ロマンシング・サガ-ミンストレルソング- 真実への選択   作:ナタタク

4 / 10
第3話 目覚める炎

「くっそぉ!なんでこんなところにパイロヒドラなんかいるんだよ!?」

「非戦闘員を下がらせろ!!倒せずとも、時間だけは稼げ!!」

ウソに配備されている衛兵たちがそれぞれの得物を手にパイロヒドラに迎撃を仕掛ける。

正面から戦っても、その魔物が放つ炎に焼かれ、その口で丸のみにされる。

現にここまでの間に、兵士や商人など何人もパイロヒドラに食われており、その血が口にこびりついている。

ここにいる衛兵たちはローザリアから派遣されており、隣国であるクジャラートやバファル帝国との領土争いを繰り返した経緯から、兵士の練度は高い。

だが、パイロヒドラのような大型の魔物に挑むには兵士の数が足りず、近辺の騎士団に援軍を求めている早馬を飛ばしている。

(だが、なぜこんなところに現れたんだ?それに…街中に入るまで気づかぬとは…)

百歩譲ってこの地域にパイロヒドラが存在するとしても、町に入る前までに見張りの段階で隆起した土や巨大な魔物の影など、何らかの兆候があるはずだ。

この夜中であっても、そうしたものを見逃さない兵士を集めたはずだ。

だが、気づいたときにはすでに町中にいて、暴れて周囲を火の海にした。

まるで瞬間移動でもして現れたかのように。

「ありえない…こんな、馬鹿なことが…」

「おい、何を呆けて…やがる!!」

状況を伴わない考えに耽りかけた兵士の耳と男の声が撃ちぬき、鍛えられた太い腕がその体を引っ張る。

兵士がいた場所にパイロヒドラの頭が襲い掛かり、もしこの腕に引っ張られなかったら、今頃食い殺されていただろう。

「あんたは…さっさと逃げろ!この魔物は…」

「ああ、わかってんだよ!でもなぁ…死にたかねえし、背を向けて逃げりゃあ、このキャプテン・ホークの名が泣くんだよぉ!!」

引っ込めようとするパイロヒドラの頭部に向けてホークがブロードアックスを振り下ろす。

持ち前の剛腕によって振り下ろされた両手斧の分厚い刃が脳天に直撃し、パイロヒドラが悲鳴を上げて暴れだす。

「くっそ!!暴れんな!うおおおお!!」

大きく首を動かしてきたことで持っている斧ごとホークの体も振り回され、地面に落とされた。

受け身は取っていたことで大事には至っていないものの、傷ついたホークを槍を手にしているゲラ=ハがかばう。

「どうでえ、これで真ん中の頭は…」

「馬鹿な…ありえません。こんな…」

「どうしたんだよ、ゲラ=ハ。何!?」

ホークとゲラ=ハの目に映ったのは深々と刺さったはずのブロードアックスが地面に落ち、刺さっていた箇所の傷が徐々に回復していくパイロヒドラの姿だ。

よく見ると、兵士たちが負わせた剣により切り傷や矢傷も回復していた。

海賊として各地で魔物と戦ったことのあるホークとゲラ=ハだが、2人もこのような高い再生能力を持つ魔物を見たのは初めてだ。

「こいつは…しんどいことになるぜ…」

「ええ。援軍が到着したとしても、このような魔物に勝てるかどうか…」

ゲラ=ハから受け取った傷薬を飲むホークにはその答えは出ない。

こんな魔物が現れるようになったのも、海賊の中のうわさに出るようになった邪神のせいなのかとさえ思ってしまった。

 

「怖い、怖いよぉ…」

「どうしてこうなったんだ…エロール様、ミルザ様…ニーサ様、ウコム様…どうか、どうかぁ…」

「泣き言をいうなよ、こっちもきつくなるだろう…!」

ウソの町から離れた洞窟に商人や住民、旅人たちが避難しており、その中にはライトとアイシャの姿もある。

誰もが今まで見たことのない魔物のあの恐ろしい姿と炎と破壊に包まれたウソの町に恐怖を覚えていた。

ライトのそばにいるアイシャも例外ではなく、あの魔物からはガレサステップで襲われた魔物以上の脅威を感じていた。

明るく活発とはいえ、それでもまだ15歳の少女、恐ろしくて震えてしまうのは仕方のないことだ。

「大丈夫。大丈夫だよ、みんな助かるから」

「無責任なことを言うなよ!あんな魔物、どうやったら助かるっていうんだ…」

励まそうとするライトの笑顔は完全に絶望した人にとっては目障りそのものなのだろう。

耳にした人からの八つ当たりが来るが、今のライトが気にしているのはアイシャだ。

小さな声でうん、とうなずいていることからかろうじて受け答えはできているが、それでも怖い思いをしていることには変わらない。

次の瞬間、グラグラと揺れが起こるとともに天井から土埃が落ちてくる。

同時にパイロヒドラの鳴き声がかすかに聞こえてきて、避難した人々を震え上がらせる。

「もう、もうダメだー----!!」

「やめろ!大声を出すなって…見つかるだろう」

「ライト…おじいちゃん、みんな…」

(何をやってるんだ、僕は…。アイシャを守らないといけないのに…)

(戦え)

「!?」

急に脳裏に誰かの声が響き、同時にライトに頭痛が襲う。

(戦え、捨てられし者。戦え、すべてを失いし者)

(何もない貴様が希望となりえることを証明せよ)

(そのために目覚めたのだから…)

「うわ、ああ、あああ…」

止まらず頭痛に苦しんだライトだが、声が聞こえなくなると同時にその頭痛も消える。

「ライト…?」

涙で目元を赤くしたアイシャの頭にライトの上着がかかる。

優しくアイシャの頭を撫でたライトは一人、洞窟から出て行ってしまう。

暗がりでライトの顔がよく見えなかったが、危ないことをしているのは目に見えてわかる。

「ライト、ライト!!」

止めようと名前を呼ぶアイシャだが、見向きすることはなかった。

 

「おい…ゲラ=ハさんよぉ、生きてるか…」

「ええ、キャプテン…どうにか、ですが…」

力尽きた兵士や疲れ果て、剣が折れた兵士たちがいる中、傷ついたホークは無傷な姿を見せるパイロヒドラをにらむ。

回収したブロードアックスだが、パイロヒドラの血でこびりついた状態で、ゲラ=ハの槍、ハーブーンも折れかかっている。

これだけ戦って、衛兵たちも決死の覚悟で戦っていたというのに、一人だけ元気なパイロヒドラには不公平だと文句を言ってやりたくなる。

「キャプテン…かのような再生能力を持つ魔物からはなかなかに滋養強壮効果のある食べ物をとることができると…」

「ケッ!笑えねえな。まさか、お前がそんなことをいうのを聞くことになるたあなぁ」

暑さのせいで頭が茹ったのかと言いたくなるが、それでもちょっとだけ折れそうになった心を持ちこたえさせた。

「ま…悪くはねえ。アイツとの決着をつけなきゃならねえんだから…ここで倒れるのは論外だよなぁ」

「全くその通りです。うん…?」

何か兵士ではない、別の気配を覚え、本来ならば敵から目を離してはいけないにもかかわらず、ホークとゲラ=ハの視線がその方向へ向かう。

隙だらけになった2人を見たパイロヒドラだが、彼もまた別の気配から感じる異様さからにらみつけてくる。

炎が広がるウソの町に入ってきたそれは上着を外し、上半身が下着1枚の状態になっているライト。

「あいつは…昼間にぶつかった若いの!?」

ライトを見てホークが感じたのは昼間見たのとは全く別の気配だ。

能天気そうな笑顔を見せていた昼間とは別人の、能面をかぶったような無表情な顔つき。

マルディアスを回れば、同じ顔の人間と3人会うことがあるという話を思い出してしまう。

近づいてくるライトに何かを感じたパイロヒドラが口から炎を放つ。

「おい、若いの!避けろ!!」

ホークの叫びを無視し、前進するライトが炎に包まれる。

鎧も身にまとっていないこんな状態では、もう黒焦げになっていることだろう。

そう思ったホークだが、見えたのは炎の中から無傷で全身を続けるライトの姿。

よく見ると、彼の周囲にはかすかに炎でできた壁が見えた。

「セルフバーニング…炎の術法が使えるようですね。それで、パイロヒドラの炎を防いだと…」

気になるのは炎が放たれてから着弾するまでに、術を唱える動きが見えなかったこと。

炎が当たる寸前にセルフバーニングをどうして発動できたのか、皆目見当がつかない。

そんなホークとゲラ=ハを素通りし、目の前のパイロヒドラが襲い掛かる首を紙一重で横に動いてかわすと、その頭に向けて拳を振るう。

殴られたパイロヒドラはそこから感じる痛みに動揺する様子を見せる。

武芸家のような、訓練を積んだ人間でなければ、拳程度で魔物にダメージを与えることはできない。

パイロヒドラのような強大な魔物の前では自殺行為ともいえるそれが、わずかながら通用していた。

炎による攻撃ができないよう至近距離で動き、なおかつ噛みついたり巨体でつぶしにかかろうとしてもそれを予測するかのように、当たるギリギリのところでかわし、そして拳や蹴りで徐々にダメージを与えていくその姿。

「彼は何者でしょうか…?まるで、魔物との戦いに慣れているかのようですが…」

「だが、こんなチャチな攻撃じゃあすぐに回復される。何か手段を…」

「ライト…嘘…」

恐怖よりも出ていったライトの身を案じる思いが強くなり、洞窟から飛び出してきたアイシャがパイロヒドラと戦いライトの姿を見つける。

かけてもらった上着を握るとともに、あの時洞窟で助けられた時のことを思い出す。

「(そうだ…あの時も、ライトはあんな様子だったかも…)そうだ!それより!!」

素手で戦っているライトのためにも、何か武器をと思ったアイシャだが、普段使っている手斧はテントの中。

近くに落ちてある剣は折れており、使えるものがないか周囲を見渡す。

その中で見えたのは商品として売られる予定だったのだろう、鞘に収まった刀だ。

「ライト!!これを使って!!」

パイロヒドラの噛みつきをかわしたライトの視線がアイシャの声が聞こえた方向に向けられる。

見つけた刀を投げる姿が見え、ライトは刀が落ちた場所に駆けていく。

距離が離れ、背中を向けている彼に向けて炎で攻撃しようとしたパイロヒドラだが、側面から飛んできたハーブーンが右の頭の右目に命中する。

そして、とびかかったゲラ=ハがハーブーンをさらに深く差し込もうと仕掛ける。

「こうして刺さったままにしておけば…再生も難しかろう!!」

突然の攻撃を受けたパイロヒドラの注意がゲラ=ハに向けられる中で、刀を抜いたライトが走り出す。

ゲラ=ハに抑えられたとはいえ、まだ自由な頭は2つあり。左の頭が炎を吐きだし、ライトは今度はセルフバーニングで受け止めることはせず、横に動いてそれをかわす。

だが、その動きを読んでいたパイロヒドラの真ん中の頭がそこに首を伸ばし、口を開く。

「ライト!!」

ライトが捕食されてしまうと思ったアイシャだが、そこからのライトの動きは水のように流れていた。

口に飛び込む動きを見せ、閉まる前に逆手に握った刀で舌と下あごを貫くように刀を突き立てる。

再生するとはいえ痛覚のあるパイロヒドラが舌からの激痛に悲鳴を上げて首を上下にばたつかせる。

その反動を利用して刀を抜き、真上へ飛んだライトが落下すると同時に今度は刀をパイロヒドラの左の頭上に突き立てた。

暴れても刺した刀と両足で体を維持し、引き抜くとさらにダメ押しで一突きする。

「よくやった若いの!!そいつから離れな!!」

ホークの声が聞こえ、彼の言葉に従うかのように刀を抜いて左の頭から離脱する。

ホークが両手で抱えていたのは赤い帯がついた樽。

海賊をしているホークやゲラ=ハには見覚えのある火薬の詰まった樽。

それを思い切り開きっぱなしになったパイロヒドラの左の頭を向けて投げ、それが口の中に入る。

突然口に入ったものだが、ウソの町で人間を食う中で布や木材なども食べているパイロヒドラは痛みが再生で収まりつつあることもいいことにそれを飲み込んでいく。

何をすべきかわかったライトは今度こそ捕食してやろうと口を開いたパイロヒドラの口に向けてヘルファイアを放った。

本来なら自身も炎を生み出せることから、ヘルファイアなど大したことのないパイロヒドラだが、樽の中に詰まっている火薬の存在がそれを一変させる。

炎を受けたことで左首が内部から爆発し、体から切り離された頭が地面に転がる。

それが大きなダメージとなり、パイロヒドラにとってもそれがあまりにも大きすぎたのか、落とされた首をそのままに北の砂漠方面へと逃亡していく。

逃げているパイロヒドラから放置された首にライトの視線が向かう。

日が上り、周囲が明るくなりつつある中で首の頭頂部に見えたのは見たことのない文字だったが、それはすぐに消えてしまった。

街の高台にはその姿を見る人影があったものの、もう見るべきものはないといわんばかりに背を向け、同時に煙のようにその姿を消してしまった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。