ロマンシング・サガ-ミンストレルソング- 真実への選択   作:ナタタク

7 / 10
第6話 ローバーン

ローザリア帝国とバファル帝国の国境沿いに存在する町、ローバーン。

バファル帝国にとっては対ローザリア帝国の要といえる町であり、ナイトハルトを警戒して近年では守りを強めている。

そんな町だからか、ローザリア側からやってくる旅人に対しても警戒しており、バーバラ達の馬車は関所で足止めを受けていた。

「バーバラさん、いつになったら通してくれるの?」

「うーん、前は1時間くらいで通してくれたけれど…やっぱり、イスマスの件が大きいかしら。もう少しかかりそうね」

今は旅芸人一座の帳簿係兼交渉人であるエルマンが衛兵と話をしており、衛兵の様子からするともう少しで通してもらえそうだという雰囲気が感じられた。

話が終わり、衛兵から軽く肩を叩かれたエルマンが馬車に戻ってくる。

「いやぁー姉さん。あの衛兵さん、いろいろと教えてくれましたよー。イスマスが陥落して、魔物がほんのちょっぴり、ですけどね。ここまで来たみたいなんですよー。まぁ、来たのは魔物ばっかりで、人は一人もローザリア側からは来てないみたいで…」

「あーー、じゃあ、ローバーンにはアル…」

「ライト、言っちゃだめ!」

今ここでアルベルトやディアナの名前を出すと、また質問攻めにあう上に下手をすると突き出されてしまう。

ライトの口を無理やりふさいだアイシャの様子にバーバラはクスリと笑ってしまう。

「そうね…でも、関所以外から入れたりする可能性があるわ。漂流するとか…まぁ、漂流で無事に済めばいいのだけれど…」

「ああ、そうですねぇ…。海賊の話もありますし…」

エルマンが思い出したのはクリスタルシティ滞在中に観客から聞いた情報だ。

海賊はこのマルディアスにはいくつも存在し、その中でも最も大きな規模を誇っているのはバファル帝国東部にあるサンゴ海にあるパイレーツコーストだ。

そこに集まる無法者たちによって、いくつもの商船や軍艦が襲われている。

中でも恐ろしいのは現在、パイレーツコーストの頂点に立っているといわれているブッチャーという男だ。

海賊はなめられたらおしまい、という考えを持つ彼は襲った船の乗組員は皆殺しにし、女は慰み者にすることで有名で、最近ではバファル帝国近海だけでは飽き足らず、各地の海にも進出しているという噂がある。

大陸を隔てて西側の海まで来る可能性はゼロとは言えず、仮に漂流しているアルベルトやディアナを見つけたりなどしたなら、身代金を要求するなんてことは考えられるうえ、ディアナに関しては何をされるかわかったものではない。

そんな最悪な予感が当たらないことを願うエルマンが衛兵たちに一礼し、馬車がバファル帝国側へと入っていく。

「ほぉ、馬車か…。珍しいものだな」

関所を出るバーバラ達の馬車の後姿を禿げあがった頭で重量のある黒鉄の鎧姿をした大男が見送る。

もっと金があれば、これほどのものは求めないとはいえ、馬車を買って、一緒に宝探しをした仲間たちと共にもう1度冒険をするのもありだと思ったが、今手元にある金には大切な使い道がある。

「デカい旅人だな…ここを通過する目的はなんだ?」

旅人を調べる衛兵もまさか自分よりもはるかに大きい大男を取り調べることになるとは思わず、気圧されているところがあるが、衛兵としてのプライド故にそれを極力見せないように質問する。

「ローザリア帝国にある、アルツールに用がある」

「アルツール?ああ、かなりにぎやかな場所だな、名前は?」

「ガラハド。元聖騎士の旅人だ」

 

バーバラ達を乗せた馬車が町の入り口付近で止まり、それを兵士たちに見張られる中でライトたちが降りる。

突き刺すような視線に耐えながら町に入るが、街中にも武器を装備した兵士たちが何人も巡回している。

「なんだか、怖いなぁ…」

「イスマスの件で緊張が強くなっているという話は確かね。以前にこの町に来た時よりも多いわ…。2人とも、私はここの酒場で仕事をしているから、何かあったらそこに来て」

「わかりました、バーバラさん。ありがとうございます」

仕事のあるバーバラ達が仕事道具を手に酒場へ向かい、2人になったライトとアイシャは兵士たちに接触しないように気を付けつつ、街中を見て回る。

「すごいなぁ…こんなに人がいるなんて」

「人の集まりって、ウソみたいだよね」

バファル帝国帝都とブルエーレに港があるものの、ローザリア国境を陸路で入ろうとする場合はどうしてもローバーンが玄関口となることから、旅人の多くがこのローバーンに集まることになる。

小規模な町ではあるが、経済的に発展している理由がそれで、多くの兵士を抱えているだけあって、武具の品ぞろえもいい。

イスマスでの異変があり、兵士の数は増えてはいるものの、ローバーンにおいて変わったこととすればそれくらいで、旅人たちの動きはあまり変わりがないように見えた。

「!?」

「どうしたの?ライト??」

「今…誰かに見られた、そんな気がして…」

「いっぱい兵士がいるし、気にしなくてもいいと思うけど…ライト?」

アイシャが気になったのはライトの顔色だ。

いつもの能天気な感じのあるライトとは違う、おびえた様子で何かを恐れているようにも見えた。

同時に吐き気を催したライトはその場にうずくまり、右手で口を覆う。

「ライト!?どうしたの、ライト?!」

「そこの旅人!何をしている!?」

アイシャの声に答えず、うずくまるライトに警備兵たちが集まる。

怒気に満ちた声、そして不信感をあらわとした目。

下手なことを言うと、どうなるかわからない。

バーバラ達に助けを求めようにも、ここから酒場は遠い。

「ご、ごめんなさい…。急に体調を崩しちゃって、それで…」

「怪しいな…少し来てもらおうか?ローザリアの間者という可能性もある」

「そんなこと…」

「お待たせ、ごめんなさい。放っておいてしまって」

「え…?」

聞き覚えのない、若い女性の声が聞こえ、アイシャと警備兵の間に声の主が入ってくる。

袖が青と胴体が赤い服を身にまとい、金色のおかっぱ頭をした女性の手には紙袋があり、その中にあるものをアイシャに渡す。

「ごめんなさい、二人は私の仲間なの。薬を持ってきたから、あとは宿に戻って休みましょう。大丈夫?本当に無茶するんだから」

ライトに心配しながら近寄ろうとする中、女性がアイシャの隣でわずかに止まる。

そして、彼女の耳元に小さな声で囁いた。

「今は言うことを聞いて、助けてあげるから」

「え…」

「これで、少しは収まるはずよ」

紙袋から出したもう1つの瓶を口に含まされたライトは女性に肩を借りる形で立たされる。

そして、警備兵たちに詫びを入れた後で女性は歩き出し、アイシャもその後ろをついていった。

 

「やはりか…感づきましたか。パイロヒドラに手傷を負わせたという報告がありましたが、やはり持っている力は健在…というべきでしょうか」

去っているライトたちの後姿を見つめる赤いローブの男。

炎とも血ともとれる不気味な色合いであるにもかかわらず、誰も彼の姿を見ることなく通り過ぎていく。

警備兵たちも彼に一切警戒するそぶりを見せない。

「まぁ、いいでしょう…。この様子では、我々にとっては何の障害にもならない。それよりも、我々にはやるべきことがある。わが主の復活のためにも…」

そのためにも、利用価値のあるこの地域の領主に会う必要がある。

お互いにとってメリットのある話であれば、彼は警戒しつつも応じるだろう。

最も、最終的に笑うことができるかどうかまでは保証することはないが。

 

「嫌な汗ね…。でも、少し休んで、水を飲めば回復するはずよ」

古びた民家の中で、ベッドに横たわるライトに額に冷たいタオルを置いた女性は近くのテーブルにいるアイシャのために茶をふるまう。

出されたのは紅茶で、ローザリアに滞在している時にも何度か飲んだが、いまだにガレサステップで飲んでいたお茶との違いがあって口が慣れていない。

黒茶を煮出したものを牛乳やラクダ乳などの乳と塩を加え、沸騰させないように加熱し、ひしゃくですくい上げるように撹拌する。

クリーミーな風味のそれを祖父がよく作ってくれて、幼いころは飲んでいる時に優しい笑顔を見せつつ、頭を撫でてくれたのを思い出す。

「あの…あなたは…?」

「モニカ、ただのここの住民よ。といっても、最近暮らし始めたけれど」

「その…助けてくれて、ありがとうございます。でも、なんで…?」

ただの住民というのであれば、旅人である自分とライトを助ける必要がないはず。

モニカは茶を飲むアイシャを見つめ、ライトが眠るベッドを撫でる。

「あなたたちの目的…行方不明のイスマスの姉弟を探すこと、ね?」

「え…それは…」

「諜報はどこの国でもやっていることよ。無論、バファル帝国も。安心して、とって食べるつもりなんてないから」

フフと笑うモニカはアイシャの正面にある椅子に座り、優雅にお茶を飲む。

諜報、という言葉の意味が分からないアイシャだが、少なくとも目の前の彼女はその諜報という言葉が似合わないように思えた。

柔らかなほほえみも、お茶を飲んでいる時の優雅なしぐさは諜報をする人というよりも、ナイトハルト等のような騎士のように見えた。

「ローバーン侯はともかく、帝国としてはローザリアとはことを構えるつもりはないわ。だから、先に言っておくわ。あなたたちが探している姉弟の弟、アルベルトはここに流れ着いて、私が助けたわ」

「え…!?モニカさんが!?じゃあ、アルベルトさんは…??」

「ローザリアへいけるように、お金を渡して、行き方を教えたわ。ブルエーレから船に乗ったはずよ」

ローバーンから南へ向かうと到着する港町、ブルエーレからは定期船が出ており、西にある騎士団領にあるミルザプールやローザリアとは東西で隣り合い、敵対関係にあるクジャラートの首都である北エスタミルやクジャラートとの国境沿いに位置するローザリアの港町のヨービルへ行くことができる。

仮にアルベルトがここからローザリアを目指すのであれば、ヨービルへ向かう可能性が高い。

そこからならば、クリスタルシティへ向かい、ナイトハルトに謁見するのは容易だが、そうならなかったから、今ライトとアイシャはここまで来て、彼を探すことになっている。

「ヨービル行の船が…嵐に巻き込まれたという情報があって。船はどうなったかわからないわ」

「そんな…」

イナーシーの嵐、バファル帝国内ではそう呼ばれている嵐によって多くの死傷者と行方不明者を出した。

乗客名簿を見ることができればいいが、生憎モニカの権限ではそれを見ることができない。

「少なくとも、バファル帝国にはいないわ。仮に生死のどちらかを抜きにして、見つかったとしたら何かしらの動きがある。私の耳にも届くくらいのことにはなるけれど、少なくともそれはない。となると、海の底か…もしくは帝国やローザリア以外に流れ着いているか…」

仮に生きているとしたら、アルベルトがいると思われる場所はクジャラートか騎士団領、もしくはさらに南にあるバルハランドのいずれかだろう。

騎士団領であれば、ローザリアとの友好関係から協力してもらえるだろうが、敵国といえるクジャラートではそうはいかない。

そして、南のバルハランドに関しては現地住民であるバルハル族に話をすることができればいいが、他国と交流を行っていないため、難しいといえる。

「どうしよう…一気に探す範囲が広がっちゃった…」

「どこへ行くかは考えるべきね、幸い定期船は代替船で再開しているわ」

ライトが目覚めたら、彼と共に酒場でバーバラ達と落ち合い、そこでどうするか話をしよう。

だが、故郷と家族を失い、おまけに嵐に巻き込まれることになったアルベルトがかわいそうに思えて仕方がなかった。




アルベルト捜索のため、次にライトたちが向かうべきはどこか?
・北エスタミル(定期船と陸路の両方が使えるものの、クジャラートの領地であり、万が一でもローザリアの関係者であることがばれた場合、ローザリアとクジャラートの全面戦争に発展する可能性がある)
・ミルザプール(定期船であれば、クジャラートを経由することなく直通で向かうことができる。クジャラートと比較すると外交上の問題は少なく、そこから陸路でバルハランドへ向かうこともできるが、再び嵐が発生する可能性は否定できない)
・アルベルトの捜索をあきらめる(彼が嵐に巻き込まれて死亡したものとし、ディアナの捜索に切り替える。その場合、一度報告のためにクリスタルシティへ戻る必要がある)

ライトたちの次の行き先はどこにする?(第8話投稿まで)

  • 北エスタミル
  • ミルザプール
  • アルベルトの捜索をあきらめる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。