ロマンシング・サガ-ミンストレルソング- 真実への選択   作:ナタタク

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第9話 覚醒

バファル帝国南東に位置する島、リガウ島。

世界最大の火山と言われているトマエ火山と広大な草原を持つこの島はかつて、バファル帝国の領土となっていた。

多種多様な植物や魔物、鉱石に目を付けた帝国はその島に植民を行い、それらの資源を手中に収めていた。

植民については、島の北部に位置するジェルトンの町のみとなり、草原への植民と街づくりに関してはこの地域固有の巨大な魔物である恐竜の存在から計画がとん挫することとなった。

やがて、750年になると重税に耐えかねた住民たちによる反乱に伴い独立し、それからは帝国とのつながりは交易のみとなり、島そのものは騎士団領のようにどこの国にも属さない独立領となった。

独立を許した背景には当時の帝国の財政難やバファル帝国の力をそぐことを目的としたクジャラートによる極秘裏の支援もあったらしい。

そんなリガウ島は現在、徐々に増加しつつある魔物に警戒しており、財宝を求めて集まる冒険者たちに賞金を出すことで調整を行っている。

そして、トマエ火山の奥深くについて、とある言い伝えがある。

魔物の住処となっている洞窟は火山中央へと続く回廊となっている。

この回廊はマルディアスで生を終えた者たちが歩く場所であり、トマエ火山の熱によって罪を焼き尽くしていく。

そして、その先には都があり、そこには死神がいる。

死神はトマエ火山の炎ですら焼き尽くせない罪を背負った愚か者たちの心臓をその大鎌で奪う。

心臓を奪われた亡者は都を出ることが許されず、労役が課されることとなる。

やがて長い時をその都で過ごし、許されると心臓が返され、ようやく都を出て天に召される。

その都は生者が入ることは許されず、回廊の終点には都の出入口となる門があり、それを守護する炎の魔物がいるという。

そんな言い伝えのある火山の奥底で、全身を灼熱の炎で身を包んだ大蛇が溶岩の流れを見つめていた。

魔物の名はフレイムタイラント。

かつて、サルーインは神々との戦いの際、神に匹敵する強大な魔物を生み出すことで自らの陣営を強化しようとした。

その魔物が四天王であり、その一匹がこのフレイムタイラントだ。

だが、サルーインの手下として働くことを拒んだ彼らはエロールに組し、終戦後はサルーインにも人間にも組することなく、人間が寄り付かない地で静かに暮らすことを選んだ。

「目覚めたか…異物が」

最近になり、サルーインに似た力を持つ者がマルディアスで暗躍していることは火山の中に隠棲していたとしても感知できる。

そして、最近目覚めた存在は果たして世界にとって吉となるか凶となるか、それは神ですらわからない。

「奴の頼みだ…。まだ、見極めたわけではないが、この一度のみ…助力してやろう」

 

「奴の放出する体液に気をつけろ!浴びると、ひとたまりもないぞ!!」

ターム達の女王、クイーンはこれまでのターム達との違いは自分から体液を放出するところだ。

通常のタームですら、武器や防具をも溶かすだけの力を持っているというのに、クイーンが放つそれは段違いといっていい。

傷つけられた時だけでなく、自ら口に集中して放つそれによって、前線の騎士の多くが傷つき、死ぬか騎士として再起不能となってしまった。

それだけの威力であることはこのクイーンも自覚しており、近づこうとするライトたちに向けて体液を放つ。

その体液はたとえセルフバーニングでも防ぎきれないと判断したライトがヘルファイアを放つ。

それだけで相殺できないものの、セルフバーニングで受け止める体液は減らすことができる。

「他のタームの影に隠れていけば…!」

「無駄じゃ、奴にそんなものは関係ない。躊躇なく放つじゃろう。もっとも、盾替わりにはできるが」

クイーンの使命が繁殖であるなら、バトラー達の使命はクイーンを守ること。

たとえ己が犠牲になろうとも、クイーンの障害となるものは排除する。

だから、たとえ背後から攻撃してくるクイーンの矛先が自らに向かうことになろうとも、何も躊躇しない。

「クイーンだけじゃない、ターム達も襲ってくる!」

「そこを、どけえええ!!」

シフが前にいるバトラーの胴体を両手でつかむ。

バルハラントで鍛え上げた肉体を活用し、思い切り固まって動くバトラー達に投げつける。

ぶつかると同時に砕けたバトラーの体から噴き出す体液が他のバトラーやソルジャーを溶かす。

だが、倒されたタームはわずかで、まだまだ数多くのタームが存在する。

体液放出だけでは退けられないと判断したクイーンが両手で耳をふさぐそぶりを見せる。

「女王が変な動きをしてるよ!」

「奴め、何を!?」

ギャアアアアアアアア!!!

クイーンの口から放出される、脳に直接槍を突き刺したかのような強烈な超音波。

両耳をふさいでも響く声は動く力を奪っていく。

「い、いや…!」

「ぐ、うううう!!」

「こ…奴!!」

かつてのクイーンの超音波と比べ物にならないほどの超音波。

動けないこの状況を他のターム達が放っておくはずがない。

聴覚は持っているが、おそらくはクイーンの超音波に対しては耐性があるということだろう。

戦闘に入ってから、一言もしゃべっていないライトもセルフバーニングを維持できないほどで、この状態では無防備をさらしているも同然だ。

その隙にターム達がライトたちに襲い掛かる。

「む、ぐう…!せめて、若い者だけでも…!」

「テオドール…様!」

盾となるべく、前に出るテオドールの脳裏に愛娘であるコンスタンツの姿が浮かぶ。

彼女も騎士の娘として、身内が討ち死にすることに対して覚悟はしているだろう。

自らも、いつでも戦場で死ぬ覚悟はできているが、こうしてギリギリのところで身内を思い出してしまうというのは未熟というべきなのだろうか。

「おじいちゃん!!」

発射されるクイーンの体液が襲い掛かる中でアイシャが叫ぶ。

それと同時に突如として硬い岩盤でできたはずの天井が砕け、雪崩のように落下する岩がターム達を押しつぶす。

「何、何が起こっているんだ!?」

「戦闘の影響ってわけじゃなさそうだね!」

土煙が晴れ、山のように積みあがっている岩石の中で赤く光る両手斧がアルベルトの目に映る。

刃からは炎が発生しており、不用意に近づけば黒焦げになるかと思えるほどの温度を発していた。

それを見たライトがゆっくりと斧に向けて近づいていく。

「ライト!?どうしたの、ライト!」

「あいつが、呼び出したとでもいうのか!?あの斧を、どうやって!?」

「知らないよ!あたしも、これを見るの初めてだし!」

刀を鞘に納めたまま斧に近づいていくライトをやろうと思えばいつでも襲えるはずのターム達だが、なぜか彼らは身動きをとることができない。

やがて斧を手にしたライトの体を斧が生み出す炎が包んでいき、その姿が岩石と溶岩でできたかのような赤黒い重装な鎧姿となっていく。

目を赤く光らせたライトは斧を引きずりつつ、クイーンに向けて歩いて前進していく。

脅威と感じたクイーンが体液を口から放つが、体液はライトに接触する前に蒸発していく。

何度放っても効くそぶりがなく、周囲のターム達がライトを襲う。

剣や爪、拳が容赦なくライトを襲うが、いずれもライトを包む鎧を傷つけるには及ばない。

両手で斧を握ったライトはそれを大きく振るうと、周囲にターム達が真っ二つになり、炎によって体液による最後の反撃すらできずに焼き尽くされていく。

数十もいたはずのタームを一瞬で焼き尽くしたライトにテオドールは戦慄を覚えた。

 

城塞の近くに突如と生まれた大穴の真上に浮かぶ赤いローブの男。

彼の目ははるか地下にいるライトの様子を肉眼で見ている。

「厄介なことになった…。そこまで、反逆するか…。裏切り者どもめ」

 

「グオオオオオ!!」

薙ぎ払われていくターム達に怒りを覚えたクイーンが先ほど彼らの身動きを封じた超音波を再び放とうとする。

たとえどんな鎧を身にまとったとしても、聴覚を持つ限りはこれから逃れることはできない。

だが、ライトは両手で斧を構えると、その柄を地面に突き刺す。

同時に彼の真上にフレイムタイラントの幻影が現れ、幻影が激しく咆哮する。

クイーンとは異なり、指向性のある、一直線にクイーンのみへ飛ぶその咆哮は超音波をかき消し、逆にクイーンが両耳をふさがざるを得なくなる。

幻影が姿を消すと、斧を握るライトが走り出す。

抑えていた耳を解放し、再びライトに目を向けるまでのわずかな時間。

クイーンの懐に飛び込むには十分だった。

「はあーーーーー!!」

大きく飛び上がったライトは重力に身を任せて地上へと飛び降り、同時にクイーンの左肩から腹部まで深々とその分厚い刃で切り裂いていく。

本来ならドロドロと体液を放出するはずだが、斧が発する炎がすべて焼き尽くしていく。

そして、とどめと言わんばかりに今度は大きく跳躍して今度は腹部から右肩まで切り裂いていく。

両手斧や両手大剣などで使える大技であるV-インパクト。

それがクイーンを燃え上がる3つの肉塊へと変貌させた。

「すごい…」

かつて、多くの騎士を餌食としたはずのクイーンをたった一人で倒してしまったライト。

あの得体のしれない武器を手にしたとはいえ、それでも圧倒的な力にラファエルは驚きを隠せなかった。

黒焦げの肉塊とかしたクイーンを見届けたライトが斧を手放すと同時に斧は炎となって姿を消す。

「ラ、ライト…?」

先ほどの武器、幻影として現れた炎の蛇のようなモンスターに見たこともない大技。

ライトに駆け寄ったアイシャが彼の顔を見る。

無表情の彼はじっとクイーンの亡骸を見つめていたが、瞳は赤一色に染まっていた。

だが、すぐに目の色が元に戻り、彼の表情も緩む。

「あ、あれ…?アイシャ?これは一体…」

急にいつも通りのとぼけたような表情になったライトにアイシャが目を丸くする。

様子のおかしいアイシャが気になるライトは周囲を見渡す。

「え、ええ!?もうこんなにタームを倒して、おまけに、これ、クイーン!?いつの間に!?」

「ええっと、ライト…?」

「ご、ごめん!ちょっと、今どうしてこうなったか思い出す!ええっと、ええっと…」

 

「テオドール様、これは…」

混乱している様子のライトにそんなライトに首をかしげるアイシャ。

ラファエルもこの状況をすぐに判断することができず、テオドールにゆだねるしかなかった。

「何者だというのだ…あの青年は…」

本来ならこれほどの力をおびえるべきかもしれないが、現にクイーンを倒して騎士団領の危機を救ってくれた彼にそんな扱いをすることなどできない。

(これほどの力を持つ者の出現、そして…最近の魔物の活性化…。これが無関係なことなのか、あるいは…)

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