をして活躍すれば今なお拍手喝采される。その時その時で掌を返すゴミのような国民性。いや、ある意味で人間という生き物の本質が、この時においては活かされる。要はヒーローは今も最注目対象であり、人気のあるヒーローであればあるほど目立つし、情報も発信される。実質ナンバーワンヒーローのエンデヴァーは釣り針を増やすのにはもってこいの存在。

 

「俺らは失踪した国会議員たちの情報を集めつつ、愛国者集団の動きに網を張ろうと考えています。なので、俺らはここに留まり、愛国者集団の情報を掴み次第動く感じにします」

 

 リューキュウが心配そうにエンデヴァーの方をチラっと見る。

 

「それだともし愛国者集団がエンデヴァーに吊られて花畑の方を狙ってきた場合、私たちが合流するまでエンデヴァー事務所所属のヒーローだけで対処しなければならないのでは?」

「そこは俺らの救援が来るまで頑張ってもらうことになりますね。俺はエンデヴァーさんならそれまでもたせられると信じてます」

 

 エンデヴァーが冷めた目でホークスを睨む。

 

「……いいだろう、やってやろうじゃないか。ただし、俺とサイドキックが囮になるのだ。今回ばかりは先手を取ってもらわんと困る」

「情報収集態勢は万全にしておきます」

 

 そこからは失踪した国会議員を見つけた場合、誰がどこに行くかや警察を含めた警備態勢など、あらゆる事について細かく決めていく話し合いとなった。

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