ロマンシング・サガ-ミンストレルソング- 真実への選択   作:ナタタク

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第5話 ローザリア

「は、でい、はああ!!」

ローザリア首都クリスタルシティにあるクリスタルパレス。

そこの広場で早朝にも関わらず、ライトは上半身裸の状態で刀を振るう。

タラール族が姿を消し、ナイトハルトに保護されてから1週間。

ライトとアイシャは客人として迎え入れられ、ナイトハルトは捜索隊を結成してタラール族の行方を追っている。

遊牧民の生活から一転しての家屋の中での、全く違う文化の中での生活。

いきなりの差への戸惑いは確かにあるが、それでもここにはここなりの楽しさはライトにはある。

だが、気になるのは一緒にいるアイシャの様子だ。

ライトの前では明るく振る舞いはするが、やはり家族である彼らが姿を消したことから、不安で表情を暗くすることがある。

彼女にはそんな表情は似合わない。

「せめて、みんなが帰ってくるまで、僕が彼女を守れるくらい強くならないと…」

特訓とかそういうのは苦手だと言っていたライトだが、こういうことになったならそんなことも言っていられなかった。

 

「手がかりが…見つからない…ですか」

「ああ…腕利きの者たちを選んだが、何もだ」

昼間の王の間で聞いたナイトハルトからの返事にアイシャは顔を下に向ける。

何か一つでも手がかりさえ見つかれば、何か進展が少しでもあればと期待していたが、それすらないことが彼女の心に影を与えていた。

「すまない、引き続き捜索は続ける。だが、問題は君たちだ。捜索中は客人としてここに置くことはできる。だが、君は君で目的があるのだろう?」

「それはいいですよ、今はアイシャと助けてくれたタラール族の人たちの方が大事ですから」

「ライト…」

「なるほど…ならば、その彼女や彼らのために仕事をしてもらうこととしよう」

「仕事??」

「そうだ。ニザムの孫娘であるアイシャはともかく、君の場合は素性がわからない。パイロヒドラの首をとるだけの力を持つ人間が素性がわからない。そんな人間がここに滞在することに不信を抱く者もいる」

ナイトハルト自身はそんな感情を持っていないが、王太子であるナイトハルト一人で国がまわるわけではない。

諸侯や貴族なども存在し、彼らの中にはライトに不信感を持つ者も少なくない。

国のこと、ナイトハルトをはじめとした王族の安全を考えると当然なことだろう。

素性のわからない人間が本性を見せ、王族に刃を向ける。

そんな最悪なケースはわずかながら存在するのだから。

万が一ナイトハルトが凶刃に倒した場合、後継者不在となり、ローザリアで後継者争いとなる。

おまけにバファル帝国との国境にあるイスマス城塞が陥落している以上、その混乱を利用してバファル帝国が介入してくる恐れもある。

「故に、君には彼らからの信頼を勝ち取ってもらう必要がある。ローザリアに貢献することによって。そうすれば、彼らも納得するだろう」

「それは確かにそうかもしれませんけど、僕にできることってそんなにないですよ。政治なんてからっきしですし」

「ハハハ、何も政治家になれとは言わんさ。王太子の諸侯、貴族…身分というのはしがらみになる。何かしらの力を持つ代償というべきか、自由に動けなくなる。だが、君は違う。自由に動くことができる。その自由で、私たちに力を貸してもらいたい。どうだろうか?」

「…わかりました、僕に何ができるかはわかりませんが…」

「よろしい。ならば、まずは初仕事として、ある姉弟の捜索を依頼したい」

「姉弟…?」

「そうだ、イスマスの領主、ルドルフの子だ。彼女たちが行方不明になっていてな…」

バファル帝国国境に位置するイスマス砦からは定期的に連絡が来ており、魔物や帝国の動きの報告があった。

だが、2か月ほど前から連絡が途絶え、兵を派遣したときに見たのは廃墟と化したイスマス砦だった。

砦の内外は魔物と人の遺体であふれており、中には人の遺体だと特定できるまでに時間がかかるほどに無残な状態になっているものもあり、死体を見慣れている兵士の中ですら、その惨状に耐えきれずに嘔吐する者もいる始末。

そうして人々の遺体を回収する中で見つかったのはルドルフとその妻マリアの遺体だった。

ルドルフは彼女をかばうように倒れていたという。

「多くの遺体があったが、身元はすべてわかった。だが、ルドルフの子であるディアナとアルベルト、2人の遺体は見つからなかった。脱出したのか、魔物に連れ去られたのか、それとももう遺体すら存在しないのかはわからない。仮に生きているなら、彼らをクリスタルシティまで連れ帰ったほしい。イスマスで何が起こったのか…それを突き止めるのは彼らが必要だ」

イスマス陥落の知らせが届き、その行いが魔物によるものだとわかってからも、国内では今後の対処について議論が分かれることになった。

ただ、一つ言えるのはイスマス陥落で得をする存在があるということ。

その第一候補がイスマスと同じく国境付近に存在するバファル帝国の町、ローバーンだ。

バファル帝国版のイスマス砦というべき存在で、そこはイスマスのような魔物による攻撃がなかった。

そして、ローバーンを治めるコルネリオは内外からは野心家として評判であり、皇帝に対して国土回復のため、イスマス砦を落とすべきだと何度も主張している。

おまけに彼の妻であるマチルダは皇帝の妹であり、帝国内での発言力はかなりのもの。

マチルダは皇帝継承権第一位で、仮に彼女が皇帝となった場合、皇帝に匹敵する力を得てもおかしくない。

それ故に魔物たちを操ってイスマス砦を陥落させたのではないかという噂まで流れている。

「真実がわからぬまま戦端が開き、そこから大きな戦乱につながった例も多い。そのようなことを私は望まない」

「探すのはいいですが、どこから探せばいいのか…。僕は記憶がありませんから、ガレサステップはともなく、それ以外の地域については何もわかりませんよ」

「そうだな…ローザリア領内の港町であるヨービルもあるが、距離で考えると君に調べてほしいのはローバーンだ。イスマスが壊滅してから、ローバーンの情報が不十分だ。まずはそこで帝国の動きを探りたい。仮に海で脱出した場合、そこに流れ着く可能性もないとは言えぬからな」

ナイトハルト自身はそう言っているものの、アルベルトやディアナがそこに流れ着いた場合、それをコルネリオが利用してくる可能性があることを危惧もしている。

ディアナはナイトハルトの婚約者であり、アルベルトはルドルフの後継者であり、ルドルフが死んだことでイスマス領主の地位を継承しているといえる。

アルベルトは誠実な少年ではあるが、世間に疎いところがあり、それを付け込まれて利用されることもあり得る。

それでアルベルト保護を名目にイスマスを奪う、アルベルトを傀儡にする、もしくは2人が入ってきたことを領土侵犯の意思ありとして、それを大義名分として戦端を開く。

野心家で手段を択ばないコルネリオが何を仕掛けてくるかはいくら想像してもしきれるものではない。

「ちょうど、ここに滞在している旅芸人の集団がいる。彼らについてローバーンへ向かうといい。名目としては、彼らの用心棒だ、いいな?」

 

「へえ…あなたがここの王太子様が言っていた用心棒のライトね。よほど私たちのことを気に入ってくれたのかしら?」

銀色の短い髪に派手な赤の衣装姿の女性がライトから渡された書状を見て、ライトとその隣にいるアイシャを見る。

ちょうど次の町であるローバーンへ向かう支度を宿屋でしており、旅芸人の仲間やアシスタントがその対応に追われている。

今のライトの服装は一部にパイロヒドラの鱗でできたプロテクターがついている黒いフード付きのコートであり、これは報酬の前払いということでナイトハルトから贈られたものだ。

「初めまして、私は旅芸人のバーバラ。ローバーンまでよろしく、かわいい用心棒さん」

「あ、ええっと…よろしく、頼みます」

かわいいといわれたことに面食らいながらも柔らかな表情を手を差し出したバーバラと握手を交わす。

旅芸人として名の売れた彼女は並の男よりも身長が高く、体つきは女性としてはかなりのもの。

バーバラのファンの話によると剣術に精通しているようで、伊達にマルディアスを旅してまわっていたわけではなく、ローザリアよりもはるか西に存在するフロンティアの開拓民に起こった問題を解決し、信頼を勝ち得たという。

「それで…あなたたち、ガレサステップを出たのが初めてで、旅に慣れていないらしいわね。いいわよ、旅の中で私が滞在した場所のこと、いろいろ教えてあげるわ。王太子様からお願いされているから。まずは…これね」

バーバラから手渡されたのは布製の地図で、それにはローザリアだけでなく、マルディアス全体が描かれている。

そして、各地にある城や街などの大まかな位置も記録されている。

「予備のものをあげるわ。これで、大まかな町や国はわかるはずよ」

 

旅の支度が終わり、バーバラらを乗せた馬車がクリスタルシティを出る。

馬車の中ではバーバラが衣装の手入れをし、彼女の仲間であり、会計を務めている小柄な男性、エルマンが帳簿とにらめっこをしている。

「ローバーンかぁ…ガレサステップからどんどん離れていくのね、私たち」

「アイシャ、ついてこなくてよかったでしょう?クリスタルシティに残ってても…」

「だって、ライト一人だけ行くの、嫌だもん!独りぼっちになりたくないし…」

ニザム達がいなくなったアイシャにとって、今最も身近な存在なのはライトだ。

彼までいなくなったら、帰る場所がないアイシャにとってはこれほど心細いものはないだろう。

「…わかった、僕が守るから…君がニザムさんたちに会えるまで、必ず…」

 

「…その話、本当だな?」

「はい、間違いありません。ミルザ神殿の神官の方々からも確認済みです」

使用人からの報告で自室で聞いたナイトハルトは窓からクリスタルシティの出入口の方角を見て、その外の景色を見つめる。

「ライト…記憶喪失の男、彼に使えない術がある、か…」

旅立つ前、ナイトハルトから支度金を受け取ったライトとアイシャは旅立ちの準備をした際に術の習得も行っている。

ニーサ神殿とミルザ神殿のあるクリスタルシティであれば、金さえあれば気術と土術をすべて習得できる。

特に気術はかつてサルーインを討った英雄ミルザを冠した神殿で習得でき、誰でも使用できるものであることから習得を求める人々が多い。

実際、アイシャも習得できたが、問題はライトだ。

ライトに関してはなぜか気術を使うことができなかった。

(誰でも使うことができるはずの気術が使えない…?単なる封印の類でもないというのか…)

相反する術を習得した際、片方の術を封印することでもう片方の術を使うことができる。

これは相反する術をその身に宿すことで術者の肉体に大きな負担がかかり、無理にそれを使用することで死亡する可能性があるためだ。

例外として、術具を媒介することで炎の術を使う術士でも水の術が使えるなど、相反する術の使い分けができる。

そして、熟練の術士から手ほどきを受けることで、今使っている術を封印する代わりに相反する術を使えるようにできる。

だが、ライトの場合は一切気術を覚えることができず、封印を解くということさえできなかった。

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