ロマンシング・サガ-ミンストレルソング- 真実への選択   作:ナタタク

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第8話 悪夢の蟻

「キャーーー!何、あれ、蟻!?」

砦跡に到着し、さっそくアイシャが見ることになった白い蟻型の魔物の数々。

腐敗臭をまき散らしながら、手持ちの武器や強靭な手足で襲い掛かる彼らに対して鳥肌が立つのを抑えきれない。

刀を抜いたライトが接近してくる蟻の何匹かを切り捨てるが、それでもわずかに数が減っただけに過ぎず、壁の裂け目や地中から湧いて出てくる。

そんな状況の中、ライトは以前のパイロヒドラと戦ったときのように無口な状態となり、臭いに対しても表情一つ変えることなく戦い続ける。

「こんなにいっぱい、いたら…本当に騎士団領の街を襲っちゃうかも…もう、こっちに来ないでよ!!」

杖に念じたアイシャが放つウォーターガンが魔物の動きをわずかに止め、その間にライトが魔物を刀で一刀両断する。

切り捨てたライトは一度刀身を見つめる。

刀身からはシュウッと音を響かせ、ところどころが溶けていた。

魔物の死体には血液がなく、断面から出ている透明な体液が壁や床を溶かしていた。

ふと、アイシャの脳裏に浮かぶのはタラール族の老人が教えてくれた蟻の持つ酸のことだ。

ガレサステップに生息する蟻の中には体内で生成した酸を放出する個体も存在する。

血液を持たない蟻の体内には毒や酸を体内にためていることが多く、反撃のためにその体液を敵に対して放出して撃退することもある。

集団で放出されるそれは強烈な臭いがするうえ、人間が触れた場合は皮膚がただれるという。

あの魔物の様子を見ると、老人が言っていた蟻に近い体を持っていて、そのせいでライトの刀本体にも大きな負担がかかっていることがわかる。

やみくもに魔物を倒しても、やがて刀が折れて、戦い手段を失って餌食になるのがオチだ。

「そこのあんた達、どきな!!!」

「ええ!?」

「はあああ!!!」

女性の声が聞こえ、左右に散った二人の間を割って入るように大柄な女性が飛び込んでくる。

男性とも見まごう体つきで、二本角のような兜と毛皮でできた鎧姿をした女性の握る剣が一度の3体の魔物を粉砕した。

そんな倒し方をしては放出される体液が襲うが、彼女は武器を振るって強引に襲ってくる体液をはねのける。

体が体液でダメージを受けることは避けられたものの、握っている剣は酸でボロボロになっていて、それを捨てた彼女は死んだ魔物が持っていた剣を拾った。

あっさりと仲間を数匹殺され、しかも無傷な彼女を見た魔物たちに対して、ライトが炎を放つ。

危険だと判断して下がっていく魔物たち。

それを見送る女性が手にした剣を肩で担ぐ。

「あんた達、こんな時に迷い込んで…ついてないね」

「あなたは…?」

戦いの状況でなくなったことで、元の状態に戻ったライトが驚いた様子で大柄な女性を見る。

「あたしはシフ。バルハランドのシフだ。あたしはこのままあいつらの親玉を倒す。今のうちにここを離れな」

「あ、待って!私たちも用があってここに来たの!アルベルトっていう人を助けに!あなたがアルベルトを助けてくれた人なの?」

「アルベルト…アルを?じゃあ、騎士団が動いてくれたのか!?」

「そういうわけじゃないです。今もハインリヒさんが交渉を続けていて、立ち寄った僕たちだけが…」

「そうかい…」

援軍が来てくれたことはシフにとって喜ばしく、ハインリヒが尽力してくれていることは分かったものの、これでは今の状況から考えると焼け石に水と言える。

砦跡というあまり価値のない場所だから放置したことへのツケが信じられない形で清算されることになるという状況を伝えなければならないが、だからといって今ここを離れることもできない。

「あの…シフさん」

「シフでいい」

「シフ、この魔物って、何なの?」

「タームって魔物さ。大昔に騎士団領を滅亡寸前に追い込んだ、化け物だ。ついてきな。アル達のところへ案内する」

シフに案内され、砦跡を進む中、ライトたちはシフからタームについて教えられた。

巨大なシロアリといえる魔物であるタームは女王蟻を中心に数多くの集団で地下に生息しているという。

女王蟻の下についている雄蟻は斥候を務める小型なマンターム、武器を手にして獲物や人間を襲うタームソルジャー、武器を使わず、爪や足を使った体術を得意とするタームバトラーが存在し、少なくともタームソルジャーやタームバトラーについては並の戦士では歯が立たないとのことだ。

おまけに女王蟻が現在進行形でタームの卵を死ぬまで産み続け、一日に数百産むこともあるといわれている。

数十年前に若きテオドールらによって絶滅したと思われたが、埋葬された騎士たちの中に女王蟻によって体内に寄生させられていた卵が存在したらしい。

その卵が孵化していき、そのうちの1匹があろうことか雌のタームで、クイーンとなった彼女を中心に再び恐怖のコロニーが形成されることになったという。

あくまでも、これはシフがテオドールから聞いた話に過ぎない。

だが、見てしまった体内を食い破れた状態の騎士の遺体とそこから湧き出るタームの姿から、その話は真実だと信じるしかなくなった。

「武器は極力、奴らタームが持っている武器を使いな。体液がついたらすぐにふき取って、時間がかかってしまったら焼いて消毒するんだ。でないと、死ぬよ。倒すなら、極力術か弓で遠距離からだ」

先導するシフが倒したタームの武器を使って彼らを撃破し、ライトとアイシャはそれぞれヘルファイアやウォーターガンで攻撃する。

まだまだ術を覚えてそれほど間もないアイシャではウォーターガンでタームを倒すことはできないが、それでも足止めにはなる。

少しずつ進んでいき、ようやく3人の男性の姿が見えてくる。

「テオドール殿、アル、ラファエル!!」

「シフ、ご無事でしたか!」

「心配かけて悪かったね、二人だけど、助けてくれる人を連れてきた」

「そうですか…ありがとうございます、こんな危険なところに。私はアルベルト。よろしく頼みます」

「アル、彼らはライトとアイシャだ。ローザリアからきて、あんたを探してくれていたんだとさ。これは、さっさと終わらせないとね」

「ローザリア…まさか、ナイトハルト殿下が!では、イスマス砦は…!」

「…わかっているだろう、アル。もう、その話は…」

イスマスを脱出し、ここまでくるのに長い時間がかかっている。

状況は既に騎士団領にも伝わり、陥落したことも、両親の死も、既にテオドールとハインリヒから聞いている。

信じたくないという気持ちはシフも理解できる。

シフもまた、バルハランドの過酷な環境の中で幼少期に両親を失い、戦友を失った経験もあるのだから。

イスマスの外のことを多く知らず、戦いの現実についてほとんど経験のないアルベルトには受け止めきれない現実なのはわかるが、受け止めなければ、前へ進むことはできない。

「話は後だ。もはや、騎士団に応援を呼んでいる時間はない。地下にいるクイーンを殺し、これ以上の増殖を止めるほかない。幸いにも、奴らが道を作ってくれている」

タームの集団が砦に入り込むため、地中からいくつもの穴を作っている。

そこを通れば、クイーンの場所まで到達できる可能性がある。

その道中で砦へ向かうタームと交戦する機会も多いだろうが、一から探すよりもいい。

「参るぞ!騎士の誇りにかけて、今再び奴らを止める!」

 

タームの穴を進む6人はライトが先頭に立ち、シフが殿となる。

やはりというべきか、やや広めな一本道というべきその穴は無理をすれば二人左右に並んで進むことができる程度の広さで、武器も無茶な動かし方をしなければ、壁や天井にあたるようなこともない。

ただ、狭いことには変わりないため、厄介になるのは爪や足で攻撃してくるタームだ。

足は槍のように鋭く、爪は剣のような切れ味を誇り、かつての戦いでは武器を持たないことで油断した一部の騎士がそれによって何もできないまま蹂躙されたという。

頼りになったのはライトの炎で、セルフバーニングで身を固めつつ、ヘルファイアで攻撃を仕掛けることでタームたちを撃破していった。

弓矢や術といったセルフバーニングを破る術を持たないタームが焼かれていくのを見たラファエルは信じられない様子でライトを見ていた。

「すごい…これが、術の力…。フラーマ様のようだ…」

騎士団領の一つであるバイゼルハイムの領主であるフラーマはここでは特異な存在で、騎士団長としての地位を持っているわけではない。

また、領主は別に存在し、彼女自身はバイゼルハイムの塔で時折弟子や他の騎士たちの訓練に付き合いながらも、一人で精神素養をしており、統治をおこなっているわけではない。

だが、術士としての非凡な実力を見込まれ、術士顧問として騎士団の会議に出席し、ある程度の発言が許されている。

ラファエルもテオドールの勧めでバイゼルハイムでその訓練を見学し、彼女の術を見たことがある。

特に印象に残ったのは灼熱の炎でできた大鷲を生み出した姿で、触れれた一瞬に灰になるのはわかっているものの、それでも触れたいと無意識に思えるほどの美しさを感じた。

ライトの炎の術はフラーマの術にような美しさはないが、自分と同じくらいの年齢であるにもかかわらず、なぜこれほどまでの魔力を持っているのかと思えるほどの強さを誇っていた。

「怖いものだな、才能というのは…。だが、何者かわからぬというのは、気になるが…」

「心配ないよ!おじいちゃん!」

「お、おじい…」

「ライトはいい人だよ!私やみんなを助けてくれたし、それに…全然悪い人に見えないもん!」

「そ、そうか…」

まだ子供で敬語を使わないことは許すとして、おじいちゃんと呼ばれたことははじめてだ。

年齢を自覚してしまうショックがあるものの、彼女の素直な言葉でおそらくはそうかもしれないなという気持ちも芽生える。

もし、彼女のような素直な子供がおらず、彼一人だった場合、信じきれなかったかもしれない。

「匂いがきつくなってきた…そろそろかもしれません」

「覚悟をしておいたほうが良いぞ。おそらく…待つのはクイーンと、奴らの大群だ」

テオドールの言葉が真実だということを証明するかのように、大量の卵であふれるトンネルのような空間にライトたちは足を踏み入れる。

そのトンネルを貫くようにムカデのような長い胴体が彼らの目に映る。

そして、その果てには生々しい人間の女性の上半身を模したクイーンの本体の姿が見えた。

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